表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
臆病兎の錬金経営譚  作者: 桜月華
117/148

117話 夫婦の創世奇譚 18話 番外1 サテラの冒険3

キルトの町に移住して二ヶ月


持ち前の従者を意識した丁寧な対応に加えてフードで顔しか見せていないにも関わらずその美貌からサテラはすっかりご近所でも評判の看板娘となり千客万来だった。

大半がポーションや安値の魔道具を購入目的の客だが近所のお裾分けも日増しに増えてきており最近は身なりのいい特権階級の者と思われる人物からの魔道具の買取依頼もちらほらとでてきた。


(田舎に分類されるこの町でもこれだけ珍品を手にする事ができるなら主要都市はさぞ豊富なのでしょう。やはり首都での仕入れも考えないといけませんね・・・いっそのことまたゴロツキを操って・・・)


ここ最近買い取った珍品を眺めながら考えを巡らせているとドアベルが鳴り来客を知らせる

すっかり慣れた様子でいらっしゃいませと客に声を掛けながら観察する。


(これも特権階級者のようですが、様子がおかしいですね)


サテラの挨拶に応じて店の中を品々に目もくれずサテラの座るカウンターまで一目散に駆け寄った中年の男性は一目見て特権階級、もしくはそれに順ずる富裕層の客と判断できる装いをしており店の前には従者か弟子なのか若い男2人が見張っている


「最近耳にしたんだが、珍しい品は店じゃなくあんた個人が買い取ると聞いたが事実か?」


明らかに厄介事の種を持ち込んできた客にどう対応したものかサテラは逡巡する


(盗品かいわくものかしら? 品を見てから断るのは揉めそうだから今のうちにとぼけるべきか―――)


考えを巡らせながら男を魔力を込めて観察する。

特権階級とおもしき人物の割には装飾品が少ないが見に付けてる深緑のローブと指に嵌めてる2つの指輪は一級品で今まで何人か見てきた特権階級の人物の装飾品より抜きん出て優れた品。

なによりローブの奥にしまいこんでる『なにか』から不気味ななにかを感じたサテラはこのままとぼけずに話を進める事にした。


「はい。山奥の田舎育ちなので私にはなにもかも珍しい品ばかりなので気に入った品は私個人で買い取っても良いと店主に許可を貰っております」


サテラの色よい返事に安堵したのか客人は額の脂汗を強引に拭って懐から一冊の魔導書を取り出しカウンターに置く。


「これを買い取ってほしい、珍しさは保障する」


身分も明かしてない人物の保証など聞いて呆れるがこの場ではそれは不要だった。

カウンターに乱暴に置かれた一冊の書物は魔力を込めずとも直視しただけで異質差が見て取れた。

魔導書かと予想していたがサテラの神眼がそれを正確に捉え脳に伝達させる、それは書物の形をした『大勢の人間』を取り込んだ異物書ともいうべき代物だった。


(人間? 人や動物の皮で造られる魔導書も幾つか確認してるけど人間そのものとはどういう・・・)


考えながらも無意識に手が書物に向かい適当に開いてみる

暗号のようにみえる数式の羅列と方陣が描かれてはいるがこの本の本質はそこではないとばかりに本から怨嗟の声が頭に響いてくる


助けて


苦しいよ


お家に帰りたい


お母さんお父さん・・・どこ


嫌だ・・嫌だ・・嫌だ・・


殺して―――開放して


無数の声は持ち込んだ客にも聞こえているのか耳を塞ぎ全身を震わせ冷や汗を零す


「もういいだろう!? 閉じてくれ!!」


サテラも聞いていて気持ち良いものではないので本を閉じ一息ついて客に提示する


「確かに珍しいですね。店ではなく私個人が買い取らせてもらいます、ただ物が物だけに書類には残したくないので現金のみお渡しとしたいのですが、それでもよろしいでしょうか?」


目の前の客が私個人に持ち込んできたのも後の憂いを無くす為なので買取証明など不要のこの申し出は願っても無い筈、サテラとしては既に客への関心は失せとっとと取引を済ませ客を帰らせこの書物を調べたかったので駆け引きも省くつもりだ。


「っあ、ああ。それで構わん」


客はどう言い包めるか考えてたのであろう、サテラからの申し出に素っ気無い態度だが内心喜ぶ


「金額ですが、この手の品は相場はあってないようなもの、金貨500枚でどうでしょうか?」


金貨500枚ともあれば大金だが魔導書の値段としては少なめな金額といえる

客の様相からして金額など二の次でこの品を手放したいだけなのは直ぐに察したが一応特権階級の客に合わせて無難な額を提示したつもりだ


「その額で構わない。直ぐに買い取ってくれ」


男は銅貨1枚、いやタダでもいいから引き取ってほしかったが予想外にまともな金額を提示されて他に詮索しない様子に一瞬困惑したがすぐに納得して取引を進めた。

他所から来た1人旅の娘が魔道具の買取をしているとう噂を耳にして男は藁にもすがる思いで持ち込んだが旅人なら目利きがよく、この手の品の売買がご法度で普通ならどこで仕入れたか等々、問いただすかすぐさま町の衛兵に通報するのが常識だが目の前の女店員はその素振りも無く目利きができないのかよほどの常識知らずのどちらかと思い至りこのまま話を進めた。


(金などいらんが流石に売りに来ておいて金はいらんというわけにもいかん、それに貰えるなら貰っておいてよいだろう。・・・最悪店先に置いてる護衛の者に始末させる予定だったが予想外にもこのほうが此方として都合がいい)


事実男は事前に示し合わせた合図で店先に立たせてる雇いのはぐれ魔女に雇い主の合図次第で店員を始末するよう手配していた

だが目の前の店員は何も聞かず懐から硬貨袋を5つ取り出しカウターに置き「ではここにある金貨500枚で買い取らせていただきます」と金貨袋を此方に押し付けてきた。




客は金貨の枚数を数えることなく乱暴に袋を掴むともう用は無いと言葉も発せず店を後にしようとして―――


お待ちを、今回買い取らせていただいた品にとても満足しております。お客様は勿論のこと知己の方でこの手の品を処分したがってる方がおりましたら是非当店を宜しくお願い致します。


笑顔でそう言ってのける店員に先ほどまでの評価が崩れ男は無意識に口元がにやけてしまった。


(こやつ・・・物知らずではない。我輩と同じく『こちら側』の者だ)


それと同時にならなぜあの品を買い取ったのかという疑問が浮かんだが無用な詮索に過ぎんと考えを切り捨て「判った、何人か知り合いに伝があるから伝えておこう」とだけ言い残して店を後にする。


男は帰りの馬車で目下の悩みの種を解消できた事に漸く胸を落ち着かせて安堵する。

そして先ほどの同輩を思い浮かべて破顔する、我輩と、いや、我々のような邪道に通ずる魔女に。







サテラは客を見送りながらあの手の連中は口は堅く横の繋がりもある筈と思い宣伝したが客の様子からしてご同輩と見抜かれたようだ。

それはいい、尚のことこちらに理解を示して曰くの品を持ち込んでくれるだろう。

思いがけない収穫に胸を躍らせカウンターに戻り今しがた仕入れた品に最上位の観察眼の魔法を行使して









壊れたように店内を笑い声が満たす





(なるほど、なるほどなるほど!! カレン様の仰るとおり人間の業は底知れず! 時に悪魔も引く所業をやってのけるとはまさにこの事ですね)


敬愛する主とのいつかのやり取りを思い出す


あんた、まだ人間が憎くてしょうがないでしょう。それは正しい。人間種は脆弱ゆえに群れでの行動と知恵を磨き上げ、時には神魔ですら驚く所業をやってのける。あらゆる創造物の中でこれほど狂喜に特化してるのは真業事なき人間種だけよ。だからこの先どれだけ力を付けても人間を見くびらないようになさい、むしろ今以上に警戒するぐらいで丁度いいのよ。

数億の人間を一瞬で滅ぼせる私を追い詰め、また何度か殺してのけたのも人間よ。

私達や神魔といった逸脱、超越した存在は存外暢気でね、怠け者が多いのよ。一瞬で散る人間はその生の短さゆえに時に擬似奇跡すら創造してみせる。神界はそれを娯楽に捕らえてるけどあんたはとりあえずもっと人間種を長い目で見なさい。




(確かに私はまだまだ人間を理解していませんでした。このような事を思いつき、またやってのけるとは。おそらくカレン様もこれには満足してくれるでしょう!)




最上位観察魔法・ラプラスの瞳


対象物:擬似奇跡・転換呪魂による産物

対象範囲:使用者本人

対象効果:保存されている魂の消費量に応じて魔力増幅が可能

※この力を行使して発動した魔法は属性に問わず呪いの付加が確定

魂の収納方法:対象物を手にした状態で生物の活動を停止させるとその魂が蓄積される

注意事項:呪われた魂を扱う以上所有者にも呪いの反動が発生、所有者の力量に応じて反動は4段階に分かれる

1段階 反動を押さえ意図すれば魂の叫びを耳にする事ができる

2段階 所有者の意図に関わらず常時魂の叫びが聞こえ常に恐慌状態に陥る

3段階 所有者の魂を序所に呪い、使用する事に呪いが侵攻し、完全に呪われると所有者の魂は蓄積され以前の所有者の手に戻る

4段階 所有して99時間後に所有者は呪殺され所有者の魂は蓄積され以前の所有者の手に戻る

※どの段階でも蓄積された魂を使い切ると所有者の魂を蓄積し、以前の所有者に所有権が移譲


1譲渡には双方の合意が必要 2破棄は不可能※浄化による消化は可能だが擬似奇跡級による聖属性の浄化魔法が要 3対象物に名を付ける事で専属化が可能※3を発動した場合1 2 が不可能になる代わりに更に呪いの強度が増し抵抗を緩和させる事が可能





擬似奇跡・転換呪魂(てんかんじゅこん)


生後3000日以内の魔法を習得していない純粋な魔力を所有した幼子を99人生贄にして魂を物質化・固定化させ極度の呪い付与された魔道具を作成



サテラは迷い無く手元の異界書に壊れた兎という意味を込めて『半壊の兎書』と名を付けて異界書との繋がりを確認して専属化させる

転換呪魂の構築式を読み解いた今、いくらでも新規作成できるのでカレンが求めれば新たに作ればいいと判断して手元にあるのは自身で使う事にしたサテラ。そこには忌避感などある筈も無く手元の半壊の兎書(はんかいのとしょ)から聞こえてくる怨嗟の声はサテラには届かなかった。



掘り出し物を買い取って4日後


サテラが店内を掃除しているとドアベルが鳴り来客を知らせるとそこには背中と両手にあふれんばかりの品を詰め込んだ鞄を装備した眼鏡の似合う物腰の柔らかそうな中年の御仁が店内の様子に呆然と立ち尽くしていた


「おかえりなさい店長、店番は順調です」


「え、ええ。ありがとうございますサテラさん。店が見違えたように綺麗になってて驚きました」


「掃除も仕事の内ですから、それよりその荷物をみると仕入れは順調のようで、是非私にも見せてほしいです」


サテラの要望に快くした店主は久し振りの対面にも関わらずカウンターに仕入れた品を並べ、1つ1つ商品の説明を力説し、サテラもそれを鬱陶しがらずに真剣に耳を傾けているのが見て取れて店主は更に気分を上げる。


元々趣味人だった店主のこの趣味に今まで誰も、そう息子ですら理解を示してもらえず寂しい思いをしていたのだがある日息子が旅人を雇えないかと連れてきた人は見目麗しいこの辺りでは見た事の無い息を呑むほどの眉目秀麗の亜人の娘だった。


あまりの可愛さから一瞬息子は誑かされているのではと疑ったが、その亜人の娘サテラという娘と幾つかやり取りをしてその疑いは直ぐに邪推だったと理解できた。

その娘は自分よりも明らかに魔法の知識が豊富で錬金術にも精通しており自分と同じく中級ポーションの作成が可能だった。それだけで雇うには十分だが決め手となったのは自身がこれまで集めた実用性の欠けた趣味に走った魔道具に関心を示し、更には幾つか売ってほしいとまで言われ同好の士に巡り合えて即採用し、魔道具について語り合った。


今回仕入れた魔道具を一通り説明を終えた頃には夕方はとっくに過ぎ去り深夜になっていた。

一息付くと幾つかの品を販売価格で買い取りたいとサテラが言い出したので店番のお礼を込めて心ばかり値引きして仕入れ値に少し足してもらうだけで良いと伝えると喜んで品を選別し始めなんと今回仕入れた半数近くの魔道具を買い取るといい、それだけの大金を支払ってくれた。


勿論商売で始めた店なので売り上げあってこそなのだが店主の趣味も些か以上に混じった経営では仕入れた魔道具の大半は倉庫で埃を被る羽目になるのだがサテラのお陰で今回の仕入れの売り上げだけで1年分の売り上げは超えてしまい嬉しい悲鳴を上げながら残りの品を棚に陳列させる。




店長が仕入れから戻ってきてすぐ仕入れ品の品定めとなり時間を大幅に過ぎて遅い晩御飯を店長と2人で食べている


「店長、よければ次の仕入れは私が行ってもいいでしょうか? 行ってみたい所がありまして」


「それは構いませんけどサテラさん1人で行く予定ですか? 私と違って貴女のような可愛らしい女性1人での仕入れは危ないですよ?」


キルトまでの道中1人旅とは聞き及んでいるが仕入れとなるとそれとは違う意味でもまた危険が付きまとう

金や魔道具目当ての夜盗は勿論のこと、時には同業者に雇われた傭兵崩れに襲われることもある

それらを心配しての忠告だがサテラには無用だったようだ


「ご心配なく、今までも1人で旅をしてたので自衛の心得はあります。それに行き先は恐らく無人かと、ここから南にある神殿廃墟にいってみたいのです」


「神殿廃墟―――ああ、それなら確かにここから南に馬で2日ほどの距離に廃墟がありますが、あそこは既に魔導教練組合や盗掘屋に調べつくされてめぼしい物はなにも無いですよ」


「物品だけでなく歴史の探求もしているので実際にその地に出向いてみたいのです。勿論仕事は別に魔道具の仕入れも忘れませんので」


「なるほど、それもある意味趣味ですね、判りました。都合のいい時に好きに出掛けてもらって構いませんよ。サテラさんのお陰で店の経営は順調ですから」


「有難う御座います、それとポーションについてですが独自に開発したこのポーションを店で取り扱ってはどうでしょうか? 中級ポーションと同程度の回復効果に魔力の回復効果もあるので需要はあると思います」


この際ついでにポーションの用事も済ませてしまおうと懐から一本のポーションを取り出し店長に渡す


「魔力の回復?!」


サテラから受け取ったポーションを見てその効能を聞いて半信半疑で鑑定の魔法を掛けると確かに魔力回復の効果が付与されている

魔道具については趣味が高じて経営はよろしくなかったがポーションに関しては中級までしか作成できないとはいえ真面目に研究して研鑽も積んだつもりだ、だからこそ目の前のポーションがどれほど異質なのか理解できる


「―――魔力の回復できるポーションなど聞いたことも見た事も無い、事実なら需要は確かにありますが値段の付けようが無いので明日にでも製薬組合に持ち込んで効力と値段の取り決めを確認してみます」


この様な品どう考えても国に保有管理されても可笑しくない品だが、適当な値段で勝手に販売して目をつけられたら店ごと消されかねない案件なので素直に製薬組合に持ち込んだほうがいいと判断したのだ。組合には仲の良い友人もいるので最悪の事態になってもそこでもみ消せると踏まえての目算があった。


「はい、日に200本は練成できるのでそれもお伝えください」


早速明日にでも仕入れに出掛けると伝え、サテラは屋根裏に上がりはやる気持ちを抑えて明日を楽しみに眠りに付く。




翌日朝一番の店の清掃を済ませ朝食を用意し店長と2人食事を済ませるとポーションの作成を済ませサテラは前日伝えた通り一ヶ月の仕入れの旅に出発した。

詰め所でコリンと顔を合わせたのでしばらく仕入れの旅に出る事を伝えると1人では危ないと親身になって説得されたが今までも1人旅だったのと自衛の手段はあるとなんとか説明して渋々ではあるが見送ってもらった。


(さて、南にあるカレン様を信仰している集団とやらはどれほどのものか、楽しみですね)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ