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八幕 街道にて

 フラジミール街道、マテールとディストアの街を結ぶ大街道でディストアの先、貿易都市カルバナンに着く各国の交易品が内陸に流れていく流通路の一つである。


 主には、北の大国ホルガンドの革製品や鉄、東の秘島イーギスの刀剣や魔道具、南の小国群から集まる穀物などの輸入食品や希少な魔法石などがある。


 マテールはそんな交易品をディストアから仕入れてくるジスタールのような商人と、アルディニア内陸の消費者によって、売買が活発な活気のある街だそう。都市ほど大きくはないが街の中でもそれなりの規模だという。


 特にマテールから少し離れた所にある<迷宮洞窟>という場所に入る為にやってくる冒険者やそれらを相手にする商人達で賑わっている。



 …といった話を先にジスタールから聞いていて助かった。

「レンジ殿はどちらの出身なのですか?」


 という質問に答える事ができたからだ。

「イ、イーギスの方、かな…。あははは」


 少し曖昧な答えになってしまった。慌ててこっそりイーギスの言語を習得しておく。

 しかし、ジスタールは訝しむ事なく

「やはり!そうでしたか。レンジ殿のその見事な黒髪を見てそうではないかと思っていたのです。」


 ある程度予想していたようだ。

 東の島国なら日本に近いから勘で選択したが、金髪だらけの国じゃなくてよかった。


 しかし毎度の事ながら自分の準備不足が悔やまれる。

 それくらいの会話は然るべく想定されて当たり前だろう。

 初対面の人との会話において出自や仕事の話などは…。


 と、反省している最中にまた困った質問をされた。

「どういった商品を扱われるのですか?やはり魔道具の類でしょうか?それとも薬でしょうか?」


 少し考えて、こう答える事にした。

「いやあ、それが荷を乗せた馬車が盗まれてしまい、今回は買い付けだけにしようと思っているのです。幸い現金は多少持っているので…。一部薬は取り扱いますが、まだ駆け出しの身なので色々勉強しようと思いまして。」


「そうでしたか、それは災難でしたなあ。」


 苦しかったがひとまず胸をなで下ろす。

「マテールの街は初めてなので、色々と見て回る予定です。ジスタール様は宝石ですか?」


 ジスタールはうなずき、「最近は魔法石も取り扱うようになりました。西の方が物騒になってきましたからねえ、需要が高まってか、よく売れるのです。」


 ジスタールによると、王都アルディニアの西方カンシズという国と、その西にあるインディマという国が戦争になりつつあるらしい。

 そのあたりの話をできるだけ聞いておこうと話を続けた。


 ジスタールと俺は馬車の荷台に乗っていた。

 初め、アリシアさんも治ったとはいえ大事を取って荷台に乗っていたが、少し歩きたいと言って降り、今は姉のルーゼさんと馬車の後を歩いている。


『スティーラー』はリーダーの剣士ウィルソン、槍使いのリアスと姉妹4人のパーティだ。


 あのあと、ウィルソンさんから

「すまない、低級ポーションだと思って代金を払うなんて言っちまった。すまないが俺たちに上級ポーションを買う金はない。今回の依頼代金は全て渡すから、残りは分割にしてくれ。何年かかってもかならず支払う」


 と言われた。ジスタールが横から入り、商人側の権利を主張してくれたが、つまりこういう事だ。薬を買うと言った以上中身が考えていた物と違うとしても代金は支払わなければならない。しかもポーションであるという事だけは納得していた。


 今回は第三者であるジスタールも現場に立ち会っている。


 もし支払わなくて俺が憲兵に報告すればスティーラーは処罰を受け、最悪冒険者の資格を停止される事もあり、代金が支払えなければ借金で奴隷落ちという事もありうる。


 という事だ。…それを聞いていた姉妹の顔が青ざめリアスは頭を抱えてしまった。


「ちょ、ちょっと待ってください。私にそんなつもりはありません!確かに効果の高いポーションでしたが、先に申し上げた通りお金を要求するつもりはないですよ。」


「し、しかし人道的見地から見て即金での支払いはないとはわかりますが、上級ポーションであれば金貨300枚はする代物ですぞ、その権利を放棄されるおつもりですか?」


 ジスタールはさすがに商人なだけあって、若い商人がみすみす損をしようとしているのを見過ごせないのだろう、助け船のつもりか容赦なく追及してくる。


 それを聞いてまた、スティーラーのウィルソン以外の面々は「金貨300枚…」「なんてこった…」などと言っている。


「いいですいいです!私もきちんと説明しなかったのも悪いですし。気持ちで差し上げた物ですから。」


 両手を振ってそういうとようやく諦めてくれたようで

「はっはっは、気持ちですか?!まったく大した御仁ですな!こりゃあ大物だ!まああなたが良いと言うならいいでしょう。」などと笑った。


 ようやく皆も安心したようで「レンジさん!本当にすまない、恩に着る。」


「ありがとうございます!レンジさん!このご恩は生涯忘れません!」


「一時はどうなるかと思ったぜ!ありがとう!レンジさん」


 と口々に感謝された。

 正直焦ったのはこちらの方だった。物の売買や受け渡しはもっと気を付けなければ。


 ジスタールからマテール東側の自分の店の紹介をされていた所で馭者の男が声をかけてきた。「ご主人様、街が見えてきました」


 すでに日が落ちかけていた。遠くに大きな(予想より大きな)塀が見えてきた。

 一部に人が並んでいるのが見える。


 もっとよく見ようと荷台から降りて外を歩いた。


「あれがマテールの街…。」


 目に見えるずっと向こうまで街並みが続いているようだった。

 想像していたよりずっと大きな街なのかもしれない。


 ウィルソンの話だと、俺たちは通常とは別の手続きがいるとの事で、ウィルソン達は冒険者の身分証明である冒険者カード、ジスタールは商人カードで街に入れる。


 奴隷たちは通常であれば奴隷商が奴隷の登録を証明する手続きを取る。

 そして俺はと言えば、商人ギルドでカードを再発行してもらえるとの事だ。


 その前に奴隷たちと俺は憲兵と話をするらしい。

(結局盗賊達はやり過ごせたな。)


 怪我をしたマギーを連れて既に街道を進んでいるとは考えなかったのかもしれない。まだ森の中を動き回っているようだ。


 探知能力でマーキングする機能があるのでチェックを付けておく。

 今一緒にいる人達もつけておく。プライバシー侵害してすみません。


 列の最後尾に着き、ジスタール一行と別れる。

「レンジ殿、是非お店にいらしてください。お待ちしています。」


「レンジさん、色々と世話になった。あなたは俺達の恩人だ。しばらくはマテールにいるし

『森の泉亭』っていう宿に泊まっているからよかったら来てくれ。せめて一杯奢るぜ」


 俺は是非にとお礼を返すと列とは別に物々しい鎧を来た人間の元へ三人と歩き出した。


次も投稿します。

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