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臆病兎の錬金経営譚  作者: 桜月華
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139話 ちゃるめら

幻神歴2962年04月20日


「ねぇ、あんたどうしたの? なんか変よ」


アシュリー工房での夕餉時、普段ならシャイタンと競うように忙しなく食事の手を動かすコボルトがどういう訳か元気が無く、しょぼしょぼと食事を勧めており表情もどことなく曇りがちだった

長年連れ添ったアシュリー姉妹だからこそコボルト種の表情の違いも把握できるのでカレンが心配から調子を尋ねる


「ん? ああ、いやちょっとな」


「今日カザネが紹介してくれた人と会ったんでしょ? 何か言われたの?」


「ああ~・・・いや、そうじゃねぇ。頼りになる方で問題解決の目途もたってるから心配すんな」


「はぁ」


「・・・」


否定しつつもやはり表情は険しく、食器を置くと意を決したように話を切り出す


「なぁ、アマネにシャイタンとフラミー」


「はいぃ」


「なんだ?」


「なんでしょう」


「後でちょっくら相談に乗ってくれねぇか?」


家族間の話題や仕事の関係上の話はよくするがコボルトから相談事とは珍しく3人とも快諾する


「構わんぞ」


「ちょっと! 相談事なら私も混ぜなさいよ」


カレンもコボルトの真剣振りに自分も力になりたいと食って掛かるがコボルトが制する


「別にはぶる訳じゃねぇ、こいつは幻獣の問題なんだよ。まぁ明日には説明するからちょい時間くれ」


絶対よ! とカレンに念を押され食事を終える


食後シャイタンの部屋に幻獣と使い魔が集まるがシャイタンの部屋は必要最低限のものすら乏しく、来客用の机や椅子がないのでシャイタンはベッドに腰かけ、フラミーは地面に伏せ、アマネとコボルトがシャイタンの前に立って話し合いが始まる


「それで、どうしたんだ」


「――――そのな・・・ここだけの話だが今日あった軍の人ってのがネームレスってんだが人に紛れてる幻獣だったんだよ、種は知らねぇがありゃ恐らく中級以上だろうな」


下級以上と言い張るコボルトだが別にコボルトは力量を推し量れる訳ではない、アリスやシャイタン、フラミーのように覇気を感じ取ったわけでもないが種族故の特性なのか本能で相手が自分より上位の存在だと感じ取ったのだ


「へぇ~人間社会に関わる幻獣は珍しくないけど潜むのは一際珍しいですねぇ」


コボルトからは軍の関係者と約束を取り付けてるとは聞かされていたがまさかの擬態した幻獣とは予想外でアマネは驚く


かつてはシャルマーユの軍と共に幻魔涙戦(げんまきゅうせん)を乗り切ったので皇国軍の名の知れた人物は見知っていたがアマネに感づかれなかったというだけで評価できるのだが、それを加味しても幻獣種が人に紛れるのは稀有な話だ


「ああ、俺っちも驚いたがどうやら個人的な思惑あってのことらしくてな、それはいいんだが・・・その、当初の目的のカレンの仕業の露見は良い解決策あって最優の結果になりそうなんで任せることになったんだが、それとはまた別の話もあってな」


「何か条件でも課されましたか?」


真っ先に浮かんだ懸念事項をフラミーが問う


「そんなんじゃねぇ、ただな・・・俺っちに名前付けてネームドになってくれねぇかって提案されたんだよ」


「「は?」」


「ぇ?」


シャイタン・フラミー・アマネが一挙に豆鉄砲を食らった鳩のように虚を突かれる


「先輩、そいつは本当に幻獣なのか? その提案はありえんぞ」


「そうですよぉ! 契約主以外の幻獣側からネームドを勧めるなんて幻獣の尊厳を否定じゃないですかぁ」


3人がこれほど驚くのも無理はなかった

それほど有り得ない提案なのだ、名前が己が存続に直結する神である3柱だが、例えそれが神でなくとも幻獣種・精霊種だろうと名はとてつもなく大事にして神聖なものだ


改名のできない悪魔と名に異議を見出せない低位の妖精種は例外としても大抵の人間種以外の種は名に繋がりを感じ、幻獣界の創設者と現統治者も名を何より重視しているので例え最下級だろうと名に関する縛りは設けていない


だというのに今の話ではコボルトに名をつけろという、理不尽極まりない話だった


「それは俺っちも理解してるしネームレス卿も承知のうえなんだよ。ただな・・・・俺っちの名無しってのが政治的にも問題があって幻獣界でもちょいとした火種になってるらしいんだよ」


「どういうことですかぁ?」


午後のネームレス卿から聞かされた話をかいつまんで打ち明けるコボルト


多大な恩に対して返礼をしたくはあったが流石に内容が内容なので即座に了承はできず一度話を持ち帰るという結果も含めて


「なんでもな、幻獣師や召喚師と契約して活動する使役獣ならどれだけ活躍しようと個人・公どっちだろうと名の有無に問題はねぇんだが、自分でいうのもあれだが俺っちの場合前例の無い商人として登録されてるだろ? それだけでも目立つのにアシュリー工房の活躍もあってそれなりに名が知れ渡ってるだろ? 国内だけでなく国同士の組合や政関連の議題でも名が上がるらしいんだが、呼称が種族名ってのはどうなんだ? って摩擦があるらしいんだ」


「ふむ」


「ああ~なるほどぉ、確かにそれなりの地位の人には気になっちゃいますねぇ」


公の場で貴人を人間呼びするようなものだと一早く理解したアマネが理解を示す

蔑む訳でなくむしろその逆で失礼にあたるのでは? と恐縮してしまうのだろうと察する


「どういうことだ?」


人間の本質を理解し悪用に長けるシャイタンではあるがこのような細々とした機微には関心が無く未だ理解を得ずアマネに問うが答えはフラミーから帰ってきた


「ふむ、シャイタン様。宗主星で信徒の教義で私を獣と呼べるか、ということですな」


「ああそう言う事か。ふむ、それは確かに難点ではあるな」


かつて名を封じられていたとはいえまごう事無き大神、そんな存在を種族名で呼ぶのは無礼に当たるのは当然

一方コボルトはというと神でもなければ聖獣ですらない最下級の幻獣ではあるがその働きぶりは国に多大に貢献しており大げさでなく世界に名を知らしめている。そのような存在を立場を重んじる公人が種族名で指名は問題になるのはある種当然だった


そして・・・


今の話も課題ではあるのだが幻獣的にはもう一方も難題となっておりコボルトとしてはむしろこちらのほうに重きを置いている


「そういう問題もあるんだがもう一つ厄介なのがどうやら幻獣界でもひと騒ぎ起きてるらしくてな、俺っちの活動目当てに召喚されたコボルト種から話が出回って一部の低級の幻獣種が名前の意義に疑問を持ち出したようでな・・・別の星で色々問題が生じてるらしい」


「?」


これについては流石に3者ともすぐに理解できず疑問符を浮かべてしまう

種族以前に上位者である者達にとって低級のこの悩みを察しろというのは酷と言えるだろう


一拍間を置いて幻獣種と親しいフラミーだけ朧気に察して掻い摘んで言葉に発する


「成程、先輩は様々な条件が重なってのことなので異例としても大抵の最下級の種はネームドに長い月日を掛けて勝ち取りやっと活動の幅が広がるというのに先輩は名前も無くこれだけの活躍、嫉妬や羨望もあるでしょうが自分も真似を、となるでしょうな」


幻獣種には区分けがあり中級以上となると契約する人間種側からしてもその授かる恩恵は凄まじく、信頼を勝ち取ろうとネームドに苦心するがこれが下級ともなると話は変わる。中級が希少な宝具なら下級はというと幾らでも替えの利く安い消耗品なのだから態々ネームドに心身を労さずともいいと大抵の下級者はネームドとは無縁だ、先祖代々契約を受け継いでいるような稀有なケースの下級者ならネームドも存在するが余りにも珍しいケースなのでまず参考にならないし再現性はない


下級ですらこのような扱いなのに最下級、それも個体種のないコボルト種ならその扱いは推し測れるというものだ


「ああ、まぁ俺っちはもう幻獣界に帰還する目途も意思もねぇから正直そこはあまり気にしてないんだが、かといって聞いちまった以上放任するのも目覚めがわりぃしな」


溜息交じりにコボルトが今の心境を吐露する

これが自身と同じ最下級者だけの問題であるならその者自身の問題だと切り捨てるが中級者以上にも影響がでているとなっては最下級の自分としては気が気ではないのだ


「ふむ、前提として抑々先輩は名前が欲しいのか?」


ネームレスからの提案もその意図も理解したシャイタンだが先ず確認したいのがそこだ

これまでの先輩の様子から名前に関心が伺えないのだ


「そこなんだよ。そいつをおめぇらに相談したいんだ」


今までの悶々とした表情からころっと移り変わって今度は心底理解できていないといったきょとんとした表情になったコボルトが改めて切り出す


「といいますと?」


「おめぇら3匹はあいつら阿呆姉妹から名前もらってんだろ? 俺っちは正直なところ。拘りがねぇんだよ、だから名前があろうとなかろうとどうでもいいってか―――なんでそんな名前に拘るのか分かんねぇんだよ。なぁ、なんでだ? おめぇら階級無視して上位種だろ。幻獣界は勿論どこの星の人間界でも好き勝手振舞えるだろ」


否定でも肯定でもない、本心からコボルトは尋ねる

かつて初めて人間と契約した際、別の星ではあったがそこでは戦争に明け暮れる荒んだ世界で最下級の、それも探査系にも関わらずコボルトはまさに肉壁扱いされていた


そんな契約者と信頼を育みネームドなんて考えが過る訳も無く、その時点で人間種を見限りもう契約はこりごりと見切りを付けていたのだが、どういう因果か次の契約がアリス・アシュリーだった。当然納得しての契約ではなかったのでネームドなんて今日指摘されるまで考えもつかなかったのだ


だからこそ、ネームドの3者に尋ねたのだが・・・


「―――すまんがそれは俺達というより先輩が異端だと思うぞ。本来なら名前に固執するものだろう」


頼れる信頼の置ける先輩の力になってやりたいとはシャイタンは思うがこればかりは神の自身ら3者が特殊な件を抜きにしてもコボルト側の問題だ。


「確かにぃ、私達はちょっと特殊なのもありますけどぉ、上級だろうと契約したら幻獣種も精霊種もネームドは拘りますねぇ」


「契約・・・もしや」


使い魔と幻獣契約してるアマネとシャイタンより獣種と親しく契約に密接に関わりのあるフラミーだけある疑念が過り漠然とした様子で推測を立てる


「どうした?」


「例が無いので憶測になりますが・・おそらくはこの推測が高いかと。先輩、幾つか確認させてください」


「おう」


「先ず、アリス様との契約は当初本意ではなかったんですよね?」


「当然だ。そもそも契約のつもりもねぇ、ありゃ悪質な拉致だったぜ」


「アリス様との繋がりは感知できますか? 離れていても契約が認識できたり双方が力や魔力等の付与などできますか?」


「ん~契約の確認はできる。が、力云々てのは知らねぇ、恐らくできねぇと思う、少なくとも俺っちはできる気がしねぇ、あいつは出鱈目だから訳の分からねぇ理屈で勝手にできそうだがな」


1人目の契約者の場合文字通り消耗品扱いだったので力の共有など無縁で契約が一方的に打ち切られた後に幻獣界で同輩からその手の力について聞かされ知った程度でもう契約にうんざりだったコボルトは無関心だっだ。


それを聞いたフラミーが憶測がほぼ確信に変わって言い放つ


「やはり・・・今の先輩の状況は正規の契約ではないので使役獣として幻獣種の本能が十全に発揮されていないのでしょう。それ故に名前に対しての本質が理解出来てないかと」


「ん、待て待て。確かに勝手に契約させられたがそれでも契約書は発動してんぞ?」


大前提として最下級だろうと最上級だろうと幻獣・召喚獣は契約を交わしたら名前は真っ先に考える者だ。この契約者は信頼できるのか、縁を繋いで名前を委ねるべきかと


「それは契約者のアリス様が異質故の特例ですよ。これが他者の場合ならそもそも契約の確認すら出来ずに先輩のほうから強制破棄が可能でしょう」


しかしコボルトの場合前提のアリスの契約が異端過ぎた、それ故の弊害でもあった

アリス自身理解しておらず、できるからまぁいいかと適当に考えもせずに済ませているが何故アリスが原初の幻獣語を解し、契約を一方的にできるのかというとアリスというよりその片割れの超越者カレンの力が関わっている


幻獣界の創設者にして初代統治者でもあり使い魔契約・幻獣契約の考案者でもある超越者カレンの力を分け与えられているアリスはそれこそ最上級の幻獣だろうと一方的に強制契約できてしまうのだがその事実にアリス自身気づいてすらいないし使役に拘りの無いアリスはそのことに気づくことは無いだろう


「はぁ・・・まぁ抑々原初の幻獣語を解読できて幻獣契約を勝手にできちまう時点でおかしいんだよな・・・まぁそれはもういいが、つまりネームドになりゃ俺っちの契約状況は正規になるかもってことか」


フラミーの推測が正しければ正規契約となればコボルトの能力は上昇する可能性が高い

とはいえ最下級の探査特化のコボルト種なので精々人の手の及んでない自然な所での探査の精度が上がる程度だがそれでも自身の益になるのなら悪い話ではないかと一考するコボルト


「断言はできませんが恐らくは。先輩としてはアリス様との契約は今でも抵抗ありますか?」


「これが連れてこられた当初なら断固お断りだがもう今更だしな、これだけあの迷惑姉妹に関わってりゃ矜持もへったくれもねぇしどうでもいいって処だな。よし、明日あいつにこの話するか」


出会いは最悪でも10年以上の付き合いだ。

それに決して口には出さないが腐れ縁とはいえ情もあるにはある、となればコボルトの決意は決まった

こうしてコボルトの相談は解決し先に退室するが残った3者でおそらくコボルトの名が付くことだろうと世話になってる先輩の祝い事に何か祝いをと話し合う


3者とも名を最重視する存在だけあって名付けに重きを置いている故の心からの気持ちからくる行動だ



後日の朝餉の前にコボルトが家族を呼び集めアシュリー姉妹に昨日話していた問題に目途がついたと切り出し姉妹兎の予想だにしなかった提案を言い渡す


「おいアリス、俺っちに名前くれ」


コボルトからの予想外にして以外な要求に虚を突かれたアシュリー姉妹が「ほぇ?」と間の抜けた表情になってしまう


本来契約した使役獣への名付けは長年の信頼が必要なのだがコボルトとアシュリー姉妹の場合それは十分以上に満たしている


「へ? 名前? お前が? なんてまた今更そんな、それにお前には犬って名前あるじゃん」


「馬鹿野郎! それは名前じゃねぇだろ!! つか俺っちは狼種なんだから犬なわけねぇだろ」


昨夜の相談事をアシュリー姉妹にも打ち明け事情を説明し、名前の必要性を説くコボルトに姉妹は神妙に聞き入れる


「成程ねぇ、あんたに名前かぁ。昔は考えてたけどそう言う事ならいい機会だし姉様相応しい名前を考えましょう!」


余談だが昔カレンが幼少期の頃にコボルトの名前にもふもふなわんわんだからもふわん! と名付けられそうになったときは余りの酷さにひっぱたいた経緯がある。もっともその後ギャン泣きの愛妹を見たアリスにしばき倒されたのだが


「ん~お前に名前ねぇ・・・それは別に良いんだけど、シャイタンはあっさり決まったけど、お前の場合犬で慣れてるしなぁ。カレンと一緒に考えるけどいいでしょ?」


「ああ構わねぇぜ。契約主はおめぇでも実質はおめぇら姉妹と契約してるようなもんだしな」


姉妹兎での命名に納得するコボルト


それを得て姉妹して家族をおいてけぼりにして台所の隅へ行きコソコソと名前を発案し合う


「~~~はどう?」


「姉様それは似合わないですよ」


「じゃあ~~~~~は?」


「ん~なんか語感が変かも」


内緒話のつもりだろうがだんだん声が大きくなり最早家族に丸聞こえで途中提案された「うなぎ」にはコボルトが青筋を立て飛び掛かって姉妹のうさ耳に噛り付いてやろうかと思った程だ


「じゃあじゃあ―――


たっぷり30分程こそこそ? 話し合った結果、ついに姉妹の納得できる名前が決まりアリスが代表して薄い胸を張ってえへんとばかりに発表する




「決まったわ! お前の名前は犬改めちゃるめら!」


「ちゃるめら。あんたに相応しい可愛い名前でしょ! おめでとっ!」


カレンが拍手し釣られてめでたい事にアマネとシャイタンも拍手を贈りフラミーも「先輩、ネームドおめでとうございます」と祝辞を贈る


そんな祝い一片の中コボルトはというと・・・・・


「・・・ちゃ、ちゃるめら? なんか聞き慣れなくて変な感じだがまぁ犬以外ならなんでもいいか、へへっ、これで俺っちもネームドか。なんか実感わかねぇな」


契約主に恨みつらみはあれどやはりそこは根っからの幻獣でネームドになったことに満更でもないちゃるめらだった。こころなしかにやけ顔だ

ただおしむらくは名付けにより正式契約になった筈なのに特にこれまでと変化が無いということだ


アリスもちゃるめらも自覚無く、また今後も気づくこともないのだが実際の所両者が力の共有をしたらアリスは一時的に探査能力が各段に上昇する。


これは魔法の取得と行使に偏りと制限のあるアリスには得難い能力なのだが・・・


ちゃるめらに至っては逸脱者アリスの出鱈目な魔力と外法を一時的に行使できるので下手な最上級の幻獣種を一方的に屠れるという訳の分からない最下級となるのだが・・・悲しいかな両者ともその辺りに関心が無く知覚することはこの先も無い


こうして長年アシュリー姉妹に仕えるコボルトにちゃるめらという名前が決まり、その日の内に身分証の更新を手配し更に関係各所へと通達し一気にちゃるめらの名は伝播した。



その日の夜半、アマネとシャイタン&フラミーから先輩のネームドの祝いへと別星の最希少の宝石が贈られた

見た事も聞いたことも無い宝石で価値も不明だが見事な銀細工を施された色鮮やかな宝石に大満足で尻尾をぶんぶん振って喜んで受け取るコボルト


アマネが用意したのはかつての支配星で神具と奉られていた聖遺物なのだが元使途にして現教皇にあざとくおねだりしたら喜んで献上された。


後に集会で聖遺物の紛失について信徒達から言及された際の言い分は「は? ミューズ様がお望みならなんであろうと全てを献上させて頂くのは無上の喜びだろう。それともテスタ司教、君はミューズ様の要求を否定すると? 背教者かな? 処す?」 と真顔だった


シャイタン&フラミーに至っては別派閥にも関わらず一方的に金属と宝石の神であるウルカグアリーの神殿に乗り込んで「おい、俺が世話になってる先輩への祝いに贈り物をしたいから銀細工をあつらって最上のものを用意しろ。手を抜いたら貴様の信者共を一匹残らず食わせるぞ」と優しくお願い? したところ涙ながらに尽力しその日の内に様々な念が込められた神器が完成しそれがちゃるめらの手元にある


着実にちゃるめらの部屋のコレクションに本人は無自覚とはいえカレンの地下工房同様に聖遺物と神器が増えていく・・・・・




後日 -深夜-


「これは・・・またなんと数奇な」


「獣、いや今はフラミー神か。荒神が何用か」


(シャイタン様、問題はありません。いえ、むしろ是非お会いすべきかと)


(なに? 分かった)


「ほう、本当に幻獣・・・・いや、待て。貴様なんだ? 幻獣と人が混在してるだと?」


「秘匿の荒神まで・・・全く。貴方には隠しようも無いので明かすと私は過去の古代人の愚かな産物で幻獣種と人間種の配合実験の産物だ」


「―――竜や白狐に知れ渡れば再び大戦ものだな」


「ああ、だから内密に頼むよ。最も荒神の君達にとってはこの程度愉悦に過ぎんだろう」


「ああ、貴様の在り方でまた面白い思いつきもできた。それで、先輩に名付けを提案したものを確認にと思ったのだが」


「あれに話した通りで裏は無い。むしろちゃるめらとその契約主の姉妹を思っての事だよ」


「アシュリー工房が齎した恩恵あっての事か?」


「それもあるが・・・・お嬢様のお付きが未だ名無しというのもいかがなものかと思ってね」


「お嬢様だと?」


「思考看破の妨害は君相手でも発動してるのか。なに、せんない事だ。かつては非人道的な産物の私を救って名をくれた主人に仕えた時分、大賢者として主人の娘に師事したことがあってね。そのお嬢様と妹君が貴方の仕える姉妹というだけだ」


「なんと―――」


「・・・・・そう言う事か。明かす気はないのか?」


「今更過去の産物は不要だろう。それにちゃるめらやアマネ神に君達もいるのだ。それに―――本音をいえば私も主人の影響を受けたのか荒神が苦手でね、勿論君達が直接関与してないのは承知だが、幻獣種の気性の影響だろうな」


「そうか。では胸の内に秘めておこう」


「ああ、そうだ。アリスお嬢様には最早手ほどきは不要だがカレンお嬢様にはいつか必要になるかもしれんから機を見て君から渡してくれると助かる」


「魔導書・・・ではないな、これは古代のエーテル感応技の技法か」


「ああ、現代の魔法の劣化扱いのエーテル技でなく、古代の禁忌とされていた応用性の高い私が編み出したもの技表だ。いずれカレンお嬢様はエーテルの逸脱者に達するかもしれんからね」


「承知した」


「主人の願望が今正に適ってるのを遠くから見守るこの仕事が存外楽しくてね。愉快な人生だよ」


「貴様のお陰でアリス様は立派に成長されカレン様を一人前な淑女に育んだ。俺から貴様に感謝を、何かあったら俺かフラミーを呼べ。可能な限り力を貸そう」

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