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臆病兎の錬金経営譚  作者: 桜月華
125/148

125話 女性戦闘職事情と錬金術師

幻神歴2961年10月10日


ルルア支部トレジャーハンター組合


備え付けの酒場では今日も雑多に溢れかえっておりトレハンの繁盛振りが伺える

ある席では交渉に熱が入り、もはや怒声になって熱く交わしており、またとある席では熟練層の大所帯が依頼を達成したのか宴会を開いており武勇伝を酒気交じりに語っている

そんな中、とある一席では女性の4人組が誰とも声を発せず無言で席に着いた。


給仕が注文を伺いに来るが4人の暗澹(あんたん)たる空気に居た堪れずにそそくさと厨房に去ってしまう

依頼の失敗か班員の誰かが負傷したのかと一瞬思ったがあの班に限ってそれは無いかと不安要素を振り除き仕事に努める


そう、この女性4人組はルルアでは名の知れた新進気鋭の上級・中級の入り混じった名実ともに有名なトレハンの班だった

そんな紅一点の花形の班が言葉も発せず、注文した葡萄酒が届くと班長が葡萄酒を片手におもむろに立ち上がり仲間内に聞こえる範囲内で、されど魂魄を込めた勢いで班員に宣言した。


「報告。今日をもって20年物の喪女(もじょ)になりました」


なんのことはない唯の有り触れた喪女宣言だった


「「「おお~」」」


拍手喝采


「誰か慰めなさいよっ!」


「だって・・・なぁ」


「明日は我が身だしねぇ」


「私も来年は仲間入りよ・・・辛い」


「「「「はぁ――結婚したい」」」」



女性冒険者の結婚事情は控えめに言って極めて厳しい

まず異性の同業者は7割方娼婦に走る、後の2割は既婚者で残りの1割は寄生か集りだ


この比例率も仕方のない事で堅気の女の子は同じ年でもお洒落に気を配って流行のファッションでおめかしして、髪もサラサラお肌も日焼けなんてなく色白か美肌

対して女性戦闘職の大半は枝毛バリバリの日焼け放題、化粧に金をかけるならポーションに金をかけるのが当たり前だ。


女性冒険者は目下誰しもが通る難問である


「ご注文は~?」


「良い男4人」


「え」


御覧の通り給仕にすらうざ絡みするほど男に飢えていた


班員が無難な注文をした所で話題は貴族へと転換する


「あれもこれも一昔前の貴族令嬢のせいだぁ~~~」


班長のいう通り男娼が潰えたのは貴族令嬢の横行のせいである

今でもそうだが、革命前は男性貴族は妾を従えるのがステータス。では女性貴族はというと男娼だった

貴族社会での鬱憤をぶつけるのに男娼ほど適した存在はなく、革命前は娼婦以上に男娼は移り変わりが激しかった・・・


「班長今日もご機嫌に絶不調」


「そんな班長にちょっといい話が」


「何々?」


「実は―――――」


「その話乗った! 善は急げ、片っ端に話持ち掛けるわよ!」


「流石班長、そうこなくっちゃ」


「めぼしい班はもう声掛けてる」


こうしてルルアでの女性冒険者が一致団結して何かを企んでいた


その矛先はというと・・・・・



一週間後


錬金術教導組合ルルア支部-リールーの部屋-



「え」


「そうゆうことだから」


「え」


「これ依頼書と依頼金。皆で少しづつ集金して金貨にして4850枚あるわ」


「え」


「あ、ちなみに断ったらルルアの女性戦闘職の殆どが此処をハブするんで」


「え」


「じゃ、よろしく~」


「期限は設けないけどあんまり遅いとなにするか判んないわよ」


勇ましい女性達の代表者、それでも20人近くおりリールーをこれでもかと散々威嚇しまくって皆退出していく


「・・・なんてこったい」


思わず天井を見上げて心からの台詞だった。

たっぷり10分ほど熟考したが解決策が浮かばず、組合長のバージルにこの話を持ち込んだ。



組合長失礼します


「おや、リールー君が此処に来るとは珍しい。何か珍事かな? それともまたカレン嬢がなにかしてくれたのかね? あ~はっはっはっ」


「・・・いえ、依頼です」


「ふむ。依頼とな? 大抵は君に一任してる筈だが、そういえば聞いたよ。チール伯爵様の依頼を達成したとか、またまたカレン嬢のお陰らしいね。本当に笑いが止まらんよ!」


無言でリールーが依頼書を組合長の机に置いて提示する


「どれどれ」


依頼書


私たち男に恵まれない女性戦闘職を代表して依頼を決起


モテ薬とか惚れ薬とか作ってほしいの


あんまり時間掛かる様ならルルアの未成年男子が1人ずつ行方不明になるかも!? キャーコワイ


無理なら人体錬成でイケメン(18歳以下)創って☆彡


団員分75人分ね


断ったらルルアの女性戦闘職員の殆どがルルアとバイバイします



「「・・・・・」」


「リールー君」


目頭を押さえながらリールーに問う


「はい」


「君、こんなとち狂った依頼受けたの?」


モテ薬や惚れ薬には今の所規制はない。ないが、真っ先に悪用に用いられる様な品だけに組合もこの手の依頼には気を使っていた

なにせ依頼となれば嬉々として、否、危機として作りかねない名うての実力者がいるだけに本格的にこの手の依頼には考慮していたのだが・・・


「受けてはいません、正式には。ただその依頼書と依頼金置いて行っただけです」


「なら話は早い。カレン嬢には見せず組合預かりとして塩漬けしておこう」


依頼の塩漬けはどの組合にもある。戦闘職組合なら高難易度魔獣の討伐などで錬金組合でいう塩漬けは貴族からの無茶な要望だ

塩漬けとなると組合としては査定に響くのだが、表立って依頼を出して組合員がもし万が一それを受けてもトラブルになるのが目に見えてる程の厄ネタばかりなのだ


「それも考えたのですが・・・党員に淦金(あかがね)が居ます」


「ふぁっ!?」


淦金といえばルルア処かシャルマーユでも名うての最上級冒険者連合だ。以前のオークションでドラゴンを討伐し素材を流したのがこの淦金なのだ

淦金だけで班員50名は超える大所帯でその半数以上が女性だ・・・


「ちょ、ちょちょちょっ」


「それだけに足らず、ヴォーパイバニ・アイスロー・エクスデア・貴腐(きふ)・フロシス・ドロス・気聖拳(きせいけん)・エンドレア・絶早(ぜっさ)・ユドシー・艶舞(えんぶ)・ペタ・コボルトさんモフモフ隊・シャイタン様に踏まれ隊まで様々です」


どの班も其々が天賦(てんぷ)天稟(てんりん)行者(ぎょうじゃ)等々一般人から逸般人に至るまで様々だ


組合長が無言で机に頭を叩きつける事5分、漸く一息ついて現状確認する


「それやばいよ!? どれもこれもルルアやシャルマーユ所か他国の看板所ばかりの名うてばかりじゃないか! ・・・後半の2つは初耳だがまぁいい。とにかく拙い」


後半の2つを除いてどれも戦闘職でないバージルですら聞き及んでるだけに知名度がありすぎるのだ

どの班も一騎当千の班だけに知名度も高く、また一組合としてはそんな徒党に逆らえるわけがない、幾ら組合が公営化されたとはいえ目の前の確かな暴力には逆らえないのだ・・・


「ええ、非常に拙いです。中堅層の班1つなら依頼の塩漬けで終わりますがこれほどの有名処が揃うとなると・・・無視できませんし、した場合のルルアの経済損失が・・・」


今やルルアは経済都市として名を挙げてる最中だがその基盤となるのが戦闘職だ。免税目当てに大貴族や大商人も押し寄せてるがそれらはあくまで一時的なものに過ぎない

だが冒険職はルルアの地に根を張る。お客様からご近所さんへと変わるのだ。そんな戦闘職の女性連中が今回騒動を起こしたんだから被害者の錬金組合ルルア支部は正に涙目状態だ


「かといって本当に惚れ薬なんて政治上途轍もなく危険な代物作らせるわけにはいかんし・・・」


存在しなかったのでその辺の規制もなかったが昨今ルルア在住のカレン・アシュリーのポーション精製の手腕振りから本当に作りかねないと上層部に打診はしていたのだ

現にリールーはカレンがドラゴンの素材で催淫効果のある香水を作ろうとしていた事も組合長に危険性も交えて報告済みだ


たっぷり2時間2人して作戦を練ってこれしかないかと戦々恐々の思いで見切り発車する


「それでは組合長行ってまいります。上手くいったらボーナスと有給頼みますよ」


こんな危機の時でもちゃっかりしたたかな受付嬢だった




場面変わってアシュリー工房-売り場-


営業時間内なのでコボルトとシャイタンと妖精達が接客に勤しんでる中、売り場に設置してある机にはカレンと対面してリールーが心地無く座っておりカレンの入れたお茶をぎこちなく飲む


「どうしたのリルル? なんか変よ」


「え、そ、そうでしょうか。う、うんっ。えっと、今日はカレンさんに依頼があって来ました」


「また依頼!? 歓迎よ。少しでも早く借金奴隷から救われたいからほんと歓迎よ」


カレンの涙ながらの姿勢にピクリとも流されずリールーは脳内で散々シミュレーションした話を切り出す


「依頼人は複数の女性冒険者で依頼金は金貨4850枚です」


「そんなに金貨貰えるの!? うへへぇ♪ それで、どんな内容なの?」


「はい、その・・・女性冒険者の立場を守る為のなにか魔導具かポーションを作成して欲しいという依頼です」


何故か若干遠慮がちにリールーが依頼内容を語るがそれがカレンには的を得ない内容だったので思わず聞き返す始末


「―――ん? なにそれ、防具的な物が欲しいってこと?」


防具ならお門違いだが先の物言いではどうやらそれだけでは無いと踏んで頭上のうさ耳と一緒にびしっと指摘する


「いえ、何と言いましょうか。そうですね・・・カレンさん女性冒険者と男性冒険者の其々の成婚率はご存じですか?」


「ご存じないです」


即答するカレン

この返事はリールーも分かり切ってたので前もって調べた事実をこそっとカレンの頭上の耳元で囁く

あまり大声でできない内容だからと配慮してのことだ


「ですよね・・・男性冒険者が8割超えに対して女性冒険者は3割もいかないんです」


「え!? なんで? 性格とか外見の問題で結婚出来ないとか?」


「それもあるにはありますが根本的に男性は娼婦と結婚するのが一般で女性はそれがないんですよ」


「ふむふむ」


相槌を打ちながらも娼婦と結婚が一般的なのかとさりげなく驚いていた

てっきりその手の場合は後ろ指とかさされそうとかカレンの勝手な思い込みもあったのだが、実は間違ってはいなかった

中堅層にもなれば各組合の暗黙にも通じ娼婦と結婚という事にも理解をしめせるが、初心者や一部の偏屈者の女性は品がないだの不潔だの後ろ指を指す者が多い


「なので未婚の女性戦闘職の方ってかなり多くてですね、今回依頼としてそれを何とかしてほしいというものなんです」


自分で話を振っておいてなんて無茶な内容だと自分でも失笑してしまうほどだ。勿論この段階でカレンの取る選択肢もリールーは手に取るように把握している


「何とかって言われてもなぁ・・・惚れ薬とか媚薬は・・・駄目なんでしょ?」


以前ドラゴンの素材でその手の香水を作ろうとしてリールーにしばかれたカレンはそれを思い出す


「はい、それは以前にもお伝えした通り不許可です」


やはり惚れ薬が出たが先んじて封じることができた。後は本当にカレンの閃き頼りだ


「う~~ん」


「なにかカレンさんなりの閃きでどうにかできませんか?」


「そう言われても・・・ねぇ。検討もつかないわ」


「じゃ、じゃあこうしましょう! 現地の声を直接聞いてみるのは如何です?」


リールーが奇策として手を叩き、高らかに思考誘導をしかける

元々現地の声を取り入れるのは既定路線だった。戦闘職なら朧気ながらわかるが娼館ともなるとリールーには勝手が分からず思考が纏まらないのでこれが正しいと既に脳内で決は出てる


「トレハン組合に行くってこと?」


トレハン組合は拙い、飢えた雌虎達が大口開けて待ち構えているのだから。違う戦闘職が多い場所を慌てて提示するリールー

もし今回の依頼を持ち込んだ党員とカレンが遭遇したら無理くり惚れ薬が出来上がってしまうのは確定路線だ


「い、いえ、今回は魔法教導組合に行ってみましょう。それと花街にも行ってみましょう」


「え!? 花街って娼館よね? 女でも入れるの?」


「女性でも受け入れる娼館はある筈ですし今回はお話を伺うだけなので多分大丈夫でしょう」


「そう。分かったわ、まずは魔法組合かしらね」


表に出てリリーに荷台を1つ繋げようとした所、リリーがリールーの許に寄って周囲をぐるぐるするのでリールーは何事かと驚き、カレンはあっもしかしてと、試しにリールーにリリーに騎乗を勧めてみる

するとおっかなびっくりながらもリリーの背に乗れた様で、どうやらリリーはアシュリー姉妹とコボルト・アマネに続いてリールーにも気を許したようだ。

そうなれば今回はもう荷台の必要はないのでリリーにカレンとリールー2人仲良く相乗りで魔法教導組合へ向かう




魔法教導組合ルルア支部


話はリールーが通すとの事でカレンは魔法組合へ入るとそそくさと厨房兼待合箇所へ座って葡萄酒を頼んでちびちびと飲んでいた

暫くするとリールーと後二人、見慣れない10代後半ぐらいの活発そうな女性と物静かな女性がカレンを出迎える


「やぁやぁ」


「あの・・・どうも」


「どうも、初めまして。私はカレン、カレン・アシュリーよ」


「「えっ」」


「アシュリーってあの工房の!?」


「そうそう」


「あそこにはめっちゃ世話になってるからね~酒代まで出してもらえるんだからなんでも聞いて」


「私も・・・大丈夫です」


そして先ずはリールーが当たり障りのない所から話始め、酒の力もあってあっというまに2人とも気楽に話せるようになった

活発そうな子はモチという名で酒に弱いようで既に酔っぱらっていたが逆に物静かな子はフーダという名で酒に強いようで結構なペースで飲んでいる


「あははっ! それでぇ、なんだっけ」


「もう、モチったら。意中の方はいるのかって話よ」


「あ~そうだった。私は先月振られた所、あははっ」


元々活発そうだったが失恋からの空騒ぎも含めての彼女なのだろう


「私はまだそういう相手との巡りあわせが無くて・・・」


フーダは遠慮しいなのか視線を常に動かしてるが酒を消費するペースはとんでもなく早い


ここで先ほどリールーに聞いた話を持ち掛けてみることにしたカレン、酒の力もあって多少は無礼講で通じるだろうと


「ねぇ、聞いたんだけど、男性に対して女性冒険者は結婚率が低いって聞いたんだけど本当なの?」


「あぁ~ほんとほんと、私の元カレも娼婦の子に靡いちゃったし。うける~」


隣のフーダの肩をバシバシ叩きながら冗談めかすモチ、既に相当出来上がってるようだ


「それは事実ですね。女性冒険者は中々結婚出来ませんよ」


フーダの物静かながら確信めいた台詞にカレンは組合内を見回してみる

男女半々、少し男性が多いぐらいか


「今ぱっと組合内見ただけでも半数は男だけど、なにか問題あるの?」


「ん~殆どは娼婦の人に行くか、既に既婚者か」


「冒険者じゃない市民との結婚は考えてないの?」


「それは難しいですね。市民からしたら私達女性冒険者は言葉を介する熊みたいな猛獣扱いですよ」


フーダの言う通り冒険者は大抵の市民からは一定の距離を置かれる

これは差別ではなくどちらかといえば区別にあたる。結婚相手が素手で熊をねじ伏せられる猛者ともなれば迂闊に夫婦喧嘩もままならない、と冒険者と市民の結婚は滅多に聞かない


「そ、そうなの?」


「そうですね。でも既婚者ならまだ良いほうですよ。女性なら組みしやすいと勘違いした集りや寄生が多くて多くて困ってます」


「集り?寄生?」


ここにきて初めて聞く単語につい興味本位で聞き返すカレン


「あっと冒険者じゃないなら分かんないか。戦闘に参加せず利益だけ掠め取ろうとする集りや、碌な武装もしてない戦闘経験実績目的だけの寄生が多いのよ~」


どの戦闘職にも性別関係なく寄生や集りは圧倒的に多い、シャルマーユは戦後の組合改革でそれらに規制をかけたのだがそれでも未だ残っている

一定層の安置を見つけると人は甘えたがる性質なのだ。それを努力で凌ぎ、切磋琢磨していくのが行者(ぎょうじゃ)への道だが、途中で折れる者もやはり一定数いるもので異性の班に取り入ろうと彼ら彼女らもある意味努力はしている。


話してる内に完全に酔いが回ったのか、モチは机にもたれかかり寝息を立て始める


「へぇ、貴女達も大変なのね」


「そうですね。そのうえ娼婦と見比べられたりもするのでそっちのほうも地味に辛いです」


「娼婦の人ってそんなに違うの? 私見た事ないから今一ピンとこないのよね」


アシュリー工房にも数多の娼婦が客として来ては香水や果物・ペンダント等を買っていくのだがカレンは普段は地下工房に居るので今だ花街の住民と会ったことがなかった


「下に見てるわけじゃないですけど、見たら本能で理解させられちゃいますね・・・髪も肌も装いも化粧も何より雰囲気が冒険者とは何もかも違います」


「そうなの?」


「はい。それに・・・一般市民と比べて大抵の女性冒険者は稼ぎは良いんですけど、それでも流石に花頭の娼婦には敵いませんし・・・」


「そう・・・この後花街にも行くからその違いとやらを実感してみるわ」


「はい。御馳走さまでした」


「こちらこそありがとね。2人とも体には気を付けてね」


「それではフーダさん、それと寝ちゃってますがモチさんもお話有難うございました」


こうして魔法組合での飲食代をリールーがちゃっかり経費で落とし、再びリリーに相乗りして次は花街へと向かう

カレンは花街の場所すら知らないので背後からリールーが適時指示を出してカレンの初めての花街入りとなった。



後の話、鳥馬に仲良く相乗りして花街に入るルルアで話題の2人が多数目撃され更に噂に尾ひれが付いて悪化することになる


そんな事にまで切羽詰まった現状頭が回らない2人は門で身体検査を受け初めての花街入りとなる


「これは・・・壮観ね」


「驚きました?」


カレンの驚き振りも致し方ない、なにせ花街に入ってからというもの、行き交う女性が皆美少女美女ばかりで服装も過度な出で立ちで色香を際立たせる物ばかりのなか、カレンはというと地味な黒いローブだ。カレンが思わず自分も女なんだと、思い知らされてしまう程圧巻だった。


リリーから降りて2人して街を行き交う人々をじっくり観察するが客引きらしきものがよく視界に入るのだが自分たちは素通りで男客ばかり捕まえに行く


「ねぇ、やっぱり女だけでくるのは場違いじゃない?」


「いえ、そんな筈はないですよ」


なぜリールーがこうも花街に詳しいかというと同性愛者によく誘われるからだ

そういった手合いも花街を利用してると聞いたことがあるので2人して本腰入れて探そうとした所に声が掛かる


「そこ行く美人なお二人さん! どうです? 当店は女性同士もフルオプション可能ですよ!」


「・・・・本当にあったわね」


「ですね」


2人して思わず視線を合わせてしまう


「ん? 何か目当ての店でもありましたかい?」


「いえ、実は――――」


女性でも話しが出来そうなので事情を説明するリールー

5分ほど話を聞いた所で客引きはのっぴきならない台詞を吐く


「成程ねえ、時にお二人さん。生娘でしょ」


「「なっ」」


カレンは言い当てられてフード内のうさ耳が凄まじく荒れ狂い、リールーはカレンの前で言い当てられて恥ずかしさとちょっぴりの悔しさも交じって2人して客引きを呆然と見つめる


「いえね、この商売長くしてると生娘と童貞は見分けられるもんでさ」


「これは期待できそうですね」


「そ、そうね」


2人して生唾を飲む勢いでこの店に決めようと合致する


「お二人さん当店はどうです? 最大手程ではないにしろ当店も大手でやらしてもらってるんでご期待に応える女の子はいますよ!」


「お、お願いしいます」


「私も同じく」


「はい毎度!」


こうして花街を10分程歩いた所で立派な門構えと看板に派手な文字でカリスと書かれていた

客引きは先に店に入っていったが2人は最大手ではなくてもこれほどの規模なのかと驚きを隠せないでいた、何せスピカ亭の2倍はあろう面積だ。

暫し驚いていると客引きが出てきて店には話を通してるんでどうぞと言って通りに去っていく


入るのに少し勇気がいるが、入ってしまえば店内は派手な外観とは違い、落ち着いた色合いの内観でカウンターには老齢な婦人が煙管を咥えて待ち構えていた


「お前さんらかい、娼婦に話を聞きたいっつう変わりもんは」


「ええ」


「はっはい」


「先ずは身分証見せてみな、一応トラブル防止の為にね」


そして2人は身分証を見せると婦人は驚きを隠せないでいるようで咥えていた煙管を落としてしまうがそこは百戦錬磨の熟練、すぐに落ち着きを取り戻す


「ほうほう、公務員に昨今話題の錬金術師かね、それで。どんな子をご所望だい」


「えっと、サービスはいいので話だけ聞かせて頂けませんか? もちろんサービス料はお支払い致しますので」


「金を落としてくれりゃ大いに結構、それが公務員と大御所の商人なら猶更さね」


「ねぇ、どうせならこのお店で一番の人に聞いてみない?」


「え」


「そりゃいい、丁度今フリーなんて直ぐに案内できるさね」


「ち、ちなみに一番人気の子のご指名ってお幾らですか?」


「フルオプションで2人代で銀貨16枚だよ」


リールーは此処でまた驚かされる。少し前の自分の月収が一日で飛んでいくのだ

最も今回は経費で落とせるので支払えるが、それでも市民にしたら一日で銀貨16枚はかなりの豪遊といえる大金だ。



代金を払い部屋に案内される2人、実際に行為をする訳でもないのに何故か緊張してしまう

そして案内された部屋に入るとこれまた驚き、てっきりベッドが1つあるくらいだと思ってたのに客間があって奥の部屋が寝室らしい

客間には様々な物があり、芸事に使う楽器から小道具、茶のセットまであって2人はこれだけで思い知らされた

ただ性行為をするだけの場所ではないと。


2人とも好奇心旺盛に客間をあれこれ散策してると部屋が開き、天女と見まごう程の美少女が入ってきた

フーダが言っていた。実感させられると、その通りだった。

化粧とか服装でどうこうできる次元ではない。持って生まれた美の才能だ。


「初めまして、今宵お相手させて頂くホムラと申します、良しなに」


白のツーピースドレスを着飾り長い黒髪は右で結われており派手すぎない実用レベルの美を追求したスタイルでホムラは2人に優しく微笑む


「は、はい!リールーといいます、今日は宜しくお願いします!」


「っわ、私はカレンです。どうぞよろしく///」


2人とも余りの美貌にくらくらだった


こうして女性3人の姦しい一夜は始まった・・・


始めにリールーがホムラにも説明したところオーナーから聞いているので気兼ねなくなんでも聞いてほしいと柔らかな口調で返すホムラ

暫し雑談に興じていると気づいたがホムラは凄い話し上手なうえに聞き上手だった。あれよあれよと2人の異性経験のない事まで語ってしまっていた

ホムラ自身についてもフルーラ出身で重い話の筈なのに軽く話され、当初は借金で始めた娼婦だが今では心底気に入っており借金を返済した今も好きで続けているという


カレンが娼婦について詳細を知りたいというとホムラは丁寧に教えてくれた


娼館の女性は18を越えると身請けの代金が大幅に下がるので中堅の冒険者が本気で結婚しようとするなら少し無理して出せる金額で身請けできる程度に下がるので、男性冒険者の伴侶が元娼婦というのはありふれた話だと、元娼婦という理由で後ろ指差される事も無くは無いが、雑音としてスルーできる程度だと教えてくれた。


雑音については何より気心の知れた相手と家庭を持てるなら相手の過去など問題にしないし、そもそも冒険者は自分が上等な人間ではないと理解しているので大きな声では言えないが、娼婦の結婚率は女性冒険者に比べると、格段に高かった。


次にリールーが娼館の値段の高さから店を通さない、いわゆる立ちんぼなども多いのではないかと尋ねる


それにもホムラはクツクツと笑いながら答える


立ちんぼはまず成立しないので粗居ないだろうと、因みに国営の認可を受けていない娼館は例えそこが極貧民層であろうと絶対に表に看板を出さない。

発覚した場合、店舗責任者から従業員まで問答無用で捕縛の上、後ろ盾になっていた人間まで

徹底的に追及され、どんな立場の人間でも財産・市民権剥奪の上で都市を追放されるか、死刑の二択である。

なお、働いていた女性は事情聴取の後に処分が決まる。

なのでモグリの娼館の後ろ盾が実は権力者だった……等はまず有り得ない。リスクに対してリターンが少なすぎるからだ。

今は潰えた犯罪組織カイロウをもってしても、麻薬を扱う方が安全と言わしめさせる程、違法売春には厳罰を徹底していた。

税金の横取りでもあり、市民権を持った人口増加の阻害要因でもあるから、当然といえば当然の話ではある。


更に雑談は続く


綺麗になる事と男性の癒しになる事を生業として努力している娘達ですよ。とホムラは自分の職をこう例える



また、身受けと聞いてリールーが金にものを言わせて~~などという事もあるのでは? と尋ねると意外な返事が帰ってきた


身請けは買う側だけではなく、身請けされる側の同意も必要となる。

また、20歳を過ぎた娼婦の身請けに関しては、いわゆる「予約」が商習慣として認められている。

身請けする年齢時の代金の半分を娼館に払い、以後、予約された娼婦は予約した客の専属となる。

予約した客は最低でも七日に一度は予約した娼婦を客として買う義務が発生する。

もし予約をキャンセルした場合、保証金は返還されない。 また、予約は1年先までが不文律とされているので、

二年三年先の予約を申し込んでも娼館側に門前払いされて終わりである。



こうして楽しい一夜は和気藹々と済んだ。当たり前だがトークだけでサービスは受けていない、受けていないが・・・


去り際ホムラに次は閨でおもてなししますと魔性の笑みで言われてぱにくる2人だった。


そして楽しい一夜も済んで再びオーナーと対面する2人


「どうも。とても参考になりました」


「私も! ホムラさんとは茶飲み友達になれそうなの!」


「そうかいそうかい。そりゃよかった」


「所でオーナーさん、ホムラさんには聞きづらい事があったんですが」


リールーがまじめな表情で質問する

依頼には外れる内容だが気になってしまったのだ、つまり個人的な興味本位だった。


「なんだい」


「こういうお店って処女の方を求めたり、やっぱり多いんですか?」


「まっリルルったらなんてことを」


と顔を覆いながらもついカレンも興味が勝って聞き耳をたてる


「ああ、そんなことかい。初物を相手させると怪我させる恐れがあるんでね、一見さんはこなれた女で加減を覚えてもらうよ」


「「な、成程・・・」」


「ついでだしこれも聞いてきな。本職ってのはね、10で店に入って先ず掃除と挨拶の仕方から仕込むのさ。そこから読み書き・炊事・洗濯・針仕事・礼儀作法・一般常識。閨の作法なんざ最後の仕上げだよ」


とオーナーの熟練振りを見せつけらて店を後にするカレンとリールー


帰り道、リリーに騎乗しながら今日の感想と依頼について話し合う


「それで、カレンさんはなにか依頼の糸口になりそうなのありましたか?」


「ん~~一応見つけたは見つけたんだけど・・・」


「え!? 本当ですか!」


カレンの宣言に思わず前のめりになってカレンを圧迫する、主に胸で


「い、一応ね。たださぁ、正直言っていい?」


「はい」


「ホムラさん見た後だと、女性冒険者の結婚率低いのは痛感したからもう惚れ薬作ったほうが手っ取り早いんじゃ・・・「それは駄目です」


こうして貴重な体験をしたカレンは数日後に新たなポーションを2種発明、工房で取り扱う事になった


スキンローション 乾燥や肌あれに効果抜群の保湿クリーム 銀貨3枚 女性戦闘職に大人気

ヘアローション 髪のパサつきを癒し潤いをもたらす 銀貨4枚 こちらも女性戦闘職に大人気


アシュリー工房の面子にも人気で、カレンは話友達のホムラにも新作の茶葉と合わせてセットで贈った


アシュリー工房にまた主力製品ができ、依頼も達成かと思いきや・・・


錬金術教導組合ルルア支部-リールーの部屋-


リールーと組合長バージルが見事な土下座を遂行していた


2人の眼前には依頼者の党員から13名来ていた。13人とも髪はツヤツヤで肌も潤っている。アシュリー工房の商品を利用したに違いない、ちゃっかり受付嬢も潤っていたが

それでも怒っているのは髪質や肌が潤って多少見た目が良くなった所で抑々本職には敵わないと抗議しに来たのだ。


その言い分は最もなので2人は素直に土下座したまま釈明する


「き、君たちの言い分は痛いほど判るんだが流石に惚れ薬は世間的に拙いんだよ・・・どうかここは折れてくれないだろうか」


「分かりました。折れてあげます」


「本当かね!?」


バージルだけこれ幸いにと顔を上げる、リールーは下げたままだった。本能で理解していた、同じ女性だけに直ぐに察せた


これもうお手上げだと


笑顔で党員はバージルに審判を下す


「折れる代わりに人体錬成できる錬金術師紹介してください」


バージルは遂に意識を手放した。


そしてただ一人残されたリールーが涙目で人体錬成は禁忌だと説くが暖簾に腕押しだった・・・・・

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