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臆病兎の錬金経営譚  作者: 桜月華
122/148

122話 幕間 神々のお仕事 アマネ編

幻神歴2961年9月10日


女神アマネの仕事は寝起きから始まる


朝、目が覚めると両隣のカレン・アシュリーとアリス・アシュリー姉妹に小声で呼掛け、起きないのを確認すると2人の上半身を起こし、順番にうさ耳のブラッシングと整髪に取り掛かる


幾ら目覚めの悪い姉妹兎でも大声を掛ければ起きるのは判るがアマネはこの時点では起こす気はさらさら無いのでわざと小声を掛けている。


アマネの趣味を過分に含んだ姉妹兎のうさ耳ブラッシングが終わると整髪に取り掛かり、今日のアマネの気分はツーサイドアップなので姉妹兎とも整髪料で綺麗なツーサイドアップに仕上げている。

尚アマネの個人的な理由でツインテールにした事は無い…

過去にツインテールの先輩女神に散々意地悪をされてアマネはツインテールに嫌気があるのだ


そうしてせっせと整髪していると姉のアリスが目覚め、アマネに朝の挨拶をするが…まだ夢心地なのがアマネの鼻唄につられてついウトウトしてしまう


こうして無事整髪も終わった所で2人を本格的に起こし、カレンには蝶のローブを着せ、アリスには手製の着物を渡して自分は畑仕事で汚れても構わない簡素な淡い青のワンピースに着替えると朝の一仕事は終わる。


次の仕事へ向かう前にアリスに隠れてコソコソとカレンに「内緒ですよぉ」と金貨を一枚あげる


「ありがとっ! アマネ様大好きっ」


と、抱き着かれ遅めの朝のオマケの一幕は終わる


その後はアシュリー工房の売り場へ向かい、既に起きて仕事中のコボルトとルルア兎達とシャイタンと共に売り場の品出しと整理整頓を始める。


朝餉の準備出来たわよ~


カレンの呼び掛けで仕事を中断して食卓に家族が揃う

そして毎度豪華な朝餉を済ますといよいよ本格的な仕事に取り掛かる


コボルトとシャイタンは食後に集まる名無し妖精達と共に売り場で接客に取り掛かり、アマネはフラミーと共に神域となった森へ向かう


森の手入れはアマネに一任されておりその広大さからアマネ1人では全ての確認は行き届かないので其々に責任者を選び各部署を任せている


今日は先ず森の南部にある薬草から香草・様々な農作物・食物が生い茂っている場所へ向かう

此処を任されているのは好奇心旺盛なドリアードのアーちゃん(命名アマネ)で、かつて植物庭で皆に隠して共に植物を育成していたのだがリールーにドリアードの存在がばれてアマネに稲妻が落ちたという過去がある


なにせドリアードは木の精霊でその存在そのものが聖獣並みに希少に加えて外見は下半身は木だが上半身は綺麗な女性なのでドリアードに関するトラブルも多く、リールーは当時怒りと同時に後始末に困惑も大きかった。


午前中は此処ドリアードの管轄する場所でポーションの素材を厳選し、アシュリー工房地下に持ち込むのがアマネの午前中の仕事だ。


最初の数日は種類と膨大な数に手間取ったが今では上位妖精達の助っ人もありカレンが消費する1日分の素材の運搬も午前中で終わる

ポーションの素材の運搬を妖精に任せアマネ自身は稲や植物の育成具合を確認する


(あ、あれいいかもぉ)


偶にアマネの閃きでこの星では潰えた植物、もしくはこの星には存在しない物を豊穣の権能で再生させカレンに贈っている。

今日閃いたのはカカオという植物だ。学名では神の食べ物という程素晴らしい物でかつてはこの星でも古代には実っていたのだが潰えた物でチョコレートやココアの原材料になる。本来カカオを採取しようと思ったら熱帯で樹齢4年以上待たなければならないのだが、アマネの豊穣の権能と詩による成長促進があれば四季関係無く即座に収穫可能となる。


カレンやアリスの料理の一助の他、本人は否定してるが甘党のシャイタンに丁度良いと早速カカオの木を権能で生やし胸一杯に実を抱えてアシュリー工房に運び込みカレンに食材として提供する


始めカレンは初見の食材に手間取ったが姉から貰った秘伝のレシピ書にカカオを用いた料理の記載もあって今度カカオを使っての料理に頑張ってみると意気込んでいた。その勢いを温かく見守り、またカレンのカカオ料理を楽しみにしつつアマネは仕事を再開する


こうして午前中フルに運搬し昼餉を挟むと昼からの仕事に取り掛かる

昼からは森の北部にある牧場の手入れ・西部にあるポーション素材以外の最希少素材の生い茂る箇所の確認・東部にある聖獣や神獣の塒の手入れと大忙しである


先ずは北部の牧場へ行き各家畜を名無し妖精達と共に世話をする

アシュリー工房には最上位の名無し妖精が5人通い詰めてるが神域には上位20名・最上位10名の名無し妖精達がアマネの指示の下働いている


「妖精ちゃん今日は鶏の卵何個ありましたかぁ?」


アマネの問いに名無し妖精が今日の成果を胸一杯に抱えて示す


今日も豊作だ


アシュリー工房の牧場内では当初、食用馬8頭・豚12匹・乳牛7頭・羊6匹・鶏25羽が畜産されてたが新たな家畜の追加、繁殖で今では食用馬13頭・豚18匹・乳牛12頭・羊11匹・鶏45羽・食用牛21頭が畜産されており上位名無し妖精5人と牧場責任者の最上位妖精1人が世話をしている


知識だけはあったものの、酪農(らくのう)業は実際に行ってみると大変だったが此処でも名無し妖精達の手助けによって事なきを得た。


妖精達の助っ人も有って順風満帆なので養蜂にも手を出そうかとアマネは画策している程だ


むしろ屠殺(とさつ)が四苦八苦だった

屠殺関連も知識はあったのでアマネが初めて豚を解体しようと解体包丁を手にジリジリと豚に詰め寄った所、反撃のタックルを食らい悶絶した経緯があった…


その様を見ていた妖精が爆笑していたがアマネはもう嫌だと妖精に屠殺を任せようとしたのだが、妖精は人間種への悪戯なら兎も角、それ以外の殺生は勘弁と意見が平行し、どうしたものか悩んでいると高位悪魔のフンババが見かねて手を貸す事になり屠殺はフンババの仕事となった。


鶏の卵32個と羊毛を刈りフェルトを入手し、羊と乳牛から絞ったミルクを320リットルミルク入れに納めアシュリー工房に運搬して北部の今日の仕事は終わる


次に西部に向かい、辺り一帯に最希少素材が生い茂る神域の要所での仕事に取り掛かる


此処の責任者は食欲旺盛なマンイーターのマンちゃん(命名アマネ)でこちらもドリアード同様に植物庭で秘匿されていた謎生物


何故謎生物かというとマンイーターは聖獣でもなければ妖精・精霊でもない、念獣に属するもので思念獣・奇獣等といった未だ未確認の比較的存在が露わになっていない種族だからだ。


その名が現す通り人間を捕食することも可能でかつては誤ってリールーを捕食しそうになった事でこちらでも稲妻がアマネに落ちた

現在は神域で不法侵入者やシャイタンの洗脳の元不要とされた人間を餌としており餌には困っていない


「マンちゃん食事中ですかぁ」


丁度マンイーターは食事中だった


コボルトはカレンやアマネに気を使って明かしてないが、強引な手法でカレンやアマネを引き抜き(酷い時は誘拐)しようと画策する輩は後を絶たず、その手の連中はシャイタンの手によってマンちゃんの元へ自ら向かうように洗脳されて今日も今正に1人捕食されていた。


実はカレンとコボルトは知らないがマンちゃんが腹一杯になる事件が先日あった。


カレンの素晴らしい発明品でもある各種医療ポーション3種の公表によって一部の真っ当でない、つまり悪徳な医者達がカレンのせいで仕事を失ったと見当違いな文句で賠償を請求しようと結託し、アシュリー工房に詰め寄ろうとした…


が、そんな小悪シャイタンは工房前で見通しており、怒りより呆れたシャイタンは自ら手を下すまでも無いと32名の悪徳医者をマンちゃんの餌とし、マンちゃんの前に医者の行列が出来た事も有った。


「一杯食べてこの地域の活性化に尽力してくださいねぇ」


アマネもそんな小悪党等に同情の余地なく、マンちゃんを機嫌良く(さす)

この辺りの地域はマンイーターの力のお陰で活性化されており各植物は生き生きとしている

マンちゃんの様子を見た後はカレンに指示された各最希少素材をアシュリー工房地下へと再び運搬するよう妖精達に手配する

それも直ぐ終わり西部の仕事の締めにとある場所へ足を向ける


豪奢(ごうしゃ)なアダマンタイトゴーレム10体掛かりで警護している神樹から果実を1つもぎ取り神樹に寄り添って小さくぱくつき美味しく頂く


「美味しいですぅ」


3時のおやつ前のアマネの小さな贅沢だ。

このお陰でシャイタンとフラミーと共に毎日ぐんぐん神威が上がっていく


黄金の林檎も食べ終わり、次に神樹の隣にこれまた神樹に負けず劣らず神々しく聳え立つ一本の樹の前に立つ


実はこの樹、ただものでは無くなんと主神オーディンもびっくりの世界樹だった。


アマネと妖精女王ティターニアの合作で生えた幻の樹でカレンは気付いて無いがその葉に滴る雫はエリクサーの元にもなる

いつかカレンの手助けになるようにと雫を収集して西部の仕事も終わる


その後3時のおやつを挟んで夕方までは東部での仕事なのだが、より正確に表すなら仕事というより調査と確認が主だ。


東部へ一歩足を踏み入れると早速土煙を纏いながら一匹の神獣がアマネに飛び掛かる


「きゃふっ」


そのまま押し倒され顔中を嘗め回され、されるがままになるアマネ

アマネを押し倒しスキンシップをとれてハイテンションとばかりに御機嫌の神獣はリントヴルムといってアンフェスバエナ同様、されど更に小柄で1m程のドラゴンに似た容姿の神獣でとある星ではその神々しさと神威から神と崇め奉られている


ちなみに以前呑気にアシュリー工房に通おうとしていた皇帝陛下にして剣聖ロックに襲い掛かり撤退戦に持ち込ませた程の猛者でもある


当然そのドラゴン然とした風貌にドラゴンの子供と勘違いしたカレンが素材欲しさに食いついたのだが…フラミーに「ドラゴンに似ておりますが別種で聖獣の仲間なので機嫌を損ねると竜様の怒りを買いかねますよ」と注意され諦めた経緯があった


そんな超常な神獣もアマネの前では借りてきた猫状態だ


「もぉ~いつも言ってるでしょぉ。優しくしてくださいぃ」


お返しとばかりにアマネもリントヴルムを揉みしだく


(はぁ~! アマネちゃんアマネちゃん今日もかぁいいよぉ)


ちなみに聖獣・神獣の声はアマネには届かない…


なのでアマネの神域に居着いた聖獣や神獣で危険性のあるものが居ないか確認するのが東部でのアマネの主な仕事といえる。

幸いな事に今の所アマネの神域に居着く聖獣・神獣はアマネやカレン・アリス・コボルトに好意的で問題無く仲良く接する事が出来てるが意思疎通が出来ない以上乱暴者や好戦的な者が居着いたらアマネでは対処ができないので見回りが日課となっている


リントヴルムがもぞもぞとアマネの股に顔を差し込む


「今日はリントヴルムちゃんが乗せてくれるんですかぁ」


アマネの見回りには毎度その日その日によって供回りがおり、今日はリントヴルムが騎乗させてくれるようでアマネはよちよちとリントヴルムに跨りのんびりと東部の見回りを始める。


(ん~相変わらず今日も混沌としてるなぁ)


我が神域ながら凄い有様となっている


聖獣のピクシーやカーバンクル達が辺り一面に危機感の欠片も無く跋扈している


ピクシーは半妖精・半聖獣の希少な種族で小柄にして頭上の四葉のクローバーは希少な霊薬の素材となるので何処の世界でも乱獲される存在だがこの星、アマネの神域ではそんな危険は無いのであらゆる星々からピクシーが移住してきている。


カーバンクルは額の赤い玉石が大変希少な宝石で此方もピクシー同様の理由で乱獲される程微弱な存在だが、ピクシーと同じ理由でアマネの神域でそこら中に居着いた。


アマネが感心しつつリントヴルムに騎乗して東部を散策してるとアマネにとっても珍しい種が宙を舞っていた


ケセランパサランだ。


安全な神域にしか生息しないといわれる植物性の聖獣で豊穣を司る神々の聖域・神域ではケセランパサランが生息してる事が己が自慢となる程だ。


アマネがケセランパサランの存在に「やったぁ」と大喜びしていると物陰から音がし、其方に意識を向けるとアルラウネが此方に手を振っていた。


アルラウネも植物性の神獣で外見は人間種の女性だが植物に造士が深く森に愛された種族なのだが、他星では殆どが魔獣・害獣と誤認され騒乱となっているのだが先のピクシー・カーバンクル同様この神域では安全なので居着いたのだろうとアマネも気軽に手を振ってその存在を認める。


湖までもう少しといった所で又も珍しい種族を見つける


セルキーだ。


人間に化ける事も可能な海豹(あざらし)でその毛皮は大変希少で好事家に好まれる品で、海辺に生息する神獣なのだがこの神域の場合湖にも関わらず居着いたのは海神ヒュドラの影響だろうと温かく見守る


それから暫くして湖に着くと先約がおり、フラミーがヒュドラと会話中だったので背後で大人しく用が済むまで待っていた。


「え~~あの星俺様嫌いなんだよなぁ」


「其処を何とか、お願い致しますよ」


「じゃあよ、海は俺様の物とするけど地上は大津波で飲み込んでいい?」


「それでは意味が・・・そうですね―――では、2045の星の海はヒュドラ様に一任するのでルサルカとの愛の巣にでもしてはどうでしょう」


「愛の巣!? いいねいいねぇ。よっしゃ、それでいいぜ」


「有難う御座います。では現在居着いてるポセイドン様の勢力の排除は此方で済ませますので後の守衛はお願い致します」


どうやら話は纏まったようだが何やら物騒な話で、逸れ神となり派閥を抜けたアマネが口を出す事では無いと見守っていると、とある星の海をヒュドラに任せたいようで今この場で2柱の話し合いによってとある星の海の雌雄が決まったようだ。


「フラミー、ヒュドラ様ぁ、話は終わりましたかぁ?」


「ええ、アマネ様。今しがた終わりましたので―――」


「お、アマネじゃん。ちっす」


(ヒュドラ様、フラミーちっす。はぁ、アマネちゃんくんかくんか)


「「―――」」


挨拶を済ませると何故かフラミーとヒュドラの視線がリントヴルムに集まり心なしか2人とも何処か呆れていた


「? どうしたんですかぁ?」


アマネが可愛く小首を傾げ尋ねるがその様すらリントヴルムの胸に響く


(アマネちゃんまじ可愛すぎはぁはぁ)


「はぁ・・・リントヴルム、少しは落ち着きなさい」


フラミーが窘めるが…


(アマネちゃんを乗せてるんだぜ!? むりむり)


「ルサルカちゃんのハニトラに掛かった俺様が言うのもなんだが、アマネの神域はやべぇ奴しかいねぇな」


「リントヴルムちゃんはなんて言ってるんですかぁ?」


アマネの純粋な疑問にフラミーとヒュドラ2柱顔を合わせては即決で話を合わせる


「まぁあれだ、喜んでるな」


「え、ええ。なんと言いますか、大喜びですね」


「そうですかぁ! 良い子ですぅ」


2柱の返事を聞いてリントヴルムの頭を撫でるアマネを目にして2柱は引きつった笑みになってしまう


(アマネは神獣垂らしだな)


(アマネ様は聖獣や神獣垂らしですな)


「あ、そうそう。ヒュドラ様ぁ、今日の夕餉は揚げ物にするそうなのでぇ、タイとヒラメとタラとスズキとぉ、あとあとアナゴを用意して貰えますかぁ?」


「了解っ! 任せな」


海神を兼任する大神にお使いを頼むのは気が引けるが今はルサルカがいないようなのでヒュドラに夕餉の魚の収獲を頼む。


ルサルカはこの湖の守護を任されているのだがヒュドラも居着いた事でこうして度々留守をする事があるので今ではヒュドラに収穫を頼むのも慣れたものだった。


「ではアマネ様。私は東部の見回りに戻ります」


アマネの仕事でもある神域の見回りにはフラミーにも協力して貰っており、アマネでは対処できない猛者や近隣トラブルに言葉を介するフラミーが仲裁役を買って出てくれたので大助かりとなっている。


「はいぃ、また夕方にぃ」


アマネが手を振ってフラミーを見送るとヒュドラが思い出した様にアマネに話を持ち掛ける


「あっ、そうそうアマネに言い忘れてたんだけど」


「はいぃ?」


「喧嘩友達のリヴァイアサンも此処に呼んじゃったけどいいよな?」


「――ぇ?」


アマネの放心と同時に湖から巨大な(くじら)が勢いよく顔を出し呑気に潮を吹く


「あ、その顔。やっぱ拙かった?」


ヒュドラがアマネのぱにくり顔に触手をふよふよ顔を出して慰めるが…アマネはそれ処では無かった

リヴァイアサンといえば怪魚【世界魚】レヴィアタンと同一視されがちだが全くの別物の聖獣で気性が荒く、海の上ではその実力は竜種に匹敵すると言われる鯨型の聖獣で今は亡きティアマトの親友だ。


「え、えっとぉ・・・拙いといいますかぁ―――いいんですかぁ? リヴァイアサンちゃんって今幻獣界の海を警護してるんじゃぁ?」


「まぁそうなんだけど・・・もう竜様が反逆者皆殺しにして海も平穏になっちゃってさぁ、ぶっちゃっけ暇なんだよなぁ。それに比べて此処アマネの神域は刺激に満ち溢れてるから楽しいんだよ、だからさぁ。いいでしょ? ねっねっ」


お願いとばかりにヒュドラの触手がアマネにまとわりつくが――その光景ははたから見れば触手に襲われる幼女そのものだった。


「わっ分りましたぁ、いいですよぉ! その代わり龍涎香を定期的に貰っていいですかぁ?」


その問いにはヒュドラでなく、リヴァイアサンが返す。勢いよく再び潮を吹いて


「いいって」


ヒュドラの確認でこの話は決まった。

鯨の龍涎香ともなれば最高級の香水の材料となる。それがリヴァイアサンのものとなれば殊更需要は跳ね上がる。なにせ神界の女神達の間ではリヴァイアサンの香水が大人気なのだから

新たな移住者に頭を悩ませるものの、カレンへの良い土産が出来たと思えば悪く無いと、アマネも神域同様はちゃめちゃになってきていた。


(はぁ・・・ヒュドラ様に続いてリヴァイアサンちゃんまで来ちゃうなんてぇ・・・ん~まあいっかぁ)


リヴァイアサンの移住によって幻獣界の海とこの星の一部にこれまた一騒動あるのだが、アマネは我関せずだった。

ただ、一応確認にとこの東部の長老的存在の元へ向かう


「リントヴルムちゃん白狐様の元へ向かってくださいぃ」


そして10分程して白狐の住む洞穴に辿り着く

地面を抉り起こし3m程の洞穴となってるそこにはあらゆる特級の巫術・札術・呪符を張り巡らした固有結界でその主たる白狐がアマネを視認した所で優雅に話し掛ける


「おやおや、狸のおでましぞえ」


呪音を含ませた甲高く、そして美しい声音でアマネを迎える狐。姿は2m程の大柄な一尾の純白の狐だがその正体は幻獣界、ひいては竜派閥の最高参謀で幻魔泣戦(げんまきゅうせん)では当時ミューズだったアマネと策謀を巡らし合った仲だ。


「も~、狸は止めてくださいぃ」


「謙遜するでない、(われ)にとって(なれ)への誉め言葉よ。それで、何用じゃ」


湖への新たな移住者について相談するアマネ。この神域でアマネの次に責任者に相応しい白狐に度々こうして何かとトラブルを持ちかけるのだが・・・白狐は往々にして呑気に煙に巻くだけだ。


「ひゃひゃ――リヴァイアサンまで来たか。なに汝の想像するトラブルは起きまい、汝の神域にまた一歩誉れが出来ただけのこと。天晴天晴(あっぱれあっぱれ)


「もおぉ、何かあったら責任取ってくださいよぉ」


「あい心得た。時に、今日はあの小娘共は来んのか?」


白狐が前足で顔を搔きながらそれと無く尋ねる


「カレンちゃんとアリスちゃんですかぁ? アリスちゃんはお昼寝でカレンちゃんはポーションの錬成に大忙しですよぉ」


「ふむ、ご無体よな。偶には連れて来んか」


白狐はアシュリー姉妹をいたく気に入っている

初対面時のカレンの対応に満足し、アリスとの初対面の時は我が智謀を引っ繰り返した傑物(けつぶつ)と認めている程だ。


「え~白狐様カレンちゃん化かしてばかりじゃないですかぁ」


アマネの神域に白狐が居着いた当初、アマネは面食らい、アリスはぎょっとしたが、カレンはその天然の毛並みに飛びつきわしゃわしゃともふり倒していた。そんなカレンに釣られてアリスも過去を水に流して一緒に白狐をもふり倒した。


そして―――白狐のカレンへの化かしの日々が始まった。


白狐は傾国の美姫に変化可能だが、カレンの前では人化はせず、鳴き声もクーンと人語ではなくありきたりな狐の鳴き声でただの狐と誤魔化している


そしてカレンがこの洞穴に訪れる度になにかと化かし、一度はカレンの前に美姫の姿を一瞬現し、驚かして大いに楽しむという狐道を楽しく満喫している


「かかっ。それが面白いのじゃ」


アマネの神域で優雅に日々を寝送る白狐だが、狐種の統率者でかつてはとある星の九尾の狐が道に反したと怒り狂い、星事滅ぼした程の気性の荒い存在だが狐ゆえに情に厚く、義理堅く、主の竜とその娘に一途だ。


その後、とりとめの無い会話をして今日のアマネの仕事は終わった。

かつては永久評議神イラトの派閥に属し権謀術数を巡らしていたアマネが浮世離れした姉妹兎に挟まれ農業・牧畜を世話する今


そんな今が堪らなく幸せだ。

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