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臆病兎の錬金経営譚  作者: 桜月華
147/148

147話 テンプレに翻弄される錬金術師

幻神歴2962年06月28日


カレン・アシュリーが参加する教導技術錬研が開催されて1月半が経過していた

現在カレンの抱える課題はかなり重なっており日々その研究に日進月歩している


1つ、武器に魔法付与

2つ、死者蘇生属性を付与した訓練場の開発

3つ、国からの依頼で毒看破の魔導具作成

4つ、賢者キールからの要望でカレンのレシピから販売する品の選定

5つ、その日その日の普段接点の無い戦闘職からの細々とした要望品の発明


4つ目のレシピの選定はつい先日終えた所でリールー経由でキールの手に様々なレシピが届けられた

始めカレンが研究を終えてくたくたになって部屋に戻ると妙に瞳をキラキラさせたリールーに出迎えられ妖しいご機嫌伺いをしのいでいると用件を言い出した


「実はですねカレンさん、皇宮調理人筆頭にして料理師最高位の賢者キール様からたっての要望がありまして、カレンさんの料理を開示してほしいとの事なんです」


「え、料理の賢者様までいるの? へぇ~~でも研究が重なってとてもじゃないけど料理にまで手は届かないわ」


「ええ、ええ。キール様もそこは重々承知しておりまして本来ならカレンさんに直接伝授して欲しい所ですがカレンさんの本職を邪魔するのも本意ではない、ということで私が一計しまして―――カレンさんの料理のレシピ集から公開してもいいって料理のレシピを国営店で販売してはどうか、と思いついたのですが如何です?」


「え? 料理そのものじゃなくてレシピを売る? そんなことできるの? ん~~私の所有してるレシピ集は姉様から受け継いだもので私でもまだ未知の料理もあるし売れたとしても値段が・・・」


「その点はご心配なく! 賢者キール様が責任と自信を持って適正価格を割り出してレシピの販売に当たりますので。カレンさんの料理は珍しい物も多いのでさぞ売れるでしょう」


「ん~販売ってことは売れたお金は国のものってこと?」


「いえいえ、これはあくまでカレンさん個人の提供なので売り上げはカレンさん個人に入ります。今後の定期的な安定収入に繋がりますよ? どうです?」


「私の売り上げになるなら喜んで提供するわ!」


「そうですかそうですか♪ キール様曰くかなりの高額取引が予想されるとのことで、それでこの案を発案した私にも売り上げから1割の割り当て、と申されたんですがその点もどうです?」


「おっけ~おっけ~! 1割ぐらいどうってことないわ!! 少しでも稼いで借金奴隷から解放されたいし早速レシピを選ぶわよ!」


と、目先の大金に目がくらんだカレンはリールーのちゃっかりしたたかな稼ぎを快諾して2人して数日レシピの取捨選択に励んだ。




幻神歴2962年06月30日


「グラット様どうです?」


第三研究塔にて秘匿の研究が成されていた


賢者ハロルドと賢者グラットと共同研究している魔法武器の作成だ


これまで何度と試しても武器が耐え切れず瓦解しており、より高性能かつ高密度の武器を、と試していたのだがカレンの「あの・・・これって成功したら軍で使用予定なんですよね? あまり高価な武器だと成功しても普及は難しいのでは?」との一言で原点に戻り思い切って粗悪品の数内品で試行錯誤を繰り返していた



「―――剣の維持は成功ですね、魔法を行使してみますので離れてください」


今回幾度目かの挑戦で剣が崩壊せず原型を保っておりグラットが軽く素振りをし、これは成功かと3人は期待に胸が膨らむ

今回剣に封入を志したのは中級の土属性防御魔法でウォールバリアという地面を抉って行使者の周囲に土壁を精製するというもの


グラットが2人が離れたのを確認して行使してみる


「ウォールバリア」


本来なら自分では行使できない筈の魔法だがグラットの詠唱により研究室の地面が抉られグラットの周囲に3重の土壁が精製された


魔法付与の成功の瞬間にも関わらずカレンとグラットの表情は険しく、ハロルドだけ歓喜していた


「成功ですよ!! カレン、グラット。これは大革命ですよ!」


隣に並んでいたカレンの手を取りぶんぶんと大袈裟に喜ぶハロルドだがカレンは打って変わって気落ちしていた


「いや・・・ハロルド、これは・・・まだ成功とはいえない」


グラットがさぞ残念そうにハロルドに現実を告げる


「そうですね。私の魔導具に魔法封入という夢の為にもこれで成功とは言えないです」


カレンの台詞も相まってグラットの手にしていた剣が耐え切れず塵と成り果てておりそれにハロルドも一足遅れて気づく


「ああ・・・そういうことか」


ハロルドも落ち着きを取り戻してグラットの手にした剣を見て2人の表情の暗さを理解する


「一応これでも凶戦士みたいに使い捨て前提としては成功だが、並の兵士にとっては交戦中に武器を失うのは危険すぎる、というか論外です」


既に戦術として組み込まれた魔法師や幻獣・召喚獣による三段撃ちならこの武器でも応用は可能かもしれないがあくまでこれは最前衛に普及予定なので前衛の武器が交戦中消えるとなれば迂闊に行使できない、まさに捨て身の一発になってしまう


とはいえ研究の成果としては大きい一歩だ


「ん~~剣の維持と魔法の発動までは成功したのでグラット様の剣気というのは正しいと思うので私のエーテル波動とハロルド様の魔法の調整が問題ですかね」


「ふむ、単純に魔法の階位を下げれば良いという訳でもなさそうだしな・・・また下級から試すとして希望としては上級魔法までいきたいものだね」


「そういえば今更なんですけど魔法の階位ってどれぐらいあるんです?」


カレンが世間の当たり前を尋ねる

本来なら誰もが知ってる知識だがカレンの場合錬金術のみ独学で学び、師でもある姉からも魔力のないカレンには無用と教えられずにいたので幾つか階級があるぐらいしか知らないのだ


「ああ、我々には当たり前すぎて説明してなかったね、申し訳ない。コホンッ、魔法の階位は6つあって下から最下級・下級・中級・上級・最上級・戦術級とある。現代では行使不可能だが更にその上に厄災級と天災級、しかも原初魔法や古代魔法があるが現在では行使できるものはおらず神々や幻獣界の極一部が使用するのではと噂程度の位です」


ここぞとばかりに知識を披露するハロルド、もっとも弟子にこんな常識尋ねられたら見込みなしと叩き出す所だが・・・カレンの特殊な背景を理解しているので丁寧に教える


「ふむふむ、上級と最上級はやっぱり差は大きいですか?」


「勿論。魔法師にとって戦術級は戦中でしか行使が許されない以上最上級の魔法の取得は己の階級の最上位への一歩だからね」


魔法師にとって幾つかの最上級の魔法の取得と使い魔の契約が最上位への条件なので世間一般の魔法師は最上級の魔法の研究に費やす

その中でも極一部の軍属に属するものが戦術級へと研究の許可が下りる。最も市政の魔法師でも戦術級を研究する奇特な者もいるし稀ではあるが戦闘職徒党が思わぬ遭遇で強敵と出会った際に咄嗟に戦術級魔法を行使する猛者もいるが組合には黙認される


「ん~~成程、あっ」


カレンがフード内でうさ耳をピンっと立たせて閃いてしまう


「「どうしました?」」


「ハロルド様、この地面に大規模錬成台を埋めることってできますか?」


「それは造作もないが・・・今の錬成台で失敗してるのに大規模なんて更に難しいんじゃ?」


今現在は先ず錬成台の上に剣を置いてカレンがエーテル感応を済ませハロルドが魔法を封じ、最後にグラットが剣気を込めるのだが剣が持たず瓦解していた

それなのに大規模錬成台など余計難易度が増すのではとハロルドが苦言を呈すがカレンの心意気に折れる


「いえ、私の予測が正しければなにかしらの進捗が見込めます」


「ふむ、やってみよう」


翌日、幻神歴2962年07月01日


後の歴史書に歴史上最も人を殺める発明の日と記される


「カレン、言われた通り床下に大規模錬成台を埋めたが・・・言われた通り性能はお世辞にもよくない一般的な大規模錬成台だがこれでいいのかい?」


「ええ、グラット様は昨日と同じ手順で、ハロルド様は戦術級魔法使えますか?」


「それは勿論だが・・・」


戦術級魔法は戦場でのみ使用が許されてるがこの教導技術錬研では特例で戦術級魔法の行使が許されている

当然だが悪用すれば即座に連行され重い処罰が下る


「ではこの場で効果が目に見える戦術級魔法を封入してください」


「え?! 中級でも失敗してるのに上級や最上級を超えて戦術級を?」


2人の驚き様を背にカレンは端に置いてあった試験用の剣を何往復もして床に乱雑に置く、その数30本


「カレンさん、それはどんな意図が?」


「まぁまぁ、私もエーテル感応を今までと違って全力でやるので先ずは試してみてください」


得心がいかないがいわれるがままカレンの剣への基準を度外視した全力のエーテル感応を済ませたので、ハロルドは数内品の剣の束に戦術級の魔法を行使し、最後にグラットが床に並ぶ剣から1つを選んで掴み剣気を込める


「グラット、それに込めたのは戦術級の水属性補助魔法のウォータークイックだ」


ハロルドの知らせにこくんと頷いてグラットは駄目元で魔法を発動させる。当然自身では行使不可なものを


「ウォータークイック」


発動と同時にグラットの背に残像が現れる。ウォータークイックは古代魔法のクイックを模倣しようとして発明された産物で魔法で水の残像を作りだして3回のみだが攻撃判定を二重に発動できる実体を持った残像を作り出す高等魔法だ


発動したにもかかわらず剣は崩れない、驚愕のままグラットは軽く素振りをして3回の二重攻撃を終えるがそれでも剣は瓦解せず保っていた


「やっぱり!! 私の読みは正しかったわ!」


「これは・・・カレンどういうことなんだ?」


「驚きですね! これはまさに理想の魔法剣ですよ!!」


2人に詰め寄られてカレンが薄い胸を張って胸の内を明かす・・・・・とはいっても蓋を開けば至極単純な話だった


「ハロルド様仰ってましたよね? 過去にはこの魔法を封じた武器が有ったって。そこで気が付いたんです、武器というなら当然戦場で使われる、それもおそらく大量に、そんな消耗品の作成に多くの手順は掛けられない。だから簡略化してみたんです。そしたら見ての通り成功しました」


「成程・・・いわば今までの手順は一品物の業物を作成しようとしていたのか! カレンありがとう!! 早速資料にまとめて賢者会議に報告だ、グラット忙しくなるぞ」


「ええ、カレンさん有難う御座います。この発明は多くの命を奪うでしょう、ですがそれ以上に多くの命を守ってもくれます。ハロルドに並んで軍属に身を置く者としても感謝を」


「はい! 私も実りある研究でした。ハロルド様、お約束をお願いしますね。今度魔導具大量に作成して持ってくるので魔法の封入をお願いします♪」


「ああ、もちろんだとも」


こうして魔法武器作成の研究は一区切りついた。

今回の研究に関してカレンは魔導具に魔法を付与したいと思いつき、研究が成功したらハロルドの協力で魔法発動できる魔導具を作成してもいいかと許可を取っていた。


まだ午前だったので昼餉を済ませたら午後は毒看破の魔導具作成に取り掛かる

死者蘇生付与の訓練場に関しては賢者ルスの協力が必須で次に一緒に研究できるのは3日後なのでその間がっつり魔導具に費やす



食後、賢者キールとの打ち合わせも終えてリールーは昼から惰眠をむさぼる予定と聞いて自分はこんなに仕事に勤しんでるのになんて業腹なとひがんだカレンが研究塔に連れ出しカレンが錬成に四苦八苦してる様を背後でボーっと見守るリールー


「ん~~駄目だわ、これある意味ルス様との死者蘇生への探求よりきついかも」


珍しくカレンが根を上げるのでリールーがつい興味本位で尋ねる


「死者蘇生よりって・・・毒の有無を確認するだけでしょう? 聞く限りそんな難しいとは思えないのですが」


「私も最初はそう思ったの。でもでも毒といってもここにある標本だけでも60種を超えるし、なにより厄介なのがお酒や一部の素材も毒判定しちゃうのよね」


賢者ルスと賢者ルードとの死者蘇生を付与した訓練場については遅々としてではあるが進展があるのだが今取り掛かってる魔導具については全く進捗がないのだ


「あ~~成程、お酒も飲みすぎれば毒といいますしね」


「そう、このフルーラの秘宝っての、ほんとに凄いわ」


カレンが賢者ジルから借り受けたネックレスを大事に扱いならがら装着して毒看破を試みてその性能に絶句する



こうして悪戦苦闘しているカレン・アシュリーと打って変わって姉兎のアリス・アシュリーはというと――――



怠惰を極めた引き籠り生活を満喫していた


朝昼夕と合間のデザートを調理するだけでそれ以外は部屋で寝転んで過去に溜め込んだ魔導書に目を通していた

アシュリー工房は工房主不在ということで営業を休止しているがコボルトは商業組合や行商人と打ち合わせ・アマネは神域の森の手入れと忙しないがシャイタンとフラミーはカレンの部屋でアリスがベッドでゴロゴロしてるにも関わらずお茶を満喫していたのだがボソッとフラミーが呟いたある発言がアリスの興味を惹いた


「え? ドラゴンって食えるの?」


アリスが起き上がって2人の会話に混ざる


「ええ、この星ではドラゴンの総数が少なく知られていないでしょうが他星では最高級肉として至高の食材として名を馳せてますよ」


2000年以上生きたアリスですらドラゴンとの接触は少なく、それを口にするという発想がまず無かった


「ほう、旨いのか?」


「それはもう、シャイタン様が神界で口にしていた肉の大半はドラゴンの肉ですよ」


食に見出してなかった頃配下に手配させていた肉は主に献上するとあって気を配られていたので毎食希少種の絶品な部位を用意していたのだがシャイタンは特に意識せず口にしていた


「成程、意識してなかったが今にして思えば美味だったな」


「へぇ~~~そんな美味しいんだ。ドラゴンが旨いなら竜もやっぱ旨いの?」


「それはどうでしょう。流石に竜種の味の感想は聞いたことがないので」


「そりゃそうか。竜とか食う以前に逆に食われるわよね―――あっ」


「どうされました?」


「ドラゴンといえば地下工房にお前がカレンに贈ったドラゴンあるじゃん、あれだけ大きいんだから試しに少し調理してみよっか」


「それは素晴らしい。アリス様の調理となればさぞ美味でしょうな」


こうしてこの星では考えもつかない暴挙に着手するアリス、その日の夕餉はドラゴン肉のフルコースでちゃるめらとシャイタンは大満足でアマネだけカレンが知ったら卒倒するだろうなぁと思ったが目の前の御馳走に抗えず食べ尽くした


これを機にアリスがドラゴンの食材に関心をもってしまい少しだけのつもりが地下工房の覇国竜の部位は着々と減っていった


当然カレンが帰ってきて知ればギャン泣きものだが・・・


ドラゴン肉の味に惹かれたシャイタンは愉悦から支配星で繁殖に生け捕りにした覇国竜の娘にその肉を振る舞うという親切振りで配下の悪魔達はその鬼畜振りに大歓喜だった


そんなこんなな日々だがフラミーはちょくちょく神界に戻ってはヘルメスの工房にて各派閥からアシュリー姉妹の発明品の取引に絡み、莫大な利益を生み出していた

ヘルメスはこの騒動で支配星が倍近くになって今や35の星を統治していた


アシュリー姉妹が猛威を振るってる頃、貴族の暗躍も起きていた―――――



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