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臆病兎の錬金経営譚  作者: 桜月華
132/148

132話 深謝される錬金術師

幻神歴2961年12月30日


年の瀬の昨今、アシュリー工房にはまたしても長蛇の列が出来ていた

雪が降らない地域とはいえ12月、冷え込むので急遽アリスを叩き起こし、物珍しいビーフシーチューを何百人分と作らせ列に並んでる客達にアマネと妖精達が配っている


今回のお礼相手はコボルトとカレンなのでカレンも地下工房から顔を出しコボルトと一緒に客達を1人1人丁寧に迎える

シャルマーユでは年末祝いにお歳暮として菓子を配る風習があるので今日の行列を見越してコボルトがカレンとアリスに様々な菓子を作らせ小袋にラッピングして客1人1人に挨拶と共に配る

これだけの人数となるとなにかと金のかかる菓子を配るのはかなりの痛手だが祝い事と割り切って笑顔で贈る事にした。


若い剣士からは

コボルトさん、タフネスとビルドポーションのお陰で剣術師の昇段が決まったよ! ありがとう


若い一般女性客からは

グリスポーションのお陰で無理なく痩せれて助かったわ。ありがとうねコボルトさん


何本も武器を抱える豪傑な剣士からは

コボルトの旦那!! セーフポーションまた大量に仕入れといてくれよっ 幾らあっても困らねぇからな、はははっ


幼い子供からは

ポーションのお姉さんありがとう。アストラルポーションのお陰でお母さんが退院できたの


学者風の客からは

コボルト殿、このリードポーションとスクラップポーションについて我が国と大量契約を結んで頂けないだろうか? これは今まさに研究している新しい次世代の身分証明機器に有益で大量に必要なのだが


切羽詰まった女性トレハンからは

コボルトちゃん。このチェンジポーション大量に頂戴! 同じ班の同僚に飲ませて喪女を脱出したいのっ


見習いポーターからは

コボルトさんトリックポーションのお陰で俺でも班で役に立てるようになったんだっ! ありがとう


小金持ちの一般客からは

ねえちょっと、ラックポーション飲んでカジノ行ってもあまり勝てないんだけど!?


等々、一部不穏な声もあったが概ね2人への感謝の言葉だった。

コボルトへの謝辞に対してカレンへの謝辞は圧倒的に少ない。それもその筈でコボルトと違いカレンは普段表に出ないので知名度が圧倒的に低い

今回のポーションの数々の発明品を加えてもカレンへの認知度は精々がポーションの人ぐらいである


それに対して横に並んでるコボルトに愚痴を零すもコボルトには「あたりめぇだ、商人なら顔を売れ」と正論パンチをかまされる



そんなお客様の列も無事さばき、今年最後の営業をアシュリー工房は終えた。次は年始の5日に営業開始で、この一週間はアシュリー工房の従業員の休暇となる

対してコボルト&フェアリー遊戯場は年末年始も変わらず営業しており一般市民から貴族階級まで賑わっている


新装当初は戦後初の公共のカジノ、それも妖精が応対するという物珍しさからコボルトの予想を外れカジノでも大金が稼げたが今は落ち着き、コボルトの当初の想定通りとなりカジノの売り上げは維持費を引くとほぼ儲けは無い。それでもアシュリー工房への宣伝にはなっているのでコボルトとしては諸手を挙げる結果だ。


ラックポーションへの対策も抜かりなく、妖精達にはラックポーション服用者が判断できるようになっており服用者には妖精もラックポーションを服用して相手をすることになっている

それでも対妖精に対しての予防策であって客同士の対戦ではラックポーション服用者がぼろ勝ちしているのだが・・・一本金貨100枚という望外な値段で市民では手が出せる筈もなく、専ら貴族専用遊戯場で猛威を振るっていた。


アシュリー工房が終業となって妖精達が其々神域の森へ遊びに行ったり遊技場に向かったりした所で工房の面子が台所に集まり今日の成果を其々報告する


「売り上げの前にこの山のようにある菓子、俺っちとシャイタンでたいらげねえとな」


「任せろ」


アシュリー工房からの感謝のしるしに客其々にお手製菓子を配ったが当然客からも其々安物から高級なものまで千差万別で台所の机の上には山のように積み上げられた菓子があり、また菓子ということで日持ちもしないので大食漢のコボルトとシャイタンの出番だった。



アリスも珍しい故郷の菓子を見つけては摘まんで、アマネは適当に1つ開封して甘未を満喫している。そんな折にカレンが立ち上がって皆に贈り物があると其々の期待を背に部屋に取りに行く

そして台所に戻ってきたカレンは胸いっぱいの綺麗に梱包された小袋を其々に配る



アリスには姉のレシピから新開発した桜の葉を用いた菓子でもある桜餅を、アマネにはアマネ監修の元成功させたこの星初となるチョコキャラメルを、隠れ甘党のシャイタンにはココアクッキーを、コボルトには蒸留酒をシロップ化させ中に詰めたチョコ菓子を、フラミーには以前の菓子騒動で粒あん派と知り餡団子を、と其々開封してカレンに感謝の言葉を贈る


そして珍しいことにコボルトも皆に贈り物があると部屋に取りに戻ってくるとカレン・アリス・アマネにはフルーラの最上位絹で編まれた色違いのマフラーを其々にアリスには薄紅色を、カレンには本紫色を、アマネには銀白色を贈り、フラミーには背格好に合わせたガウンを、そしてシャイタンには黒のケープを贈りこれに対しても皆コボルトに感謝の台詞を贈った。


フラミーのガウンは様になっているが後にシャイタンのケープが女性ものであると判明し、アリスにからかわれるがシャイタン本人はまんざらでもなかった

なまじ中性質で本人も自身の性質を理解しているので抵抗はなかった。


それからアシュリー工房の毎夜の恒例でもあるその日の売り上げ計算だが、今日はあまりにも貨幣と紙幣が多かったので明日に持ち越しとなり、一足早い年末祝いの御馳走を満喫することになった

途中隣宅のエイシャ家の3人もおかずを持参して参加して大賑わいとなった。


翌日、31日


朝餉を済ますとコボルトが超大量の貨幣・紙幣を台所に持ち込み、昨日の売り上げ計算を始める

市井ではいまだ紙幣は浸透しておらず、専ら貨幣だがそれでも金額が金額なので紙幣もちらほらと交じっていた


「よしっ終わったぞ」


「それでそれで、幾らだったの!?」


カレンが期待を胸にコボルトをせっつく


「聞いて驚け。各々で星金貨560枚と金貨321枚と銀貨180枚と銅貨480枚だ。金貨18000枚分は紙幣だったが残りの貨幣も今日中にミシュラの姉さんとこ持ち込んで紙幣に替えてもらうつもりだ」


新たな魔導具レコレクションに加え新商品のポーション13点の売り上げも加算されてもはや売り上げは超大規模大店へ逼迫するほどだった。個人で星金貨560枚程、5頭分にしてるので一月の売り上げでいうなら星金貨3000枚程となるのだが、それでもまだ超大規模大店には僅かに及ばない。それほど大規模大店と超大規模大店の壁は厚い。なにせ超大規模大店となれば貴族達による纏め買いが基本なので動く金額が途轍もなくでかい。アシュリー工房は個人店なのでおそらくはここらが限界だとコボルトは判断している


そして貨幣を紙幣への換金だが、街の両替商でも対応可能なのだが金額が途轍もなく大きく、手間賃も相当かかるので顔見知りのミシュラを頼ることにした

本来ミシュラは徴税間なのだが役職柄貨幣を紙幣へと推移させる権限と巨額の紙幣を任されている


ミシュラは本来本国勤めだったのだが今回のカレン・アシュリーの借金取り立ての件でルルアに仮住まいすることになり、最近ではルルア領主シャナードやシャナード派閥の貴族達の相手をしており、たまの息抜きにコボルトといつもの面子の姉御肌のはぐれ魔法師と加工組合長、ルーシェと飲みに行く仲となっている


「凄いっ! ねえシャイタンさん年末ってことで市場で簡易オークションしてるの。是非行きましょ~」


「ええ、ですがその前に私奴とフラミーからのカレン様への贈り物も受け取って頂けませんか?」


言葉とは裏腹にこれ以上ないほどの悪戯顔で提案するシャイタン


「え!? 何々」


贈り物と聞いてシャイタンの悪戯顔にも気づかずひょいひょいとシャイタンに先導され工房の外へ向かう


そして・・・


「ひっ、ひいいいい」


カレンは尻もちをついて物凄い勢いで後ずさりする

そう、カレンの目の前には10m程のエメラルド色のドラゴンが鎮座していた


つい先ほどまでのウキウキ気分も吹き飛んでうさ耳は哀れなほど萎れ、涙目であうあうぱにくるカレンに横からシャイタンが種を明かす


「ご安心を、これは死骸ですので」


してやったり顔でシャイタンが述べる。それを聞いてたっぷり数分固まった後におずおずと立ち上がりドラゴンを改めて見上げるカレン


「―――ほ、ほんとに? 本当に死んでるの?」


「ええ、カレン様の素材用にと保存の魔法処置も施しております」


外傷は見られないが確かにピクリともしないので少し恐怖感が和らぎ、ドラゴンの周りをおそるおそるぐるぐると回って確かめる

まるで寝ているかのような状態だが身動ぎ1つしないのでおそるおそるドラゴンを軽く突いてみる。反応が無い、本当に死んでるようだ

そうなれば話は別で先ほどまでの畏怖感は吹き飛び、夢にまで見た超高額のドラゴンの素材、それも一匹丸々無傷で手に入ったとあっては喜び勇むのも無理はなく、ドラゴンの周りを小躍りしていた。


何せドラゴンの素材ともなれば鱗1枚で星金貨300枚という超破格の品だ。これをオークションに出せばカレンの借金も大分減るのだが生憎カレンは金ではなく素材として見ている


「凄い! 凄いわシャイタンさん!! まさかドラゴンを丸々手に入れることができるなんて―――錬成が捗りまくるわ!! ありがとう。シャイタンさん」


歓喜のあまりうさ耳をばたつかせながらシャイタンの懐に勢いよく飛び込むカレン


「いえいえ、探したのは私奴で仕留めたのはフラミーですので」


「そうなの? 後でフラミーにもお礼を言わなくっちゃ。・・・それにしてもこんなでかいドラゴンに勝てるって凄いわね」


戦闘力皆無のカレンはドラゴンともなるとその強さは計り知れない

ただ、書物で見知った強大な化け物ぐらいの認識だ。カレンからしたら最下級の魔獣もドラゴンも同じ脅威なのだ


一方シャイタンとフラミーは話は別でドラゴンなど軽く一蹴できるので戦闘は問題なかった。ただこの星にはドラゴンが極端に少なく、今確認できているのは幼体3匹だけなので生態系を狂わせるのはカレンへの錬金素材の供給に支障が出ると踏んで他星でドラゴンを探した。


「仕留めた今となっては無意味ですが生前はこのドラゴンは覇国竜を名乗っていましたね」


くつくつと笑いながら詳細を明かすシャイタン

覇国竜は他の星では猛威を振るったドラゴンの大帝国の主だったのだが大悪神のシャイタンとフラミーの2柱はそんな背景お構いなしにと乗り込んで帝国内のドラゴン全てを洗脳・殺害・確保しておりシャイタンの支配星の1つでドラゴンの交配実験にも回され今後もドラゴンの安定供給が可能となった。


大悪神の笑みとは裏腹に『竜』と聞いてカレンは及び腰になってしまう


「―――え? 竜? これってドラゴンじゃないの? 竜は流石にちょっと・・・竜様の手前拙いかも」


かつてのルルア渓谷で出会った巨大な漆黒の竜を頭がよぎる


「いえ、これは紛れもないドラゴン種です。流石に竜種と揉めるのは私奴やフラミーでも避けたいところです。ドラゴンの一部は竜種に嫉妬と憧憬の念があって自らを竜種と名乗る呆れたものもいる生物なのです」


「へぇ~。ドラゴンと竜ってそんな関係なのね」


その後流石に工房の入り口にすら入らないということでシャイタンの時空掌握(じくうしょうあく)に一端収め、後程地下工房に移すこととなった


丁度いいのでこのまま簡易オークションへ行こうと2人して仲良く腕を組んで市場へと向かう


オークション自体は昨今のルルアの人の出入り振りから観光業も羽振りが良く、よく開催されているが公共のものから私営のものと様々とあって今回カレンが耳にしたのは私営の簡易オークションで年の瀬の商品大解放をうたっており大いにカレンの気を引いた。何より以前ルーシェに代理を頼んだオークションにはカレン自身は通ってないので初のオークションに気分は上々だった。



市場に着くとその混雑ぶりからオークション会場はすぐに見分けがついた

超雑多に人で溢れ返っており、一部は貴族の使いなのか仕立てのよい使用人服を纏ったものまでおり、当然警備も厳重でそこかしこに武装した戦闘職が目を光らせている


私営オークションでこの警備振りからして主催者の金力が窺い知れるものだ


どうやらまだオークションはまだ開催されていないようでカレンとシャイタンの2人は存分に人目を引きながらも大人しく待っていると友人から声が掛かる


「お~い、お前さんらもオークション目当てか?」


「あら、ルーシェさんおはよう。ええ、初めてのオークションだからドキドキするわ」


挨拶も済んだところでルーシェがほれ、と懐から小袋の菓子をカレンとシャイタンに手渡す

流石花街通いしてるだけあってこの辺は抜かりが無く、カレンは持ち歩いておらず困ったが気にするなと強引に話を進めるルーシェ


「そうかそうか。儂も今回のオークションに放出されると噂されてるレアミスコアが目当てじゃ」


「レアミスコア・・・確かミスリルの極一部から抽出される希少金属よね、マリステラに? というかマリステラは居ないの?」


「ああ、マリステラの錬成用にな。あんな歩く秘術こんな人込みに連れ出せんよ。本人は来たがってたがベッドに縛り付けてきたわい」


比喩ではなく本当にぐるぐる巻きにされていた


今ではすっかり市場のマスコットとなっているマリステラだが、流石に今回のように外の眼が大いにある場に連れ出せる訳もなく・・・そもそも人体錬成を疑われかねない秘術の集大成のマリステラを外に出すこと自体反対なのだが、主人の意にそぐわずマリステラは使用人魂を燃やして毎朝市場に買い出しに通っている


今回のオークションにも当然の様にお供に付いて来ようとしたので文字通りベッドにグルグル巻きにしてきたルーシェだった


「あらら、年越しの挨拶にまた遊びに行くって伝えといて」


「ああ、それじゃあの」


友人との短い挨拶も終わった所でオークション開幕の知らせが会場に響く


前もって入札方法は説明されており、公営オークションのような堅苦しい札式ではなく希望値を直接言って入札するシステムでオークション初心者のカレンでも解り易かった

そして始まる私営オークション。どうやら主催者はかなりの富豪らしく、一品目から力を入れており一品目はルギサンド大陸のギルメア国でも希少な宝石でスークァッドと呼ばれる5㎝程の大きさの眩い光を放つ薄緑色の宝飾品だ


開始価格は金貨10枚だがあっという間に金貨1250枚にまで価格が上がる、珍しくはあるものの錬金素材以外、というより装飾品に関心のないカレンは見送った


その後2つ、3つと宝飾品が続き、4つ目。カレンの興味を引く物が出品された


司会者の説明によると古代に製法された魔力が込められた鞄らしく、その見た目の大きさ以上の品が収められると、鞄の3倍はある剣を収納実演してみせた


「へぇ~あんな便利なものがあるのね」


「鞄を持ち歩くカレン様ならあの品は必要なのでは?」


シャイタンからの確認にカレンも確かにあれは興味深いと、あれば便利だとは思うが・・・


「ん~欲しいとは思うけど――――この金額よ? 1つの鞄にこんな大金出せないわ」


2人の会話の最中にも既に価格は金貨5000枚を超えていた

この鞄、確かに古代の技法で作られた現代では商人垂涎の品ではあるがなぜ出品されたのか、それは収納量が鞄の5倍ほどでしかなく、荷馬車分ほど詰め込める訳ではない

それに重さも増していくので使用勝手はイマイチだった。それでも主催者は同じ品を2品持っており余分な品を出品させた。


主催者の財力と希少な品で場を沸かすという目論見は成功し、オークションが始まってまだ間もないのに大賑わいとなった

落札者は金貨6800枚で落としたどこぞの貴族の使用人だった


今回の品を見てシャイタンは一考する

この手の品なら自分なら幾らでも用意はできるしなんなら宝物蔵に魔法の鞄はそれこそ山の如くある。それをカレンに贈ろうかと思ったがこの星の時代では明らかなオーパーツで市井で使用していると悪目立ちが過ぎると見送った。


そして5つ目の出品、ルーシェが目当てにしていたレアミスコア

希少ではあるものの、使用する場の限られる品で何人かライバルがいたが金にものを言わせてルーシェが無事金貨870枚で落札した。

落札したルーシェはもう用は無いのかオークションを最後まで参加せず去ってしまった


そして司会者によるとここからが触媒・素材・食材と解説が入り一層気合の入るカレン


6品目は食材だったが司会者曰く珍しい食材とのことだが・・・どうみてもアマネの森で採取したカカオにしか見えず、どうやらアシュリー工房の専属行商人から仕入れたらしいそれはオークションを白熱させ、金貨120枚と一食材には途方も無い落札額となった。


そのカカオから一手間加えた飲料でもあるココアが一袋金貨6枚で買えると知れ渡れば益々アシュリー工房の益になるとカレンは内心喜んでいた


続いて7、8品は魔法の触媒でカレンは感心が無かったが組合人数大手の魔法師が携わるだけあってカレンには何に使うのかさっぱりの触媒でも金貨数千枚での落札となり驚いていた


そして9品目。錬金術の素材でアマネの権能で生やせない素材、希少金属リコット

カレンはまってましたと鼻息荒く開始をまだかまだかと待っていた、錬金術師は少ないらしく競う相手もいないから安く落とせると目踏みしていたのだが・・・


金貨300枚


金貨310枚


金貨330枚


「え? え?」


限られた錬成素材にしか使えないリコットなのに競りに参加する人がちらほらと現れカレンの予算はあっという間に超えてしまった


(ど、どういうこと!? 錬金術師は少ないんじゃないの? ああ、私のリコットがぁ)


カレンの内心の嘆きも空しくリコットは金貨540枚で他の人に落札された

錬金術師が少ない。これは半分は合ってるがもう半分は正しくない、カレン・アシュリーによるポーションの発明品による数々に触発された新規の錬金術師がシャルマーユでは増えてきている

それに加えルルアでは公の錬金術師はカレン・アシュリーだけとなっているが公に出ない錬金術師も結構居たりするのでこの様な場ではライバルが多かったりするのがカレンの誤算だった。


目当ての素材が別人の手に渡り涙目で悔しがってる様をシャイタンは心底気持ちよく眺めていた


(くくくっ、思わぬ参加者によってカレン様は今回のオークションの予算を忘れてしまったようですね)


そう、借金奴隷のカレンにオークションを楽しむ予算などあるわけもなく、カレンの給金半分を預かってるシャイタンに出してもらう事になったが予算は金貨200枚までと最初に話し合って決めていたのだ

つまり開始価格からしてリコットは落札できないカレンだった・・・


その後も2つ3つと素材が出品されたがカレンの予算など軽くあしらう札束の暴力でカレンは軽く一蹴されてしまう


心底欲しがっていた素材をこうも易々と他人の手に渡るのは悔しくて堪らない、とシャイタンに予算の追加を必死に乞うたが「駄目です」とこちらも一蹴されてしまう

そして最後の出品となった。


しめを飾るのは希少鉱石でグンショウという特産地のルギサンド大陸でも滅多にお目にかかれない希少な品となっている


「あ~・・・グンショウかぁ・・・一応欲しくはあるけど、私的にはあんまりかな」


「カレン様、あれはどのような錬成に用いられるのですか?」


「あれはねぇ。ポーションの希少種に使えるんだけど、魔導具には今の所用途思いつかないかな~」


「成程」


世間の認知とかけ離れたカレンはポーションより魔導具に重きを置いてるのでポーションの素材と知って若干気落ちしていた

それでも希少素材ではあるので落札に向けて声を掛けるが、やはりライバルがいた。ただ今までの素材の出品と異なりどうやらライバルは1人だけのようで開始価格金貨50枚からカレンとその参加者の2人で金額を釣り上げていた。


「くっ――金貨190枚!」


「金貨195枚」


(お願いこれで決まって)


「金貨200枚!!」


ライバルを凝視するカレン、だが祈りは空しくライバルの更なる声が上がる


「金貨205枚」


カレンの予算を超えてしまった


「カレン様、予算を超えましたね」


「ええ、大人しく諦めるわ」


結果は散々だったが初めてのオークション体験にカレンは満足だった

このままシャイタンと腕を組んで会場を後にしようとした所で先ほどのグンショウを競ったライバルに声を掛けられる


「あ、あの! ちょっと待ってくれませんか」


ぱっと見た所20代半ばの印象の薄い青年でズボンにシャツとシンプルな出で立ちだが顔つきはお世辞にも好青年とは言えず、どちらかというと根暗そうな第一印象だった


「はい? なんです?」


「先ほどグンショウに入札してましたよね?」


「ええ、競り負けたけど。落札おめでとうって言えばいいのかしら」


落札して声を掛けられたならいちゃもんだとカレンでも判るがこの場合どういう意図なのか分からず、素直に応対する


「あ、ありがとうございます。お姉さん方も画家なんですか?」


「え? 画家? いえ、私は錬金術師のカレン、カレン・アシュリーよ。それと隣のシャイタンさんは男よ」


「そっ、それは失礼しましたっ、あのあの、あまりにも綺麗だったのでつい・・・」


「気にするな。それで、貴様は画家なのか?」


「は、はいっ。自分はパウエルと言いまして2流の画家でして、グンショウを染料にすると良い色が出るんです」


「へぇ~素材にばかり気が向いてそんなこと気づきもしなかったわ」


思わぬ会合だったが画家、パウエルの意図は単純だった。

そこそこ売れてはいるものの未だ一流とは言えないパウエルにとって金貨200相当の出費は痛いのでグンショウの半分を半値でカレンに引き取って欲しいとの事だった

公営オークションならこのような共謀許されないが私営オークションではこれが許されており、むしろ協賛金として出資者を募るぐらいだった


パウエルの思わぬ提案にカレンはそれなら予算内だし量もそんなに必要ないからと大歓迎だとその提案を受けようとしたがパウエルから追加で希望を言われる


くだんのグンショウの素材で2人の肖像画を描かせてほしい、と


パウエルは競い合い手を一目見た時からモデルにしたいという衝動にかられていた

アイマスクを付けローブを纏うも顔立ちから綺麗な人だと一目で判る女性に、その横に笑顔でたたずむひたすらに妖しい程美麗な女性、こちらは男性だったが関係ない。むしろ余計モデルに相応しいと掻き立てられる程だ。


パウエルの欲求を理解したシャイタンは問題ない、とカレンに任せ、カレンは絵のモデルになど予想外の事で思わずシャイタンはわかるが自分もいいのか確認したが、2人一緒のほうが望ましいということで照れながらも2人してパウエルのアトリエに着いて行った。


そして描かれた肖像画はカレンは緊張気味に椅子に座っており、その横にシャイタンが満足気に寄り添い立っている所が描かれており完成品を披露された2人は絵心など皆無だが、どこか暖かいその絵を気に入り魔法師による複製を頼んだ。


後日その肖像画が工房に届くとそれを見たアマネが羨ましさから嫉妬に狂いかけた。

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