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臆病兎の錬金経営譚  作者: 桜月華
135/148

135話 前科者の錬金術師

幻神歴2962年02月02日



アシュリー工房-食卓-


本日の営業も無事? 終わりいつも通り豪勢な食事を家族で囲み和やかに―――


と、なる筈だったのに普段の生活とは一線を画す有様となっていた・・・いや、ある意味これはこれでらしくはある光景ともいえる


家族がおろおろと不安気に見守る中、涙と汗で顔をグシャグシャにしたカレン・アシュリーが見るに堪えないぎゃん泣きで土下座を遂行しつつコボルトの足にしがみ付き必死に懇願していた



そこには幾つもの到達点を解き明かした叡知を備える妙齢の女性の姿は微塵も無く、只々只管に不憫で哀れな痛ましい愚かな兎がいた



「ううぅ~~~おねがいこぼるとさまぁ!! このどおりですうう! おかねかしてくださいいいいぃ!!」



妙齢の女性のその哀れな有様に妹至上主義の姉アリスとカレンちゃんだいしゅきアマネはそれはもうぱにくっており、主姉妹絶対である大悪神のシャイタンとフラミーの2柱は今回カレンの巻き起こした騒動とこの結果に大変満足し、また愉快な愉悦も味わえ生暖かく見守っていた。残るアシュリー工房の唯一の良心であるコボルトはというと近年稀にみる程のブチ切れ具合で足元にしがみつくカレンを苛立たしく見下ろしていた・・・・・


「――おい、この借金奴隷にしていよいよ前科もん、てめぇ街にこれだけの大迷惑かけて工房を営業停止にまで追い込んでそのうえ金貸せだぁ? しかもあほな金額を? え? おめぇその額本当に理解してんのか? もう一度言ってみろ、ああん」


普段のカレンによる馬鹿な行いに対しての呆れ交じりの叱責ではなく、今回は堪忍袋の緒が切れたコボルトは最早カレンを見限った


「うっぐ:::ひぐ、あぅ・・・その・・ホシキンカゴセンマイ――」


コボルトの本気の怒り様と冷徹に淡々と問う声におっかなびっくり、頭上のうさ耳もふるふる震えながら視線を合わせる事もできないので泳がせつつとんでもない額をぼそっと零す


「―――おめぇまじで正気か? 金貨5000でもありえねぇのに賠償金に星金貨5000枚? 気は確かか? 俺っちのこの怒り様で返事は分かんだろ」


「そこをなんとかお願いコボルト様ああああ!!! 私このままじゃ辺境の坑道奴隷に飛ばされて死ぬまで強制労働で坑道掘る事になるのよ!?!?」


普段ならコボルトに金の無心を断られても諦めがつくのだが・・・今回ばかりはそうはいかないのでカレンも必死で食い下がりいよいよコボルトの腰にしがみ付いてガクガクと揺さぶって涙声で悲惨な現状を伝える


そう、先月の女性冒険者集団による錬金術の依頼。高位思念獣バゼンの蹄を用いた効能が狂悪な媚薬をカレン持前の知的好奇心・知識・技量・閃き・混沌振りが合わさりあっさり完成させ依頼を完遂したのだが・・・・・その結果ルルアでは男に飢えた女性冒険者達による男性の悪質な寝取りが至る所で巻き起こり一時期ルルアを色地獄に豹変させた


媚薬等に関する罰則が整ってなかった上に実行犯が皆実力も名もある各戦闘職組合の顔役でもあったので対策本部も迂闊に動けず手をこまねいていたのだがカレンの解除薬の発明と衛視長の機転によりなんとか騒動は落ち着きを取り戻した


今回の騒動による罰だがくだんの女性冒険者達にはなんの沙汰も下りなかった

なにせ媚薬使用による罰則がないので罪を問えないのだ―――というのは表向きの建前で各関係部署の上部の判断としては媚薬により築いたハーレム要員を取り上げられ落胆している女性冒険者達に更なる追い打ちをかけてぷっつんして逆切れされるのを恐れたというのが大きい。


最上位の戦闘職徒党、一都市処か国の顔役でもあり、それも軍から好待遇でのスカウトまでされるほどの逸材ばかりで一部には逸般人までいる始末だ。誰かて落ち込んでる獅子に更なる追撃をするような自殺行為は御免と竦んでしまうのも致し方なかった・・・ただしくだんの媚薬の製造者は話は別だった


お目付け役のしたたか元受付嬢リールーによりカレン・アシュリーはしこたまリールーの電を受ける羽目になり、それに加え工房に二ヵ月の営業停止が下され、更に騒乱誘致と独占防止と危険薬物製造の3つの前科が課され、とどめに星金貨5000枚の賠償金という小貴族なら破綻しかねないほどの罰金が科された。


莫大な額だがカレンの収入額から計算された今回の騒動による大勢の被害者への慰謝料・被害者遺族への迷惑料・被害の間に被った生活費の補填・今回の騒動で生じた公共機関の諸々の費用等々が計算されてるので星金貨5000枚という金額は正当だ。


カレンからしたら折角の素晴らしい発明品にケチを付けられ無駄にリールーの怒りを買いよくわからない前科が3つ付けられ釈然としないのにただでさえ星金貨云百万という借金があるのに追い打ちで更に借金が増え散々な結果となったが今回も以前のエーテル灯倒壊騒動の時の様に錬金組合が借金をなんとか処理してくれると期待していたのにリールーからは残酷な最決を下された・・・


「はい? 錬金組合に立て替え? 星金貨5000枚も一地方都市の組合が出来る訳ないでしょう。あ、そうそう。以前の罰金とは違って今回は賠償金なので分割払いは無理なので大人しく一括払いしてくださいね♪」


この返事を聞いたカレンは瞳から光が消え震えた声で懐事情を明かす


「・・・・・あ、あの、リルルも知っての通り有り得ない借金を返済してる所で今の私の全財産金貨9枚と銀貨23枚なんですけど・・・」


アマネによる内緒のお小遣いでなんとか金貨が財布に入っているもの、それを除いたら手持ちは銀貨程度だ

素直に逼迫した現状を伝えれば親友で心優しく頼りになるリルルなら何とかしてくれる。そう淡い期待を込めていたのだが


「そうですか♪ では借金奴隷だけでなく犯罪奴隷に堕ちて辺境の坑道で死ぬまで強制労働ですね♪」


にこやかなリルルの表情から告げられたその台詞がとどめとなって対にカレンは泡を吹いて卒倒した、うさ耳は痙攣し余りのショックに小水も漏らしていた


カレンの絶望の表情を見て嗜虐心をこれでもかと震わせたリールーは大いに満足気でのびた兎を放置してアシュリー工房を退散した


以前から薄々感じていたがこの時リールーは確信に至った。散々手間をかける阿呆の子カレンにより自分はサディズムに目覚めたようで満更でもないと、内面で粗全てが台無しになるものの外面だけは無駄に良い阿呆の子カレンが掌で涙目で慌てふためき慈悲を乞う姿は堪らなかった。




こういう経緯からカレンは強制労働が目前に迫っているので夕餉前コボルトに恥も外聞もかなぐり捨てて土下座で金の無心をする羽目になったのだがコボルトの対応は至極当然のものだった


「まさに自業自得じゃねぇか。そこそこ長い間だったがまぁまんざらでもなかったぜ。んじゃ、俺っちは鉱夫一本に専念するんでてめぇは一生坑道掘ってろ」


コボルトは既にカレンの所業によるこの先の展望を見通しアシュリー工房を見限って加工組合で鉱山夫として余生を過ごすつもりでいる


「いやあああああ!!!!!」


頭を抑え床を転がり回るカレンにいよいよ我慢の限界と超過保護な2人の声が掛かる


「あぅ~;;; カレンちゃんにそんな酷い事させられるわけないですう!! 私が賠償金払いますよぉ!」


大好きなカレンが涙目で困ってるのだ、しかも犯罪奴隷としてお別れ? アマネが耐えられる訳がない


「そ、そうよ! 私だってカレンの為なら幾らでも搔き集めるわよ!」


愛する妹が犯罪奴隷として過酷な労働を? 有り得ない。と、アリスは如何なる手段でも金を集めようと決意する


2人ともカレンの起こした騒動による被害者への罪の意識などどこ吹く風だ

床で蹲ってギャン泣きしてるカレンを2人して両側から優しく抱き起す。尚シャイタンとフラミーはカレンの行きつく先に笑いを禁じえなかった


2柱とも主姉妹を絶対としているが本質が大悪神なので主の不憫さに大いに愉悦を満喫している

最も本当に強制労働となったら見過ごせないので面白いタイミングで助けるつもりではある


相手を駄目にする程の見事な過保護っぷりを披露する姉兎と女神の2人だがコボルトは今回はそうは問屋が卸さないと反論する


「馬鹿かてめぇら! 駄目に決まってんだろ。いいか、こいつは前回のエーテル灯の倒壊とは訳が違う。街中に混乱を起こして被害者も何百といるんだぞ? いかれた愉快犯でもねぇ風病被害はお断りの客商売である商人がだ!」


「「あう」」


コボルトの至極当然の台詞にアリスとアマネは同時に言葉を失ってしまう


「それにだ。前にも言ったがこいつはこれでもいい年した大人なんだ。自分のケツぐらい自分で拭かせろ」


「くっ・・・この駄犬、正論殴りはやめろ」


「でもでもぉ! カレンちゃんは女性冒険者の為を思って依頼を受けただけでぇ・・」


「その結果が善良な夫婦の仲を裂いて性被害起こしまくりでそこらじゅうで寝取りが流行してもか? アマネ、おめぇそれ被害者の女房にそう言えるのか?」


「あうぅ」


「間違いなくぶちのめされるぞ。つか二ヵ月っつう期間の営業停止命令だが常識的に考えてその後営業再開できるわけねぇしな、一応くだんの媚薬の製作者のこいつの名前は表沙汰には出てねぇが人の口には戸は立てられねぇ。万が一どこかでばれたら怒り狂った客に殴り込まれてこいつ私刑にされんぞ」


最早コボルトの現状説明も耳に届かず頭を抱え現実逃避に躍起になるカレン


今回の乱痴気騒動の結果、カレンに営業停止と前科3つと賠償金が課されはしたがその時点ではまだ法整備がなされてなかったのでカレンの実名公表は留まってもらえた。


が・・・コボルトの言葉通り噂に制限は難しい。噂の重要性も危険性も重視する商人ならその心構えは当然だ。なにより騒動の発端となった性能が狂った媚薬とルルアでポーション製薬に深い関わりのあるアシュリー工房のカレン・アシュリーという結び付きがすぐに露見しかねないのだ。


規模に関係なく接客業をしていれば善し悪しの噂の1つ2つあるもので商人ならそれらを利用して向き合うものだが今回のカレンの所業は致命的で改善の余地がない。営業停止期間が明けて噂の露呈にビクビクしながら営業再開したとしてもいつ発覚するか分からず、また発覚した時点で夜逃げ必須なのだ。そんな危ない橋渡れない。こういう判断からコボルトは念願の商売に見切りを付けた。


「「「「・・・・・」」」」


コボルトによるアシュリー工房の暗い先行きを告げられ集まった家族は擁護出来ず重い沈黙に包まれる

カレンだけは現実が追い付かず放心してブツブツとなにやら独り言を呟いていた


「つまりこいつはもうどうしようもねぇ」


コボルトの締め括りによりこの日の話し合いは終わった。カレンは夕餉も取らずに幽鬼の如くふらふらと自室に戻りベッドに籠った


残った面子による居たたまれない雰囲気による夕餉を済ませるがコボルトはさっさと食事を済ますとこの先の準備が色々あると言い残して自室へ戻り、アリス・アマネ・シャイタン・フラミーによるカレンの身を案じる物騒な会議が開かれる





翌朝、カレン・アシュリーが書置きを残して雲隠れした




私の兎生は辛すぎるので疲れました~~~~探さないでください





この遺書とも取られかねない内容にアリスとアマネは最悪な想定が過ってしまい半狂乱となってシャイタンの部屋に雪崩れ込んでカレンの捜索を頼み込む






元来精神的に未成熟で内向的・虚弱・神経質なほど臆病で極度の人見知りなカレン・アシュリーがこの惨い現状を受け入れられる訳が無い


工房の営業停止命令・大貴族も真っ青になる程の巨額の借金・奴隷堕ち・前科有り・そして止めの終生強制労働―――耐えられる筈が無い

家族との別れは辛過ぎるがこのままでは過酷な強制労働の末路なのだ、ならもういっそのこと全てのしがらみを捨てて脱兎しよう


そう思い至り早朝に愛用の蝶のローブをまといお気に入りのバクー鞄に最低限の下着の替え数点とポーション数種類・それとかさばらないので調味料数点を詰め込んで家族宛に書置きを残して工房から去った



まだ朝ということで住宅街は閑散としておりカレンはそんな初めての通路を徒歩で進んでいた


移動のことを考えたらリリーと荷台は連れたほうがいいのだろうが突発的で無計画な家出にリリーを巻き込むのは可哀そうと保存食や携帯食料さえ準備出来ずに身一つでの無謀な行動を取っていた



(はぁ――5月から本国で教導技術錬研に参加するの楽しみだったのに・・・これからどうしましょ、知らない所へ行くのは怖いしやっぱりテンゲン大樹海かしら。あ~でも家もうないしなぁ、天幕買わないと駄目かなぁ)



媚薬騒動が起きる前、錬金組合の組合長バージルと友人のリールーから本国で開催される教導技術錬研への参加を打診され家族と話し合ったがカレン自身が知らない人の集まりはちょっと怖いけど同輩や先達者との知識の擦り合わせには感心があり自己研鑽にも繋がるので参加してみたいと珍しく積極的に出たことで家族の皆も全面的に背中を押してくれる事になっていた。教導技術錬研の開催期間は5月5日から来年の5月5日までと予定されている


国内に及ばず国外の知恵者も招くので段取りから手配に前準備がかかるうえに名うての有益者・有識者・実力者・知恵者の者たちが多数集まるのでそれほどの者たちを長期間留めるのは現実的ではないという事から1年の限定を設けている。



それも過去の話となってしまった



この先の自分のとる道は1つしかない、逃亡者として世捨て人として以前のように隠れ潜むしかない

取り急ぎ入用なのは荷馬一頭・荷台・水・食料・天幕これらは必須だ。手持ちの金貨9枚と銀貨23枚で揃えられるだけ準備しなければならない

衣服などは落ち着いて余裕が出来てからでいいので二の次だ


馬と荷台を用意しようと以前ルルアに移住してきた当初に世話になった荷台貸出屋へ向かい店主に以前のように中古の荷台を買い取らせてほしいと頼み込む。本来なら荷台業者に発注するのが基本なのだが依頼から納入まで日数が掛かるし当然高額で今の少ない資金では余裕がないので中古に目を付けたカレン


カレンの要望に店主は以前に型落ちの経年劣化品を取引してもらった事もあるからと融通を聞かせてくれ、廃棄寸前のお古を金貨1枚と銀貨10枚で売ってもらえた。


そして厚かましくも肝心の馬も用意できないか尋ねてみると馬も一応貸出はしているので数頭抱えているが販売となると老馬で商品にならず食肉加工を予定していた雌馬しかいないとの事だったがカレンとしては贅沢を言ってられないのでその馬を金貨3枚で売ってもらった


在庫の処理をしてもらったという事で馬用の飲み水と馬草を分けてもらいこれで足は準備できたと早速仕入れた馬に荷台を繋ぎ市場へ他の必需品を仕入れに向かう




経済特区状態のルルア市場で水・食料・天幕を残金で用意できるだけ仕入れ、残金は空になってしまったがいよいよルルアを離れようとルルア南門ですっかり顔馴染みとなった過去に何度か自分を連行した若い衛視に採取に出ると無難な言い訳をしてルルアを飛び出した。





(ん~以前の道程を引き返すだけだから後2週間程で大樹海に着くわね)


ルルアを脱走して20日程カレンは逃亡生活を1人順調に続けていた。以前と違い相棒がいない1人旅で不安も寂しさも大いにあるが幸い街道は衛視の働きにより安全なのでここまで問題無く進めた。馬草はまだかなり余裕あるが水も食料も安い保存食を1月分程しか買い込めなかったのでテンゲン大樹海までギリギリ持ちそうだと安堵する


(あっ、そういえばアマネの花畑はこの辺りだったわね。今はもう植え替えて何もないだろうけど丁度いいしそこで休憩しましょ)


かつての見事な光景を思い出し暢気に立ち寄るカレンだが・・・・・書置きに兎生が辛いと記した癖に未だ自己認識の乏しいカレンは自身の狂運の質の悪さを理解していなかった。







「ちっ、ハンスのくそったれが!」


手にした短剣を樹に乱暴に振り下ろし愚痴る女性ルイズ


「ちくしょう・・・どうすんだよ」


ルイズの癇癪も気にせず頭を抱え呻く男性マコト


「ルイズ様どうします? あの裏切もんのせいで追手はすぐそこですぜ」


嫌でもこの先の末路が過り自己保身から不安気にルイズに尋ねる男性ダイ


「姉さんどうしよう?」


唯一姉の身を案じるルイズの妹セーラ


「ここからだとルルアが近いが優秀なシャルマーユ皇国軍のことだ、既に俺達の事は情報が渡ってる筈だ、街入りは難しい。いや、それどころか下手したら既に賞金まで掛けられて軍以外に賞金稼ぎの徒党まで相手にしなきゃならねぇ。かといってここで立ち往生も不味い。街道といや軍の遠視での監視がある筈だ」


辛い現状を口にするルイズの腹心たる男性ヨグル



街道脇で悪態をつく一団、女性2人に男性3人。会話から伝わる通り追われてる身だがただのケチな犯罪者ではない。

犯罪組織カイロウの密輸を取り仕切る大幹部の1人である女性ルイズ率いる妹と部下達だ。表向きはシャルマーユ軍による殲滅掃討でテルランドは滅びたということになってるが実際は原因不明の魔法の暴走? と知り得たものの、偶々とある珍しい剣の取引の関係でドルシアに渡っていたので難は逃れたものの自分の手勢の1部しか残っておらず組織の立て直しはとても無理と諦めシャルマーユの玄関でもあるテスラまで逃げ延びていたのだがシャルマーユ軍の苛烈な追跡に耐えきれず古参の部下の1人だったハンスが情報と引き換えに助命を懇願し軍に裏切ってルイズ一派は窮地に追いやられ切羽詰まっていた。



「分かってる。だがこのまま逃げるにせよ物資がなきゃ話にならねぇ、危険だが夜に門兵殺して街入りして補給挟んでガナセルスまで行ってドルシアのクランに逃げるしかないねぇ」


急な逃亡劇だったので水も食料も途中で行商人から奪った分だけでそれも底を尽き掛けていた、この街道は軍の手入れがされており野草もなければ食料になる野獣もまず見かけないので状況はかなり切迫している


門兵殺しは関破りの次に重罪で更に状況が不利になるが背に腹は代えられず強硬策をルイズは切り出す


「国外逃亡は賛成ですがなぜクランに?」


「トルネリア大陸はシャルマーユとフルーラの占領地だしルギサンド大陸は異端審問官の庭だ、先を見据えると動きにくい。なら前回の剣の取引で貸しのあるクランのドキシスの世話になったほうがいいだろうよ。やべぇ研究に手を出してるとはいえあれも一応暗部だ、私らとも利害は合う筈さ」


「なるほど・・・でも姉さん、姉さんを裏切ったあの屑はどうするの?」


「そうだぜ、ハンスの糞野郎に10倍返しはしねぇと気が済まねぇ」


「ふん、このルイズ様に唾掛けたんだ。そりゃ報復はする。もう手配はしているさ、だがあいつは殺さないよ、テスラを離れる間際に攫い屋を雇った。あいつの嫁と娘を拉致らせたら薬漬けにして変態に売りつけりゃ畜生のように孕むだろ? あとは何年か経ってから女どものガキの死骸をハンスに送り続ける、あいつが発狂するまで毎年な」


「へへっ、そうこなきゃ、流石ルイズ様だ」


「姉さんを困らせた裏切者には相応しいです、子供の調教は私が・・・「待てっ気配察知が反応した!! 誰か来るぞ!」


「隠れなっ」


「追ってか!?」


「いや、馬車1つ・・・俺たちを追ってきた奴らではない、おそらく行商人か?」


「なんだいあの、ありゃ女か? ローブに仮面、魔法師か奇術師か? おいマコト、念のため看破しな」


「はいよ――――ん? どういうことだ・・・」


「なんだ、手練れか?」


「い、いや・・対策してんのか素性看破はできませんでしたがあれ、エーテルは出鱈目に高いが魔力が全く無いみたいで・・・どういうことだ?」


「なに? 魔力がないだと? ふむ・・・偽装するにしても高く見せるなら判るが逆に無いとはどういうことだい・・・まぁ、いい。確認は後だ。セーラ、あいつに束縛魔法を掛けると同時に馬を殺せ。エーテル師ならエーテル技で何をするかわからねぇ、魔法が掛かったと同時にダイは背後から忍び寄って動きを封じな」





・・・・・

・・・・

・・・

・・




(ぇ? な、なに? どういう事、なにこれ? やばいやばい助けて姉さまシャイタンさん!)



かつての花畑で昼餉をと暢気に立ち寄ってみたら案の定植え替えた時から変化のない丸裸の畑跡が広がるだけでしょんぼりしつつ馬への食事の準備を済ませ荷台から自分の食料と水を用意して畑の跡地でいまいちな保存食を、と思っていたら何故か急に体に痺れを感じて倦怠感に襲われ、ぱにくってると馬の嘶きが聞こえたので振り向いて確認するとどういう理屈か馬が火達磨になって暴れていた。状況把握が追い付かず更に焦っていると直ぐ後ろから低い男の声で「動くな、抵抗したら首を跳ねる」と掛けられ首元にはナイフを突きつけられていた。


あまりの恐ろしさに声を出すのも怖く必死に首を縦にコクコクと振って抵抗の意思は無いと示すカレン


カレンの対応を確認後、奥の木の陰から女2人男2人が姿を晒す、皆バラバラだが武装しており手に武器もあって臨戦態勢だ


ここで要領の悪いカレンでも漸く理解した、盗賊の類に襲われてると







囲まれ碌に抵抗せず素直にへたり込んでるカレンを中心に5人の男女が囲みこれからどうするか相談する


「さて、お前さんをどうするかはさておき先ずは食料だ。おい、ヨグルは荷台を調べな、多少は食いもんがあるだろ、ダイはこいつの身ぐるみ剥いどきな、エーテル師ならどんな隠し玉があるか油断ならねぇ。マコトは念の為隊商や後続を警戒してな」


ルイズが的確に指示を出し各々言われた通り動く。カレンはこの先の自分の扱い振りに恐怖からガクガクと震え上がって腰が抜けて地面に座り込んで涙目だ、当然小水も盛大に漏らしていた


「――ははっ、こいつ漏らしやがった。つかこの仮面外れねぇ、おい、これ外せ」


「ひ、ひぃっ! あ、あの、あのあの、このアイマスク呪いで外せないんです! お願いします何でも言う通りにしますので痛いのと怖いのは辞めてください!」


「ちっ、しょうがねぇ、とりあえずローブ脱ぎな、それと身に着けてる装備品から装飾品まで全部外せ、おっと、下手な真似したら殺すぞ」


「は、はいっ!」


この囲まれた状況で脱出は不可能、魔法もエーテル技も行使できず近接戦闘技能も無い自分に抵抗も不可、なら少しでも生き残る可能性にかけて大人しく言いなりになるしかないと言われた通り身に着けてる物を全て外し地面に置いて最後にローブも脱ぐ、頭上のうさ耳と臀部のうさ尻尾で玉兎だと種族ばれしてしまうが逆らうという選択は臆病なカレンにはない。



「――あ? 耳? お前亜人か」


ダイの驚きの問いを皮切りに一行の視線が更に下卑たものに変わる


「へぇ、こりゃとんだ拾いもんだ、こいつは玉兎族だよ」


「ああ~こいつが例の玉兎ですか、確かにこりゃ兎の耳だな」


一行の中であらゆる分野で悪知恵が働くルイズが真っ先に目の前の亜人の使い道を考え狂喜の表情でダイの疑問に答える


「つかなんでローブの下は下着だけなんだよ、しかも体に似合わねぇ見た事のねぇやたら色っぽいじゃねぇか、お前もしかして商人じゃなくて売女か?」


恐怖と羞恥でぺたん座りでさめざめと泣くカレンに奇異の眼を向けるマコト

下着の上に衣服をまとわずローブ直被りは変だが、それ以上に肝心の下着がこの辺りでは見かけない面積の少ない煽情的な黒とピンク色の造りで女好きのマコトは売春婦と間違った解釈する


「ルイズ様こいつどうします? 玉兎なら利用価値は大きいですが今の状況だと暢気に買い手探すのも難しいですぜ」


世界に悪名を馳せる犯罪組織カイロウに所属してたのであらゆる非合法な知識に精通してるので玉兎の肉を食せば幸運の加護を授かるというのが迷信なのは知っているがそれを抜きにしても希少種の亜人なら様々な使い道があるので普段なら偶然向こうから玉兎族が寄ってくるなど鴨葱そのものだが生憎いまは追手から逃亡の最中だ、ダイの更なる問いかけに一拍間をおいてルイズが返事をする


「そうだねぇ・・・とりあえず「おいおいまじかよ・・・ルイズ様! これ、こいつ『あの』最重要捕縛対象のカレン・アシュリーですぜ!!」


いつもならルイズの台詞を遮るなど叱られるものだが驚きの余りそんな発想も無く、マコトが手にした地面に差し出された身分証を手に驚愕の表情で驚きの台詞を吐く


カレン・アシュリーの名は以前からカイロウでも何かと話題になっていた、主に悪い算段でだ。シャルマーユの手前強硬策は悪手と暗部を使っての勧誘を何度かしていたが何れも失敗に終わっている


「・・・見せな―――へぇ、あの有名な錬金術師が実は希少種族の亜人だったとはねぇ。くっ、くふふ、あはははっ!!! どうやらヘルメスは私らを見捨てなかったようだね、お前らどうやら運が向いてきたようだよ、こいつを利用して脅せばシャルマーユは言いなりだよ」


カレンの身分証を吟味してルイズは狂喜を更に深くし狂ったように笑い声を出す


これが笑わずにいられるか、ヘルメスは本当に自分達を応援でもしてくれてるのかと思うぐらい都合のいい展開だ



余談だがヘルメスといえば何かとカレンと一方的な関わりの深いあのヘルメス神のことだ。ヘルメスは占星術・神働術・錬金術を司るがそれ以外にも多才振りからなにかと関わりがあって賭博関連だけでなく盗賊職にも縁があって盗みを主にする者達に崇められる事も多々ある


これが両者の表沙汰になるかは不明だがカレン・アシュリーからしたら勘弁してほしい事柄だ


「どういうことですかい?」


「玉兎といや異端審問の馬鹿共の優先順位の高い執行対象者さ、こいつの受勲振りとシャルマーユの情報部の有能振りから種族が露見してない訳がねぇ、つまりこの国はこいつの種族を隠蔽してんだろうよ。種族平等なんて嫌味を宣うシャルマーユだがこいつの有用さはそれを差し引いても計り知れないからねぇ、それをネタに脅せば逃亡資金には過ぎた金を強請れる、それも継続的にだ」


相手が相手だけに取引を持ち掛けるのも危険が付き纏うが成功の目途は高い

持ち掛ける国を選べば国家間規模の戦争の火種になるからだ


何せ宗教国シスにかかれば国ぐるみで異端者を匿い不浄な国益を上げ不当に権益を独占したなどという言いがかりはお手の物だ。教会と神の名を出されてはどれだけ強国のシャルマーユだろうと従順な子羊にならなければならない



「へへっ、それはいい。あの剣の代金もあるしクランでの活動資金には困りませんね」


ルイズの策謀を聞いて今後の展望に期待が差すと釣られて含み笑いを零すマコト


仲間の裏切りによって支度もままならない有様での逃亡だが金が無いわけではない、むしろ有る、それも大いにだ

クラン国の機密機関ドキシスから非合法な依頼でいわく付きの剣の強奪・販売取引を済ませ莫大な金を本部に戻って収めるつもりだったのになんらかのトラブルにより本部は文字通り消えてしまい止む無しに代金を抱えて今後について計画を練っている最中の出来事だった


「ああ、ところで、ふっ、玉兎といや面白い話があったね。丁度いい、セーラ、こいつ抱くかい? 売りもんだからあまり傷は付けられないけど多少は構やしないよ」


幸運の加護関連の話が間違いなのは知ってるがもう一つの玉兎の体質は真実だと知ってるルイズはちょっとした好奇心を満たす為と人質の抵抗力を奪う為と大事な妹の性癖を踏まえカレンにとっておぞましい提案をする




想像するだけで身の毛がよだつ・・・よだつのだが、貞操と命、比べるべくもない。


咄嗟のカレン也の英断から必死な懇願が漏れる



「経験は有りませんがお好きにどうぞ! それに私は錬金術師としてそれなりの自負はありますので危ない薬だろうとお望みの品を作らせて頂きますのでどうかお仲間に加えてください! あ、シャルマーユの情報とか提供できます!!」


土下座を遂行しつつ少しでも身の安全を図ろうと最低な命乞いをする

恥も体裁も尊厳もない、臆病なカレンにとって我が身が助かる為なら他は二の次だ


カレンの思わぬ珍言に囲っていた一行は各々失笑が漏れだす


そしてここまでの会話で渋い表情だけで会話に参加しなかったセーラが漸く口を開く


カレンの怯えに反してセーラは頬杖をついて溜息交じりにさらっと返答する


「そうですね・・・玉兎は前々から興味あったんですけど、これは流石に抱けません。体付きが貧相で素顔も見えないのではそそりませんし・・・なによりこんなおしっこ臭い女萎えます」


なんという偶然か近年酷くなっている気がするカレンの失禁癖で最悪の窮地は脱せた・・・とはいえ台詞の内容で自覚はしてたもののとことん色気を否定され場違いに傷つくカレンだった


年下の少女や幼女を嬲りながら犯すのが好きな両性愛者なセーラなら喜ぶかと思ったが言われてみればそれもそうだと同性愛の気はないルイズは愉快気にセーラの肩を叩く


「ははっ、そうかい。んじゃ手放すまで男共の便器にでもさせとくかい、マコトなら穴さえありゃ顔なんてどうで


ルイズの野卑な台詞は最後まで続かず、一行に突如有り得ない突風が襲い、食料を胸に近づいていたヨグルの首が跳ね、その首元からは血しぶきが吹いていた


「「「「!?!?!」」」」


「よ、ヨグル!? くそがっ!!」


「敵襲! 警戒して備えなっ」


(マコトの警戒を抜けてきた? やべぇ手練れの徒党か?)


いまだ土下座しているカレンを引き起こし首に短剣を突きつけ人質にしてルイズが辺りを一瞥して敵の姿が見えないが近くに潜んでると見て大声を上げる。それと同時にセーラはルイズの背に隠れ上級の範囲魔法の発動に備え、マコトは弓を構えルイズの左に陣取って気配察知で周囲を確認し、ダイは反対の右に立ち戦斧を構える


「姿を見せなっ! 追手ならこの人質の価値が判んだろう? 賞金稼ぎなら取引をしようじゃないか」


ルイズの呼び掛けになんら反応はない、それが余計にルイズの苛立ちを募らせるが妹と違って戦闘は専門ではないとはいえ犯罪組織の大幹部にまでのしあがったルイズはこの状況でもクレバーだった。


(追手ならこの人質があれば好きにできる。だが賞金稼ぎだとやべぇ、利己的な奴ならこいつの価値で取引はできるだろうがあの手の連中はうざい正義感備えた奴か快楽殺人鬼が多いからな・・・)


「おい、お前。死にたくなけりゃ命乞いしな」


ルイズに後ろから羽交い絞めにされ首元に短剣を突きつけられたカレンはブラとショーツの上にタイツだけという悲哀な有様で懸命に台詞を考えるが言葉の通じない魔獣等の恐れも自身の狂運からしてあるのではと過ってしまい更にギャン泣きして又も小水を漏らしつつ必死だった


「は、は、はいっ! あ、あの・・・私はカレン・アシュリーです。見ての通り玉兎族でルルアの錬金術師で何個か到達点を解明してます。死にたくないです! 助けてください助けてください! ううぅ~;;;お願いしますぅ! 死にたくないんですぅ!!」


脅されて我武者羅に何処の誰になのかも判らず心からの悲鳴を上げる


そんな悲哀な訴えに場違いにして暢気な様子で返事が返ってくる


何時もの様に陽気な声で





「も~カレンちゃん、必死なのは分かるけど秘匿情報まで喋ったら駄目だよ~」




「―――へ? ぇ、カザネ? な、なんで?」




カレンの前方5m程の距離にアシュリー工房のお得意さんで顔馴染みのカザネが突如姿を現す。以前と違って眼鏡を装着していたがそれより目を引いたのは普段の軽装ではなく武装しておりその装いが見事でまるで騎士のようだとカレンは考えるが事実その通りでカザネは騎士だ、それも一般騎士などではない



カザネに続いてルイズ達を囲んで武装した騎士達が姿を現す、その数30名。皆剣を構え視線だけで伝わる程の怒気を孕んでいる


今までの追手ではない、並の軍ですらない


目の前の女を散々聞き及んでるルイズはあまりの展開に呆けてしまい思わず無意識に感想が漏れてしまう


「・・・は?? な、なんでお前が、戦狂(せんき)が・・・なぜ近衛が動いてんだい!?」


追手も賞金稼ぎも軍も想定はしていた、していたが流石に皇帝陛下お抱えの近衛団がこの件に関わってるとは想定外だ、シャルマーユの軍人なら平凡な一般兵でも他国の並の兵に比べて桁違いに熟練度が高いのにそれがまさかの近衛団が相手などどうしようもない、しかもあの敵も味方も見境なく皆殺しの武名を轟かせた第二近衛団の副団長、戦狂を相手取るなど論外だ、カイロウの戦闘部門の手練れが束になっても子供扱いされる強者だ


ルイズの焦りなど関係無いとばかりにカザネは普段の様子でカレンに声を掛ける


「カレンちゃんえっちな恰好だね~もしかして私を誘惑するつもりかな♪ それとも――この塵共に乱暴された?」


「い、いえ・・・それはなんとかまだ大丈夫だった・・・って、なんでカザネが!? その恰好はなに? あんた兵士だったの!?」


「聞かれなかったからねぇ、そうそう私軍属だよ~。改めて自己紹介しよっか、シャルマーユ皇国軍第二近衛団の副団長で上司に恋するカザネちゃんだよ、ぶいっ」


場違いにカレンに向けてⅤサインをするカザネ。ぱっと見ひょうきんな態度だが内心は生きた心地がせず先のカレンの返事と外見を確認して漸く安堵していた


なにせ此処に送られてくる前に会議中の詰所に堂々と乗り込んできたやばい相手からやばい宣言をされていたのだ


「カレン様の危機だが都合で俺もアリス様も可能なら力をお見せしたくないので貴様らで対処してこい。言うまでもないがカレン様が掠り傷一つでも負えばその万倍の国民を消すぞ」


暴君の理不尽な要求に異議を唱える3流はこの場に一人も居ない。会議場に居た皆即座に状況を開始する


1人を除く超が付くあの過保護な工房の面子がカレンの家出に対処しない訳も無く、家出が判明した10分後にはシャイタンの探索によりカレンの無事と所在地は判明した。アリスとアマネは直ぐに迎えに行こうとするがシャイタンから待ったが掛かり、これは滅多に無い経験になるので遠視の魔法による見守りといざという時の為に配下を傍に控えさせカレン様の意思を尊重して様子を見ては如何かという案が出てカレンしゅきしゅきな2人は悩んだ末にカレンの成長に繋がると判断して厚く見守ることにした。


詰所に在中していた総勢で完全武装して諸々準備を済ませシャイタンに隠蔽の魔法を掛けてもらい集団転移という奇跡を経由して送られてきたのだ


「こ、このえだん? 騎士ってこと? カザネ女なのに?」


相変わらず人質のままだがこの大勢の兵士がいれば助かるかもと希望が見えたカレンは多少精神が安定しつい素朴な疑問を口にする

近衛がなんなのか知らないが幼い頃よく姉に読み聞かせてもらった絵物語に出る騎士のようなものだと理解はできた。だが、カレンは騎士といえば男で女は騎士に成れないと偏った思込みがあった、それに加え普段の見知ったカザネは簡素な軽装だったのでてっきり戦闘職の見習いとかかと思い込んでいたのだ


「そそ♪ 周りの部下も皆優秀な近衛だよ~」


カザネの宣言がなくてもルイズ一味は自身らを囲む近衛武装した近衛騎士の集団に恐慌状態に陥っていた


シャルマーユの軍といえば圧倒的な暴力の象徴だ。その上位にある近衛騎士など五百人を誇る戦闘部門があったカイロウとはいえシャルマーユ軍からすれば所詮は多少覚えのある素人の集まりに過ぎない。極端な話カザネを抜きにしても囲っている騎士1人だけで自分達を瞬く間に殲滅するなど造作も無い。それほどの常軌を逸した練度を研鑽してる強者集団だ。


「ふ、ふざけるなっ! 近衛だと!? 冗談じゃねぇ・・・」


「姉さん・・・あいつあの戦狂ですよね? どうします? 魔法は目くらましにもならないですよ」


如何に情報通の犯罪組織に属していたとはいえ本国で皇帝陛下お抱えの第二近衛団が総員ルルアに駐在してるなど予想だにできない

その陛下直属の近衛と相対する等悪夢でしかない


「ルイズ様取引しましょう、近衛相手とはいえこいつは有効に使える筈ですぜ、いざとなれば片耳切り落としてみせれば


ダイの無謀な案は自身の右腕が斬り飛ばされると同時に封じられた


「我らがアイドルたるアシュリー閣下の麗しい御耳を切る? 口にするだけで万死に値する」


囲っていた1人の近衛騎士が怒りが限界に達して斬撃を飛ばしてダイの聞くに堪えない台詞を文字通り切り捨てる

他の近衛の面々も臨界寸前で今にも賊を切り刻みかねない勢いだ


この近衛騎士達の怒りはシャイタンの発破が背景にあるだけではない。そう、今しがた使われた呼称である閣下、カレン・アシュリーは士官でもなければ当然軍属でもない。だが黒金宝冠章を賜って軍の准将に相当する権力と命令権が付与されているので近衛騎士といえど上官に値する。それも理由の1つだが更に行動原理がある。軍の元帥たる賢者の最高位戦術師レイアードが内密とはいえ手厚く庇護する相手で軍にその数々の発明品で多大に恩恵をもたらし兵の生存率と勝率を各段に引き上げてくれた大恩人だ。軍のシャルマーユとしては足を向けられない程の途方もない恩恵だ。


そんな大恩あるカレンをあられもない姿にして凶刃を向けられればシャルマーユの軍属なら誰だろうと逆鱗ものといえる


「あちゃ~最終的に殺すのは確定だけど情報の引き出しもあるんだから抑えてね~。でもここだけの話よくやった!」


先走った部下に窘めもそこそこにグッジョブと親指を立てハンドサインを送るカザネ


他の近衛騎士達も無言でうんうんと頷いておりこの異質な状況からなんとか抜け出そうとルイズは懸命に知恵を絞って懇願交じりの取引を提案する


「な、なぁ。悪かった。こいつは解放するし組織の他の残党の情報も提供する。大幹部の情報もあるからさ、見逃してもらえ「何言ってんの? 人質にすらなってないんだよ」


「「「・・・?」」」


ルイズの九死に一生の案を一蹴するカザネの言葉の意味が理解できず固まるカイロウ残党一味


「私は勿論此処にいる部下皆がお前たちがそのカレンちゃんの首元に突きつけてる短剣を動かす前に余裕で皆殺しにできるんだからさぁ。しかも内容も話にならない。私の前職も知ってるんでしょ? お前達の組織にも同職は抱えてただろうけど所詮は素人擬き。私にかかればお前達の口を割るくらい造作も無い。なんでも喋るのでもう殺してくださいと懇願させるのなんてお手の物なんだからさぁ」


「「「「・・・・・」」」」


「したければしてもいいけど、無駄に今痛い思いするだけだからさぁ――立場を理解したならカレンちゃんを離しな」


「ね、姉さん・・・」


セーラの懇願する瞳に色よい返事が出来ず困惑するルイズ、最早これまでとやぶれかぶれの道連れで人質を巻き込むかと自棄が過るが数えきれない数の悪党を相手にしているカザネはルイズの考え等お見通しなので釘を刺す


「無理心中を試すのはいいけど私の前職知ってるなら私がどうでるかも理解できるよね? お前の大事な妹がお前がしてきた所業の全てを背負うことになるからね♪」


カザネの特別拷問官で培った精神的揺さぶりで遂に観念したルイズはカレンを開放して短剣を投げ捨て膝から崩れ落ちた。それにならってセーラもダイもマコトも降伏する。自分達の末路は嫌でも判るが最早抵抗も無意味と人生を手放したのだ。


解放されたカレンは押し寄せる安堵感と喜びから自身の装いも気にせずカザネにダッシュで飛びつき抱き着いてわんわんありがとうと涙声で感謝を表す


一方カザネはというと


「よしよし、間に合ってよかったよ~―――所で、落ち着いたらローブ着よっか。異性愛者の私でもなんかこう・・・ぐっときちゃうから」


親しい間柄とはいえ同性の妙齢の女性に煽情的な下着姿で抱き着かれたら照れてしまう・・・というか口には出せないがカレンの下半身の小水の後も気になって困惑するカザネだった


「あぅ///」


カザネの指摘で今の自分の風体を思い出し戸惑うカレンが咄嗟に距離を取り周囲の近衛連中に視線を向けると皆気を使ってそっぽを向いていた・・・・・



大勢の男性連中の前で下着姿を晒す羽目になったカレンは今日の事件で益々兎生が理不尽だと漸く理解したが・・・まだまだ自己認識は低くカレン・アシュリーの狂運振りは鳴りを潜めていた。


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