04話 安らぐ錬金術師
幻神歴2958年02月03日
錬金術教導組合ルルア支部を後にしたカレンを出迎えたのは夕暮れを過ぎ夜の帳が降りており空には満天の星空が煌びやかに輝いていた。
やや疲れ気味のカレンが出てくるのを見て組合前で待機させていた馬車からコボルトが駆け寄り状況を問い詰める。
カレンが組合建物に入ってから衛兵と2人して待っていたのだが暫くして受付員が再度現れ、衛兵と二言三言交わすと衛兵はコボルトに会釈して検問所のほうに戻っていき長らく1人で待機していたのだ。
「おいおい、ずいぶん時間掛かったが大丈夫だったか?」
組合への加入も心配だがそれ以上にカレンの種族がばれる事に気を揉んでいたコボルトにとってはこの待ち時間は緊張の一時だった。
カレンの様子からそんな心配は無いと読み取り此処に来て初めてコボルトは安堵する
組合という国営組織内でカレンの種族がばれても問題にはならないとは思うがそれでも欲の深い人種は何処にでもいるもので、カレンには話してなかったが最悪荷台を捨ててカレンと一緒にリリーに騎乗して町抜けまで視野に入れていたのだ。
「ええ、組合について色々ご教授頂いたわ。ほら、これが身分証になる組合員の証よ」
「紙・・・じゃねぇよな、初めて見るな」
カレンが懐から差し出したのは手の平サイズの紙のようだが硬質でコボルトも知らない材質で出来ておりカレンの情報が記載されている。
「不思議な機械で作成されたみたいで私も詳しくは判らないけど、おそらく特殊な魔道具かなにかでしょうね。それ、偽造とかまず無理よ」
「なるほどなぁ~。魔道具なら何でも有りなんだろうな・・・それで、今夜の寝床はどうする? 宿を取ってもいいが荷台の荷物が心配なんだよな」
町なのだから宿は幾らでもあるだろうが荷台置き場のある宿となると数は群と減り、一部の上流層が利用する高級宿しかまず無い。
というのは2人の知識内の話だけで、一向の知る由も無い事だが荷馬車を有する商人向けの宿も勿論存在している。
キャラバンサライといって隊商向けの宿で宿泊施設、浴場、炊事場、厩舎、倉庫、さらには取引所まであり行商人の宿といえばここを利用するのが常識だ。
しかしまともな行商知識も無い2人にはそのような場所があるなど想像もできず一般宿で探すことになる
「そうねぇ。余分な出費は抑えたいけど荷馬車の預けられる程度の宿は覚悟しましょう」
「了解! 丁度おめぇを待ってる間に衛兵の旦那にお勧めの宿や安い店の辺りを色々と聞いてるから任せな!」
コボルトの先導で夜も更け人通りも殆ど無い中央通りを進むこと20分、御者台では組合内での出来事をコボルトに粗筋を話していたところで区切りのいい所で宿に付き馬車を停める。
町に訪れるのが初めての2人だがその宿『スピカ亭』は錬金術教導組合程ではないが辺りに並ぶ建築物より一際大きく、装飾も凝っており色付き硝子も使用されてる事からそこそこ敷居の高い宿を思わせる。
「馬車をお願いね、宿泊できるか聞いてくるわ」
「あいよ」
コボルトを馬車に待たせスピカ亭の扉を開くと営業時間が過ぎているのか正面の受付のみ蝋燭の灯りがあり奥の食堂とおもしき場所は灯りが無く3人ほどのウェイターが床を掃除していた。
「ようこそスピカ亭へ。本日はもう厨房の火を止めてますのでお食事はお出しできませんが宿泊でしょうか?」
受付に佇んでいた恰幅の良い女将と思われる女性はカレンの怪しい恰好に目もくれず慣れた手つきで接客を始め、思わずカレンが出鼻を挫かれる
(本当にこの格好でも怪しまれないものなのね。自分で言うのもなんだけど相当怪しいと思うんだけど・・・)
「幻獣のコボルトと2人で宿泊希望なんだけど荷馬車があってね、荷馬車預けられるかしら?」
初めての宿利用なので自身の様子で不審者と疑われないか? 幻獣の宿泊利用は可能なのか? 荷馬車の預けられる宿か? 判らない事だからけだが戸惑ってもしょうがないので素直に尋ねる。
「勿論で御座います。当宿は厩舎も備えており警備も厳重ですのでご安心を、すみませんが先に身分証の提示をお願いできますか?」
「どうぞ」
「確認致しました。御二人で3食付き一泊銀貨4枚、本日は宿泊のみなので銀貨2枚となり前払いで頂きますが、何拍のご予定でしょうか?」
(ひょぇ?! 銀貨4枚? 高っ! どこもこんなもんなの? どうしよ、一泊は止む無しとして明日組合で商品の登録して工房の建築地も探さないといけないし・・・)
「そうね・・・取り合えず三日の予定でお願い」
幸か不幸かアイマスクのお陰でカレンの驚きは女将には知られずに済んだが予想外の出費に頭を悩ませ茫然自失と代金の銀貨10枚を女将に手渡していた。
「畏まりました。それでは銀貨10枚頂戴致します、係の者に馬車を先導に向かわせますので少々お待ちください」
(一泊で銀貨4枚て・・・落ち着いたら安宿か最悪の場合野宿かしらね)
荷馬車を厩舎に預け、コボルトと共に女将に案内された部屋は2階の一室で女将の説明によると2階は8部屋有りどの部屋も間取りは変わらず料金も同じだが3階は2部屋のみで上流層の御用達となっており一般開放されていないとのこと。
そして他のお客様には内緒ですよ、とコボルトに果物やパンを2人分女将がコッソリくれたので晩御飯の心配も無くなり部屋に2つ有るベッドにお互いに座り込んで食事を済ませながら今後について話し合っていた。
「しかしよぉ、そのリールーってお嬢さんに種族ばれたのは本当に大丈夫かねぇ」
カレンの種族、玉兎族は兎の耳と尾があり聴覚とエーテル干渉と魔力干渉が人より多少優れてる程度で特に危険視するほどではないのだが異端審問官からは性で人を惑わす悪と見なされ捕縛対象とされている。
最も異端審問官に捕縛=拷問の末に死刑と決まってるので実質捕まれば死刑と同義なので町に繰り出すに当たって一番懸念してた案件なのだがルルアに着いた初日に早速正体を明かしたと聞きコボルトは果物を丸呑みして不安を口にするが当の本人は特に気にせず果物を頬張っていた。
「もぐもぐ・・んぐっ、同じ女性ということもあって同調してくれたから恐らく大丈夫よ。それに話してみて思ったけどあの子、あの子でいいのかしら? 年聞いてなかったわ。っと、あの子表現が豊かで素直そうで好感が持てるわ」
「おめぇがそういうなら大丈夫か。それで、明日はどうする? また組合にいかなきゃならねぇんだろ?」
物心ついた頃から隠居生活していたカレンの観察眼など当てにはならないのは承知だが既に知られてしまった以上どうしようもないのでその受付嬢とは懇意にするよう促しこの話は締めて明日の予定を切り出す
「ええ、錬金術教導組合に行って持ち込んだ錬成品の買取と出品予定の品の見本提示しないといけないし、リールーが言うには商業組合の登録も必要らしいわ。それには推薦状を書いてくれるらしいから少しは手順省略できるんじゃないかしら」
「う~む。それだけでおめぇの明日は潰れそうだな。なら別行動して俺っちは店を出すのに必要な手筈の確認と可能なら土地の確認するか。ついでに生活用品も市場で買っておくぜ」
世俗に疎い2人でも店を出すに当たってはパラミスが異常な程ずぼらな管理体制なだけで他国で店を構えるとなれば手続きが必要な事ぐらいは理解できるのでその調査をコボルトが買って出る。
本来店を構える、つまり土地を買うというのは果物や武器を買うのとは異なりその地を収める領主かもしくは代官が管理する土地を借りる、もしくは買い取るのだが当然で、誰でも無制限に購入できる訳も無く、場合によっては条件があり満たしてない場合は門前払いもありえるのだ。そんな機微に疎いカレンより自分のがまだ話が出来ると踏んでの提案だ。
「そうね。錬成品の道具は後回しにして衣服に食品や雑貨が優先ね。宿が一泊銀貨4枚なんて呑気にしてたらあっという間にお金が無くなるわ。明日には荷台の荷物も無くなると思うからもっと安い宿もついでに探しておいて」
「了解。資金分けとくか」
最後のパンを丸飲みしてコボルトはカレンのベッドの上に移動してカレンが懐から硬貨袋を取り出しベッドの上に無造作に中身をばら撒く。
「今手持ちは・・・金貨25枚と銀貨58枚に銅貨が520枚。どう分ける?」
「そうだな―――金貨は工房や必要経費の軍資金にして残りの金を折半するか。それでお互いの必要な物は自分の金で買うってことでどうだ?」
「面倒が無くていいわね、そうしましょう」
金貨25枚は元に戻してカレンが預かり残りの硬貨を均等に分けて其々別の硬貨袋に入れるが銀貨10枚を先にコボルトに渡し「これで私の雑費買えるだけ買っておいて」とコボルトに丸投げすることで明日の予定も決まり余裕が出た所でコボルトが部屋の随所を確認しながら呟く。
「しかしこの宿相当いい所なんだろうな、布団はフカフカで上質だしよくわからんが色んな調度品もあるし、なにより部屋に小さいが風呂が付いてるぜっ!」
「え、お風呂あるの? 良かったぁ。一月振りに湯浴みができるわ。あんたも洗ったげるから来なさい」
「あいよ!」
一向が今まで住んでいたテンゲン大樹海に建てた小屋には素人の出来損ないの不格好な形ではあったものの一応風呂はあったがそれは贅沢の為でなく、毎回水浴びの度に水場まで行くのが命掛けなのは勘弁と試行錯誤の末に作った不出来な風呂だった。
そもそも入浴の習慣は一般的では無く、風呂なんて贅沢品は貴族や大商人といった富裕層の屋敷ぐらいしか設置されておらず、自宅に風呂があるというだけでステータスになるものだ。一般人は低料金の大衆浴場を利用するのが常で金の無い者でも週に一度は無料で利用できるがそれは奉仕精神だけでなく町の衛生面の問題解決にも繋がっていた。
「やっぱ湯浴みは格別だなぁ~。あ、もうちょい右を頼む」
長毛種のコボルトにとって湯浴みは大変な作業で四苦八苦してたのだが遂に挫折してカレンにヘルプを頼み今では一緒に風呂に入り体を洗ってもらう事にも慣れたものだ。
大樹海から此処ルルアまでの道中は途中2度水源で水浴びはできたが、それ以外は水拭きで体を最低限拭うぐらいしか出来なかったので風呂好きのコボルトにとって今この瞬間は至福の時だった。
「はいはい、それにしても湯浴みで思い出したけど私今後の湯浴みどうしたらいいのかしら? まさか工房に風呂なんて無理だし・・・」
指示通り背中の右側を備え付けの石鹸で泡を出し手拭いで力任せにゴシゴシ拭いながら思いついた疑問を口に出す。
コボルトと違い風呂にそれほど愛着の無いカレンでもこの先ずっと水拭きで済ますのは女性として断固お断りしたいところだがこればかりは諦め混じりのぼやきだった。
「だからって大衆浴場は駄目だぜ。目撃されるだけでも厄介だからな」
異端審問官は言わずもがなだが、玉兎族を欲する輩は未だ大勢おり中には目撃の情報料を出してまで探す輩もいるので大衆浴場など不特定多数の眼に触れる場の利用は論外だった。
「そうね……普段は水拭きで偶にこういった宿で湯浴みしか無いわね」
次にいつ湯浴みできるか判らないのでカレンもコボルトと一緒にこの日の湯舟を満喫してルルア初日は過ぎていった。
幻神歴2958年02月04日
翌日正午前、スピカ亭の一階食堂にて
食事時とあって人混みが凄まじいが明らかに宿泊客以上の客の入り用は食事だけの利用客で込んでる訳で、この店の料理の腕前が伺える程だ。
カレンとコボルトの2人は疲労から朝を寝過ごしてしまい朝食を逃し、この時間に起床して一階の食堂のテーブルに腰かけていた。
食堂といってもメニューがある訳でもなく店主のお任せの品を待つだけだ。
更に高級な宿ではメニューがあり事前に給仕が注文を伺うがそのような高級宿は貴族ご用達で一般人にはまず無縁だ。
テーブルに着いて暫くすると給仕から葡萄酒とお通しに豆とチーズを出され、昼食は鳥の照り焼きと揚げパンと伝え次のテーブルに向かう。
「…久し振りのベッドのお陰で寝過ぎたわ。取り合えず乾杯しましょうか」
「低血圧で朝の弱いおめぇなら兎も角、俺っちまで寝過ごしたからなんも言えねぇ・・・まぁ、乾杯」
なんとも気怠い一向の乾杯だが葡萄酒の入った小樽のコップを煽ると驚きから眠気は一瞬で覚める
「美味しい~!」
「うめぇ~!」
水割りされてない純粋な葡萄酒に驚愕し、ついついお通しに手を出し満喫してると給仕が昼食を持ってくるがそのボリュームに更に驚く。
大皿に鳥一羽を丸々照り焼きにして回りに新鮮で瑞々しいサラダを添えており見た目だけで涎が止まらない一品だった。
そして揚げパンもサンド風になっており中に芋が挟まれておりこれだけでも一品として申し分なかった。
カレンとコボルトのおかずの取り合いという以前の日常風景を取り戻し、お互いに味も量も満足できた食事は終わり、締めに葡萄酒で一息着いて時間も丁度正午を回っていたのでお互いの予定通り行動に移る。
「それじゃ予定通り組合行くけど、あんたも馬車使うでしょうから組合までは一緒に行きましょう」
「あいよ」
忙しなく働いている女将に手短に料理の感想と感謝を述べ、2人は厩舎へリリーを迎えに行き荷台を確認して錬金術教導組合へ向かう。
「昨日の夕時ですら混雑してたがこれは圧巻だな」
まだ露店街に入ってすらいないのだが既に大通りはあらゆる種族が行き交い大いに賑わっていた。
人間は勿論の事、ドワーフ・ハーピー・ミノタウロス等々といった亜人から犬や猫といった一般的なものから虎や熊といった珍しい獣人までおり稀に珍獣? に幻獣も見られる。
この光景だけでこの町の治安の良さが垣間見える。
希少な獣人も玉兎族同様に一部の好事家に狙われるのにこのように大手を振って大通りを行き交えるという事が知れただけで情報としては有難かった。
しかしカレンは其方には余り関心は無く別の事に意識を向けていた。
「私としては建築物や舗装に関心が向くわ。あれ、あの街灯なんておそらくエーテルで常時点灯させてるみたいよ」
少し辺境の村へ行けば木造の家がまだ当たり前で地面など地肌丸出しだが、ルルアでは殆どの一般宅ですら石造りや煉瓦式も見られ、中には高級とされる硝子を使ってる家まで見られた。
地面も馬車の振動を緩和させる為に見事に煉瓦舗装されており馬車の往来も盛んで町として大いに繁盛してる事が判る。
常時点灯する街灯など開拓地ではさぞ高値で売れるだろう品なのに等間隔で備えられておりカレンとしては物珍しさから一本拝借できないか画策していた。
30分ほど町並みを眺めながら走行すると昨日も訪れた錬金術教導組合へ着いたのでまず先にカレンが中に入りコボルトは荷台の荷物の卸し作業に入る。
昨日と同様扉を開けると昼間にも関わらず客らしき人物は見られず受付に女性が2人と奥に昨日も居た男性が事務作業に勤しんでおり、受付の片割れのリールーに声を掛ける。
「どうも、約束通り錬成品の見本と買い取ってほしい品持ってきたわ」
「カレンさん、ようこそ。お待ちしておりました。審査は一階の別室で行うので荷物の運搬をお手伝いしますね」
昨日と同じようで親しみ易く接してくれるリールーにカレンも緊張が解れ受付から離れて一緒に外に向かうとリールーが顔を近付け耳打ちする
(ところでカレンさん。組合員には其々受付の担当が付くのですがカレンさんの担当は私になりました。種族的な問題もあって他の方より事情を知ってる私のほうがいいかと思って、ご迷惑でしたか?)
(いえ、助かるわ。ありがとね)
(いえいえ、改めてこれからよろしくお願いしますね)
(こちらこそ)
気を使ってもらい自分の担当となったリールーを横目で改めて観察する
年はやはり自分と大差無いようだが均整のとれた顔で眼鏡が際立ち理知的な女性を彷彿とさせ、美少女より美女の印象が近い
同性の、それも自分の種族を知ってるとなれば是非親しくなり友達になりたい所だ、姉を除く同年代で同性の友などこれまで1人も居らず、あんなことやこんなことができたらいいな、となんともふわふわな空想を締まりの無い笑顔で浮かべていた。
一緒に外に出るとコボルトが出迎え飄々と挨拶を交わす
「おっ、お嬢さんがリールーさんかい? どうも、こいつの相棒のコボルトでさ」
幻獣は珍しくも無いがそれはあくまで幻獣師とセットでの話で単独や、ましてや錬金術師と一緒というのは初めて目にする光景で昨日の内に聞かされていたとはいえやはり衝撃が走るリールーだが長年の接客業で培った応用力を活かし笑顔で挨拶をして手を交わす
「始めまして。カレンさんの担当となったリールー・エイシャと言います。・・・えっと、コ、コボルトさん? お名前は・・・?」
「ああ、名前は付けてないからコボルトで構いませんぜ」
「へ、あ、はぁ・・・えっと、荷物運ぶの手伝いますね」
コボルトの返答にしどろもどろになるリールー
昨日聞いた話ではカレンの姉がコボルトと契約したという事だったが幻獣・召喚獣・精霊等と契約する際に名前を付ける事があり契約者との繋がりが深い印で契約主から離れて活動させるぐらいだから当然あると思って目の前のコボルトに聞いたところ無いという、どんな契約内容なのか気になるが其処は個人の秘術に触れる可能性もあるので気にはなるが触れないで置く事にした。
「ありがてぇ、結構な量があるから助かりますぜ、こっちの袋は素材品なんでこれ以外は全部運んでくだせぇ」
「分りました、早速運びますね」
「ああ、そうだ。ちょっと確認したいんですがね、ルルアの南門から一週間ほどの街道で花畑を見つけたんですがね、そこの植物を少ぉし採取したんですがどうやら誰かが魔法か何かで管理してるみたいで、やっぱり不味いですかね?」
コボルト也に考えた結果このタイミングで尋ねるのが一番と判断しての問いだ。
あくまで偶然を装い、返答次第で採取品の返却すれば良し、問題無ければそれで良し
組合のお墨付きなのだから後の憂いも無く対処してくれるだろうと考えての事だ。
「南街道の道中ですか? それなら国有地なので誰かが勝手に植えたと思うので法的には問題有りませんよ。ただ当事者同士のトラブルになり兼ねないので今後の採取についてはお気を付けください」
「了解でさ」
リールーの黙認という名の許可を得たので昨日カレンと話し合ったあの花畑の植物の移植を折を見て実行に移す事になった。
仮に採取の許可が出た所で毎回往復に二週間も掛けて危ない橋を渡るぐらいならいっそのこと植物全て移植してしまおうとの結論に至った。
回答に満足したコボルトは荷運びを終えるとリールーに別れの挨拶を交わして手筈通り別行動を取り、採取品だけとなった荷台を運ぶリリーと共に市場へと消えてゆく。