129話 誘う錬金術師
幻神歴2961年12月01日
アシュリー工房食卓に集まった一同の前には新札の紙幣が山積みされており、それを目の当たりにして各々感想を零す
カレンは500シュリ―を見て誰かに似てるなぁと、アリスはシュリーとかまた安直ね、と、コボルトは1シュリ―に自分が印刷されており困惑し、アマネはアリスの発案に関心し、シャイタンは益々この国が発展する、と、フラミーは一仕事終えた結果に満足だった。
先月の20日に行われた賢者会議の結果で後日改めてシャイタンと共に公の場にフラミーは出席した。公の場にシャイタンを連れるのは拙いのだが、報奨金の運搬に時空掌握がフラミーは行使できないのでシャイタンを共にした。莫大な報奨金とは別に勿論勲章の授与もあり、カレンから大綬を借り受け、堂々と大綬を纏ったフラミーが受勲式に参加し、新たに4つの勲章を陛下より賜った。
白金功労勲章・星シャルマーユ記念章・聖桜記念勲章・黒金宝冠章。この4つを賜り過去の勲章、星金功労記章・星金名誉勲章・朱金シャルマーユ綬章・星金文化記章・黒金永代功労記章・聖星金栄誉光章と合わせて今現在カレンの勲章は10個になる。今回の功績で得た黒金宝冠章は軍の准将に相当する権力と命令権が付与されるのだが肝心のカレンが軍に関心が無く、その権限が行使されることは無いだろう・・・
そして公表はまだ先だが一足先に新造された紙幣による報奨金も持ち帰り、その額が多すぎるので地下の保管室に既に並べ終え、一部を見本として食卓に並べた。
1シュリ―、デザインはコボルトで金貨1枚の価値。10シュリ―、デザインは賢者ルードで金貨10枚の価値。100シュリ―、デザインは賢者ジルで金貨100枚の価値。500シュリ―、デザインはシャルマーユ皇帝陛下で金貨500枚の価値
どの紙幣も賢者マリアによる偽造防止の技術が駆使されており、更に個別に識別番号も割り振りられているので複製の魔法対策も抜かりない
コボルトとしては今回も莫大な報奨金になるとみて寄付もよぎったのだが、カレンが莫大な借金を負ってるので遠慮なく受け取ることにした
最もカレンが巨額な報奨金を手にしても自身の借金返済に充てるより分配するのは目に見えているが・・・
シャルマーユ政府の思惑としては銅貨・銀貨もゆくゆくは紙幣に移し替える予定で星金貨は世界共通の万能貨幣なので星金貨を考慮して紙幣は金貨1枚・10枚・100枚・500枚と決まった。
後日カレンの新商品一覧とその報奨、賢者ルードの到達点2つの解明、金貨に代わる国発行の紙幣の公表をシャルマーユ政府広報部から新聞として世界中に流布される予定だ。
カレンの報奨金額は総額星金貨換算で155万枚となった。内訳は到達点2つで100万、残りのポーション15種で50万、映像記録保存の魔導具レコレクションの製法で5万となり、結果として500シュリ―を300万枚・100シュリ―を40万枚・10シュリ―を5万枚・1シュリ―を50万枚という莫大な財を得た。
当然隣宅のリールーも誘って大宴会となったが報酬の分配はカレンが借金奴隷にも関わらずカレン・コボルト・アマネ・シャイタン・フラミーの5頭分で強引に押し切った
そして今日は丁度借金返済の期日なのでカレンの取り分62万シュリ―の内半額と先月のアシュリー工房の売り上げからカレンの取り分星金貨438枚と金貨と銀貨と銅貨の端数の半額を徴税員のミシュラに返済した。
まだシュリーは公にはなってないがミシュラは国から派遣された公務員で事情を知ってるので問題は無い。
これでカレン・アシュリーの残り借金額は星金貨256万6千500枚と金貨589枚なった
給金の半額、残りの31万シュリ―と星金貨219枚はシャイタンが預かり、カレンの手元には世紀の発明をまた繰り返したにも関わらず銅貨1枚も無かった。
それでもお金以上にファクトに続いての新魔導具のレコレクションが世界に普及することがなによりも喜ばしいカレンだった。
翌日
各々朝の仕事を終え朝餉も済んだところで仕事場の売り場に向かうシャイタンを呼び止めるカレン
「ね、ねぇ・・・シャイタンさん」
「はい。なんでしょうカレン様」
「その。。。ね、急なんだけど今からよかったらその・・・」
なにやら言いにくい内容なのかカレンはもじもじと挙動不審になりながらも言葉を繋げようとするが、うさ耳の荒れ狂い振りからシャイタンは只事ではないと軽く膝を曲げカレンに視線を合わせて優し気に続きを促す
「なんなりとお申し付けください」
カレンは意を決して胸の内の思いを打ち明ける
「えと、よかったら逢引しませんか///」
カレンの顔は真っ赤になっており、うさ耳はやり遂げたからなのかくたぁとしな垂れていた
何度かシャイタンと逢引の経験はあるがカレンから誘うのは初めての経験でカレンからしたら誘うのはかなり恥ずかしく、一大決心だった。あまりの羞恥振りに丁寧語になってしまう程だ
偶然その場に居合わせたアマネが(カレンちゃんったらたまに大胆ですねぇ)と驚きはしたもののカレンの淡い乙女心に微笑ましくなり邪魔してはだめだと無言で仕事場の神域の森へ向かった
カレンからの思わぬ不意打ちに数舜固まってしまうシャイタン
恋焦がれるカレンからの誘いが嬉しくない訳がない。これまで奥手のカレンにアピールはしてきたつもりだったが、まさかこうしてカレンから逢引の申し出を言い出すとはシャイタンは予想だにせず思わぬ出来事だった。
勿論満面の表情で快諾する
「――それは素晴らしい、是非ご一緒させていただきます」
優雅にカレンに一礼するシャイタン。こうして急遽カレンからの誘いで逢引が決まった。
コボルトにこれから逢引なので休むと伝えると「そうかそうか、妖精達もいるから問題ねぇ。楽しんできな」と快く送り出してくれた
急遽決まった逢引なのでお互い飾らない普段着のままだが初めての逢引の時同様に紫陽花と蝶の柄の傘を日傘にし2人仲良く腕を組んで街道をゆっくり進む
シャイタンは今回の逢引の内容を知らないのでカレンに荷馬車は必要か聞いた所、不要とのことで今回リリーの出番はなく文字通り2人きりでの逢引だ。
「それでカレン様。今日の逢引は何か目的はあるのでしょうか?」
「ええ、料理包丁の新調と大きい鞄が欲しいの」
包丁も鞄もテンゲン大樹海からの使い古しで相当ガタが来ており、鞄に至っては今回の新たな錬成品ポーションも常備するとなると今の小さな腰かけ鞄では収まりきらない
「成程、では市場でしょうか?」
「そうね。市場見て周って良いのが無かったら専門店へいきましょ」
30分ほど街道を練り歩き、市場に着くと超雑多な露店通りが2人を出迎える
2人して一軒一軒見て周るがカレンの目移りする品ばかりで大はしゃぎだったが、目的の料理包丁はカレンの目にかなうものは中々見つからない
鞄は多種多様に売られているが戦闘職向けの小さい鞄ばかりでカレンの探し求める鞄は見つからず、やっと見つけても希少な動植物の素材を用いたとかで値の張るもので希少性に価値を見出せないカレンとしては遠慮する品ばかりだった。
そんな中、一件の露店の前でカレンは足を止め、シャイタンも見てみると武器屋だった
様々な武器が陳列されてるが数本果物ナイフや包丁も並んでいた
「ねぇ、おじさん。その包丁見せてもらえないかしら」
カレンが指差したのは包丁ではあるが珍しい事に刀身が黒く、波模様が浮かんでいた
「お、嬢ちゃん見る目あるな。これはフルーラの名のある刀匠がこさえた万能包丁でな、肉は勿論野菜だろうが魚すらスパスパ切れちまう良い品だぜ」
商品の説明をしつつ指名された包丁をカレンに手渡す商人
「へぇ~。なんでこれ黒いの?」
アシュリー工房の台所をあずかるカレンとアリスは昔から使っている包丁3本を料理ごとに使い分けているがこの包丁なら使い分けの必要もないとマジマジと刃渡りの波模様を見つめる
「ああ、そいつはなんでもダマスカスって希少なもんでできててな、まぁ・・・あまりの希少振りから値も張るんだが、それでもお勧めだぜ」
「ちょっと試していい?」
「ああ勿論だ」
武器屋だが包丁も置いてる以上当然試し切り用に幾つかの野菜を置いており、そこからカレンが適当に1つ選んで試し切りしてみるが想像以上の切れ味に驚き、この品をいたく気に入った
「良いわね、これ凄く気に入ったわ。これにする」
「お、嬢ちゃんそれ買うかい? ならそれと一緒にそっちのパン切り包丁はどうだい? 同じ刀匠作のダマスカス製だ」
「うん、それもお願い。2本で幾ら?」
「希少な素材なんで2本で金貨8枚からどうよ」
「買うわ!」
「え」
「え」
2人して周りの騒然振りをよそにポカンとしてしまう
商人は交渉ありきで持ち掛けた値段なのに即決してしまうカレンに驚き、そんな商人の驚き様にカレンも何事かと2人して暫し呆然とする
希少金属なので決してボッタクリ価格という訳ではないのだが、それでも包丁2本で金貨8枚はとんでもない高額品だ。
「あ、ああ。いや、なんでもねぇ。毎度あり!」
シャイタンに預かってもらってる金から金貨8枚だしてもらい目的の1つは済んだ。
もう1つの目的の鞄については露店は諦め大人しく午後から専門店に向かう事にして昼時なので昼餉を取る事にし、2人してアマネと行きつけの喫茶店へ向かい、カレンは軽くつまむ程度に、シャイタンは軽食しかないと言われてそれなら量を、と大量注文して全て平らげていた。
そして午後、鞄といえば皮専門店で取り扱ってるので2人仲良く商店街を探し回るがすぐに見つかり、早速入店すると様々な種類の革製の服から皮鎧・小物・鞄まで多種にわたってあり一部は手に取りやすいようにと展示されてもいた。
若い女性の店員が2人を出迎え、早速と目当ての品を尋ねるのでカレンは要望の大きめの鞄と伝える
「鞄でございますね。用途に合わせて大きさと皮の種類を選びますのでよろしければ教えて頂けますか?」
「えっと、私ポーション常備してるんだけど、種類も増えて今のこの鞄だと収まらないの。皮に拘りはないから1つ見繕ってもらえないかしら」
「承りました。ポーションということでしたら此方は如何でしょうか?」
店員がカレンに勧めたのは25㎝程の腰かけ鞄で今装備してる鞄よりは大きく、こ洒落たデザインもされているお洒落にも気を使った鞄となっているが、軽く鞄の中を確認してみるがやはりカレンの予想する量のポーションは収められないと別の品を求める
収納量もそうだが値段も遠慮したいと思う程で、金貨6枚と皮の質かデザインの為か一つの鞄としては物凄く値の張る品だった
「ん~もうちょっと大きいのは無いかしら?」
「これより、で御座いますか? 此方ポーターの方もよく利用する品なのですが・・・ポーション何本程収める予定でございますか?」
店員が驚くのも当然で、今勧めた鞄は戦闘職班には必須の荷運びに特化したポーターという職に人気の品で大体の班はこの鞄で事収まるのだが・・・
店員の質問にカレンは何本常備するか改めて計算して口に出す
「そうね・・・14種で80本ぐらい常備したいわね」
エナジーポーション 10本
ミストポーション 1本
エーテルポーション最上級 10本
マルチポーション最上級 10本
ノーブルポーション 5本
リードポーション 5本
クリアポーション 3本
スクラップポーション 6本
エラーポーション 2本
チェンジポーション 3本
エクストラポーション 10本
リジュネレートポーション 5本
ラックポーション 5本
インペリアルポーション 5本
この様にカレンはポーターでもないのにポーションの常備数は並みのポーター以上となっている
「80!? か、畏まりました。それでしたら―――此方は如何でしょうか?」
驚きつつも店員もプロなので奥へカレンの要望に沿う鞄を取り出しに行く
そしてカレンへ勧められたのは横型の肩掛け鞄でかなり大きく、幅34cm x縦23cm x幅16cmとなっており中身も確認してみるが細々とした仕切りも沢山あってカレンの理想的な鞄だった
値段も先の鞄より大きいのに金貨4枚なのが良い
「へぇ~! これいいじゃない。大きさもバッチリだし仕切りもあって触り心地もいいし、最高よ」
「お客様のご要望に沿う鞄は当店ではそちらのみとなってしまいます。ただ・・・そちらバクーの革製でして、あまり人気のない品となっております」
「バクー? 聞いたことない名前ね」
「上級の魔獣でバクーというのがおりまして、皮の質は申し分ないのですが・・・やはり魔獣の皮という事でなにかと敬遠されがちとなっております。その分お値段はお手頃となっておりますので如何でしょうか?」
戦闘職では一部魔獣の角や外皮など有用なものは利用する者もいるが、庶民ではやはり魔獣というだけで嫌悪感があり深く浸透していない
バクーも同様でその皮は牛や豚、馬などに引けをとらない丈夫さ、滑らかさがあるにも関わらず一般の皮製品より安価となっている
「へぇ~、これ魔獣の皮なのね。いいわ、私皮の種類なんて分からないしこれ買うわ」
魔獣は怖いが皮の良し悪しなんて知らないカレンはこれでいいと忌避感無くバクー製鞄を購入した
こうしてカレンの目的だった包丁と鞄の新調は済んだので再び2人して逢引の続きと市場の散策を再開するが暫く露店をひやかしているととある見世物市が2人の目を引いた
繁盛してるようで2人して興味を惹かれて覗いてみると――看板に拝み屋と記載されており今まさに中年の男性が奇抜な恰好をした女性の祈祷師に話を聞いてもらっていた
客が悩み事を打ち明けるとその度に祈祷師が変な踊りをしては「お告げが下りました」と言ってああしなさいこうしなさいと指示を出す
「ねぇシャイタンさん、あれって何やってるの?」
神も神事も無縁と思い込んでるカレンは拝み屋など初見なので占いかなにかかと勘違いしてシャイタンに尋ねる
「祈祷師ということは祈願なのでしょうが――ふむ、おそらく客の要望に応じて霊的、または神的に悩み事を解決させるのでしょうが、あの手のものは偽物が大半ですよ」
カレンに説明しつつ拝み屋を看破したシャイタンだが、結果が面白いことになると愉悦がこみ上げ台詞の後半、わざと声を大にして解説する
案の定拝み屋の耳に届き場の空気は一変し、客の男性を下がらせ拝み屋はカレンとシャイタンに手にしていたお祓い棒でさす
「そこの2人、今聞き捨てならん台詞が聞こえた。聞き間違えでなければ私が偽物と申したか」
拝み屋の額には青筋がたっており見るからに不機嫌と、カレンは焦ってどうしたものかしどろもどろになるがシャイタンは余裕綽々に指摘する
「え!? やばっ、えっと、えと・・・」
「聞き間違いもなにも貴様偽物だろうが」
周囲の観客達から心配の声から野次の声が飛び交う中、拝み屋は怒りから2人に天誅を下してやろうと名指しする
「我が神ムーサ様への挑戦と受けとった。祈祷代はいらん。まずは娘、お前からみてやろう」
「え、私!?」
指名されたカレンがおっかなびっくり拝み屋の対面に座り、周囲はどうなるのか顛末が楽しみで様々な声援が飛び交っている
「娘、名は?」
「えと、カレンです」
カレンが自己紹介するとそれを聞いた拝み屋は立ち上がり変な踊りをする
そしてズバリカレンの悩み事を言い当てる
「ふむ。―――カレン、お前は今金銭的に悩んでいるだろう」
「え、凄い! 当たってる!! そう、そうなの、今物凄くお金に困ってるの」
当然借金奴隷のカレンはここ最近常に懐事情が寂しく、常に金に悩まされている
が・・・現代人の庶民なら殆どの人が金に悩まされるものだが・・・カレンの言い当てられて驚いてる様に周囲もあてられどよめきが伝う
「皆までいうなムーサ様はなんでもお見通しよ―――お告げが下った。この皿で3食の食事をしなさい。さすれば金運は跳ね上がりその悩みは解決されるだろう」
そういって机の下から一見なんの変哲もない無地の皿を取り出し売りつける拝み屋
金運に悩まされているカレンにはこれは重畳とばかりに目を輝かせてその皿を手に取る
「本当!? 買うわ!!」
「銀貨5枚」
「おっけ~」
嬉々としてシャイタンから銀貨5枚貰い拝み屋に支払いほくほく顔のカレン。拝み屋も不遜な笑みを零し、次に問題のシャイタンへとお祓い棒を指し傲慢不遜にシャイタンはカレンに代わって席に座る
「そして次に罰当たりなお前だ、お前の名は?」
「くくくっシャイタンだ」
名前を聞いた所でまた拝み屋は変な踊りを繰り返し・・・と思いきやシャイタンが割って入る
「ふむ――「ところで貴様、ムーサの信者か?」
「祈祷の邪魔をするでない、いかにも私はムーサ様の信者であり巫女でもある」
「ほう。なら俺の悩みを当ててみろ。当たれば祈祷代は100倍払ってやる」
「っ、よ、よかろう―――「所でムーサは今何をしているんだ?」
不適の笑みを浮かべるシャイタンに拝み屋は一瞬たじろぐが100倍と聞いてその話に乗っかる
再度変な踊りを始めようとした所で再びシャイタンが割って入る
「だから祈祷の邪魔をするなと・・・ムーサ様が何をしてるかだと? もちろんムーサ様は日々地上の人々の安寧の為日夜祈っておられる」
拝み屋の堂々たる発言を聞き、ムーサ神の人間思いに周囲からなんて有難い神様なのだとムーサ賛美の声があちこちと飛び交う
「くくくっ、そうなのか、いやムーサは人思いなのだな」
拝み屋の下手な踊りをムーサが見たら芸事を司るムーサとしては一言あっていいものだが・・・
「当たり前だ。ムーサ様はいつでも我ら人間の幸福を思ってくださる絶対神なのだ」
「その絶対神とやらは今まさに牧畜に四苦八苦してるようだが?」
シャイタンの素っ頓狂な台詞に周囲はポカンとしてしまい、拝み屋も唖然としてしまう
「何を戯けたことを・・・さては貴様背教者か?」
「くくっ、くははっ! いやいや、背教などとんでもない」
「なら黙って見ておれ、――――お告げが下った。シャイタン、お前は家庭の問題を抱えているな」
「いや、抱えてないが」
即答だった
「強がるでない。ムーサ様のお告げだ、お前の母によからぬ邪気が迫っておる。このままでは3年としないうちに病に侵されいずれ死してしまう。だがこの聖水があれば「俺に母などおらん」
つらつらと決まり文句を述べながら机の下から今度は聖水を取り出してシャイタンに見せつけるが・・・
又も台詞を遮って一喝するシャイタン
「何?」
「俺は使い魔だぞ。初めから母などおらん」
観客達の空気が一変しつつあるが、拝み屋も引き下がれないと食って掛かる
「ふっ、嘘は感心せんぞ「え? シャイタンさんは姉様の使い魔よ」
カレンの追撃によって場は完全に沈黙してしまう
「「「・・・・・」」」
「ムーサ様のご機嫌を損ねた。今日は日が悪い」
そう言って奇抜な恰好をした女性はそそくさと店じまいの支度をして逃げた
あまりの逃げ足の速さに観客達もぽかんとしていたが・・・・・暫くして騙されたと客達が拝み屋を追いかけた
ムーサは別名で本名はミューズ、今は神明改めアマネはシャイタンの言う通り牧畜中で勝手に出てきた巫女の下手な踊りを聞けば怒りの1つも沸くものだとシャイタンは笑いの種の提供に褒美として
殺さず呪いで蛇に変化させるだけにとどめた
あの図太さなら蛇でも余裕でやっていけるだろうと心中愉悦の笑みを零していた
尚火中にいたにも関わらず騙されていたと気づいていないカレンはこの皿があれば借金苦から解放されると満面の笑みだった
こうして2人して市場の冷やかしは再開されたっぷりと楽しみ夕刻
帰路についていた2人だがアシュリー工房の前まで来たところでカレンが歩を止めシャイタンに無言で、表情は真っ赤でその頬を突き出す
意図が掴めないシャイタン
「どうされました?」
元々今回の逢引の真の目的はこれだ
「この前言ったでしょ、その・・・次は頬にって///」
その震えた小声にシャイタンはぴんときて優しくカレンの肩に手を置き瑞々しい頬に優しく接吻をする
いざ誘ってはみたものの、体験すると夢見心地でカレンはドギマギしつつシャイタンも驚きの台詞を吐く
「その・・・わ、私もしていい?」
「ええ、勿論ですとも」
こうして互いに頬に軽く接吻し今日の逢引は終了した。
カレンの恋路はシャイタンに遅れて始まった。




