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臆病兎の錬金経営譚  作者: 桜月華
148/148

148話 貴族の暴走の果て

幻神歴2962年07月10日


「シャナード・ガル・ルルア・ゲイツ。此度の働き見事であった! 陛下もお喜びだ、よって望む褒美をとらすとのこと、貴殿の望みを聞こう」


シャルマーユ皇城-謁見の間-


陛下に臣下の礼を取るシャナードの功績にシグルトが堂々と発するこの場、広間に集まる大貴族達が参列し褒め称える

ただし国内大派閥の1つの姿は無く、皆表情にこそ出さないが今回の事柄でまた国内の運営に支障が出た


事の発端はカレン・アシュリーが教導技術錬研に参加して数日後の5月頃に遡る



幻神歴2962年05月20日


まだ教導技術錬研が開催して1月も経ってないのに既に様々な既得権益を生み出し同盟国と参加国が嬉しい悲鳴を上げてる中シャルマーユ皇城の執務室で陛下と宰相のやり取りが行われていた


「陛下、今日の謁見希望者ですがシャナードも予定にあります。なんでも緊急とのこと」


予定表を手にシグルトが淡々と告げる、急な来訪は間々あるが今回の希望者は陛下も目にかけている領地の領主だったので報告に上げる


「ふむ、あの者の緊急とはただ事ではなさそうだな。確か午前の謁見はミサール公だったな、前倒ししてシャナードと会おう」


「はっ」


こうして陛下の関心を引いた謁見が行われた



「ご健勝のようで何よりです陛下」


2度目の謁見、事前にシグルトに手配を頼んだルルア領主シャナードが臣下の礼を取り玉座の間で緊張の一幕が始まった

今回もシグルトには謁見の内容を伝えてはいないのだが前回と違い今回はよろしくない内容なのでシャナードの表情には曇りがあった


「うむ。其方もな、ルルアから教導技術錬研に参加した4名、カレン・アシュリーを初めに皆新技術の開発に勤しんでおる。其方の高名が更に増すであろう」


ただでさえ昨今のルルアの評判は鰻上りなのにそれに加えてカレンとルーシェ、他戦闘職から2名と教錬に参加しており各々持前の能力を発揮して真価を示しており陛下は心からシャナードを褒め称える


「何よりで、有難う御座います陛下。して今日の謁見内容についてなのですが・・・・出来れば人払いをして頂けると助かるのですが如何でしょう」


吉報を胸にしてもシャナードの表情は晴れず、陛下に驚きの手配を申し出る

今回の話は出来るだけ知るものが少ないほうがいいと政治的な配慮だがこのためにシャナードは護衛のダンを連れず1人での謁見に馳せ参じた

これが戦闘職に身を置くものを連れていたりシャナード自身が武名あれば陛下への安全の配慮の為通らないがそれを考慮しての考えだった


陛下は一瞬虚を突かれたが隣のシグルトに目配せしてそれに応じたシグルトが守衛や近衛達に合図を送ると皆迅速に玉座の間から退去する


「ふむ、――――近衛は下がらせた、シグは外せんが構わないな?」


シャナードの意を汲んで玉座の間には3名だけとなる

いかな場合でも宰相は外せない、宰相を外しての密談など犯罪を疑われかねないし陛下が最も真の置いてるシグルトに内密などありえない


「勿論で御座います。今日来させて頂いたのはカレン・アシュリーが教導技術錬研に参加してすぐの8日にポッティ公爵から内密の話があると極秘裏に会談が御座いました」


「なに? 筆頭のポッティが直接とな? あの慎重なポッティが珍しい。して、その内容は其方の表情を見る限りあまり良くないようだな」


軍で伸し上がったシャルマーユでも当然他国同様に貴族派閥がありポッティはその一角を担う

シャルマーユでは大きく分けて5つの派閥があり1つが当然宰相のシグルト・タカ派のブラス公爵・同じくタカ派のギラード公爵・ハト派のミゼン公爵・中立のポッティ公爵となっており今回の議題のポッティは戦前から黎明と続く貴族ではあるがあまり目立たない性格でタカ派からはあまり良い印象のない人物なのだが・・・・・


「はい。単刀直入に申しますとポッティ派閥に組し外患誘致に協力せよ、とかなり強引に誘われました」


意を決してシャナードが打ち明ける


内容が内容だけに慎重に話さなければならい


そんな議題について国の一大事だというのに陛下とシグルトは大きく驚きもせず2人して事実確認をする


「―――外患誘致だと? 軍閥一強のこのシャルマーユでか? ポッティは気でも触れたのか?」


陛下の感想も当然で外患誘致とは他国の介入をもって国を簒奪するという大罪なのだが軍閥が多くの実権を握るこのシャルマーユにおいて貴族主導の外患誘致などまず成立しないのだ


「あの性格振りでして記録に残る書面等はあいにく手元にありませんがなにやら現政府に対する弱みを握ったようで、それを機におそらくですがルギサンド大陸のどこかの国を誘致する腹積もりでしょう」


シャナードがポッティ公爵を出迎えた際にてっきりルルアでの権益を融通してほしいとの旨かと思い素直に歓迎したのだが会談の蓋を開けてみれば謀反に協力しろという強気の誘いでこれまでの

優柔不断なポッティとは様変わりしておりシャナードは慌てふためいたがなんとか返事を待ってもらう事に成功し今こうして陛下に包み隠さず報告している


「ふむ・・・・暗部に裏付けを取らすとして、どのような結果になっても損失が大きいな」


ただでさえ統治者の少ないシャルマーユなのに一大派閥が外患誘致を企てているとなればその末端まで厳罰が下り益々シャルマーユの統治に不測の事態が起きるのは明白だった

陛下もひざ掛けにもたれつつも先行きに思わずため息がでてしまい、隣のシグルトは暗部への手配を考慮していた


「ええ。貴族派閥の1つの筆頭が消え、しいては組する貴族連中もよくてお家取りつぶしでしょう。陛下、私に案があるのですが」


「聞こう」


「私は今までも、そしてこれからもシャルマーユと陛下に忠誠を誓っております。それを踏まえてあえてポッティ公爵の話に乗ろうと思います」


シャナードの表情には決死の覚悟がみられ、陛下もすぐさまその思惑を理解した


「―――2重間諜すると?」


「はい。今回の件ポッティ公爵の慎重さを加味して既にかなり話が進んでると思います、一刻を争うと思われるのでこの決断に至りました」


「ルルアに派兵してる第二近衛とは別に其方の私兵で腕の立つ者は居るのか?」


間諜を企てる以上表立った戦力は使えない、が、いざというとき臣下を危険に晒す真似は陛下も避けたいのでシャナードの個人保有戦力を問う


「生憎中級程度の執事のダンと中級と上級徒党2つだけでして・・・恐れ多い申し出ですがこのような事態初めてでして、勝手が分からず、単に腕の立つ者だけでなく情報の行き来を主目的とした人材をお貸し頂けないでしょうか?」


辺境伯とはいえ重要都市でもないルルアの領主では個人保有戦力は中級と上級の徒党2つだけで、いざ交戦となった場合ポッティには最上級の徒党を複数所有しているし協力者の他国の戦力も加味すればとてもではないが戦力差が在りすぎる。最上級の徒党は上級徒党4つ分といわれるほどで彼我の戦力差は明白だ。だがシャナードはその危険を承知であえてこの役を買って出た


とはいえこのような役目初めての事で単純な戦力だけでは不安と本来ならありえない暗部の貸し出しを申し出た


「ふむ、其方の厚い忠義に答えねばな――スイ、ここへ」


陛下も信を置いてるシャナードに少しでも生存率を上げるため、本来なら秘匿の存在を呼び出した


「はい」


呼びかけに応じてシャナードの前方の影から1人の地味な少女が突如現れる


「!? い、今のは・・・もしや伝説の転移魔法ですか!?」


シャナードはてっきり暗部から情報戦の手練れをお借りできるかと思っていたらまさかの年端もいかぬ地味な町娘だった

ただしそれ以上に驚かされたのが突如現れたので転移魔法かと驚愕していた


「いや、転移ではなくこの者の異能だ。スイ、本業から外れる仕事だが頼めるか?」


「構わない、承知した。ただ情報の伝達は随時可能だが戦闘行為は出来ない、それでいいなら」


忍者は忍ぶ者で戦闘行為などしないしできない、フルーラの表の忍者は武芸者だが真の忍者は戦闘行為はご法度だ。そもそもスイに限らず忍者の大半は戦闘技能が無い

スイの影移動から不意打ちで初見殺しは可能だろうがそれが通じるのは精々2流までで一流の武芸者には通用しない


本来ならシャルマーユ陛下とフルーラ王の内密の情報のやり取りの役目があるのだが今回のシャナードの2重間諜について適しているとの配慮だった


「うむ、シグと密に話し合って適時情報の通達と可能な範囲でいいのでシャナードの護衛を頼む」


こうしてシャナードの謁見は終え、帰路にはスイが同行することとなった

道中スイに忍者と明かされシャナードは興味津々であれこれ質問攻めにしたが帰国後、執事ダンと徒党2つと顔合わせを済ませ、愛妻にも紹介したところフルーラの忍者に憧れのあった妻がスイをえらく気に入り猫可愛がりしスイにドレスを着せたりして満喫していた



そんな平穏な日々も3日で終わり、再度ポッティ公爵が見知らぬ同伴者を多数連れて協力の是非を伺いに来たのでシャナードは怪しまれない程度にまずは協力するにせよ現政府の弱みとどこの国を誘致するのか尋ねた


その明かされた内容にシャナードは唖然とすることに、先ず現政府の弱みとはルルアのアシュリー工房私有地に複数国からなる独占されている植物の数々の群生を聞かされ、なぜルルア領主ですら知らないその事実に気づいたのか尋ねたところ同席していたルギサンド大陸の中堅国のシスラの副議長の異能で察知したとのこと。それを聞いてシャナードは逼迫した


外患誘致元がシスラと知ったのは大きいが弱みが致命的だ。しかもアシュリー工房は聖国の聖女と友誼を結んでおりこれを白日の下に晒せば中立国の聖国は手出しできない、ここはひとまず話に乗ってスイ経由で本国に知らせようとシャナードは協力を申し出たがそれと同時にポッティの懐からチャリーンと場違いの鐘の音が鳴りそれと同時にポッティは手を下げがっかりと言わんばかりに懐から魔導具ファクトを取り出す。それですべてを理解したシャナードは距離をとり影に向かって指示を出す


「スイ! この場はいいから本国へ知らせよ」


だが・・・スイは移動できずシャナードの影から姿を現す


「ほう、其方にそのような手勢がいたとは、本国の差し金かね?」


ポッティは余裕綽々で合図を送ると待ち構えていたシスラの最上級徒党が乗り込んできた


「スイ! なぜ出てきたのだ!!」


「すまない領主殿、結界を張られてるようでこの部屋から出られない、おそらくあのシスラの者かあの徒党の内誰かしらの異能だと思われる」


「くっ、ダン、儂のことはいいから妻を逃がしてくれ」


シャナードの決死の思いもむなしくダンの前にも徒党が立ちふさがり八方ふさがりだった


「残念ですよシャナード。アシュリー工房の不正を全面に出す以上其方には本心から協力してもらいたかったのですが」


「何を言うか! 例えアシュリー工房が禁制品を所有していようと本国が知らぬはずがない! 本国が認めてる以上儂はその意向にしたがうまでじゃ!!」


客間の逼迫した状況に待機していたシャナードの私兵の徒党も乗り込むが相手が最上級の徒党と分がかなり悪く、敵味方入り乱れての混戦となるがシスラの副議長が魔道具らしきベルを手にシャナードに迫るとその魔道具に覚えのあるスイがシャナードを押しのけ庇う


「領主殿! あの魔道具は一時的に洗脳できる禁制品だ、見ては駄目だ!」


スイの必死の抵抗もむなしく・・・ダンもシャナードの私兵の中級・上級徒党も最上級徒党相手には荷が重く既に疲労困憊でなすすべなかった


(くっ・・・せめてスイだけでもこの場から逃がして本国に伝えねば、聖国を黙らせてルギサンド大陸のシスラ国が誘致されれば大戦になる・・・なんとかせねば)


シャナードの思いもむなしくダンも私兵の徒党2つも競り負け重症で倒れてしまい打つ手なしとシャナードは覚悟し、最後に妻の笑顔が過った


(これまでか・・申し訳ありません陛下)


後悔の念を胸に最後を悟ったシャナードだったが、シスラの手のものの徒党に頭を固定され副議長のベルに視線を向けさせられ忠義を最後まで通せないことに悔やむが洗脳されてしまい言いなり人形と成り果てた・・・・・


「ラング副議長、洗脳はできたのかね?」


「ええ、これでルルアは手中です。領地法でアシュリー工房への強制調査も可能なのでこれでシャルマーユ本国も言いなりでしょう」


ダンもシャナード派閥の徒党も気絶しており唯一まだ意識を保っているのはスイだけだが結界のせいで影移動できず捨て身の一撃を覚悟したところでどこからともなく拍手が鳴り響く


てっきり作戦成功に徒党の誰かが拍手してるのかと思いきや背後の徒党は誰も拍手しておらず、ポッティとラングが見渡すと客間上空に浮遊魔法なのか浮いている褐色肌の優男が拍手をしており2人はシャナードの徒党の残党かと思い背後の徒党に仕留めるよう指示を出すが最上級の徒党が皆震え上がっており碌に動けなかった


スイはその存在を見聞きはしていたが実際目の当たりのするのは初めてで助かった反面恐怖も反面だった


「シャイタン・・殿か?」


「貴様は剣星の影に控えていた者だな。なかなか面白い見世物だったぞ」


「おい! 何してるっ、早くあの男を仕留めろ」


ラングが徒党に責めるがその返事はあっけないものだった


「む、無理だ・・・あんな化け物俺達がどうこうできる次元じゃない」


ラングの手勢の徒党は力量差を痛感して武器を手放して無抵抗を示す


「中途半端に力のあるやつはつまらんな、影の娘。こいつら洗脳してシャナード様のいいなりにしておくからシャナード様の洗脳を解除したら上手くとりなせ。俺のことは伏せておけ」


「―――分かった。あの男の魔道具を奪って返り討ちしたことにする」


「結構。ではな」



超常の介入もあってあっさり解決となったがシャナードは自分のいいなりとなったポッティ公爵とラング副議長それと最上級徒党6人を引き連れ再度本国に向かって謁見の場を開いてもらった


そして功績は後日正式に称えるということで前もってシグルトからアシュリー工房の私有地について内情の説明を受けた


カレン・アシュリーと契約した幻獣のアマネの力によって私有地内では各国が独占占有している様々な植物が実ってるが陛下も黙認という形で暗黙の了解なのでシャナードもそこは触れないようにと厳命を受けた。



シャルマーユ皇城-謁見の間-


シグルトに臨む褒美を尋ねられシャナードはスイを望んだ


それに虚を突かれた陛下が「それはスイを妾にするということか?」と確認するがシャナードは「いえ、娘として迎え入れたいと思っております」と述べ熟考した陛下が傍仕えに書を持ってこさせ何やら一筆しるしスイに託しフルーラ王に伝言を頼んだ


「其方の望みは出来る限り叶えたいがスイはフルーラからの客分でな、フルーラの許可とスイの希望を聞こう」


数分してスイが再び現れフルーラ王からの書を陛下に渡し、一読するとスイ以外の忍者への一切の追及をしないのならスイの自由意志に任すとあった


「スイよ。シャナードからの要望は其方を娘として迎えたいとのことだが、どうだ?」


「私は隠れ潜むもので貴族の嗜みなど教育を受けていない、それでもいいのなら」


とスイの同意もあってシャナードへの此度の褒美はスイの養子縁組と騎士勲章を賜りシャナードは武芸に無縁の自分がまさか騎士勲章を授かるとは夢にも思わず年甲斐もなくはしゃいだ


そして最後にシグルトが陛下の意向を伝えると宣言し、玉座の間に集う貴族達に爵位の分散を表示した


今までは上から

公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵だったがこれを改め大公・公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵・準男爵としてポッティ公爵の領地を各々で分散して治める事となった


こうして一波乱あったが貴族騒動は幕を閉じた。

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