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臆病兎の錬金経営譚  作者: 桜月華
134/148

134話 共謀する錬金術師

幻神歴2962年01月15日


ルルア渓谷中腹地にて



近頃は何かと話題に欠かないシャルマーユ皇国だがその領地である此処、ルルア渓谷では昨今話題の新しい? 遺跡がある



遺跡となれば戦闘職の中でもトレジャーハンターの出番だ。だというのに―――遺跡発見から暫く経つが今ではこの遺跡に挑む徒党の姿は無い

発見当初はトレハンに限らず腕に覚えのある戦闘職の徒党集団が押し寄せたのだがその全てが返り討ちという悲惨な結果だった。挑んだ徒党の中には熟練の中級や上級の徒党も散見されたにも関わらずだ。理由は単純明快、相手が危険因子のある亜人や獣人なら腕に覚えのある中級層ならなんら問題ない、最上級の魔獣だろうとエルフだろうと入念な準備と覚悟を決めた上級層の徒党なら対処可能だ。



だが―――



見た事も聞いたことも無い訳の分からない凶悪な魔法? を乱発する妖精が徒党を組んで襲ってくるとかありえない、しかも明らかに手を抜かれて見逃してもらうという屈辱付きだ。何より理解不能なのは妖精に紛れて悪魔? らしきものも居るという。


妖精との揉め事はどの国でも話題に欠かない、シャルマーユでは一応妖精への禁止事項は無いがそれでも妖精への危害は周囲から良い顔をされない。

外見がなにかと大事な戦闘職徒党としてはそんな妖精への戦闘手引きなど有る訳がない、悪魔に至っては悪魔崇拝教団を除いて他教の排斥に熱心な宗教国が存在を隠匿しており悪魔との戦闘経験なんてある訳がない。未知そのものだ。未知への対処などできる訳が無い。


己の技量と才覚をもってして未知を既知へと変え、厄災を事前に防ぎ財を成すトレハンとはいえ、無謀に突っ込む命知らずが居る訳ではない



そんな訳で



今ではルルア渓谷で発見された遺跡に挑む変人はいない・・・・筈だった



今日までは





遺跡地下6階層



妖精を問答無用で打ちのめし気絶させ、偶に見かける悪魔を薙ぎ倒しながら遺跡を踏破していく徒党があった


「ね、ねぇ。ユイさん、この遺跡何なんですか? 妖精と悪魔が居るとは聞いてましたけど・・・妖精魔法を行使する中級妖精に中級の悪魔がそこかしこに居るとか不気味過ぎますよ・・・」


半ば強制で拉致られて今回の遺跡探索に参加させられた哀れな被害者でもあるまだ年若い隠れ悪魔崇拝者のプリーストが驚きの連続に襲われ蒼褪めた表情で先頭を進む徒党の班長に尋ねる


「さぁ? 知らないわよ。私も以前此処に潜った同僚から妖精と悪魔らしきものが居たとしか聞いてないから」


あけすけに言い放つ班長 去年からルルアに拠点を移した最上級トレジャーハンター 徒党 艶舞(えんぶ) 班長ユイ


徒党員は3名という超少数精鋭の徒党だが党員が全て逸般人という頭のおかしい基地外徒党で良くも悪くも話題性のある女性徒党だ


初見の妖精魔法を行使する妖精を問答無用でぶちのめし、凶悪な魔法を放つ悪魔など初見回避余裕ですと言わんばかりに有り得ない回避動作で避けてはぶちのめし、のびた悪魔を叩き起こしてはこそこそと何やら内緒話をしては強引に押し進む。

そこに綿密な計画など無い、必要ないのだ。逸般人の彼女らにとって取り合えず脳筋ごり押しができてしまうのだから―――




公には余り認知されていないが人間種には幾つか種別が存在する


獣人・亜人という覚醒種は除き人間・逸般人・逸脱者・聖人とあって其々に特徴がある。この4種は外見は通常の人種と変わらないが人間以外の3種は基礎能力・潜在能力・魂が変質した人間の一段階上の存在ともいえる


不特定多数の人間の中から極稀に誕生する逸般人は人間より基礎能力が高く、自覚の有無関係無しにあらゆる分野で活躍しており世間で名を挙げる者の大半は先ずこれにあたる。


そんな逸般人の中でも更に一際珍しいのが逸脱者といって基礎能力が高いだけでなく潜在能力も高く、何より人間種としての能力の限界の壁が外れた存在だ。当然ながら逸般人より希少種で此処110の星では10人にも満たない特殊個体といえる


そして最後の聖人についてだが・・・・・これに関しては人間や逸般人・逸脱者とは本質から異なる。

大多数のものは聖人と聞くと宗教に身を置く関係者を連想するが実はそれは違う、あらゆる宗派では聖人・聖女の存在が確認されているがそれはそのもの個人が自身が所属する宗派内で立場を確立させ身分としての称号に過ぎない。


真の存在そのものが聖人というのは神に見初められた獣人・亜人・人間・逸般人・逸脱者が神の従者となることで聖人へと至り魂が変質し人間種の一つ上の上位存在である。当然逸脱者より希少種ではあるが抑々此処110の星では真の聖人は存命の者は未だ2人しか居らず、その内の1人が聖領域国ゼファースの聖帝ソフィアでその存在と威光は世界が認める程だ。残り1人の聖人はというと奇人3人による奇跡の所業によって誕生した色々ぶっとんだ聖人マリステラでその特質振りから今現在は保護者が存在を隠匿している


一部の神々からはおおよそではあるが一応種別に区分けがされている


超越者



幻獣種・悪魔・天使


聖人


逸脱者


獣人・亜人・人間・逸般人


妖精・精霊


上段に上がるにつれ上位存在となるが単純な戦闘能力の差はこれに当てはまらない。勿論これは自身より上の存在が個々人の能力次第で打ち倒すこともできる。


妖精女王ティターニアが徒党を組めば逸脱者の剣星ロックを倒す事は可能、一部の逸般人なら幻獣種の上位種すら倒せる、聖人ソフィアや一部の神・一部の超越者は抑々戦闘能力自体ないので並の人間種ですら倒せる程だ。まぁ最もその一部は不老不死・不滅なので倒すことはできても滅ぼすとなれば話は別だが



つまり存在の区分けというのは個々人の能力の上下に関係ない確固たる差だ



それほどの存在とも言える逸般人のみの徒党なのだから並の徒党のように前知識・準備・覚悟・戦術は基本がん無視だ。


そんないかれた徒党の艶舞がなぜ今になってこの遺跡に鬼気迫る意気込みで挑んでいるのかというと涙なしでは語れない理由があったのだ






そう、一週間前




「「は?」」


「えっとね・・・だからその、ごめん。私妊娠したから引退するわ」


「は? 何言ってんの? 許されざるよ?」


「おいおいミウちゃんさぁ、私達の結成当初の誓い忘れたの?」


「―――ごめんて」


「違う、そうじゃない。謝罪なんてなんの意味も無い、分かってるでしょ?」


「いやいや待って妊娠? え、その腹に子供いるの? え? 男できたの? 処女卒業したの? まじで? 羨ましい私も卒業したい彼氏借りていい?」


「いいわけないだろ! 私の旦那は初心なんだからちょっかい出すな行き遅れの処女どもが」


「お? 戦争か? 戦争するか? やるかこの雌豚くそビッチが」


「抜け駆けしてその言い草、女の友情はほんとポーション並みに儚いわ。私達の誓い合ったあの約束、抜け駆けは無し、幸せになる時は他の面子にも男を紹介するって盟約忘れてないよね? 忘れたっていうならあんたの旦那まじで寝取るよ?」


「―――忘れる訳ないでしょ・・・・・たださぁ、うちの徒党への評判考えてみ? 私が旦那捕まえられたのがとてつもない奇跡だよ? この艶舞に男を紹介? 勝敗は別に剣星に決闘挑むほうがまだ可能性あるじゃん」


「「・・・・」」


「ユイ、あんたの理想の男って屈折ショタだろ? うん無理。サナ、あんたの理想の男って王子様(笑)だろ? いい年した女が現実見ろ。私にどうしろっての」


「「お願いします男紹介してください処女卒業したいんですえっちしてみたいんです」」


「無理無理、あんたらの性癖に刺さる男なんて犯罪以外に手に入れる手段無いから。という訳で私は来月には結婚するから引退と脱退手続きするから。あ、結婚式には来ないでいいからね? あんたら来ると処女が再発しそうだし、折角の目出度い式に負け犬のケチがつきそうだし。じゃ、これからもズッ友でいようね☆彡」



・・・・・

・・・・

・・・

・・


この捨て台詞を最後に艶舞の3人は取っ組み合いの大喧嘩となった、結果酒場が半壊し、巻き添えで大勢の負傷者を出し、こうして女の友情は砕け散った。


そして今に至る


そう、友の突然の裏切りにより現艶舞は3人態勢から2人態勢となり、またかつての友の抜け駆けに触発されてこれ以上の行き遅れは勘弁となにがなんでも男を捕まえるという野望をこれまでにないほど再燃した・・・その結果



どうしよう男ほしいよね

でも犯罪はやばいよね

媚薬・・・

それ前に錬金組合に拒否られたじゃん

どうしよう男ほしいよね

もうこの際ルギサンドへ渡って好みの奴隷買って旦那にするってのは?

無駄に金だけはあるからそれもいいけど・・・前にそれ試しにセンドの奴隷商会行って男漁ってたら何故か喧嘩になって私ら全国の奴隷商会出入り禁止されたじゃん

ああ・・・そうだった、あれなんで喧嘩したんだっけ?

ミウが童貞なのにえっちが大好きで上手な弟属性の姉萌え美少年を出せって騒いで商人に正気を疑われて暴れた

あ~あいつ頭おかしいもんね

どうしよう男ほしいよね

犯罪以外でなにか、超常の手・・・

あ、超常といえば

何何?

ルルア渓谷で見つかった新しい遺跡、悪魔がどうの聞かなかった?

聞いたかも・・・!?

悪魔って願い叶えてくれんでしょ? 裏切者のミウの魂でもなんでもあげるから男召喚するか男にモテモテ体質にしてってのはどう?

それだ!

よし、それでいこう。でも流石に悪魔に関してはなんの予備知識も無いしなぁ

確かに・・・! ペタにルギサンドから遠征にきてる悪魔信奉者のプリーストいるじゃん!

それよ! そいつ拉致ろう



こんな経緯でルルアでも最大手の一つでもある徒党ペタで駆け出しトレハンとして頑張っていた見習いプリーストのララはいかれた徒党、艶舞に目を付けられ有無を言わさず拉致られ、あれよあれよと話題のルルア遺跡に連れ込まれあらゆる意味で有り得ない光景を見せつけられた・・・



(ありえないありえない!! 妖精魔法が行使できるってことは中級以上の妖精ってことよね? それにあの悪魔達・・・名付きは居なかったけど中級以上の眷属悪魔って、教団が知ったら布教も忘れてここに駆け付けるわ・・・そしてそんな異常な存在を難なく圧倒するこの2人、異常過ぎて最早怖いです・・・)


ララが恐々としてとぼとぼと進んでいる前方、トラブルメーカーの艶舞の2人は不貞腐れた表情で歩を進めていたがララの隙を盗んでこそこそと内緒話をする


(ねぇユイ、どうしよ。計画が狂ったね)


(そうねサナ、まさか会話ができないとは予想外だったわ。どうしましょ)



今回の遺跡探索、通常とは異なり走破が目的でもなければ財宝探索が目的でもない。そう、悪魔が目的なのだ

なのにその悪魔が会話不可能とは計算外だ。


此処までに7体の悪魔と遭遇しぶちのめした後に叩き起こし「ねぇ、あんた悪魔でしょ? 悪魔なら取引してよ。美少女ではないけどそこそこの美女捧げるから私達にサド気質の小生意気で屈服のさせがいのあるショタとメンヘラ気質のイケメン王子頂戴」と無茶を吹っ掛けたものの、悪魔はポカンとした後すぐに気を取り直し首を横に振る、この繰り返しが七回だ。どうやら此方の言葉は解するようだが疎通ができないようでお手上げだ。



「ねぇあくまっこ」


「・・・ぇ、もしかして私のことですか?」


「あんた以外誰がいんのよ、でさ。悪魔って願いを叶えたり取引やらできるんでしょ? 今まで遭遇した悪魔それが出来ないようだったけど何か条件があるの?」


「えっと、悪魔の種類によって異なるのですが・・・先ず、願いを叶えてもらうというのは余程悪魔に気に入られない限り不可能ですね。取引自体は恐らく可能でしょうが・・・どうもこの遺跡には更なる上位種の悪魔の存在もありそうでして、恐らくその悪魔が支配してるのでしょうから取引やら契約云々となると上位種でないと出来ないと思われます」


「ほうほう。そいつは会話できるの?」


「名付きの悪魔ともなると勿論会話も出来ますけど、なにより危険ですよ? 種類によっては問答無用で襲われる可能性も「ああ、いいよいいよ。そん時はそん時考える。とりまその偉い奴に用があるから進むよ」


「ええ~~・・・」



艶舞の傍若無人振りに翻弄されるララだったが抵抗しようものなら何されるか怖いので大人しく付き従う


こうして基地外2人と犠牲者のプリースト(悪)という即席の徒党は未踏の遺跡を破竹の勢いで突き進んでいく・・・・・







そんな一行の有様を遺跡の最下層で遠視の魔法により見ていたとある悪魔が微笑を浮かべる



(さてさて―――ティターニア様の留守を預かり久しぶりの客人ですが、結構やりますねぇ。この様子ですと最下層まで到達しそうですが・・・さてどうしたものやら)


現在この用が済んだ遺跡の留守を任されている悪魔が思案を巡らせる

本来この遺跡はもう目的を果たしているので用済みなのだが折角権能によりこさえた遺跡で妖精女王ティターニアが悪戯用に欲しいと創造を命じたとある大悪神にねだった所二つ返事で貰えた。のだが、今現在ティターニアはとある街の遊技場で毎日を満喫しており遺跡は放置されていた。


見かねた大悪神が部下に代わりの管理を任せた


一応今現在はこの悪魔に任されてはいるが今回久しぶりの探索者は思考看破した所、少し面白い目的の様で単純に追い返すのはどうかと悩んでいた。とはいえ好き勝手する訳には行かないので偉大な上司にお伺いをたてる事にする


(フラミー様、シトリーで御座います。今宜しいでしょうか?)


(ええ構いませんよ。どうしました?)


(ただいまティターニア様より預かっている遺跡に久方ぶりの探索者が来たのですが、どうやらその探索者はシャルマーユでも名を馳せる徒党のようで、時間を掛ければ最下層に到達する程の者たちです)


(ほう。それで、わざわざ伝達を寄越すという事はただ強者が来たというだけではないのでしょう)


(ええ、思考看破した所どうやら目的は今までの探索者達と異なって財や名誉ではなく悪魔そのもののようで、仲間内のもつれにより箍が外れて異性を求めて暴走しているようです)


(―――くくくっ面白い。欲に実直な戯け者は好きですよ。よろしい。加護は評議会の決まり上許可できませんがそれ以外はシトリーの好きにして構いませんよ)


(宜しいのですか?)


(ええ、ティターニアの留守を任せているのでそれぐらいの自由は許可します。貴方の事です愉快な事になるのでしょう?)


(有難うございます。それでは処理を任させて頂きます)




「ふふっ。そうとなれば早速戯れましょう」


シトリーの表情が愉悦に歪む


このまま最下層で歓迎してもいいのだが―――探索者の技量的に踏破は確実なのでそれなら無駄に部下達への被害を拡げる必要も無いと一考し階層主らしからぬ事に侵入者へ自ら出向いてしまうシトリーだった。









遺跡地下12階層




艶舞+プリースト(悪)による暴虐は勢いを落とさずに現地住民未踏の階まで進んでいる


「・・・ところでさ、この遺跡、やたら深くない? もう10階位降りてるでしょ」


「そうね。 かなり進んだと思うけど、全然先が見えないわね」


「あの、恐らくなんですけど・・・この遺跡は悪魔により建造されたのだと思われるので自然遺跡より意図的に入り組んでたり地下何十階とか常識では考えられない大迷宮になってるかもしれないですよ」


「「うへぇ、それは勘弁」」


っと・・・


一行に嫌な想像が過る中、奥に続く広間へかかった所で上空からの不意の敵意をユイとサナが察知して行動に移る。

性格に多大に難ありとはいえ腐っても逸般人の徒党、戦闘センスは飛びぬけていた


上空から一行に襲い掛かる妖精魔法、それも多重詠唱で2つの未知の魔法が放たれる


大きな接近音を放つその異質な魔法にララも数舜遅れて気づくが・・・そのあまりの絶望振りに身が竦んで悲鳴を上げてしまう


「ひ、ひぃっ!」


居竦まるララを無視してサナはその原理不明な可視化された波動を愛刀の片手剣で何十にも切り払い細切れにする


妖精魔法に限らず魔法全般に言える事だが本来ならこんな芸当不可能だ。攻撃魔法の大半は魔法により創造される非実態のエネルギーなので対応する加護や異能がなければ通常の武器では防ぐ事は出来ても切り刻むなどという結果は有り得ない


それを可能にできるのが逸般人と言うものだ。 ―――――最も未知の魔法の前に立ちはだかるという度胸が備わってればこそ可能な芸当だが




「はぁ~~!? なんで人間がパラカノンを防げ・・・ってか切った? え? なに? どういうこと?」



驚きの結果に思わず叫んでしまい姿を現す男子妖精だった


今放った妖精魔法・パラカノンは人間種の行使する最上級魔法エリアルイレイザーに酷使した妖精独自の魔法でエリアルレイザーと違う点は距離に応じて更に威力が増す無属性の速度に重きを置いた妖精が得意とする速射魔法なのだが難なく切り払われてしまった・・・


しばし結果に呆然としていたが、余りの出来事に理解が追い付かず今のは見間違いだと再度パラカノンを行使しようとするが妖精の動きが上空でピタリと止まってしまう


ララが不安気に上空の妖精に視線を向けていたがサナは上空を無視して広間奥に視線を送っていた



「ちょ、痛い痛いっ! 離せ~~! なんでミラージュ見破れるんだよっ」


上空の妖精と同じ声が奥から響いてくる


ユイに背後からだいしゅきホールドで拘束された上空の妖精と寸分違わない男子妖精がジタバタしながら姿を現す


実は上空の妖精は幻影で妖精魔法・ミラージュにより創造された魔法行使可能の虚構というなんとも初見殺しな悪戯魔法だった

その魔法を直観で見抜いたユイが上空からの魔法をサナに任せ、奥から感知できる実体に特攻し見事虚を突かれた妖精が捕縛されたという訳だ。



「ふむふむ、中々ユイ好みの男の子の妖精じゃん」


勝気な態度の妖精に加えて抱きしめているユイの恍惚とした表情にサナが当然の結果だなと言葉を紡ぐ


「うん、みっけもんだわ。ねえ僕。お姉さんの弟にならない?」


背後からのやたら熱い息遣いはなんとか無視できるが放たれた台詞に怖気が走って更に抵抗する妖精、その様が更にユイの琴線に触れ喜んでいたのだが―――次の瞬間、一行の10m程前に黒塗りの門が突如出現し扉が開くとなにか? が姿を見せた



「ようこそティターニア様の遺跡へ。歓迎し・・・ふむ、その子を離してもらえませんかね?」


扉から現れたなにかが気さくに語り掛けるがユイ・サナ・ララは碌に動けなかった

ララに至っては遂に腰を抜かしてしまう程だった




((――ああ~・・・これはやべぇ))



艶舞の2人は直面して魂から理解させられた。目の前のなにかは2人掛かりでも碌に相手にもならない恐ろしい強者だと、外見は男娼とも思えるほど美青年だが本質はそこではない。 外見など些事と言えるほどのなにかから放たれる内包された不気味な力は見た目通りの人間とは結びつかないなにかだ。


余りの出来事に呆然としてしまうがその隙を突いて変態の拘束から逃れた妖精が前方にいるなにかに必死に駆け寄る


「しとり~!! 助けてっ! こいつら変態の癖においらの魔法切った変人だよっ」


妖精が涙目でなにかに縋り付き、その頭上をなにかが外見に似つかわしい優し気な所作で撫でる




「・・・ぇ、しとりー? あのシトリー様!?」


目の前で紡がれた名前に聞き覚えのあるララがつい今し方の恐怖さえ吹き飛び驚愕に襲われる


悪魔の出現するのこの遺跡でその名前が出れば結び付く存在をララは知っている


「おや、私をご存じで?」


「ま、まさか―――ソロモン72柱の一柱、シトリー様ですか・・・?」


「ふふっ。信奉違いとはいえベリアルの信者に名が知られるというのは気分がいいですね」


「・・・・・ねぇあくまっこ、こいつ悪魔なの?」


「は、はい。名のある高位悪魔で支配者層でもあられるシトリー様です。私の信仰するベリアル様と同列の御方です」


いかれた変人に拉致られて恐ろしい目にあったがまさか崇拝する悪魔の縁者と遭遇するとは思わぬ僥倖にララは歓喜の涙を零していた

トレハン新人とはいえ故郷のルギサンドでは信仰心の熱い悪魔崇拝者のララにとって我が神と同等の存在を直にまみえれば報われるというものだ


「そう。――私達が敵わないのは痛感させられたけど、問答無用で襲ってこない所を見ると交渉の余地はある?」


「交渉ですか? ええ、勿論。私は貴女達のような人間種は好きなので」


「単刀直入に言うわ。私と隣のサナを親兄弟嫁を売っぱらってでもお近づきになりたいってぐらいに男を魅了しまくる的な、なんかそんな感じの力を頂戴。もしくは理想の男を召喚でも造るでもなんでもいい」


自身を軽く凌ぐ化け物相手でも持前の性格から物怖じせずにとんでもない要求を飛ばすユイだった


「対価がいるなら私達の為なら身を捧げるっていう友人思いのそこそこいい女好きにしていいから」


ユイに続いて勝手に元友人を売り払うサナだった


「・・・・・ふふっ、私好みの取引と結末ですが―――しかし残念な事に今は諸事情で契約ができない状況でして」


「「そんなぁ~」」


シトリーの返事に艶舞の2人が膝から崩れ落ちるが・・・・・2人が相手しているのは一筋縄ではない高位悪魔だ


「ただ・・・先にも申した通り私は貴女方を本当に気に入っているのです。今の提案も良かったですし、なので取引ではなく個人的に贈り物を差し上げましょう」


「「くわしく」」


「今から此処にとある思念獣を召喚します。その思念獣は少し変わり者でして、特質は異性を惹きつけます。見事それに打ち勝ちその躯を利用すれば・・・この先は言うまでもないでしょう」


「「ありがとしとりーさま!! 私達信仰します!」」


いかれた悪魔崇拝者が新たに2名今この瞬間誕生した


「それは嬉しいですね。では私はこれで、ああ、貴女方には無用な助言かもしれませんが、私には及ばないにしろそれなりには強敵だと思いますので頑張ってください」


そう残してシトリーは先の巻き戻しのように扉を通って門ごとかき消える


ちゃっかり男子妖精もシトリーの後についていき門を潜る前にユイにあっかんべぇして去った


一拍おいて突如足元に不気味な召喚陣が発生したと思ったら陣の上が不気味に明滅し艶舞が距離を取り警戒しその背後にララが控える、一行の視線が重なる中、召喚陣の上には4m程の見た事もない巨獣が出現した


初見の相手だがその力は艶舞には直ぐに見て取れた

今まで相手にしてきた最上級の魔獣すら上回る強敵だと、だが――先ほどのシトリーのような上限が見えない相手ではない。



つまり低いとはいえ勝ち筋が見える相手



そうとなれば艶舞の覚悟完了だ。なにせ勝った暁には望みが敵うのだから、これまでにないほど本気で集中して油断も慢心も無く慎重に挑む









激闘の末、満身創痍とはいえ見事思念獣を打ち倒し勝ち残った2人は喜びから抱き合い、各々この先に待っている理想の男達を侍らす幸せの光景を胸に早速と思念獣の死骸に素材剥ぎ取りを・・・と思った所で手が止まる


「この馬鹿でかい奴のどの部位がいるのかしら」


「悪魔様が遣わしたレアモノだからどこもかしこも何かしらに使えるんじゃない?」


思わぬ壁にぶつかりララも交えて3人で作戦を立てるが3人とも初見でどの部位が有用でどこが不要なのか判断できないということで死骸丸々ルルアに持ち帰る事になった。


とはいえこんな巨大な戦利品3人掛かりでも運搬できないのでサナだけ一時ルルアに帰還し運搬用の大型荷車を手配して再度此処に来る手筈となった。流石にこの遺跡をララ単独でここまで再度往復はできないし躯をそのままにして3人とも帰って出直すというのは可能性は限りなく低いが別の徒党による躯の盗難が不安なのでこの塩梅となった。




こうして艶舞+プリースト(悪)よる急場の即席徒党の摩訶不思議な探索は終わった


戦利品の躯を鑑定商に持ち込んだ所、予想を超えてかなりの大物だったようでバゼンという名でその強さと特質振りからドルシア大陸では恐れられ、また一部の亜人達から畏怖されるほどの存在だったらしくその快挙にトレハン組合は宴会となった


また躯の素材的価値については蹄が目的の効能があるらしくそれ以外の部位は2人の興味を引かなかったのであっさり売り払ってユイ4・サナ4・ララ2で分配した。3分割しても艶舞の活動報酬5年分の収入が懐に入った程で新人のララに至っては余りの巨額振りに絶句した。


星金貨・金貨の山という驚きの臨時収入も嬉しい誤算だが初志貫徹、当初の目的でもある思念獣の蹄を手に早速製薬の専門家に持ち込み・・・の前に艶舞はトレジャーハンター組合の2階にある一室を貸切って以前の騒動再び・・・つまり名立たる女性戦闘職―――淦金(あかがね)・ヴォーパイバニ・アイスロー・エクスデア・貴腐(きふ)・フロシス・ドロス・気聖拳(きせいけん)・エンドレア・絶早(ぜっさ)・ユドシー・ペタ・コボルトさんモフモフ隊・シャイタン様に踏まれ隊という錚々たる徒党の代表面子が再集結した


この顔ぶれで集まれば言わずとも各々判る。男にまつわる話だと

皆清らかな乙女といえば聞こえはいいが要は行き遅れと行き遅れ目前達による喪女会だ



この悲しい会ともこれまでと期待を背にユイが開幕の宣誓をあげる


「はいちゅ~も~く! 詳細は省くけどルルアの遺跡で素敵な悪魔様からの贈り物を貰ったわ。これよ」


そう言って懐から大層に取り出したバゼンの蹄を頭上に掲げる


この場に集った面々は歴戦の戦闘職だ。その未知の素材に関心は寄せるがそれがこの呼び出しに結びつかず困惑の声が漏れる


「ふっふ~ん。これはね、異性を魅了させる素材よ。それも悪魔様のお墨付きという飛び切り凄いもんよ」


続いて放たれた台詞を皆が魂から理解した瞬間、場は静寂に包まれる。そして一拍置いて一部の女性達の瞳に狂気が宿りその素晴らしい素材に執着を燃やし始めるのだが―――


「私達は同じ悩みを抱える同志よ。独り占めなんてせこい真似はしないわ、皆で共有するわ」



そして最後にユイがその性格に見合う飛び切り悪い笑顔でボソッと核心をつく



これが完成すれば私達は理想の男連中を裏切り者どもから寝取って侍らせ、逆ハーレム作りまくり――つまり処女卒業してえちとも100人も夢じゃないのよ♪



この台詞により場は狂喜に支配され大歓声の嵐が飛び交うことになる




妄想に取りつかれ暴走する乙女達の行動力は凄まじい

早速組織ぐるみで結託し組合を挟んだら前の二の舞と踏んで製薬の専門家に直交渉して内密に作成してもらう(拒否されたら? 選択肢を突きつけます 製薬するか死ぬかと)という事になりルルアで製薬で有名といえばとある工房の錬金術師が真っ先に名が上がったので組織の中から比較的人当たりの良い者を選出してバゼンの蹄を持たせて交渉に向かわせた。





交渉人も驚くほどあっさり錬金術師は引き受けた


組合に露見したら厳罰だというのに件の錬金術師は「前々から媚薬関連には興味があったのよ! 聞いたことのない珍しい最希少素材ってのも興味が惹かれるわ。それに・・・星金貨50枚も貰えるんでしょ!? むしろお願いするからやらせて頂戴!!」



と、ノリノリで事は進んだ



完成までの間組織の皆興奮冷めやらぬ有様で首を長く待った。そして一週間が経って交渉人が日課にしている工房に確認に行くと大興奮で戻ってきたと思えばなんと見事特性の媚薬効果のある水薬が完成したと箱一杯の水薬を胸に皆に報告をあげる




この後の組織にもたらされる惨状は酷いものだった・・・・・



媚薬完成から3日も経たずに詰所や各組合・代官の元に被害者の家族が詰め寄せた



突然旦那が豹変して離縁を叩きつけて他の女の元へ去った

彼氏が仕事から帰ってきたと思ったら何故か狂ってあの人の奴隷に俺はなるとか叫んで捨てられた

息子がご主人様の犬に転職したとか訳の分からない事言って出て行った

弟が何故か居もしないお姉ちゃんと結婚したとかのたまってどこかへ消えた

兄が許嫁を捨ててロリ熟女は大正義とかほざきながら飛び出してしまった

甥っ子が性悪女に誑かされた! 王子としてあの娘の傍に居たいんだと残して絶縁書を遺して行方不明なんだ! 頼む、大事な跡取りなんだ探してくれ


等々、これでも一部の有様で押し寄せた人数はゆうに200人を超えている

これが1人2人なら単なる痴情のもつれと聞き流すがこの人数は只事ではないと非常事態と判断して急遽対策本部が設置され責任者揃い踏みで事態の収拾を図るが軽く調べただけで直ぐに加害者? 連中が判明した。


したものの・・・どうしようもない相手達なので更に頭を悩ます羽目になった


実力的に組合所有の私兵では排除はまず無理、強権を行使してルルア所払いをしようにもこれだけの有力者を一斉に手放したらルルアの戦闘職組合への損失が領主も真っ青な事になる、平身低頭に控えて欲しいとお願いしようにもあのバーサーカーっぷりでは聞く耳持たないだろう


そもそも状況からして惚れ薬のようなものを見境なく使用してるのだろうとは察するがその手の規制が無いのでお手上げだ。これが法に抵触する薬物の乱用という犯罪行為によるものならまだ衛視や何故かルルアに駐在してる軍を動員すれば解決の見込みはあるが・・・最もその場合ルルアの至る所で市外戦が繰り広げられて被害がとんでもないことになるだろうが



二進も三進もいかないなりにとりあえず件の推定惚れ薬の供給を絶とうととある組合長へ視線が集まる

この場に参加してる全ての者が元凶に既に目星が付いているので誰に指示するか明白だ



吊し上げられた錬金組合長のバージルは意気消沈しつつ組合に戻り元凶のお目付け役の哀れな元受付嬢を呼び出し事情を説明する



呆れた内容に愕然とするお目付け役だが前々からこの手の危惧をしていた難事ではあったのでその足で火元の工房へ向かう


この手の規制がないとはいえ管理責任の面ではある程度追求することはできるので権力の乱用にはなるがこの際それには目を瞑って問題の錬金術師を呼び出した。

今回の騒動を説明したところ、ど下手にとぼけて逃げようとしたのでかまをかけたらあっさり自白した。その後泣きじゃくる錬金術師を責め上げ、ばしばしに張り倒し、正座させ2時間説教をかまし、工房に二ヵ月の営業停止を下し、最後に錬金術師には騒乱誘致と独占防止・危険薬物製造の3つの前科がつく事を告げ星金貨5000枚の賠償金を課せた。


賠償金の額を聞いて放心した錬金術師の表情を見て幾ばくかの溜飲は下がったがまだ解決した訳ではない


目下暴れている女性冒険者連中については一介の元受付嬢にはどうすることもできない・・・抑々立場を捨てて本音を晒してしまえばその問題の媚薬をこっそりぽっけないないして自分が使用したいぐらいだというのに・・・・・




こうして何かと話題のルルアでは短い間痴情のもつれ騒動が引っ切り無しに続いた

比例するように当事者・無関係な女性冒険者連中への評判は凄まじい勢いで地に落ちていく

乱れる女性達による性地獄だと市民が嘆いていた所、とある事件が発生した



媚薬を手に関係を迫る女性から命からがら這う這うの体で逃げ延びた少年が詰所に駆け付け状況を説明し、大人しく聞いていた衛視長が同情しつつもある閃きが過った。


この事件を皮切りに未成年監禁罪として堂々と媚薬に関する罰則を取り付けてしまおうと画策し対策本部と結託した

その結果、凄まじい速度で法整備が整い媚薬・惚れ薬・精神支配系に纏わる薬についての法が誕生した


その知らせに暴走していた女性冒険者連中は舌打ちしたが既にパートナーや逆ハーレムが出来ていたので苦虫を嚙み潰したような表情にはなりつつも更なる暴走は無かった


更に暫くしてくだんの錬金術師手製による媚薬の解除薬なるものが誕生し、今回の騒動による被害者と思われる人物達への治療が強制的に始まって女性冒険者連中は極短期間の夢のような間柄でもある、旦那・パートナー・逆ハーレム要員・犬・王子・パパ・奴隷・弟・兄・ご主人様・アッシー・ヒモ・えちともetc///



全て失った




更に更に後に媚薬を改良して効き目を薄めてなんとか販売可能ではと未だ懲りてない錬金術師による追求に某受付嬢は失神した。

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