112話 夫婦の創世奇譚 13話 サテラの覚醒と建国 サイド【ソフィア】
聖領域国ゼファース
総人口10万弱とこの世界では最も人口の少ない最小国とされる国ではあるが国益は世界でも最高水準の聖国
2000年以上続く聖国の歴史を強固にしたのは聖帝ソフィアの類稀なる逸脱者としての頭脳と徹底した教育管理により聖国民の感受性に知識と知恵を大いに育み、他国からは聖国民を我が国の要職にとの要望が後を絶たない。
他国の人間を要職にというのは何も知らない他国からしたら有り得ない話だと驚く事だがそれを成せるのが聖国の凄さである。
聖国の実態は国というより大きな1つの家族のようなもので純国民の全てがソフィアの教えを受け継いでおり英知の1部とソフィアの特性の1つである虚言を嫌うという体質を受け継いでおり帰属意識と国民1人1人の誠実さを伺える。
そんな聖国民は争いを好まない性格で、そもそも軍という組織すら存在せず武力は無きに等しく、蛮国からしたら侵略し放題の無謀な国に見えるが建国以来一度もソフィアは戦争を起こしていないし戦争被害零という常人では有り得ない快挙を成している。
どんな奇跡があるのかといえばなんてことはなく、世界の国益が関係している。聖国堕ちるは世界の崩壊と時の皇帝が述べたほど聖国は小国ながら世界に多大な影響を与え、そんな益国に手を出そうならば世界中の国に宣戦布告するも動議という理屈だ。
そのような環境作りを成し遂げた聖帝ソフィアの手腕は語るまでも無く、他国からは聖女と称えられるほどでソフィアの来訪した国は恵まれると噂されるほどの崇拝振りである。
そんな聖国だが現在聖帝ソフィアは小さく、それでも深刻な悩みを抱えている
近年、数少ない友人でも有る1人が尋ねてこないのだ。
以前までは2,3年に1度は国に訪れ一時を楽しんでいたのだがここ暫く、正確には100年近く顔を見せず連絡の手段も無く心配していた、近衛の者もソフィアが友人との一時をどれほど楽しみにし、待ち望んでいたか良く理解しているのでその憂慮になんとかしたいと八方手を尽くしたが雲を掴むような話でどうにもならず近衛達も四苦八苦しておりそんな折に一報が届いた。
ソフィア居城内~私室~
「ソフィア様。失礼します、至急報告したい件があり上がりました」
側近の近衛が丁寧に、されど急ぎノックしながら室内の主へと伝える。
主からはノック不要で入室の許可は出ているが身分以前に女性の私室にノックも無しに入る訳にも行かずこうして毎回律儀にノックをして確認を取る
「どうぞ」
一言だが主の鈴を転がすような声で許可を得た近衛のクレアが入室して椅子に腰掛けてお茶を嗜んでいた主の前まで行き膝を突く
この国を2000年支え続ける聖女ソフィア
22歳の頃にある出来事があって不老不死になったという逸話があり事実目の前の彼女は自分が幼少頃から寸分違わず容姿が変わっていない
一国の主であるにも関わらず節制を自分に課している淑女で身に纏ってる服も白のワンピースで豪奢な装飾品は1つも無い
それでも透き通るような白い肌にさらさらな膝まで届くほどの長い金髪、眉目秀麗とあって絶世の美女は飾りは必要無いほど完成されていた
「相変わらずクレアは律儀ね、この城に勤める人達で貴女だけよ」
毎度繰り返されるやり取りだがクレアはこのやり取りが好きだ。
城内の殆どの連中は主の意向により親しく接している、そうあれと主が望んでいるのだから遠慮するほうが失礼だと皆親しみを込めてソフィアに接しているがクレアだけはどうしても主従の形式に拘ってしまう。
「ソフィア様、今は至急お伝えしたい事が」
自身の楽しみよりまずは主への報告をと先を急ぐ
「そうだったわね、またテリアからの催促かしら?」
二ヶ月ほど前にテリア国からシャルマーユに宣戦布告し、敗戦したので戦争賠償や物資の援助を申し込まれたがソフィアは事前にこの戦がテリア王が謀略に敗れて行われた戦と情報を掴んでいたので義理が無いと断った。
直後に勅使が尋ねてきて高圧的な態度で再度援助を申し込んできたので断ったらその勅使は宣戦布告をテリア王の名の下に下してきた
その愚か過ぎる選択はさすがにソフィアも想定しておらず、とりあえず勅使は追い返したがあの国は最早破れかぶれで何をするか解らないのでソフィアの悩みの1つであった、最も対抗策は既に打っているのだが
「いえ、城下町でカレン様をお見掛けしましたのでお連れしました」
クレアはこの報告を早くソフィアに知らせたく2人より先に馬で駆けつけてきた
その甲斐あってソフィアは近年見せた事の無い驚きつつも笑顔を見せクレアに先を急かす
「まぁ! カレンが来ているの? 直に連れてきてください」
近年、いや彼女達の感覚で近年なので実際は100年単位だが、友人であるカレンが姿を見せずソフィアは憂いていた
自身が治める国は国民全て家族のようなもので皆親しく接してくれるが友達とはまた違う
だが、カレンは始めて出来た信頼の置ける良き友人だ。早く会いたい! とティーカップを置きクレアに詰め寄る
「それが―――見知らぬ大男も一緒に居られたので来て頂いたのですが男性の方も一緒にお連れしてよろしいでしょうか?」
特に制限があるわけではないが周りが聖女の私室と崇めてるので男性の入室は事前にクレアが確認する手筈になっている
あの人間嫌いのカレンが男性を連れている? と一瞬考えるがこの国へ尋ねにきた理由だろうと察して快諾する
「男の方? 勿論構いません、直にお通ししてください」
ソフィアの許可を取ったのでクレアは一度部屋を退室する
そして再び扉が開かれると其処にはかつてと変わりようの無い友人の姿があった
「久しぶり・・・っ」
カレンが挨拶しようとすると抱きつかれ遮られてしまう
「もう! 何年も音沙汰無しで心配したのよ! 貴女の事だから万が一の事は無いとは知ってはいても友達なら心配してしまいます!」
其処には聖国の聖女はおらず、ただ友人を心配する見た目相応の女性がいた
普段見せる事の無い顔だがカレンとソフィアが抱き合ってる姿は国民が見ればそれも聖女の一面として更に信仰が深くなるような絵になる様だった。
「悪かったわね、ごめんなさいソフィ、色々な出来事が重なってね」
泣き崩れるソフィアの背をあやす様に軽く叩きながら言い訳をするカレンだが、そんなカレンを見てシドは驚く
この国に来る前にサテラとの計画を含めて友人の国へ尋ねると聞いた時はカレンにも人間の友がいるのかと関心していたが、これほど親密な仲とは思ってなかったので虚を衝かれ挨拶が出遅れてしまい、ソフィアが落ち着いたのを見計らって声を掛ける
「すまんが紹介してくれんか? ここに来る前に名前だけ聞いただけで全く状況が掴めないのだが」
シドの声で漸くカレンから離れ、スカートの裾を掴んで優雅に一礼して自己紹介を済ませる
「失礼しました、私はこの国を治めるソフィアと申します」
裾を掴んで頭を下げて一礼はするが膝は曲げない、正に貴族や王族然とした一礼だった。
この国の国民に限らず世界中の男性がこの機会を望むほど、聖女たる所以を垣間見た
「謁見のマナーは心得てないので無礼は許して欲しい。カレンの夫のシドと申します」
礼には礼を
元奴隷上がりの農民だったシドだが、カレンと共にするようになって大抵のルールやマナーは教え込まれ、またシド自身少しでもカレンの夫として恥じないよう槍の腕だけでなく様々な事を研究しておりその中には貴族のマナーも含まれている、古式だが優雅な一礼をする
「・・・・・・・・え、夫? カレンの?」
そんなシドの努力も空しくソフィアにはカレンの夫という言葉で頭の中が一杯になり呆然と言葉を発していた
「そうよ、100年越しに告白されて夫婦となって40年ぐらいかしら? まだまだ熱々の新婚気分よ」
カレンがシドの腕に寄り添い、仲が良い所をアピールしてみせた所でソフィアの頭の中は過去に現実逃避する
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訳2000年前 古代スザーナ国内テヒル村
当時この世界には大小様々な国が群雄割拠しており右も左も戦争だらけだった
スザーナ国も戦争の最中で複数の敵国からの威力偵察を受けており、ここテヒル村のような辺境の農村まで手を回せず何処かの敵対国の兵か自国の傭兵崩れに襲われた。
ソフィアの両親は既に他界しており適齢期に達した15歳になってもまだ結婚しておらず、1人で薬草学を学びながら薬草や香草等の植物で生計を立てていた。
今日は偶々テヒル村に薬草を摘みにきていたのだが、村の中央に備えられた鐘の音が村中に響き賊の来襲を知らせる
この戦場下ではこのような村でも襲われる事は間々あることで、村人も慣れた様子で地下の非難箇所に逃れようとしたが今回の強襲は普段とは違い傭兵崩れの強襲ではなく立派な鎧と武具を装着した兵士達の強襲だった。
非難が間に合わず村人は次々と殺されていく。
その様子を見たソフィアがこれは食料や金品狙いではなく敵国の掃討戦と察し非難箇所ではなく山に逃げ込んだ
3人の兵士に気づかれ追いかけられたが勝手知ったる山で何度も登山していたソフィアは巧い事兵士を撒いて逃れた
村のことは心配だったが武器の扱いも魔法も全く才能のない自分が駆け寄っても無駄死にするだけだった
山の中腹に入り日が落ち深夜となっても油断はできなかった、敵国による掃討戦なら1人も逃すまいと追っ手がくることはソフィアは解っていた
深夜の山を移動するのは慣れたソフィアでも危険だったが背に腹は変えられず用心深く突き進む。
更に数時間が経って山の反対側を目指していたソフィアは未踏の地を進んでいると山の奥深くに相応しいのかどうか迷うような廃墟を見つけた。
気にはなったが、追っ手を考えるとここに潜むより更に進むほうがいいと判断し廃墟を無視して足を動かそうとするとなんとその廃墟の扉が開き中から女性が出てきた。
その女性は見た事ない黒のドレスのようだが上下が分かれており一見奇抜な服を纏っていたが貴族が身に着けるような煌びやかさがあり、それを纏う本人も銀髪という見た事ない髪の色をした少女とも女性とも言える妙齢な美しい女性だった。
その貴族のお嬢様のような女性を前に自分の格好を見比べ思わず恥じてしまう、山を駆け抜けた際に枝に裂かれて破れや綻び泥だらけのみずぼらしい服が増して酷く見えた
「ここは幻獣がうろついてるから人払いの結界をしてなかったのだけど、貴女はお客かしら? それとも追っ手?」
その女性は場違いな問いを自分に飛ばしてきた
(幻獣・・・人払いの結界・・・この人も追われている?)
彼女の言葉を良くかみ締め頭の中で試行錯誤する、そして即座に判断を下す
「追っ手に追われているお客です。良ければお茶をご一緒しませんか?」
酔狂な事を口走ってるのは理解している。だがこれが最善策とソフィアは判断した
先の幻獣や人払いの結界という単語から彼女が幻獣にも対処できる魔法使いと察し、事実を伝えてかつ客の選択肢を選んだ
これなら敵対する事はまず無いと予想してのことだ、これで襲われるようなら出会い頭に既に問答無用で襲われている筈だから
「あははっ! あんた面白いわね、素直なのはいい事よ。お茶を煎れてもらおうかしら、入りなさい」
どうやらソフィアの選択は正しかったようで彼女に迎えられたようだ、廃墟に入っていく彼女の後を追って恐る恐るソフィアも中に入ると視界に映ったのは外の廃墟が見間違いと錯覚するような綺麗で整った室内だった。
奥に続く通路と右奥には台所、部屋の中央に簡素だが造りのしっかりした上質な丸い机と椅子が2つとベッドが1つあった。
現実には有り得ない経験だがソフィアはこれが魔法の類と察し深く追求しなかった。
魔法に関心が無いのと下手に話をして機嫌を損ねたくないからだ。
「人と話すのは久しぶりなのよ、台所でお茶の用意をしたら話しましょう」
「はい、お口に合うか判りませんが薬草の他に香草も摘んでるのでお茶を煎れますね。台所お借りします」
幸い薬草を摘める袋が小さくてかさ張らなかったので腰に携えたまま逃走していたので薬草も香草もあったので台所を借りてお茶の用意をする
不意に出会ってまだ名乗ってもいないのに家に上げ台所を貸す彼女について気になる点は多々あるが推定魔女? は常識の範疇外の存在なのだろうと頭の隅に置いてお茶の用意を済ませテーブルに着く
「あまり期待してなかったけど良い香りね、さて・・・私はカレン。人外よ、まぁ魔女とでも名乗っておくわ」
ソフィアのお茶は口に合ったらしくカレンは優雅な様でお茶の香りを満喫して一口飲む
その様は同じ女性でも魅了されるぐらいでソフィアも見蕩れていたが、カレンの発した台詞はソフィアを混乱させる
(人外? 魔女って魔法を使える人のことでは?・・・)
逡巡して今この場では答えは出ないと頭を切り替え自分も自己紹介と状況の説明をする
「私はソフィアといいます。未熟ですが薬草学を学んでます。テヒル村に薬草摘みに寄ったら運悪くどこかの国の兵に襲われて・・・・・私は山に逃れてなんとかここまで無事でしたが、おそらくまだ追っ手が私を追いかけてくると思うのでカレンさんに迷惑が・・・」
追っ手がまだ迫ってる等余計な事は伏せて自己紹介だけして話を誤魔化しここに泊めて貰うか安全な場所まで案内してもらうという考えは思いつくが彼女の性分で正直に説明する
「へぇ―――あんた正直なのね、そんな事話したら追い出されるかもと理解して話したのかしら」
カレンはソフィアが近づいてきた事を察して探査魔法を発動させ、大方の状況は既に把握していたがソフィアがなんと言うかで今後の判断を決めようとしていた。
幾つか想定していたソフィアの答えは全て外れ、馬鹿正直に有り様を説明したソフィアに興味を持った。
「はい、嘘は嫌いなので」
ソフィアの答えを聞きカレンはソフィアを始めて【注視】した。
元々この山を幻獣に出くわす事無くここまで来れたのだから何かあるとは思っていた
ソフィアを観察眼で視た所、とある神の加護が2つ授かっていた
【人を導く加護】と【幸運の加護】
前者の加護の影響で恐らく虚言に敏感なのだろう
本人も知らない間に神の加護を授かるのは珍しくない、その中には【幸運の加護】も偶にあるが【人を導く加護】を授かった人間は極稀で大抵悲惨な末路を辿るか加護を活かせずその人生を終える
数奇な縁だと内心でほくそ笑む
「そう、お茶のお礼に勘違いを正しておくとあんたはかなりの強運の持ち主よ。今頃あんたの追っ手は幻獣の腹の中よ」
加護など本人が知ったところでどうしようもない事を態々話す必要はない、久々に話した人間が奇特な人物だったので親切心から追っ手の末路を語る
「―――幻獣とはカレンさんの使役してる使い魔のようなものなんですか?」
(この言い回し、予想というより確信してる? 追っ手が幻獣に襲われたと魔法で判るのかしら?)
魔女についての情報は一般人はまず知られていない、精精が魔法を使えて使い魔がいる程度だ。
ソフィアもその程度の事しか知らないので尋ねてみる
「使い魔はいるけど今は訳あって離れてるわ。ここに留まっているのはこの辺りの植物は幻獣の魔力を帯びて特殊な香草が多いからお茶の探求の為、いわば趣味ね」
事実この世界の香草や香木は他の世界では人気で神界の女神の間でも話題に上がる程だ
気紛れで立ち寄った世界で折角だからと貯め込んでいた魔導書の解読に専念し、ついでにとこの山の特殊な植物を研究していた最中だった。
「噂通り魔女は怪しげな材料を大釜で掻き混ぜたりするんですか?」
目の前の浮世離れした美人な魔女も自分と同じ薬草を摘んでるのを想像して奇妙な連帯感を感じ思わず連想した事を口に出してしまう
「ふふっ、その通りよ。それに私は悪い魔女だから人間に害を及ぼす事も平気でするわよ」
ソフィアの感想は子供が魔女を連想する時に話す想像で思わず笑ってしまい乾いた喉をお茶で潤す
飲み干した後に煎れた直後の香りが一際強く感じ、素直に美味しいと関心する
「それは怖いですね――お茶はお口に合いましたか?」
目の前の彼女が言ってる事が事実だとしても今この場で彼女に恐怖は感じない。
つい半日前に人に襲われたからか、感覚が麻痺してるのかもしれない、だからそこは無視して彼女がお茶を飲み干した所で感想を尋ねる
純粋に薬学を学び香草も自然と詳しくなり自分の煎れたお茶が目の前の彼女のお眼鏡に適ったか尋ねたかった
「ええ、初めて飲む味だったけど美味しかったわ。香りも楽しめたしね」
「それはよかったです」
「久々に人と会話したから話疲れたわ。私はもう寝るけどあんたはどうするの?」
(出て行けと言われないと言う事は此処に留まってもいいのかしら?)
「あの、ご迷惑なのは重々承知ですがよろしければ一晩泊めて頂けないでしょうか?」
「ベッドは1つしかないから床で雑魚寝でいいなら好きになさい」
ソフィアの要求を察していたのか即答で返事を返すカレン
雑な言い方だが今のソフィアには幻獣という人を襲う生き物が徘徊する山で野宿するよりよほど安全だ
「感謝します」
命の恩人ともいえるカレンに感謝を述べ手を胸の前で重ねる
「・・・あんたその仕草は何処で覚えたの?」
話は終わりもう興味は無いとベッドに入ったカレンだがソフィアの仕草を見て内心軽く驚き思わず問いが口に出てしまう
「あ、すみません気に障りましたか? 特に教わった訳ではないのですが自然と手を重ねてしまうのです」
「そう、『この世界』では見たことない仕草だから気になっただけで不快ではないわよ、それじゃおやすみ」
ソフィアが床で寝入ったのを見てカレンも横になり今日のこの出会いについて考える
(『あの祈り方』は別世界での神への感謝の表し方、この世界では普及していない所作、なぜこの世界の彼女が知ってるのかしら・・・)
寝付くまで色々考えてみるが納得できる答えはすぐ見つかった。
【人を導く加護】の影響と
案外彼女はこの加護を活用できるのかもしれないと思いつつ、折角知り合ったのだからこれまでの同じ加護を持つ者たちのような悲惨な末路を辿らないようにと思いつつ
ソフィアにとっては運命の出会い
カレンにとっては奇妙な縁
その日は終わった。
それから4日後
2人は別れずまだ廃墟で共にしていた
別段急いで追い出す必要の無いカレンとそんなカレンに興味を惹かれたソフィアは山を降りると言い出せずだらだらとここまで経ってしまったがカレンがソフィアに驚きの提案を出す
この辺りの希少な植物の採取と調合を手伝って頂戴、代わりにあんたには知識を授けてこの世界屈指の錬金術師にしてあげるわ。最も手解きはしないから書斎で勝手に知識を汲んでもらうだけだけど、あんたなら可能の筈よ
錬金術師
魔女と同等に縁の無い単語だが薬学を学んでる以上その名は耳にする
なにせ薬学の調合は錬金術から始まったと噂される程だ、ソフィアにとって望外の申し出、勿論二つ返事で了承した。
そして書斎に案内されて目の前の女性が魔女ということを改めて認識させられた
廃墟の面積より明らかに数十倍はあるその空間には数える気にもなれない本棚が並んでいた
近くにあった棚から一冊無造作に取り出し中を見てみると見たこと無い魔法関連のような難しい古文書だった
この無限のように感じる空間にこのような高等書物が積み重なっていると思うと知的好奇心が抑えられず、今すぐにでも取り掛かりたいとカレンに錬金術関連の書物はどこにあるのか尋ねると更に驚きの答えが返ってきた
知らない、無造作に溜め込んだから。探しながら勉強しなさい
一般人のソフィアでも書物は財産と知っている。知識を探求する筈の魔女がそんなずぼらでいいのか? と思ったが呆れていてもしょうがないので目当ての書物を探すことにする
こうして奇妙な共同生活は始まった。
書斎での目当ての錬金術書物を探す過程で様々な本を目にする機会があり自然と錬金術以外の知識も蓄えられていく
また、カレンに要求された希少な植物の採集はカレンに警護が面倒だからと別の部屋から持ってきた明らかに貴族階級でも滅多にお目にかかれない程の見事な意匠がなされた首飾りをソフィアに無造作に渡し
それあげるわ。それを身に着けてると幻獣や危険な獣を避けれるからそれで採集にいってきなさい
と、自分が一生掛かっても手の届きそうに無い綺麗な首飾りを貰い採集に右往左往する
首飾りの効果は事実のようで幻獣どころか熊や猪すら遭遇する事は無かった。
そうして採取した薬草や香草をカレンと一緒に研究しお互いにお茶を煎れ趣味も満喫し、充実した生活をソフィアは満喫した
学ぶ機会が無かっただけでソフィアは抜きんでた知恵者だった。
持って生まれた才能によって左右される魔法の才覚は無かったが、知識次第で大成できる錬金術の腕前はカレンの読み通り日に日に目に見えて上達していた。
教え子でもなく、共に趣味に没頭する間の2人の関係は友となり、共同生活は山の植物を全て研究し終えるまでの5年間続いた。
その後カレンはこの地を離れソフィアは更に2年錬金術師として旅をして不老不死とまでは当時まだ至らなかったが不老の妙薬を完成させ22歳から老いる事が無くなった。
その後カレンとの共同生活の間に蓄えた知識を活かし辺境の地に村を造り、長い年月を掛けて偶に訪れるカレンに相談しながら国に至る
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
カレンと寝食を共にするようになって直ぐにカレンが人間への関心が無いことを知った。
正確には関心を持っていたが裏切られ、を繰り返され呆れたのだろうとソフィアは推察した
そんなカレンが目の前で見たことのない女性の魅力を溢れさせながらシドに寄り添い微笑む
そんな友人の姿を目にして、知らない間の友人の変化に対して嫉妬やら妬きもちとも言えない感情が無くもないがそれ以上に喜びが勝り再びカレンに抱きつき祝福する
おめでとう、よかったわね。
またも抱きついてきたソフィアの目には先ほどとはまた違う涙で濡れており祝福に感謝する
ありがとう
「それで、今回の来訪は結婚の報告ですか? できればその場に居たかったのに・・・」
恨みがましくジト目でカレンを睨むソフィアだがカレンはそれを受け流し用件を告げる
「その話はまたあとで、ね? 今私の弟子がこの世界の要らない国を一掃して新たに建国する予定なの。それであんたにもしてほしい事があるのよ」
「面白そうですね、勿論私にできることであれば協力は惜しみません」
即答
なにを、等と確認する必要すらない。
それほどソフィアはカレンに全幅の信頼を置いており、カレンの持ってきた話ならば自国が害する事は無いという核心あっての事だ。
ソフィアの参加が確定した事でこの世界の地図は大きく変わる事になる。




