114話 夫婦の創世奇譚 15話 夫婦語6
屋敷に戻って10日頃
カレンとシドは私室で顔を突合せ悩んでいた
原因は名無しの妖精のボイコットだった
シドはまったく気づかなかったがどうやら名無し妖精はバンシーに好意を持っていたらしく、そのバンシーを長期間使いに出したことに納得できず、買出しを放棄してアナヒタやカレンの使い魔と遊びくれてるらしい
幸いサテラがいるので買出しはサテラに行かしてるがこの先の事を考えるとこのままにしておくわけにもいかず2者して悩んでいるが一向に解決策の目処がない
「サテラかアナヒタに使いのできそうな生物造るなり召喚でなんとかならないか?」
「できなくはないけど妖精は目利きがよくて珍しい物を見つけるのに長けてるからなんとかあの子に機嫌を治してほしい所だわ」
妖精種はそもそも同属以外と絡む事は殆どなく、またその気まぐれさから誰かに仕えたりするなど不向きでなにかしらの術を施さない限り神相手だろうという事を聞かない。
カレンと妖精の間になにがあったのかは聞いてはいないがこの様にボイコットするということは支配下にあるわけではなく、またそのつもりもカレンにはないようでこの10日その解決案すらでていない
「俺達が機嫌取りに作った菓子も一向に効果ないからな」
2者が菓子を作りその場を離れると妖精が目敏く菓子を口にするがそこでカレンが話しかけてもそっぽ向いてしまうらしい
神界の住人が知ったら混沌姫を困らせる逸材など喉から手が出るほどほしい逸材だろう
2者が幾つか案を練るがこれというものがなく、今日もお手上げと諦めていると屋敷の入り口が騒がしくなり幼子の泣き声交じりで扉をノックしているようだ、この星に扉をノックする者など1人、いや一柱しかおらず2者はまたか、とため息交じりに迎える
案の定アナヒタが全身をベトベトにして涙目で陳情する
「シド様ぁーカレン様の使い魔をどうにかしてくださいぃ、私の泉で水浴びしたり飲み干したりして注意すると追いかけられて飲み込まれてもういやですぅ」
これにも頭を悩ませているシドだがこちらに対してはカレンは面白がっており禄に取り合ってくれないと察したアナヒタはカレンではなくシドに訴えるのだが、こちらの案件に至ってはアナヒタには諦めてもらう他ない。
カレンが放任してる以上自分になにができるというのか、そもそも気まぐれで食われかけない規格外などどう注意しろというのか
シドも武を追求するものだがあれに至っては挑むのは自滅行為と察せられた
使い魔はどうやらアナヒタや妖精を気に入ったようで妖精を背に乗せこの星を縦横無尽に駆け回りアナヒタを見かけるとわざとアナヒタの速度に合わせ追いかけアナヒタがばてたところで丸呑みという主人に似た性格だった。
厄介なのがアナヒタの泉を浴びたり本人を丸呑みにする事で日増しに神威が肥大していくのだが主人の言い付けは一応守るようでしばらくして飽きるとアナヒタを吐き出し開放するが翌日には同じ事の繰り返しだった。
「なんとかしてやりたいがあればっかりはな・・・それにこっちもこっちで今困っていてな」
「ううぅ・・・困ってるってどうしたんですかぁ?」
根が善の塊のアナヒタは困ってると聞いてとりあえず話を聞いて2者が10日悩ませてたのが阿呆らしくなるほどあっさり解決策を導き出す
「じゃあバンシーちゃんの国に買出し行かせたらいいじゃないですかぁ、あそこなら珍しい物もいっぱいありますよぉ」
アナヒタの即答に2者が珍しく驚いた顔を見せそれでいいのかとあっさり見つかった事に2者して苦笑いしてしまう
「私が頭を悩ませていたのにあっさり解決ってのは何だが腑に落ちないけど礼をいっとくわ。褒美として使い魔と遊ぶ権利をあげるわ」
いらないですうぅ~!
なんとかしてくださいシド様ぁー
それとサテラちゃんに神界の秘鉱石作らせて泉に放り込ませるのやめさせてくださいよぉ~、神界にばれたら私が怒られちゃいますぅ・・・
等々悲痛な訴えをカレンは笑顔で交わし追い返す、そんな居た堪れない背を見送りながらシドが今度飛び切りの料理をご馳走しようと決める
人柱ならぬ一柱の案は見事妖精の機嫌を取り戻し、カレンが神国サテラとの転移門を設置するとしょっちゅう妖精はバンシーの元に買出しのついでに遊びに行ってるようだ。
念の為と、バンシーにソフィアとシャルマーユ皇帝に妖精に便宜を図るよう通達させると実質あの世界では誰も手出しできない有様になり世界中から珍品を大量に怪我を負うことなく持ち帰ってくるようになった
バンシーと妖精の恋路はまた別の話・・・
バンシーを使いという名目で国作りに出して1年が過ぎた頃
屋敷の地下工房でカレンとサテラが向き合いその後方をシドが無言で見守る
3人の装いは普段と異なり正装を纏っていた。
カレンとサテラは黒のローブを纏い、絵物語等で見かける魔女そのものでシドも軽装の上に腰に神槍。天照と月詠を携えゼファースで仕入れた八咫烏の外套を羽織っており物語に出てくる魔女を退治する側の騎士そのものだった。
「あんたに出した課題は終わりよ。これで弟子卒業ね」
シドからすれば始めて目にするカレンのローブ姿だが普段の奇抜な服の印象が強すぎて魔女というのを改めて認識させられる
カレンもサテラも普段着の上からカレンお手製のお揃いのローブを着込んでいるだけだが全身を覆い顔もフードを被ってるので見慣れない光景だった
この場を設けたのは先のカレンの発言通りサテラにくだした課題をこなしたサテラへの様式美としてカレンの提案だ。
「有難う御座います。主にしてお師様」
感極まったサテラが涙声で返答する
お揃いのローブだがサテラのフードには兎の耳用の突起部分があり耳が揺れているのが丸わかりだが2者とも空気を呼んで笑みを堪える
あの日、魔神に転生したサテラは予想通り課題の残りの魔法を含め様々な魔法 擬似奇跡 果ては魔導を神の記憶から読み取り修めるに至った
すぐに卒業でもよかったのだが折角だから様式に拘るとカレンが言い出し、地下工房の一部を神殿のように改装とローブの作成に加えてサテラに内緒で2者掛かりで贈り物を考え時間を費やした
「今後は私の名を出す事を認めるわ」
この場合の名を出すというのは自身の師匠の名を語るのとは意味が違い、名を継ぐという意味合いでカレンに認められたという証でもある
最もカレンは不滅で引退など無いのであまり意味のないことだが当人同士が満足してるのだからこの場を設けたのは間違いではないとシドは喜ぶ
「光栄の極みで御座います、これからは共に魔導の追求をしたく存じます」
「ええ、更なる精進を共に。そしてこれは私とシドから弟子卒業のお祝いよ」
厳かな雰囲気を和らげカレンが取り出したのはサークレットだった
シドが設計しカレンが魔力を注ぎ込み、それぞれ色違いの九個の宝石は各属性に纏わる神器の宝石で彩られている
取り出したサークレットをサテラのフードを脱がせカレンが直接被せる
感極まったサテラは限界を迎えたのか涙を零し言葉も出せなかった
一目で解る程の飛び抜けた神器だがそれ以上にデザインがサテラの心を打った
かつての隠れ里で友だったスーラが身に着けていた特長的なサークレットを模した造りだった
こうしてカレンの最初で最後の弟子は無事卒業しカレンと共に更なる高みに挑む
その日の夜、カレンとシドの寝室にて
言葉を交わさずカレンを抱き寄せぶっきら棒に頭を撫でる
カレンも抵抗せず満更でもなかった。
サテラは終ぞ気づかなかったが、初めての弟子が成長し卒業するのに喜びとは裏腹に寂しさもあったカレンの胸中を察した行動だった。
この夜2者は寝るまで言葉を交わさず
ベッドに入って唯一言
お疲れさん
ありがと
と交わしただけだった。
サテラが卒業した翌日
卒業したとはいえ使用人でもあるサテラが屋敷を出るわけもなく
カレンは私室でサテラの用意したお茶を楽しんでおり入り口にサテラが控えている
お茶を飲み干したカレンがサテラに話があると席に着かせるとサテラは空になったカップにお茶を注ぎカレンの様子を伺う
「弟子じゃなくなったけど同じ魔を追求するもの同士としてお願いがあるの」
「お願いなど滅相もないです、卒業してもお二方の使用人に変わりはありません。どうぞ命じてください」
サテラが使用人らしく一礼しようとしたところでカレンが手を振り待ったを掛ける
「いえ、これは使用人ではなく対等の魔女同士としての話だから嫌だったら断ってもいいわ」
「――わかりました、どのようなお話でしょうか?」
納得の返事をしたサテラだがそれがどんな内容でも快諾する気持ちに変わりは無い
「私が始めに魔法を広めた世界で珍しい魔法を蒐集して来てほしいの」
「珍しい魔法の蒐集・・・ですか?」
カレンが最初に魔法を広めた世界
その世界にある国々の名は書斎で何度も目にしていた。
魔術大国 魔法国家 魔法原理主義国家
その世界の住人のほとんどが魔法を使え、魔法の錬度により貴族階級のような階級制度があるほど魔法と密接な世界
「そう、あの世界は魔法の浸透性が高くて数ある星の中でも上位に位置する魔法の栄える世界なのよ。門外不出の珍しい魔法や魔導、いえ、もしかしたら擬似奇跡すらあるかもしれないわ、手段は任せるからできるだけ多くの珍しい魔法を蒐集してほしいの。その眼なら一度行使された術は大抵のことなら看破し修められるからあんたにお願いしたいの」
書斎にはその世界の国々の名前や特徴が記された書物は沢山有ったがその世界の魔導書関連は無かった。
昔その事が気になってカレンに尋ねたら以外な回答が帰ってきた。
『あの世界では極一部の連中が私を崇拝しているから下手にあの世界にいくと神格が付いて面倒になるから行けないのよ』
そしてこうも零していたことも
『あの世界の今の魔法がどれだけ発展しているのか興味はあるんだけどね』
「了解致しました、同じ魔女としてその願い引き受けさせて頂きます」
敬愛する主人であり同士でもあるカレンの頼み、悩む余地もない。即答だった
こうしてバンシーに続きサテラの出向が決まった。
「魔法の蒐集? 珍しいな。お前が蒐集してない世界があるとは」
その日の夜寝室にてカレンとシドでサテラの出向について話し合っていた
「私の知らない世界なんてまだまだあるわよ。ただ、あの世界は複数の神が管轄してるから私が直接出向くと色々と面倒なのよ」
「ははっ! お前が他所の都合を気にするとはな!」
「なによそれ失礼ね」
膨れっ面のカレンを宥め続きを促す
「あの世界では一応私も信仰の対象だからあまり関わりたくないのよ」
それが本音だとシドは察した。
信仰次第で神格が付くことがあるが神といっても様々で知名度の低い神は信仰されてる世界から離れると神威が落ちるらしくそれを考慮したのだろう
シドもグシャにより神格を得たがこの星から出る機会がほとんどなく信仰されてるのかも不明で本者に至っては自覚すらしていない
「グシャに創造される神と信仰から生まれる神は違うのか?」
「同じよ。信仰から生まれる神もグシャの判断で造られるから、最も密教や邪教なんかはその殆どが神なんていないから全体で言うと神のいる宗教なんて数%にも満たないわよ」
グシャに創造された神は権能や信仰の規模に関わらず神格があり神威を発揮して自身の司る加護を発揮できるがカレンの先の台詞には現人神は含まれておらず、神界でも現人神は神と認識されていない。
神は奇跡を、現人神は擬似奇跡を
一般人には違いは理解できないが明確な違いがある
「それでも神界には相当数の神や悪魔がいるんだろ?」
「来月にはその目で直接拝めるから楽しみにしてなさい」
「・・・なに? 俺も神界に行くのか?」
当然初耳である
「丁度来月には神界で10年周期で開催される祭りがあるからあんたも楽しめるわよ」
「むぅ・・・なにか準備とか必要か?」
「完全武装と神界の通貨ぐらいかしら」
神界にも通貨があるが人々の通貨と異なり神界でしか採れない希少鉱石に財貨を司る神の加護が施されており偽造は実質不可能でシドは勿論カレンでも複製は不可能な代物だ。
神界に殆ど顔を出さないカレンは当然そのような通貨など殆ど持ち合わせはなく宝物室に硬貨袋で3つ分しかない
「金はわかるがなんで武装が必要なんだ?」
「古今東西の神魔混合の武術大会と魔術大会があるのよ。私もあんたも申し込んであるから楽しみなさい」
こうして超越者2名の神界行きが決まった。
名も無い秘星にて
神界行きが二週間後と迫っているが特に準備の必要の無いカレンとシドは暢気に屋敷の周りをリリーに騎乗して散策していた。
改めて観察すると見渡す限り丘や山、森に川と大地の豊穣が盛んでかつての地肌が永遠と続く光景は塗りつぶされていた。
「アナヒタのやつ本当に屋敷以外の全てを自然で埋め尽くすつもりかしら。勤勉というか、よく飽きないわね」
「植物に限らずお前のこの前の話し合いのせいで珍しい生物までそこかしこにいるぞ。この前なんてお前の使い魔が更に馬鹿でかい牛みたいなやつと交戦していたのを見つけた時は神話の光景そのものだったぞ」
口には出さないがリリーと散歩していて其の光景を目にしたときは腰を抜かしそうになり慌てて屋敷に逃げ帰ったシドだった。
「あの子よりでかい牛・・・ああ、クユーサーね。海でも作ったのかしら、ちょっと遠出してみましょう」
「ほう、海か。久しく見てないな、いいぞ。いってみようじゃないかっ」
「―――しかしあの子とクユーサーの戦いなんてよく無事に帰ってこれたわね」
「無事なわけあるか。危うく死に掛けたぞ」
危ない会話だが2者は笑いながらリリーを走らせ、適当に海を探す。
途中カレンの使い魔と合流してのそのそと並走するがリリーはまだ慣れず、本気で逃げようと走っていた
しばらく出鱈目に走り回ると潮の香りがして匂いのまま向かうと見渡す限り透き通った青い海が広がっていた。
冗談半分で探していたがまさか本当に目にするとは思ってなかったので驚きは増していた。
「これはまた絶景だな。海なんて奴隷船の中から見た限りだが、こんなにも透き通ってなかったぞ」
リリーはばてて砂浜で休憩しているが2者は濡れるのも気にせず足首まで海に浸かる
シドが手で掬い取って飲んでみると本当に塩っ辛いのだなっと驚きそんなシドを見てカレンも釣られて笑ってしまう
「そうだ、あの試験世界でミズギとやらも幾つか買っただろう。折角だから着替えて海で遊ぼう」
「ああ、あれね。あの世界の水着と下着って違いがよく解らないのよね。まぁ適当に着てくるわ、待ってて」
転移魔法で屋敷に一旦戻ったカレンを見送り、あの世界で買った趣の込んだ水用服を思い浮かべ楽しみにしていると後方から聞き慣れない大きな音が聞こえ、振り返ると使い魔が遥か前方でザバザバと津波を起こしながら凄まじい勢いで沖のほうへ泳いでいく姿を目の当たりにしてあれはほっといても大丈夫だろうと見て見ぬ振りを決め込んだ。
暫くして現れたカレンは線の細さが際立ち、白い肌を露にした黒の水着一式に赤い腰布という扇情的な格好だった。
「これはパレオといったかしら、とりあえずこれにしてみたけど、どう?」
その場で一回転すると腰布がふわっと浮き、下の水着が良く見えリボンやレースが付いていてシドは見慣れない様相に改めて自分の妻の艶を知らされる
「おおっ! 見慣れないせいか目のやり場に困るがその格好だと普段の綺麗ってよりなんかこう、凄く可愛いな!!」
シドの大興奮の褒め言葉に満更でもないカレンは珍しく照れていた。
「――――そう。よかったわ。まだ他にも種類あったから今度見せてあげるわ。あんたのも持ってきたから着替えたら海に入りましょう」
上だけ脱いでズボンのまま入るつもりだったが折角なのでその場で着替えてカレンと一緒に海に浸かる
船の小窓から眺めただけでそれ以降は書物で見知った知識だけだったが実際に浸かって見ると波のせいでうまく立てず転んでしまったがそれすらシドには面白く、満足だった。
カレンの手を引いて海を満喫していると突然足場が下がりシドが顔をなんとかだせる所まで潜るとカレンは海の中を泳いでいるのか水しぶきが飛んで序所に離れていく。
泳いだ事など勿論無いシドは関心しながら眺めていると突如海面に顔出したカレンがぷはっ! と息継ぎしたと思ったらまた沈み、水しぶきを飛ばしながら更に沖のほうへ進んでいく。
凄いなぁと暢気に眺めていたが段々必死の形相のカレンを見ている内にこれもしかして溺れてるんじゃないか? と気づいた頃には飛行魔法を発動させて海面から飛び出し海上で肩で息を切らしながら焦っているカレンを見てついに我慢の限界を向かえ大笑いしてしまうシドだった。
「くっくっく・・だーはっはっ!!!! お前、もしかして泳げないのか! さっきお前の使い魔が泳いでいたのにか?! これはこれは・・・グシャとアイオンにも知らせんとなっ・・・っぷ、くははっ」
シドの大笑いに顔を真っ赤にしたカレンがシドの腕を掴むとそんなに笑うなら当然あんたは泳げるんでしょうね! と海中にも関わらずシドを更に沖へ力任せに放り投げ観察する・・・
遠方で暢気に泳いでる使い魔を眺めながら2者浜辺に寄り添って茫然自失としていた
カレンを大笑いしたシドだが人はそもそも浮くものだとたかをくくっていたが手足をバタつかせても泳げず、沈み困惑してパニックになり溺れるもカレンに救い上げられ「・・・その、さっきはすまんかった。泳ぐ練習でもするか」
と、素直に2者して足の着くところで交互に練習するがさっぱり泳げず、上達の見込みも無かった。
「・・・・・」
「・・・・・」
そんな2者を知ってか知らずか大きく吼えて此方に泳ぎ寄ってくる使い魔を見て2者は居た堪れない気持ちになる
砂浜で座り込んでる主人とその番を見て上手に泳げたから褒めて! 褒めて! といわんばかりに顔を寄せる使い魔
「しばらくこの子のおやつは無しね」
「そうしよう」
言葉を解する使い魔は鼻息を荒げて抗議するが御構い無しだった。
余談だが後にリリーも泳げる事を知ったシドは初めてリリーに恨み言を呟いたという
海を満喫した2者は水着のままリリーに騎乗して帰路につく
「そういえばお前の使い魔、名前付ける途中といっていたがそろそろ付けてはどうだ?」
突然のおやつ抜き宣言に拗ねた使い魔はシュンとしながらも2者の後をとぼとぼと着いて来るが自分の名前と聞いて顔を上げる
「それもそうね。そうねぇ・・・マールなんてどうかしら? 可愛いでしょ」
後ろの巨狼を見てこれほど似合わない名前は無いと心の中で引き笑いしつつそれは無いとカレンに駄目だしする。
心なしか使い魔も首を振ってるような気さえする。
「か、かわいいのかどうかはさて置き似合わないぞ。なんかこう、マルコシアスとかのがいいんじゃないか?」
「ちょっと、うちの可愛い使い魔になんで悪魔の名前が似合うのよ、失礼ね」
そんな悪魔いるのか、と内心思いつつ正に似合ってると心の中で突っ込みつつカレンと2者して名前を言い合い帰路を進んでいく。
「・・・駄目ね、さっぱり思いつかないわ」
「むぅ・・・俺も名付けのセンスなんて自信ないからなぁ」
「仕方ないわ。神界の連中にも募集しましょう」
こうして神界ではフェンリル・星喰い・神殺し・真神などなど、主人と同じく複数の忌み名もとい呼び名がある使い魔の名前探しも再開し、使い魔は喜びから空に吼える。
「そういうわけだから、あんた。神界の連中に伝えときなさいよ」
「?」
「こっちの話」
(それよりたすけてくださいぃ)
偶々海で海藻類を創造していた哀れな大神が使い魔の口の中で抗議するも聞き入れてもらえなかった。
海を満喫? した翌日
シドは庭で大会に向けて鍛錬に励み、カレンは飾りとしか機能していない門の前で手を叩き「おいで」と叫ぶでもなく通常の声で呼び出す。
それだけでどこからともなく使い魔が飛び出しカレンの前で伏せる
「よしよし、本当にあんたは可愛いわね」
はたから見れば今にも魔獣に食われそうな少女の図だが、カレンは気にせず使い魔の顔に抱きつき頬ずりする
元々使い魔と出会った頃は通常の大きさの狼でその頃から動物好きのカレンは溺愛しており、今の30m程の巨狼になって自身を遥かに凌駕する存在になってもそれは変わらず、カレンにとっては心底可愛い使い魔だった。
「昨日はこの辺りを探索したから今日はあんたに乗ってかなり遠くまで探索するからよろしくね」
主人を背に遊べると知り使い魔は大喜びに吼え、自身の背にカレンを乗せると瞬く間に周りの光景が変わり昨日とは違う山のほうを駆ける。
今回の気まぐれの探索には3つの目的があった。
1つ目はクユーサーのような神獣をアナヒタが呼び出したのか、またはアナヒタが創造した聖物に釣られて偶々ここに訪れたのか
前者なら問題はない(あくまでカレン基準で神界では大事だが)。だが後者ならクユーサーの様にまた大物が現れ、それが悪性のものなら屋敷に留まらず今はいないサテラやバンシーにまで被害が出かねないのでその確認を。
2つ目はこの星を駆け回り所々にカレンの魔力を大地に注ぎ込み使い魔の抑えきれない神威をこの星に馴染ませる為。
3つ目は単純に可愛い使い魔と遊びたかったから。
優先順位は1つ目はあくまでついでで、3つ目が本音だが2つ目も最近は逼迫してる問題だった。
使い魔にとっては遊び程度の感覚だろうがアナヒタのような大神をその身に何度も収める事で益々神威が増しており、このままではこの星ですら悪影響が及ぶ恐れがある。
久々の使い魔とのスキンシップに心躍りながらも半日かけて星の至る所にかなりの魔力を注ぎ込む作業をしつつ改めてアナヒタのはしゃぎぶりを目の当たりにする
「あいつ本当にこの星の大半を神域にしてるじゃない。クユーサーのような大物なら遊んでいいけど力の無い聖獣や神獣は食べちゃだめよ」
主人の注意に吼えて返答する使い魔
半日かけてこの星を駆け回って目にしたのは清浄な自然を好む聖物から木々や希少な果物を好む珍しい聖物、挙句の果てにはそこそこ名のある聖獣からカレンですら初見の神獣まで発見した。
あらかた確認も済んだし帰ろうかと思っていた所でアナヒタを見つけたので音もなく背後に忍び寄る
「♪~これでこの辺りも満足かなぁ。次はプリティヴィーちゃんを呼び出してみるのですぅ、この星なら大抵のことはカレン様の仕業と神界も黙認するのでやりたい放題ですぅ~♪」
「プリティヴィーなんて呼び出したらあんたの言う事きかないでしょ」
プリティヴィーとはアナヒタと同格の大神だが起源はアナヒタより古く神格が違う。
「そのへんはだいじょーぶですぅ! ここにはあのフェンリルがいるんですよぉ~。大抵の暴れん坊は大人しく大地を豊かにしてくれ・・・」
「「・・・」」
後ろを振り向き笑顔のカレンと目が合ったアナヒタは己の置かれた状況を確認して顔を青ざめ言い訳など通じないと判断して一目散にふよふよと飛行して逃げる。
行きと違って帰りはゆっくりと使い魔に歩かせ帰路に着く
「悲しいわ、あの従順で大人しい子が私を利用するような子になるなんて、教育のし直しかしら」
(ごめんなざいいぃー!! つぎからかくにんするのでゆるじでくだざいいぃ)
使い魔の口内で泣き叫ぶアナヒタを無視して独り言を続けるカレン
「ねぇ、そのまま飲み込んで元の世界に送り返してあげようかしら? 勿論神格を奪って、信者にさぞ可愛がられて性根も直る事でしょ」
(いやですうぅ! なんでもずるのでそれだけはぁ~)
「・・・あら、聞こえた? なんでもしてくれるんですって」
(えう? ううぅ~・・・)
「神界の果実を作ってくれるんですって、楽しみね」
こうしてカレンとサテラの神界の希少鉱物に続き、こっそりとアナヒタによる神界のご禁制の果実まで創らされる羽目になったアナヒタ
言うまでも無いがどちらも神界にばれたら呼び出し、重い罰則という危険な橋だ。
こうしてアナヒタも戻るに戻れぬ状況に陥るのだが、半ば開き直って神界などもう知らないと自由奔放になっていく。




