141話 アシュリー家の菓子騒動
これは以前の話
幻神歴2961年12月中頃
非常に珍しい事に食卓を囲んで普段和気藹々の4者が睨み合っていた
「チョコが至高だろう」
「いえいえ、つぶあんが最良ですよ」
「皆何言ってるんですかぁ! 飴が最高に決まってるじゃないですかぁ」
「おめぇら分かってねぇな。蒸留酒入りのチョコが一番だろ」
「「「それはない(ですぅ)」」」
こうして4者して互いの好みの菓子で言い争っていた
見かねた姉妹兎が仲裁に入るが一向に解決せず、コボルトは不貞腐れて早々に部屋に戻ったが深夜シャイタンの部屋で続きがされる程だった
そこで権謀の女神が一計を企てる
その案に2柱は思考を巡らし女神の企みに驚きはしたものの最後に納得した
翌朝、朝餉の最中にシャイタンが珍しくカレンに話しかける
「カレン様、折り入って頼みがあるのですが宜しいでしょうか?」
「何々? シャイタンさんの頼みなら大抵は聞くわよ」
「実は私奴の知人を幾人か招待したく、その際カレン様の手料理を振舞って頂けないかとお願いしたく、如何でしょうか?」
「へえ~! シャイタンさんの知り合いねぇ、勿論おっけ~よ! 腕を振るうわ。あ、でも高貴な人で晩餐みたいな豪華なものは流石に難しいわよ?」
「いえいえ、普段のカレン様の手料理が望ましいのです。主食・副菜・主菜そして普段の菓子に加えてエデンの果実の菓子を数点お願いしても宜しいでしょうか?」
「おっけ~♪」
こうしてシャイタン主催の謎の食事会が決まった
場所は神域の森の中央、来賓者がそこそこ多いとのことで姉妹兎して奮闘して料理を下拵えしたが後にアリスにだけ来客の正体を伝え、怯えたアリスは絶対に姿は見せないと言い張ってカレンの部屋に引き籠った
こうして始まった食事会
神域の中央にそこそこの机と椅子を10個ほど用意してシャイタンとカレンの2人して待っているとぞくぞくとシャイタンの来賓客と思われる者達が現れる
カレンはてっきりシャイタンの知人というから容姿に特徴のある際立つ人物かと思いきや現れたのは平々凡々な中年層のおじさん達で服装も地味で以外だった
「まさか貴様からこのような誘いがあるとはな」
「我にこのような姿をとらせたのだ、相応の歓待は期待するぞ」
「俺は混沌姫ちゃん見れるならなんでもいいよ~♪」
「まさか私がこの術をこんなタイミングで使うなんて・・・それで、私のアリスちゃんはどこよ」
「あら、私は純粋に楽しみよ」
「なんでこんな事に・・・でもこの機は逃せないしなぁ」
「お前はまだいいだろう、俺はこやつらの歯止め役もあるんだぞ」
皆中年層の男性なのに一部は女性のような言葉遣いでカレンは(ああ、そういう性癖の人ね)と失礼な勘違いをした
そんな中1人だけ見慣れた人物が現れる
「おお~! カレン! 息災じゃったか!」
大喜びでカレンに抱き着いて歓喜を示す大悪神エキドナだ
「あっ、エキドナ。無事でよかった! 身内が迎えに来たって聞いてたけど心配してたのよ」
カレンも感動の再開から抱き返すがそれをみて来賓者は驚愕していた
(((((邪気が無いって本当だったのか、まさかあのエキドナの女の顔を見れるとは)))))
「よく来たな。まぁ聞け、普段俺が独占してるのもあれだから今回は貴様らにも接点をやろうと思ってな、まずは主姉妹の渾身の料理を作っていただいた。有難く頂け」
御方の片割れの手料理と聞いて皆目の色を変えて期待に胸が膨らむ
普段高位の食神の料理を口にする立場ではあるが御方の手料理となれば話は別だ。
みな席に座るがエキドナだけちゃっかりカレンの上に座りにっこにこだった
尚、エキドナだけ憑依してないので神威でルギサンド大陸のとある地方で大嵐が起きて絶賛震災中だが我関せずだった
そしてシャイタンが事前に主姉妹が用意した様々な食事を時空掌握からとりだし配膳し、皆大喜びで会食が始まった
某一柱の混沌姫ちゃん♪呼びは辞めて! と半狂乱のカレンだがそれすら面白がって辞めなかった
会食が和やかに進む中、カレン以外皆驚きの神物が姿を現す、そう招待者のシャイタンですら虚を突かれた程だ
それを機に周りの聖獣や神獣は大喜びで吠え称える
「まさか貴様まで来るとはな・・・」
「まじかよ・・・」
「へぇ」
既にいる来賓者達は感想は様々だが新たな神物が言い放つ
「ふん、我とて貴様らとの食事はごめんこうむるが配下にこの地は素晴らしいと散々言われてな」
こうしてまたしても少し高齢のおじさんが現れ、席に座り会食に混ざる。暫くその様子を見ていたカレンがある事に気づく
「あら、おじさん野菜も食べないと駄目ですよ」
「我は肉以外食わん」
「何言ってるの! 健康に良くないわよっ、アマネ作の美味しい野菜で栄養も豊富だからちゃんと食べないと駄目よ。はい」
そういってカレンはおじさんの隣に並んで皿の端にのけていた野菜をフォークで刺しておじさんの口元に運ぶ
おじさんは初めての経験に苦渋の表情でおそるおそる口にしてみる
「どう? 美味しいでしょ。アマネの作物はどれも絶品なんだから♪」
((((まさかあの竜にあ~んするとは・・・))))
それと同時に幾柱からの嫉妬もあってカレンにおねだりする
「ねぇねぇ混沌姫ちゃん俺にもあ~んしてよ!」
「あ~んてなに?」
「「「へ?」」」
「カレンちゃんあ~ん知らないの?」
「ふむ、カレン様。私奴に今しがたそこの神物にしたように食べさせて頂いても宜しいですか?」
「へ? はぁ・・・まぁいいけど」
そういってカレンはシャイタンにあ~んをして食べさせる 勿論その意図も分からず無自覚に
「わ、我も!」
「俺も俺も」
「カレン! 妾にも!!」
「私も私も♪」
「はぁ・・」
こうしてカレンは各々にあ~んで食べさせることを数巡繰り返したがこの意味の分からない謎の儀式に不可思議だった
「さて、それで。貴様らに尋ねたいのだが料理が美味いのは聞くまでも無いが菓子は何が美味かった?」
「「「「「「「エデンの氷菓子」」」」」」
「・・・・それは別としてだ、実は身内で主姉妹の菓子で何が美味いか口論になってな。それで貴様らに意見を問いたい」
「あ~そういう事なら俺は梨のパイだな」
「私はチョコクッキーかしら」
「私は断然桜餅ね」
「我もチョコだな」
「俺は無難にキャラメルかなぁ」
「俺は王道ともいえる飴だな」
「我は桃の氷菓子だ」
「妾はどれも美味かったが一番はあんこじゃな」
「・・・我は酒の入ったチョコだ」
「「「お前それは菓子とはいえんだろ」」」
ダメ出しを食らう竜だった、まさかのこんなところでコボルトと共通点があるとは驚きだ
「ふむ、やはりチョコが多いか。俺もチョコだから納得だ」
こうして永久評議神達のあらゆる意味で異例の会食は済んだ
その日の夕餉後、姉兎からシャイタンに試したいことがあると言われ食卓に座ったまま待機していた
「はい、シャイタン。その2つ食べ比べてみて」
「はい」
右のクッキーを一口で食べるが味は正直いまいちだった。続いて左のクッキーを食べるも此方は味が濃く美味しかった
「どう? どっちがおいしかった?」
「そうですね、右の皿のクッキーは私奴には薄味で今一でした。対して左の皿のクッキーは味が濃く濃厚で美味しく感じました」
「やっぱりね」
「どういうことでしょう?」
「シャイタン、その2つはね、右のクッキーのほうが高額で人気なの」
「なんと、そうなのですか」
「お前前に食に関心なくて肉食ってたって言ってたじゃん? おそらくだけど舌がまだ子供舌なのよ」
「子供舌、でございますか? といいますと?」
「要は薄味で風味を楽しむより味の濃いはっきりしたもののほうが口に合うってこと」
「成程・・・言われてみれば確かに」
「こればかりは食慣れしてない間はしょうがないとして徐々に薄味の風味の良さも知るといいわ。カレンがシャイタン用に味の改変に躍起になってるからそのうち舌も肥えて味覚も冴えるわよ」
「成程、承知致しました。その機を楽しみにしております」
こうして永久評議神すら巻き込んだアシュリー工房の菓子騒動がひっそりとあったのだ




