32話 甘える錬金術師
幻神歴2959年07月07日
「ん~何がいいかなぁ。シャイタン、お前は何かリクエストある?」
一先ずお土産第一弾を開帳した所カレンは上機嫌になりたっぷりと会話を満喫できたので夕餉の時間も近いという事で折角だから今日は姉様の手料理が食べたいですっという愛妹からの可愛いおねだりにアリスがやる気になるのも当然で食材から拘ろうと台所を物色している。
「アリス様の御手製なら何れも美味なのは承知なので私奴は何でも、カレン様の好みの品が宜しいかと」
「ん~~・・・あの子の好きな物・・・あ、閃いた! 肉よっ あの子私の肉料理大好きだったから肉料理にしましょ」
「それはカレン様もさぞお喜びになるかと」
「でしょ~! 今日は特別な日だから特別な料理を・・・ん?」
台所の品を物色して品定めしようとした所アリスの足元に珍妙な生物がわらわら寄ってくる
「なにこの――馬鹿でかい。。。兎? まぁ丁度いいわ、こいつら絞めましょ」
初対面のカレン同様どうやらアリスも動物を愛でる発想は無いようで妹同様の結論を即座に出す
―――アナタモスキ―――
「ぇ? やだもう、シャイタンったら♪ お前は格好いいけどまずはうさ耳生やしてもらわないと///」
突然のシャイタンの告白にアリスは照れて体をくねらせるがシャイタンとしては身に覚えが無い台詞にどういう事だと返答に困る
「はい?」
「え?」
―――ボクモ―――
―――ワタシモ―――
―――ダイスキ―――
「・・・・・この声お前ら?」
―――ウン―――
「うぉ・・・何この不思議生物」
幻獣・魔獣・聖獣・念獣・珍獣・神獣など様々なものを目にしてきたアリスだが目の前の生物は初見なので驚いて一歩後ずさる。
ルルア渓谷に生息するこのルルア兎は町では愛玩動物として人気が高いが魔獣の生息する渓谷では最下層の被食者の為警戒心がとても高く滅多に人前に姿を見せない。
「如何されました? アリス様」
「なんかねぇ、こいつらの声が聞こえるわ。伝達魔法とは違うから恐らく念話か思念伝達かしら」
試しにアリスは脳内で足元の兎に指示を出してみるが反応が無いので一方的な思念伝達と判断する
「ふむ。見た所幻獣や聖獣の類でもなければ精霊種でも無い、恐らくはアリス様のように玉兎ならではの種族認識かと」
亜人種族は色々と種族が判明してるが希少種族は閉鎖的なので未だ不明な事が多い。今体験してるように同種同族眷属で意思や念話等で疎通ができるというのもままある話だがアリスは今まで数えきれない程の兎を捕食してきたがこのような体験は無かったのでこの不思議生物特有の能力が玉兎に通じるのだろうと結論付ける。
結論がでれば満足だ
「まぁどうでもいいわ。2,3羽絞めるわ、丸々と肥えて脂が乗って美味そうだし」
妹と違い会話が通じても捕食する気満々だった
「しかしアリス様、会話が成立して此処にいるということはもしやカレン様の愛玩動物なのでは?」
「ぇ?・・・ん~・・・お前らカレンのペットなの?」
―――ペット? ワカラナイケドカレンスキ―――
―――カレンモアナタモダイスキ―――
―――ダイスキ―――
アリスの物騒な問いにルルア兎達は気にもとめずアリスに縋り付いていた
カレンもアリスも知る由も無いがルルア兎からしたら2人の容姿性別関係無く、玉兎というのに堪らなく惹かれてしまい魅了されているのだ。仕事もそれほど難しくなく、頻繁に休憩や交代を挟むので快適だし、しかも工房にてアマネ作の天上の作物をお腹一杯食べれるのでルルア兎6羽にとってここは正に桃源郷だった。
「―――どうやらペットっぽいわ。カレンに近づく玉兎なら問答無用でぶち殺す所だけど、まぁこいつら害無さそうだしほっときましょ」
「それが宜しいかと」
目の前の不思議生物を捌くのは諦め、引き続き台所を物色したが乾燥肉はあったがどうせなら新鮮でとびきり美味しい焼き立ての肉を振舞いたいと工房を出てシャイタンとまた相談する。
「ん~ってことは肉調達しないと駄目ねぇ」
「通貨なら幾らか先輩から渡されてあるので宜しければ私奴が仕入れて来ますが?」
シャイタンもアシュリー工房に住むということでコボルトとアマネと相談した結果アマネとコボルトの手伝いをするという事に決まった。
呼び方についてはアマネがそう呼んでるのでちなんで俺もと呼んでるだけで別に敬称を使ってる訳では無いしコボルトもそんなこと気にしていない
話の最中にシャイタンが通貨を持ち合わせてないという話になってコボルトが「それじゃ不便だろうから来月の賃金から先にいくらか立て替えて渡しとくぜ」と金貨50枚と銀貨200枚渡されている
アマネ同様人間の貨幣価値感など皆無、そもそも通貨を使うという概念が無いのだが折角なので大人しく受け取った物だがふと気になって尋ねた。「これは大金なのではないか?」 と。シャイタンは錬金術は門外漢で一商店の売り上げ等興味も無く、知る由も無いがこの額が大金なのは判るので一商店の賃金でこれはどうなのかと疑問が浮かんだのだがコボルトは「あ~うちは売り上げの頭割りだからな。これからは4頭分・・・あいつはどうなんだ? まぁいいか、兎に角雇い雇われじゃなくて売り上げを均等に分配になるがそれで大体金貨にしておめぇには3000枚は最低でも入るだろうぜ」と言うのでそういうものなのかと納得した。
「それもいいんだけど、どうせなら飛び切り珍しい物を・・・あれ? あれって確か鳥馬じゃない?」
またしてもとんでもない物を捕食者の眼で捕えるアリス
「確かに鳥馬で御座いますね。私奴は初めて目にしますがあれはこの地には生息していない筈なのですが」
鳥馬はパラミスの北部に主に生息している希少動物ではあるが飛びぬけて値が張るものでは無く、馬より多少高い程度の動物だ。希少種なのになぜ安いかというと雌雄によって特徴が異なるがなにより人になつかないので騎乗動物としてほとんど使われないのだ。一部の好事家がペットとして飼いはするが人にとことんなつかないのですぐ手放される始末だった。
「鳥馬は調理したことないけど魔獣でも食えるんだからあれも多分旨いでしょ。よし、あれにしよう」
ほらほらおいでぇ。美味しく捌いてあげるからねぇ
あら、こいつ暴れもしないで私に寄ってくるなんて、私に捌かれる栄誉を解ってるじゃない
「あの、アリス様。見ての通り厩舎に居るという事はこれもカレン様が足に使っているのでは?」
「――ぇ? あぁ~・・・それもそうね。危ない危ない、あの子を悲しませる所だったわ。シャイタンでかしたわ」
「有難う御座います」
勿論この鳥馬、リリーは捌かれる栄誉に喜んでるのではなく恩兎でもあり主兎との再会に歓喜していたのだ。
実はこのリリーはテンゲン大樹海に移り住んでコボルトを拉致した後にアリスが愛妹の為の食材探しに樹海をうろついている時に偶々迷い込んだ鳥馬が魔獣に襲われ負傷しながらも逃げてる所を見つけて可哀想だから助けた
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なんて美談な訳も無く、捕食しようとしていた最上級の魔獣を瞬殺して華麗に捌いて肉だけ取り出し用は済んだと死骸はほったらかしで怪我を負っている鳥馬など無関心に愛妹と犬の待つテントに戻って御機嫌で調理していると鳥馬が付いてきたようでそれを見たカレンが可愛いっ! と気に入ったので怪我の手当てをしてペットとしてリリーと名付けたのだが・・・ものの数日で出会いの経緯を忘れ、旅に出てからは存在すらさっぱり抜け落ちている。
ある意味コボルト同様の被害者? になるがリリーはアリスに夢中でカレンと良く背中に乗せてあの大樹海を散歩したりアリスが居なくなってからはカレンとコボルトを乗せて散策する事も有ったのでアリス・カレン・コボルトは喜んで背中を許しているし最近はアマネも気に入っている。
尚余談だがテンゲン大樹海が一時期魔獣が活発になった理由はこのアリスの放置した魔獣の残骸を食し力を増した魔獣のせいなので近隣からしたら溜まったものでは無かった。
「っとなるといよいよ買い出しかぁ・・・どうもフードは慣れなくて嫌なのよねぇ・・・」
妹の為に我慢しよう! と息巻いたものの、やっぱりどうしてもうさ耳を隠すのに抵抗がありカレンの部屋にずっといればこのばっちぃローブもいらないのでは? と閃いて妹の部屋に引き籠る気満々のアリス
「宜しければ私奴が用立ててきますが」
「じゃお願いするわ。あの子の為に飛び切り珍しいのをお願いねっ」
「畏まりました」
通貨など自分には使い道が無いし今ある金でルルアで一番いい肉を購入する予定だったが主が珍しい物を所望ということで塾考する
(さて、珍しい肉か・・・ふむ)
シャイタンはアリスとの世界巡りでアリスの料理を堪能して美食に目覚めたのはいいが食材に関しては関心が無いので珍しい肉と言われても判らない。単に珍しい魔獣でいいなら適当に眷属でも使って集めるが魔獣の肉も個体によって味が異なり食せないというのはシャイタンも知っているのでそれならばと食に詳しい者を使えばいいと配下を呼び出す。それも飛び切りぶっ飛んだ直属の配下を
「強欲、暴食。来い」
「はっ」
「はいよ~」
2柱の大悪神が召喚されシャイタンの前に現れる
眷属と異なり直属の配下で8つの枢要罪の原点を司る本来なら人々に信仰される大神なのだが神格と役目の関係上シャイタンの下なので配下となり付き従うシャイタンの肝入りの配下だ
何千年も離れた支配星に居るので実体ではなく発光体だが今回の用途に差支えは無い
「我が主と妹様が珍しい肉をご所望だ。貴様らで用意して来い、言うまでもないが妥協は許さんぞ。分ったらゆけ」
「畏まりました」
「了解~」
2柱の大悪神をお使いに使うなど信奉する者が知れば憤慨するのだがシャイタンや配下に関係無い。
30分もしないで2柱が胸一杯に様々な肉を抱え戻ってきてシャイタンがそれをアリスに献上する。
獣の良い部位の肉に限らず、魔獣やあらゆる珍獣の肉を目にしてアリスも飛び切りの珍しい食材に大満足で折角だからと各種調理して残りは保存食にしたがそれでも軽く20人分はある珍味のオンパレードとなった。
アリスお手製の香辛料をふんだんに使った丸焼きと厚切りステーキ、肉を一口サイズに気って野菜と煮込んだスープ、白パンもあったが一部は敢えて固い黒パンを選んで中央に切れ目を入れて生の野菜と薄くスライスした軽く焙った肉を挟んで味だけでなく食感も楽しめるパン。肉尽くしは流石にどうかと思い野菜の盛り付けを3種味付けを変えて仕上げにアマネ作の果実を切り分けて完成だ。
「アリスちゃんの料理は初めて食べたけど凄く美味しいですぅ~!」
アリスとは昔馴染みだが手料理は初めて口にしたアマネが流石カレンの師匠と大満足で絶品の味にご満悦
以前アリスと出会い暫く共にした時はアリスの食事は神に食わせるぐらいなら魔獣に食わせるわ! とミューズはアリスの料理を口に出来なかった。
「相変わらずこいつの飯だけはうめぇのが納得いかねぇ・・・」
契約主の唯一の取り柄にして自身が料理に目覚めた懐かしい味に美味しいけどこいつがなぁ・・・と複雑な気持ちになりつつも物凄い勢いで平らげるコボルト
「姉様の味だぁ・・・うぅ・・・美味しいよぉ」
懐かしい姉の手料理の味にポロポロ涙を零しながらもやっぱり料理もまだ姉様に敵わないからこれからは一緒に料理しようと奮起するカレンだった。
シャイタンは終始無言だったが満足気なのは誰が見ても表情で判る
20人分あった豪奢なおかずの内大半をコボルトとシャイタンが食べるというコボルトはともかく中性的な細身のシャイタンの健啖振りにカレンは今後の料理のし甲斐があると驚きの発見をしながらも和やかに夕餉は終わり今はアマネの果物を満喫していた。
「所で私達も此処に住んでいいのよね?」
アマネの詩で成長促進させた果物と聞いて(ぇ こいつそんな器用な事できんの?)と驚きつつも食べると至高の味でアリスはその芳醇な果実に夢中になって色々な種類をつまんでいるとふと忘れていたことを尋ねる。
「なっ! 家族なんだから当然ですっ!」
アリスの頓珍漢な疑問にカレンは驚いてうさ耳をパタパタさせながら即答する
カレンとしては折角再会できた姉と離れて暮らす等耐えられないので当然の答えだがアリスとしても当然一緒に居たいけど空き室が無いしベットも2つ(なぜかカレンのベットがやたら大きいのが気になった)しかないので今後の事を考えなければならない。
「そっかそっかぁ! 私はカレンと一緒に寝るからいいけどシャイタンはどうしよ」
「私奴はなんとでもなるのでお気になさらずに」
「そうはいかねぇだろ。とりあえずおめぇのベッドやら家具仕入れるまでの間は俺っちの部屋のベッド使え」
「俺は其処等で適当にでも構わんのだが、いいのか?」
「構やしねぇよ、雑魚寝は慣れてるからな」
元々テンゲン大樹海では雑魚寝も同然だったコボルトだがそれはシャイタンも同様だったので遠慮ではなく本心だった。
「じゃシャイタンは犬のベッドね、お姉ちゃんはカレンと一緒に寝るわ。昔みたいに仲良く寝ようねぇ~」
久々の愛妹と一緒に寝れると嬉しさの余りカレンに抱き着きその可愛いうさ耳を揉みしだくアリスだがカレンはもう立派な大人? なのだ。
「姉様っ、私はもう子供じゃないんだから1人で寝れます!」
「えぇ~・・・一緒に寝てくれないの? アマネは一緒に寝てるんでしょ」
「ぁ、アマネは子供だからいいんですっ」
アマネのベッドの増設を尽く阻止したお陰で今やすっかり大好きなカレンと2人添い寝が当たり前になっていた。
「は? アマネぇ・・・」
子供とは掛け離れた目の前の女神の容姿を利用した愛する妹の1人締めにアリスが半眼で嫉妬と妬みの視線をぶつける。
「あ、あははぁ・・・」
そんな視線をぶつけられて言い訳もできないとそっぽを向いて誤魔化すアマネだった
「はぁ・・・じゃあお姉ちゃんは1人寂しく台所で寝るわ」
うさ耳をしょんぼりと台詞も物悲し気に零すアリスにカレンが驚いて先程までの態度も一変してうさ耳をピンッと立たせて勢い良く立ち上がり咄嗟に言葉が出てしまう
「ぇ? ゃだ、あっ、その、・・・・・ベッド大きいから、、、その、風邪引いたら心配だし、、、3人でも平気だから、姉様も・・・」
なんだかんだ言ってカレンも大好きな姉と一緒に寝るのが楽しみだったのだ。
まして10年振りなのだから余計に
「も~! なんて可愛いのかしらっ カレン大好き!」
賑やかな雑談も終わり就寝時となってシャイタンはコボルトの部屋に入るがカレンの部屋との余りの差に驚く。
カレンの部屋は中央に明らかに部屋に不釣り合いな特大ベットと簡素な衣装家具が2つあるだけで他に何もないのに比べてコボルトの部屋は・・・・・
全て意匠を凝らした見事な高級家具でベッドが1つとテーブルと椅子が2つに棚1つに装飾過多にならない程度に絵画や調度品が有り側面一面には銀が圧倒的に多いが他にも鉱石や貴金属が種類別に丁寧に並べられて中央に神剣クラレントがある
神剣は例外としても広さを除けば特権階級の部屋そのもので「カレン様の部屋とは大分違うな」とシャイタンが零した所に、コボルトが「鉱石以外は商売上の付き合いで手に入れたり買ったもんだから俺っちの趣味じゃねぇし基本俺っちもあいつ同様に物に執着ねぇな」と返ってきてそこはやっぱり変わり種とはいえ幻獣のコボルトに変わりないと呆れ笑いしつつ眠りに就く。
一方カレンの部屋では
「こうやって一緒に寝るのも久し振りねっ」
「今日は偶々ですっ」
ベッドの中、姉妹の間にちゃっかりアマネが収まり御機嫌で終始にっこにっこしている
「えぇ~昔はこうやって一緒に寝ていつもおでこ擦り合わせたのに、もうしてくれないの?」
「ぁう、えっと、姉様したいの?」
「勿論!」
「じゃ、じゃあ・・・」
「「えへへぇ」」
「それって何か意味あるんですかぁ?」
頭上で姉妹がおでこを擦り合わせているのがどういう意図なのか判らないアマネは玉兎族独特のなにかなのかと気になって尋ねる。
「これはね~。アシュリー家秘伝の信愛表現なのっ」
アリスが御機嫌で答える
「っ! なるほどぉ~私もしたいですぅ!」
玉兎ではなく家秘伝というのに変わった信愛表現だとは思ったが信愛表現というなら大好きな姉妹兎と是非自分も交わしたい欲求が沸いてしまう女神だった。
「アマネなら歓迎よ」
「えへへぇ/// アリスちゃんもぉ」
「おっけ~」
こうして寝起きのうさ耳ブラッシングによる整髪に加えて寝る前の信愛表現も日課に加わり益々楽しみが増えていくアマネだった。
翌朝
カレンに並んでアリスも寝起きが悪く、アマネに起こされても2人して寝ぼけているのでこれ幸いと2人のうさ耳をブラッシングして整髪も2人左右対称の1つ結びに変えて朝の楽しみが2倍に増えてご満悦のアマネ。
カレンは終始ねぼけていたがアリスは途中で覚醒したものの気持ちいいしアマネの詩声も心地いいから大人しくされるがまま身を委ねる。
それからアマネがカレンのローブを着させている中アリスはいつもの装いに着替えお気に入りの腰布を巻く
そしてカレンへのお土産第二弾を披露する。
「さぁカレン! まだまだお姉ちゃんの集めた素材は一杯あるわよっ!」
ふんすと薄い胸を張って意気込んだアリスがベッドに2人誘い込む
「え?! まだあるんですか?! 姉様凄い!」
「でしょでしょ~? まずはねぇ」
アリスとカレン、そしてアマネがベッドの上で3人頭を合わせて座って勿体ぶらせていよいよねっ! と、興奮しながら腰布から様々な珍品を取り出しカレンの前に並べるが昨日と違いカレンの反応が今一だった。そしてアマネも反応できずにいた。
己が創作した魔道具も含め珍しいものは結構知識に取り込んだカレンだったが目の前に並ぶ品々は何に使うのか全く不明だが一目で判断するならどれも素材というより明らかに完成されたであろう品々でカレンは困惑してしまう
「・・・あの、姉様? 姉様のことだから凄いのは解るんだけど、、、その、なんなのか全然判りません・・・」
妹の戸惑いの感想にアリスはさらっと衝撃の品々を説明する・・・
「ぇ? これはフレイヤの羽衣でこれは死者の書でしょ。これは日像鏡、これはカウストゥバでこれは反魂香でこれなんかエリンの四秘宝よ? そして十戒の石碑にマナの壺とアロンの杖。そしてそしてこれはなんと! 八咫烏の思念結晶よ! 他にもこれなんか―――」
どれ程凄い品なのかは1日で大抵の物も者も名前を忘れるアリスが覚えてる事で察してほしい
カレンは名前を聞いても判らないので反応は微妙だが対局にアマネは無造作に腰布からぽんぽんと取り出された品々を見て絶句していた。
「えっと・・・どれも聞いたことも無い物ばかりだけど、これって錬金素材になるんですか?」
「ん~。私も珍しさから集めただけで使い道は解んないけどきっと凄い素材になるわよっ」
姉妹兎の有り得ない会話にアマネが我に返って慌てて窘める
「ぇ?! だ、だ、だめですよぉ! それ全部神器や聖遺物じゃないですかぁ!」
アマネが慌てるのも当然で…‥
神器
読んで字の如く神が創造した。或いは神が使用した器で武器防具から装飾品、嗜好品、薬まで種類は数え切れない程あるが全て人類では創造し得ない奇跡の品で殆どの世界では一部の英雄や逸脱者といった有力者が所有しており、その多くは文献に記載されるほど破格の効果がある。唯の道端の石でも神が愛用すればそれは神器となり神の力が付与される。当然そのような器を求めて国家間戦争が起きる程で常人はまず目にする事は無い。
聖遺物
神に認められた聖人が使用した道具で神器が神の産物であるなら聖遺物は聖人の残した産物で此方は主に各宗派の聖典や祭具として奉納され崇め奉られる品で神器と違い知名度なら此方のほうが圧倒的に大きい
殆どが疑似奇跡を内包された道具である。
「大丈夫大丈夫っ! ばれなきゃ平気よ!」
「ええぇ・・・」
そんな超常の遺物をあろうことか錬金の素材にしてしまうなど価値の判る者は勿論神々ですらぶち切れる案件だ
そもそも錬金術の到達点は疑似奇跡扱いでそれを求めるのに奇跡の産物を供物にするという発想が先ずあり得ない
流石にアマネもこれには駄目出しをする。こればかりは断固止めるつもりだ、幾ら大好きな姉妹兎でも神である以上神の遺物の損失を見逃すことはできない
「アマネ、駄目なの…?」
折角の姉様の素材を使えないと知って耳がしな垂れ、悲しそうな表情で弱弱しくか細い声でアマネを見つめる
(ぁ、あぅ~そんな顔されるとぉ・・・)
「―――見なかったことにしますぅ」
神器の末路なんかよりカレンの悲しい顔のほうがアマネには効いた
数舜前の決意はどこへやら・・・
(アリスちゃんの言う通り多分ばれなきゃ平気かなぉ…私は見てないですぅ!)
アマネも大概だった。。
気を取り直してアリスは更にぽんぽん取り出すがカレンとしてはどれも用途不明で…抑々これは何に使えるのかすら不明なのでどうしようもないのでは? と大好きな姉が並べる品を眺めていると1つだけ手のひらサイズ程の枝が気になり手に取る。
「あっ、姉様この枝綺麗っ!」
「それはね~・・・なんだっけ? 確か・・・本来の枝とか言ってたっけ?」
「凄く綺麗・・・ほんらい? ってなんだろ、ぁ、そうだっ! に、似合うかな?」
小さい枝ながら7つの綺麗な実がなるその枝をカレンはアマネの整髪によりサイドポニーとなった左のポニーに髪留めとして使用して2人に感想を尋ねる。
照れながらも2人に感想を求めるカレンに目の前の2人は
(可愛いっ!)
(天女ですぅ!)
「最高よ! 可愛いカレンにお似合いねっ!」
「全く同意ですよぉ♪」
アリスはなんとか名前を思い出した? が勿論効果は忘れてしまっている。でもそんな事より目の前の愛する妹にお似合いなのでもうどうでもいい。
アマネに至ってはそれが正式名は本来の枝などでは無く蓬莱の玉の枝という権力者が所有すると権力を増す聖遺物と知っていたが権力なんてそもそも大好きなカレンは興味無いしそんなことよりカレンが雅で益々虜になってしまう。
使い道が違うけど可愛いからいいという結果に聖人は泣いていい
「そ、そうかなぁ///・・・これは髪飾りとして使いますねっ! そしてこれは・・・えっと、林檎? なんで金色・・・」
次にカレンが手にしたのは見た目だけなら林檎と判るがその色に怪訝な目をぶつけていた。
「あ~それは珍しい林檎で美味しいわよっ! 錬金には関係無いけど美味しいから食べてみてっ」
金の林檎の置物かと手に取るも姉から食べれると聞いてカレンは恐る恐る小さく齧ってみる。
(・・・・・ぇ? それって神界の黄金の林檎じゃぁ・・・)
神格のある神が食せば神威が増すと言われる天上の果実で神界でも12本しか生息していない神樹からなる実でこの果実を口にできるのは名のある頂点に位置する大神だけでアマネですら何度か見たことがあるだけで口にすることが許されていない、神器を超える神界最希少の果実だ。
但し神格の無い者が口にしても美味なだけで特殊な効果も無ければ勿論神格が付く訳も無い
「っ! 凄く美味しいです姉様!」
「でしょ~! 一本だけだけど樹事持ってきてるから植えて育てたら幾らでも収穫できるわよ」
「流石姉様! 凄すぎですっ!」
「カレンのお姉ちゃんなんだから当然でしょ! 可愛いカレンの為ならこれぐらい朝飯前よっ」
「姉様・・・」
「カレン・・・おいでっ」
大好きな姉の自分への想いに改めて感動して姉妹で抱擁するその様は女神の琴線にこれでもかと触れ、アマネは神聖で汚しがたい宗教画の一幕のように見惚れていた
その光景とカレンの美味しいと喜んだ顔で眼福で果実も植えちゃおぉと決意するアマネだった。
暫くの後
アマネの造林の奥地でゴーレムの厳重警備の元に一本の神樹が煌々と育ち、果実を実らせているのを発見したシャイタンが珍しく引きつりアマネに問い詰める。
「おいアマネ、あれ神界のエデンの果実だろう。貴様ポモナとウェルトゥムヌスだけでなく最高神や主神の連中に喧嘩売るつもりか?」
シャイタンでも定例会時にしか口に出来ない果実がまさか地上で、しかもアマネがこっそり植えてるとは度肝を抜かれて問い詰める。
神樹は12本しか存在できず、何処かで植えたら消える事になる。つまり神界の神樹が現在11本になってる事になる
それは神樹の管理を任されている熱々で数々の伝説逸話を今尚作ってるポモナとウェルトゥムヌスという夫婦神が間違いなく血眼で探してる事になる、当然ばれたら物凄く面倒な事になる
そして主にそれらを口にする神界でも頂点に位置する神々にばれたら問答無用で神罰か聖戦が起きる
それなのに…
「大丈夫ですよぉ。アリスちゃんのお土産だけどばれなきゃ平気ですぅ、それにカレンちゃんやアリスちゃんが美味しいって喜んでるんですよぉ♪」
鼻唄交じりに言ってのけるアマネの呑気さにシャイタンはすっかり毒気を抜かれてしまい
アリス様とカレン様がお喜びならいいか、それに神界が非常事態で困ってるのを想像するとそれも一興
と流す事にする。
「ならいいか。・・・俺にも食わせろよ」
「了解ですよぉ」
かくして2柱は地上でグングン神威を増していくことになる
念の為この果実は希少で知れ渡ったら面倒になるので販売はせずに工房の面々だけで味わおうという事にシャイタンは話を落ち着かせた。
その結果、アシュリー工房の毎食後のデザートにエデンの果実をふんだんに使った焼き菓子や盛り合わせが振舞われる事になり工房の住民だけでは消化しきれないとのカレンの計らいでなんとルルア兎やリリーにまでエデンの果実が出される始末となってシャイタンは爆笑していた・・・
朝餉ませコボルトの手伝いで陳列を手伝い、開店時間となったのでアマネの手伝いで造林に向かったシャイタンだが先に懸念を取り払おうと動き出す。
(さて、折角の麗しい姉妹の再会に余計な邪魔をされては困る。アリス様は気にもしていないが念の為確認するか)
その表情は工房の皆には見せない大悪神に相応しい冷たい表情だった
ルルアの市民区画にある小さい家が並ぶ一角、素朴な家の中ではカザネが机の上で頭を悩ませていた
~~~~~
「ルード様、御呼びと聞いて第二近衛団のカザネ・シャーロット参りました。入室しても宜しいでしょうか?」
「おおっ! 来たか、早う来てくれっ」
「失礼致します。如何様でしょうか? 現在警護の任に着いているので長期の任務は団長や部下でないと受けられないのですが・・・」
「いやの、レイアードから聞いたんじゃがお主、ルルアにあるアシュリー工房のカレン嬢に錬金素材を渡してるそうじゃな?」
「は、はい。カレン・アシュリー氏とは親しくさせて頂いてるので偶に任務内で入手した素材を買い取ってもらってますが・・・申し訳ありません、出過ぎた真似をしました、以後控えま・・・」
「いやいや、それは困る。むしろ助かっておるんじゃ、そこに素材積んであるじゃろ? それカレン嬢に渡してくれんか? あの者の作成する魔道具は儂も友のスーピーも目を剥く程の逸品じゃから楽しみで仕方ないんじゃ」
「―――あ、あの、ルード様。お言葉ですがあれらは私の知る限りだけでも余りにも値の張る品々でカレンちゃ、カレン氏にはとても買い取れないかと・・・」
「ん? 金などいらんわい。そもそもカレン嬢の魔道具に値段などつけようもないしのう! 直属の上司でもない儂からの勝手な頼みじゃ、お主の好きな値段付けて小遣いにするがよい。じゃがあくまでカレン嬢の手に渡るようにの」
「・・・畏まりました。預からせて頂きます」
~~~~~
(あんなのどうやって渡せって言うのよ・・・好きな値段って言われても万年貧乏なカレンちゃんにあれら買える訳無いし、カレンちゃんでも手頃な値段で売ろうにもあんな最希少素材の数々そんな値段で売るなんて言えばカレンちゃんでも確実に怪しむし・・・いっその事夜中の内に工房前にでも置いて・・・いや、でも、賢者様からの預かり品だし・・・)
賢者からの無茶な注文によってカザネは逼迫した状況に陥っていた
アシュリー工房に素材を持ち込むのは小遣い稼ぎも兼ねてるがあの店でのやり取りが好きだという理由も大きい
ルードから預かった素材は正確に言うと値段が付かない物だ。
カザネは錬金術の素材について詳しい訳では無いが今回預かってる素材の中でも3分の1はそんなカザネでも知るほどの最希少素材でこれらは決してそこいらの店先で並ぶような品では無く、大都市の組合が厳重保管したり富裕層の持主と直交渉で手にするような言い値の素材なのだから正確には売りようが無いのだ。
(あれ、これお手上げじゃない? ああ~~!!!! レイアード様~! こんなの聞いてませんよ! なんで賢者の方々はこう無理難題を・・・・馬鹿な賊探し出して締めあげるほうがよっぽど楽で―――)
「抵抗するな、此方の問い以外に口を開けば殺す、貴様程度でも彼我の力の差は解るだろう」
机に突っ伏して頭を掻き毟ってると突如見知らぬ男の声が聞こえ条件反射で体を起こすと正面には男にしては不自然な程綺麗な顔で異国風の褐色肌に使用人のような黒い燕尾服を身に纏った小柄な男が此方を見下ろしていた
第一印象は異国のなよなよしい優男だが先の台詞と男から向けられる以前目にした自身の仕える主でもある陛下と同じような腰が抜ける程の殺意を向けられて動くことも口を開くことも出来ずにいた
(――っ!? な、なにこいつ!、、やばい・・・やばい! ・・・こいつ馬鹿貴族の雇われ暗部なんかじゃない、陛下同様の化物だ。なんでこんなのが此処に!? そもそもどうやって此処に・・・)
この家には選りすぐりの信頼の置ける部下5人が詰めているが今は5人とも出払っている
そして幾ら注意が削がれていたとはいえ、部屋の扉を開け閉めしたらどれだけ気配を消そうが魔法を行使してようがカザネには判る。
左右の腰に差してる短刀を抜こうとしたが出来なかった
脱出も抵抗も余りにも相手が掴めず無謀だと悟り、排除が目的なら話し掛けずに出来ていたであろう事から無駄な抵抗はせずに少しでも情報収集に切り替えようとゆっくりと両手を上げ降参を表す
そんなカザネを見てシャイタンは殺気を抑えるがそれでも表情は変わらず、そんな不審者の表情を見てカザネは怖気が走る
幾度となくカザネも作ったその表情は無感情のそれだった
恐らく意にそぐわぬ答えをしたら粛々と自分を殺して次に移るだろう、強者の驕りでも何でもない、自分を敵とすら認識されていないのだと痛感させられた
「結構。理解したようだな、弁えてる者は話が早くて助かる。何者だ?」
「・・・・・カザネ・シャーロット」
相手の質問に更に困惑するも正直に名を告げる
自分が狙われる理由は過去の経緯から幾らでもあるが目の前の化物には身に覚えが無く、このような奴を雇うほどの権力者が欲する何かを自分は持っていない、にも関わらず男の問いは明らかに自分を指している
機密情報を訪ねられたら覚悟を決めるがこの手の状況で何処まで情報を伝えればいいかは身に染みてるのでまずは名前を正直に明かす
「・・・もう一度だけ聞く、次偽れば貴様の行いが児戯に思えるような末路を貴様の仲間や縁者が目の前で晒すことになるぞ。名乗れ」
男の様子に変化は無い、それが余計に不気味だった
カザネは虚偽を伝えていないのにどういう事かと逡巡するが思い当たった答えがあるので口から零す
(なぜ旧姓を・・・それに私の行動を把握されてる? 考えを読み解く? いや、ありえない。虚言を見抜いてるのか・・・?)
「――生まれの名はカザネ・メリー・ド・テスラだがその名は屑な親共々捨てた! 今はカザネ・シャーロットだ」
「ほう。高貴の出か、その眼では苦労しただろうに。まぁそんな些末なことはどうでも良い。アシュリー工房の近辺に高度な結界と阻害魔法・探査魔法を隠蔽して幾重も施しているが意図はなんだ? 貴様の技量ならあの工房主を如何様にもできるだろう」
口にするのも苦々しい旧姓を告げるカザネだが次の男の問いで2つの衝撃が襲い、また目の前の男の真意を理解できた。
(っ、こいつ眼の事をなんで・・・それはいい。それよりカレンちゃん目当てか、、ははっ・・・これは情報残せそうにないな。。。カレンちゃん逃げてね)
「殺せ」
碌な死に方を出来ないのは自身の過去の行いから覚悟している
どうせ拾われた命だから未練は…あるにはあるが、この場でこれ以上思いに逃げる気はないので覚悟を決める。
特別拷問官を務めたカザネにとって肉体的・精神的苦痛で情報を漏らすのはあり得ないがこの男は不気味で底が知れない。
情報を欲してる様だが究極的な口封じに移る
軍属に努める以上時と場合によっては部下を切り捨てる事もあった、だからこそ自分自身も切り捨てる覚悟もある。
「―――ほう」
(ああ・・・せめてレーランド様の本妻とは言わずとも愛人でもいいから傍にいたかったなぁ)
男が初めて表情を僅かに崩し此方に関心を示した
この隙を逃さずにカザネは右腰の短刀を抜いて首を穿つ
【動くな】
刃が喉に迫った所で男からの静止で体が固まった
動かないのではなく動けなくなった、ここで初めてカザネは冷や汗が噴出し侵入者の正体に察しがついて後悔の念に駆られる
(・・っ!? 支配の呪言? いや違う・・・これは、者の言か?! ・・・こいつ魔神か高位の幻獣の類かっ、しまったっ! 直ぐに自害しとくべきだった・・・)
行動を抑制する魔法は幾つかあるがその中でも戦術級に位置する支配の呪言がある。しかしカザネの所属する近衛団は皆防壁術具で対策している。
それを貫通して抑制を効かすとなれば思い当たるのは魔法の位階を超えた上位存在のみ行使できる言で強者の言・王者の言・覇者の言があるとされているが存在が確認されているだけで其々にどのような違いがあるのかすら不明とされおりカザネの知識ではこれらを行使できるのは魔神や一部の上位の幻獣ぐらいしか知らないのであたりとつける。
(何故最初からこれを使わなかった!? 発動に何かしら条件があるのか? くそっ・・すみませんレイアード様・・・)
者の言を行使できると知った以上最早成す術はない
侵入者の望むがまま喋る人形に成り果てた以上隠匿は最早不可能。己の生死より機密情報の漏洩で敬愛する恩師に迷惑が掛かる事が悔やまれるが今は泣く事も出来ず表情すら動かせない
カザネの取った行動により正体を悟ったシャイタンはここで初めて敵意を霧散させ言を解く
シャイタンは感情も思考も読み解けるが目の前の人物が推定不審者ではあるものの工房に貼られた魔法から害意では無く観察や護衛に徹した魔法と理解して敵なのか味方か今この時まで判断が付かなかった
最初から敵と判っていれば思考を呼んで消すが味方の場合、仕える主の護衛をしてる者の思考を読むという失礼な真似をする訳にはいかないので感情だけ詠み解いて問答から看破した。
「その潔さ、いや、忠義か。貴様、剣聖の言っていた警護の者だな」
(なにをっ・・・)
「ふむ、失礼した。俺はカレン様の姉君に仕える使い魔シャイタンという。御二方に代わり礼を言わせてもらおう」
侵入者の男はシャイタンと名乗り左腕を腹部に水平に当て右足を引き軽く会釈する。
貴族の心得があったカザネはそれが古式の礼と理解できたがシャイタンの容姿も相まって大抵の女性なら虜にされる仕草だがカザネとしてはそれよりシャイタンが口にした内容に驚愕が襲う。
数秒の後、間をおいて体が動かせるようになったのを確認するとカザネは恐る恐る口を開く・・・
「・・・・・喋っても?」
「勿論」
シャイタンは即座に笑顔で回答するがカザネとしてはその笑顔が益々恐怖感を煽られる
聞きたい事は山ほどあるが何から聞くべきか、また、応えられても真意を測れないので目まぐるしく試行錯誤する。
「貴方やその貴方を従える姉とやらが非常に気になるけど竜の逆鱗に触れたくないからそこは置いておく、礼というなら少しばかり頼みがあるんだけど」
「聞こう」
「とある方からカレンちゃんに錬金素材の贈り物を預かってるんだけどちょっとありえないほど値の張る物ばかりで渡す口実が浮かばなくて困ってたのよ、隣の部屋にあるから貴方からカレンちゃんに渡してくれない?」
推定魔神等対応できる訳も無く、下手に尋ねて機嫌を損ねて首を跳ねられるか判らないこの状況で問い質すのは諦め、どうせならと先程の悩みの種を押し付ける。これなら頼みとしても失礼にあたらず互いに損のしない頼み事と踏んでの案だ。
カザネとしてはシャイタンの言葉が事実なのか不確かな情報ではあるがこの状況で虚を突かれる意味も異議も無いのでなまじ確信していた。
「成程―――承知した、今後もカレン様の警護に励め。その代価と警護の礼に俺の配下をくれてやる、好きに使え」
ストラス、マルバス。来い
「「はっ」」
儀式も魔法の行使も無く、シャイタンの呼掛けで眼前に2匹の動物が現れる
梟と獅子だった
恩師であるレイアード以外には秘密にしているが可愛い動物好きのカザネにとってはその愛くるしさに一瞬目を奪われるが直ぐにその梟と獅子が尋常でない禍々しい力を発している事を直感で理解して抱き着くのも声を掛ける事も出来なかった。
カザネは幻獣・召喚獣・使い魔等といった使役系の知識には疎いが戦力を見抜く観察眼はそこそこあるつもりだ。目の前の2匹? が自身を遥かに上回る強者で恐ろしい使い魔と捉えたまでは合っているが…この2柱はそれを上回る存在であってむしろ使い魔を従える立場に在る存在だとは如何なカザネでも判る筈も無い
「この者、カザネ・シャーロットの影について付き従え、我が主姉妹への害意以外の命に励め」
「「畏まりました」」
シャイタンの命でカザネの影に消えた2匹を他所に取り敢えず今すぐ襲われる事は無いと判断して改めてシャイタンに目線を向けて思考する。
使い魔というのは移譲できるものなのか?
自分は使い魔なんて知らないし使役なんてできるのか?
先程の問答で気になった自分の眼について問いたい
気になる事は尽きないが今は兎に角1人になって落ち着きたい
「・・・ぁ、あ~、あのさぁ。大好きなカレンちゃん達の警護は言われずとも続けるけど、貴方程の者がいたらどんな脅威も余裕で跳ねのけられるんじゃない?」
「おかしなことを言う娘だな。俺は先輩のコボルトにこき使われる最下級の幻獣見習いだぞ」
取り敢えず無難な疑問をぶつけたが返ってきたのがとぼけた顔で笑えない冗談だった
それ以上はお互い会話も無く、カザネは茫然としたままシャイタンは隣の部屋へ向かい、暫くしてカザネも部屋に入ると素材とシャイタンは消えていた。
「―――あいつ色々可笑しいけど冗談のセンスは欠片も無いわね」




