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臆病兎の錬金経営譚  作者: 桜月華
143/148

143話 打ち明けられる錬金術師

幻神歴2962年04月28日


皇国錬金術研究所-総帥の間-



総帥、シナジーポーションの成分表の第二結果表になります


うむ


師よ、マジックポーションの疑似改良品になります、後程検分をお願いします


うむ


総帥、エクストラポーションの第3次改良結果の資料になります


うむ


ルード様、スクラップポーションについての死刑囚への大量投与の結果ですが驚愕の事実が判明しました! 後程熟読をお願いします


うむ、期待しよう


総帥、リジュネレートポーションの納品予定数が追い付いておりませんので各支部から追加の派遣要員を増員して宜しいでしょうか?


うむ、任せる


師よ! また薬学組合のギースから苦情が! アシュリー嬢の本職を薬学組合に移せと、今度は何て言ってやり返しますか?


ふぁっふぁ、ルルア支部のカレン嬢の借金借用書の写しでも送ってやれ、さぞ悔しがるぞい


ルード様! また公務を空けて先週ルルアへ行かれましたね!? 3日分の各種軍用ポーションの備蓄が更に不足してると苦情がきて備蓄課の受付の子が責め立てられて泣いてますよ!!


うむ、明日もルルアへ行くから手配せい。何、女の涙は武器なんじゃからよいじゃろ


総帥の間という最高位の権力者の職場だというのに目まぐるしい程に入れ代わり立ち代わりに人の出入りが凄まじく激しい


それを目の当たりに唖然とする者


陛下の公務が謁見が主なのが知っとったが賢者の公務も政務だけでなく実務もこれほどとは・・・・・


ルードの隣に控えるルーシェはこの2日だけで驚愕の連続だった。



シャイタンの急な偉人達を連れての来訪騒動の後、シグルト宰相の行動は即断即決で明日には工房を引き払い研究資料とマリステラ、弟子を連れて皇城へ登城するよう命じられ錬金組合ルルア支部には直接シグルトが報告を済ませておくと言われ

ルーシェは先ずは友人にして恩人のカレンへとアシュリー工房へシャイタンと共に向かいアシュリー姉妹に顛末を報告した。


次期賢者として賢者候補として明日にでも本国に移る事になったと


姉妹からは称賛を贈られ、その功績を素直に讃えてくれありったけの古酒を祝いに贈ってもらいマリステラには上質にして小型のメモの束と新作香水を受け取った

カレンには教導技術錬研には自分も参加するのでまたすぐ会えると再会を約束して見送ってもらった


シグルト宰相からは報告は済ませておくとは言われたが一応長年席を置いていて世話になった支部なのでその帰り道に挨拶と事情説明に顔を出したら受付総出で出迎えられ組合長がすっ飛んできて大絶賛の嵐だった

どうやら既にシグルト宰相の手が回っていたようで、シャルマーユ皇国の宰相は仕事が早いことだ


そして展開の速さと驚きの事実に戸惑う直弟子4人を従え翌日何故かアシュリー工房前で待つよう指示されたので待っているとルードが魔導船で迎えに来て弟子達と共に初めての空中飛行をした


それだけでも驚きだが・・・


2時間後、皇国錬金術研究所にてルードの一声で全職員が一斉に集められルーシェをほぼ時期賢者確定の賢者候補と紹介したのだ


当然ルードの急な知らせに一部の弟子や高弟から疑問や追求があったがルードはあっさり跳ねのける


儂同様に高純度のゴーレムを大量錬成でき尚且つゴーレムにホムンクルス同様の魂・自由意思、ついでに聖人属性を付与できるこ奴以上に賢者に相応しいと名乗る者がおるなら前へ出よ、すぐ儂の座を明け渡すぞ?


これで誰もがルーシェを認めた

というかルーシェの後ろでマリステラが《パパをよろしく~》とメモを無表情で掲げていてそれも相まってルーシェの技量は知れ渡った


ルーシェは気づいてなかったが聖人の覇気を放っていたのでルーシェ以外皆畏敬の念もありありだ


そして賢者候補としてまずはルードに付き添い仕事に付き従う事になった

が、その前にルードに国家機密なので他言無用と念を押されてとある廃村に魔導船で連れられその異常性に更に驚いた


エーテルの間欠泉にもだが村規模に地下に想像すらつかなかった超大規模錬成台が設置されており、ルードが「先ずは見ておれ」と目の前で廃村を材料に1000体ほどのゴーレムを錬成してのけた。


そして続いてルーシェに言う


「到達点をはなから目指してない儂が賢者の座に就いてるのはこの異能あってじゃ、主の複製の異能も同様なことが可能じゃろう? やってみよ」


確かに戦闘とは無縁の研究職にも関わらずこれは多大に軍事転用可能だ、幾ら弱点が公とはいえこれだけ高密度のゴーレムの軍勢を才ある戦術師が操ればたった2人で幾らでも大軍が作り出せてしまう。しかもゴーレム故に疲労無効で善悪区別なく行軍可能だ


目の前で賢者の圧倒的な実力を見せつけられ


そう問われ、これは賢者への試練の一歩だと確信したルーシェは初めての超大規模錬成台を活用した大量錬成に挑んだが意気込みが凄まじく、ルードのゴーレムとほぼ遜色のない出来のゴーレムを同数創りのけた


(これは賢者交代はすぐじゃな)


ルードはルーシェの技量を褒め称え後継に相応しいと改めて認めた

そして今現在


総帥の間にてルードが各部署からの報告と確認に追われているが・・・・賢者への尊敬の念は変わらないが同時に思ったのがこの方自由過ぎるのでは? だ


報告の合間合間にルードが度々仕事をほっぽり出してカレンの店に通ってるらしくその苦情がなんと多い事か

それなのに当の賢者ルードときたら凝りもせず明日も行くという・・・


賢者とはこういうものなのか、自分も見習うべきなのか?

自問自答してしまうルーシェだった


シャルマーユ皇城-ルードの私室-


深夜


(ふむ・・・・ルーシェが教導技術錬研に参加の間にマリステラ様はレイアードの指南を受けられる。勿論儂も教導技術錬研には参加するが・・・ふむ良い機会じゃしカレン嬢に儂の身分明かすか。そうれば教導技術錬研で堂々と共同開発できるしの、はよう『あの』機能の開発を試したいわい)



こうしてある決心を胸に総帥にして賢者にして奇人にして変人にして自由人ルードは奇天烈な魔導具に囲まれつつ眠りにつく



翌日


幻神歴2962年04月29日



最早通い慣れた魔導船でのルルアへの飛行もなんら問題無く(あくまでアシュリー姉妹とルード本人だけでルルア領では毎度魔導船の往復の度に騒がれるのだがある意味慣れてしまい名物とかしまたか・・・程度になってきている)到着し、早朝開店前にも関わらず慣れた所作でアシュリー工房のドアを開けるルード


ドアベルがなり、最早慣れた様子でちゃるめらが出迎える


「おう、じいさんまた来てくれたのか。丁度いいのやら、昨日またカレンの阿呆が訳の分かんねぇ魔導具完成させたと言ってたぜ」


最早慣れ切ったちゃるめらは開店時に来いという説教も省略して歓迎する


「おお! それは胸躍る知らせじゃ! じゃがまずは朝の一杯じゃ。ちゃるめら君、ミルク少量の珈琲と果物のお勧めを適当に頼むぞい、それと弁当はもうできとるのかの?」


最常連としてすっかりなれたルードはいつもの要領で毎度お馴染みのやり取りを繰り返すが今日はカレンの新発明品という嬉しい後の楽しみもあって益々期待が膨らむ


「あいよ! 今週はアマネが面白い果物創ったんで味見してみてくれ、なんでもマンゴスチンていう大層な名前らしい、面白いだろ? 弁当も既に並べてるから持ってくるぜ」


こうして優雅にコーヒーブレイクを満喫するルード、公務? 魔導具への期待で頭の隅にすら無い有様だ


「あ、お爺さんいらっしゃい!」


いつも新種の目新しい美味しいおかずが豊富な料理の弁当を十分満喫し、マンゴスチンなる果肉がたっぷりで美味なる新果実も味わって最近のお気に入りのミルク少量の珈琲で食後の一服を満喫しているとルード肝いりにして問題児のカレンがいつものローブにフード姿でひょっこり顔を出し気軽に挨拶を交わす


「おお、カレン嬢今日も邪魔しとるぞい、今日の弁当も格別じゃな。この名前は知らんが触感がコリコリしてる変な食べ物が得に旨かった。果物も糖度が高く美味じゃ。気に入ったわい」


ルードが満面の笑みで料理の感想を述べる


「それね、アマネの湖で釣れた烏賊っていう魔獣っぽい魚の一種なの、美味しいでしょ。でもでも魚で一番おいしいのは鰻で私の一番のお気に入りだから今度機会があれば振舞うわね」


アマネの湖で極上の海産物が獲れる。これに突っ込んではキリがないと学んでるルードはそこはあえてスルーする。なにせ以前スーピーと共に訪れた際偶々その日の弁当の具材がマグロで数年ぶりに食したスーピーは懐かしい故郷の慣れ親しんだ味に感涙したほどで、ちゃるめらに魚を定期的に販売できないかと詰め寄ったのだが流石に生物で日持ちの関係で不可能とのことで断腸の思いで諦めた経緯があった。


「おお、それは楽しみじゃ! して、ちゃるめら君から聞いたぞい、なんでも新しい魔導具ができたとか?」


最早慣れ切ったもので老齢のお爺さんの玩具を前にした子供のような純粋な期待の眼差しにカレンも薄い胸をはって・・・と思ったがふと気になったことを尋ねる


「ええ、そうなの。新作が2つ出来たんだけど・・・今日もお婆さんは来てないの?」


最常連の片割れのお婆さんが今日も姿が見えない、最近までは常にお爺さんと共に来店してたのに近頃は3回に1度はお爺さん単独の日がある。カレンとしては数少ない専門の魔導具を理解してくれる同士に飽きられたのかもとちょっと気落ちしてしまう有様だが・・・・


「うむ、本人は来たがっとったんじゃが何かと忙しい身でのう、今日も変わりに友の分も買わせてもらうぞい」


カレンの心配を他所に、というかカレンの魔導具に見切りをつける訳もないあの同士がアシュリー工房に通えないのに不満爆発してフルーラ王立錬金術研究所の仕事をボイコットしてまで抗議して国を巻き込んでの大騒ぎとなったのだが溺愛する孫娘のフルーラ王に涙ながらにお祖母ちゃんお願いだから政務を果してと頼み込まれスーピーもなくなく本来の仕事に従事し中々アシュリー工房に通えない事に歯がゆい思いだった


それでも隣国の賢者が週に2度来るという異常なのは変わらないが


「おっけ~♪ それでね、新作なんだけど私的には両方大満足なんだけど、1つは家族も褒めてくれたけどもう片方は不評というか・・・なんか反応が今一だったのよね」


おじいさんが友の分も買ってくれるということは心配は無用かもと心意気を新たに拙い販売文句を告げるが・・・非常に珍しい事に商品の内の1つに自信が無い様で言葉尻が弱弱しい


「ほうほう! どんな効果なんじゃ!?」


「持ってくるから待ってて」


「うむ」


そういってしばらく待つこと数分、カレンが胸いっぱいに抱える程大きい60㎝程の小型錬成台頬度の大きさの物を2つと小箱を机に広げて見せる


「えっとね、まずこっちなんだけどこれは家族も褒めてくれたやつで前にお爺さんに売った筒内の物を筒同士で転送できるのあったでしょ? あれの進化版でこの台に置いた物がこっちの台に転送されるの、進化版だけあって距離も推定だけど国家間規模可能よ!」


台のようなものの片割れを掲げて見せて効果を口頭で説明するカレン、昨夜その披露にちゃるめら以外の家族から大絶賛を贈られカレン個人の知的好奇心も存分に満たされた自信満々の品だ。


大悪神の2柱と善神の1柱だけその品のとある利用価値に行きついたが愉悦と純粋さに絆されあえて忠告はしなかった


「な、なんじゃとっ!? す、凄まじいのう!! 欲しい! 欲しいぞい!!! 是非買うぞい! 幾らじゃ?」


台の上限定とはいえ長距離を物質転送できるなど最早転送魔法も同義でその凄まじさから鼻息を荒げ買う気満々のルード


「えっとね~この前のが金貨2000枚だったでしょ? だから金貨5000枚の星金貨5枚でどうかしら?」


「勿論買うぞい! 友の分と2つ頼む」


「ありがとねっ! それで問題のこっちなんだけど・・・」


その性能に見合わない破格の安さの代金をその場で払い、受け取ったカレンが次に披露するのは小箱なのだが先程までと打って変わって自信薄く弱気に小箱を開け中身を見せる


中には特に装飾のされてない地味な耳飾りが2つ収められていた


「ふむ、それはどんな効果なんじゃ」


「ん~実際使ってみる? お爺さんこの耳飾り付けてみて」


「う、うむ」


そういわれてルードは好奇心を膨らませてドキドキしつつ右耳の愛用してる装飾品を外して新作の耳飾りを付けてみる。それと同時にカレンも耳、頭上のうさ耳ではなく通常の人間の耳側の左に装着する


ルードは特に変化や目に見えた現象もなく一瞬疑問符を浮かべるが空耳なのか問いかけられる


(どう? 聞こえる?)


「・・ん?」


いつものカレンの発声とは違う様で戸惑うルードに更に空耳が続く


(えっとね、この耳飾り付けてる2人の間でルルア兎みたいに念話? っぽいのができるの)


(ふむ・・・儂のこの念も伝わっておるのか? 試しに左手で何かサインを頼む)


ルードが半信半疑に念を送ってみると言葉にしてないのに目の前でカレンが左手で此方に手を振る


「成程のう・・・ううむ、要は特定相手限定の伝達魔法のようなものか」


効果は実感できたが・・・ルードの反応も正直今一つだ


(カレン嬢の身内が反応を示さんのも当然か、あの者らは思念伝達など当たり前じゃからのう・・・ふむ、これはカレン嬢にしては珍しく微妙な・・・・!? いや待て待て、これは・・・・・)


伝達魔法というさも便利で有用そうな魔法がなぜ大いに浸透しないのか、それは不便・信憑性の薄さ・魔法師限定という限られた者相手でしかも信用度も低く、かつてはこの伝達魔法の悪用で複数の国が乱れ滅んだ程で、現代では伝達魔法は戦闘職徒党が仲間内での魔法師同士の伝達か軍の限られた間でしか利用されない


が、そんな不便など無視してアシュリー工房のカレン以外の面子は念話・伝達魔法・思念伝達・それどころか信託すら可能とする規格外なのだ。その連中からしたらこれは確かに効果は不評なのも頷けるのう、と1人納得しルードもこの品も一応買いはするが好奇心はそこそこ・・・と思ったのだがとあることに思い至り、なにを馬鹿なと半信半疑になりつつも震えた声で一応確認する


「な、なぁ確認じゃがこ、これ。不要な情報が混ざったりせんのか?」


「ぇ、他者の妨害的な感じ? まず無理ね、セットの耳飾り相手以外には無反応だし同じ耳飾り創っても相方の物以外には反応しないから混線? 的な物はしないわよ」


信憑性の課題はクリア


「・・・・・ちなみにこれ距離はどれほど離れても使えるんじゃ?」


「無制限って表示されてるかから世界の端から端でも正確に伝わるわね」


不便さクリア


「なんてことじゃ・・・この出鱈目な品は幾らなんじゃ」


あまりの結果に腰を抜かすルード

効果確実で距離無制限の秘匿通信が可能な訳だ


神々やアリスなどの規格外はそれが普通でも一般ではそれは革命的な発明品だ


「ん~それ家族の反応今一だったから値段決めてないのよね。お爺さんお得意さんだしお爺さんが好きに決めていいわよ♪」


いつもなら自作の自信満々の魔導具にカレンなりの適当ともいえるボッタクリ的な値段を付けるのだが今回の品は家族から評判はイマイチだったのでそもそも値段すら考えつかなかった


なのでちょうどいいサプライズを思いつく


カレン的にはお爺さんの前半の反応も微妙で後半も驚きというか脱帽的でやはり不評なのかと、ならお得意さんへの奉仕覚悟で値段を任せる事にする


(この情報革命の魔導具の値段を好きにじゃと?)


一方その途方も無い価値に値段を決めろと言われたルードは先とは別の意味で戸惑い逼迫する


仮にこれを自分が発明してシャルマーユ皇国軍の情報部に売るとしたら幾らになるか


星金貨10万? 20万?


金額の問題以前に情報部処か暗部が軍予算から青天井で買い込むこと必須の品だ


「ううむ・・・・星金貨3万からでどうかの?」


3万でも安すぎるとは思いつつも如何な賢者ルードとはいえ蓄えは星金貨18万程だ、最も所有してる知的財産など処分すればその数倍の財は手に入るが。これが賢者の懐具合だ。一般市民とは文字通り比べるべくもなく、だ。


「ぇ、金貨3枚?」


お得意さんの提示した額に自慢の聴覚ではっきり聞こえてはいたがそのあまりの予想外超額に間違いかと聞きなおすカレンだった


「いやいや星金貨3万じゃ」


凄まじい気迫で言い張るお爺さんの具合にカレンは逆に戸惑ってしまう

自分の自慢の魔導具が高値で売れるのは誇らしいが今回の品は評価今一なのでそのとんでも額を訂正する


「・・・正気? 金貨3枚でいいのよ」


フード内でうさ耳もぶんぶんとあらぶりつつ訂正額を提示するが・・・帰ってきた返事は更に驚くものだった


「いやいやこれは星金貨数万に値する品じゃ。どうじゃ、3万で不足なら時間くれれば望みの額用意するぞい」


ルードは本気で一部財産を手放してでも指定額を用意する腹積もりだ。それですら足りない様なら本国に事情を説明して国家予算から足を出す腹案もあるができれば個人資産で仕入れて完全にルード個人の所有物にしたいと願う


そんなルードの胸の内とは逆にカレンはお爺さんの正気を疑いつつも最終確認をとる


「ほ、ほんとに星金貨を3万枚でいいの? これを? ほんとのほんとに?」


「無論じゃ。これも友の分と2つ頼むぞい」


「あっりがとうございます!!♪」


大声で感謝を示し何度もお辞儀するカレンだった


「何、礼を言うのは此方のほうじゃ。革新的な物をいつも感謝するぞい!!」


「お爺さんさんいつもありがとね! アシュリー工房の売り上げはお爺さんの買い物が大きいから本当に感謝してるの」


「そうかそうか。うむ、ところでカレン嬢。これまた真面目な話なんじゃが」


今までも真面目な話ではあったがまた違う心意気で話を切り替えカレンを対面に着席を促すルード


「ん? 何かしら」


またなにかしら錬成関連の話かと勧められるがまま座るカレン


「隠してててすまなんだが儂の名はルードというんじゃ」


「はぁ、そういえば名前は聞いてなかったわね。ルードさんね、いつも感謝してます」


改めて座りつつもお辞儀するカレンだが続いてルードから放たれた台詞にぽかんとしてしまう


「うむ、して儂の職業じゃが錬金術総帥の賢者じゃ」


「・・・・ふぇ?」


無邪気・無警戒のカレンがお得意のお爺さんの台詞を疑う筈も無く、驚き戸惑う

最もカレンの知る由も無いが皇族は勿論貴族を騙るのが重罪なのだから賢者を偽るのも当然重罪だ


「総帥? 総帥ってあの雪降らしの魔道具買ってくれた? ぇ? 賢者? 賢者様? ルードさん賢者様ってと!?」


此処で始めてカレンは以前耳にした総帥と賢者が符合し、また目の前の気さくなお得意さんの立場を理解し即座に行動に移る


「うむ、今まで黙っててすまなんだ」


「そそそ、そんな、此方こそ賢者様に大変失礼致しました! 申し訳ありません!!」


慌てて席を離れルードの眼前で跪いて礼を尽くす。不本意とはいえ以前に友の策略によって賢者と接する場を経験していたからこその当然の対応だが・・・


「やめてくれカレン嬢、儂よりよほど賢者に相応しい友にその様な態度をとられるのは困ってしまうわい」


ルードも即座に席を外しカレンの前にしゃがんでカレンの手を取り佇まいを正そうとする


これがカレンを認め、信用を置いてる親しい友人として接するルードだが仮にルードでなくジルであった場合狂信崇拝する神にこのような態度を取られたらショックで卒倒間違いなしだ


良くも悪くもジルのように狂信者でないルードらしい


「で、ですが賢者様といえばジル様と同じくとても偉い人で・・・」


ルードの対応に困惑するがそれと同時にカレンはここでようやく組合の長 総帥 賢者 つまり組合の数だけ賢者が存在すると朧気ながらも自覚できた


「その偉い立場を跳ねのけたカレン嬢に賢者だから敬えなどとうつけたこと言える訳なかろう、これまで通り接して貰えんか? この通りじゃ」


逆にカレンに頭を下げるルードに更に焦ったカレンがそれならばと急遽対応を考え言葉遣いは律するも友人ソフィのようになるべく気楽に接しようと心掛ける。ルードの想いに胸打たれたカレンなりの返礼だ


「あ、頭をお上げください! わ、わかりました。ルード様、これからもアシュリー工房を御贔屓にお願いします!」


あまり心配はしてなかったがカレンの破天荒振りからもしかしら賢者と知られたら対応がギクシャクしたりアシュリー工房への来店が顰蹙になるやもとは可能性としてはあったのでそれが晴れた事に安堵するルード


「うむうむ。こうして身分も明かした訳じゃし教導技術錬研では共に色々と共同開発しようではないか、儂の空論じゃがカレン嬢となら実現可能じゃろうてそれが楽しみなんじゃ」


こうして身分を明かした以上教導技術錬研で堂々とカレンと共同開発に取り掛かれると、以前からの机上の空論を実現できる可能性にカレンの手を取り互いに固く握手を交わし遠くない先の未来に胸躍らせる


問題児カレンと賢者ルード・そして幾名かの賢者と有識者の合作で数々の名品・迷品・到達点を創造できるかもしれないと


「共同開発!? また魔導船みたいに? それも色々なんて・・・楽しみですルード様! 是非お願いします!」


カレンはまだこの時点で知る由も無いが教導技術錬研に参加する錬金術師はシャルマーユ皇国の秘術扱いの超大規模錬成の使用が一時可能となっている。ルードの空論は主にこれを利用しての錬成だがカレンは以前の賢者ルードとの合作にルードの智謀を思い知りその未知の可能性にやはり胸躍らせていた。


「こちらこそじゃ」


なおこの感動的なやり取りを同じ室内で黙って聞いていたちゃるめらは全く驚いていなかった


(そりゃまぁ陛下と共に来るんだから相当な偉いさんとは思ってたがやはり賢者様か、あの金の散在振りは大貴族かそれ以上の賢者だろうからなぁ。となるとあの婆さんはフルーラの・・・まぁこりゃその内カレンが気づく機会もあるだろ)


と、奇特なお得意さんの身分を知ったちゃるめらでも変人扱いは変わらずだった

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