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十四幕 商談

「ギルドマスターを呼んで頂けますかな? 商売の呼び掛けをお願いしたいのです。」


 ジスタールに声を掛けられた受付の若い女性が慌てた様子で待つように言い、奥の部屋へと駆けて行った。しばらくして、大柄な男性が現れた。

「これは、ジスタール殿! お珍しいですな。呼び掛けと言う事ですが…?」


「ええ、見て頂きたい物がございましてな。実は依頼者は私ではなく、こちらの方なのです。」


「初めまして、レンジ・シンジョーと申します。」


「初めまして、ゴードン・バフマンと申します。マテールの支部を預かっています。」


「ゴードン殿、別室にてお目にかけたいのですがよろしいですかな?」


「ほう…、わかりました。ではこちらへどうぞ。」ゴードンが奥へ進み出す。


 続こうとして、ジスタールの視線に気づいた。

 その視線はアリシアに向けられていた。


「あ、あの、私はここで待ってますね!」


 ジスタールの視線に気づいて少し慌てて言った。俺よりもジスタールに向けて。

 少し気まずい感じがしたが、それなりの額の取引になるだろうし、そうしてもらう事にしよう。アリシアに謝ってゴードンの入った部屋の中へ入る。


 豪華絢爛ではないが高級そうな調度品で揃えられた、落ち着いた雰囲気の部屋だった。

 座り心地の良さそうなソファを勧められ、ジスタールと並んで腰かけた。

 ジスタールに促され、サファイアの収められた箱を取り出す。


「今日お持ちしたのはこちらの宝石です。これには装備した者に対して害意のある魔法攻撃を大幅に軽減する効果が付与されています。」


 ゴードンが宝石の大きさにギョッとした表情でレンジの顔を伺う。


「これは…、随分と大粒ですな。魔法防御系のマジックアイテムは私もいくつか扱った事がありますが…これはどれ程の軽減ができるのでしょう?」


「そうですね、言葉で表すことが難しいのですが、少し開けた場所があれば実際にお見せすることが出来ると思います。」


「では、裏手に試験などで使う場所がありますので、そこで見せて頂けますか?」


 全員で外へ出て裏手に回る、大きめの建物があった。鍵を開けて入るとスポーツジムにあるような器具などが置いてあった。その一画の開けた場所に移動する。


「では、早速始めさせて頂きますね。」


 昨日生成しておいたゴーレム生成の土魔法陣を二体離して並べる。

 魔力を流すと2mほどはある土の人形が出来上がった。


「こっちのゴーレムにサファイアを埋め込みます!」


 少し離れた所にいるゴードンに向かって叫んだ。

 サファイアを埋め込むと、2人の近くまで戻った。


「二体に同じ水魔法をかけます。」


 ウォーターロッドをかざして魔力を流すとバスケットボール大の水球が勢いよく飛んで行き、サファイアを埋め込んでない方のゴーレムを粉砕した。

 水球も勢いよく飛沫となって辺りを濡らした。

「ではもう一体にも…。」


 同じように水球が飛んでいく、が、今度はぶつかる手前で淡い光に弾かれ飛沫が舞った。

「おお…!」


 皆一様に驚き(俺も驚き)ゴードンがゴーレムにいち早く近づいていく。

「少し飛沫がかかったようですが、ほとんどの効果を打ち消している…。これは凄い!」


「これは凄まじいですな…これほどとは…。」ジスタールも驚いている。


「是非とも冒険者に使ってもらいたいです。早速各ギルドを通じてオークションにかけましょう。おそらく上位の冒険者達の中から買い取り希望が出るでしょう。最低額として、金貨2500枚でいかがですか?」


「えっと、それは、ですね…。」


 とりあえずオークションてどんな、と そこから聞こうとしたところ。すかさずジスタールが割って入った。


「ゴードン殿、ある意味宝石としての価値は除いても、あれだけの防御効果です。最上位の冒険者が使う物でしょう。噂によれば闇属性の魔物は魔法攻撃が強く手に負えない状況にあるとも聞いています。これがあればかなり安全に打開出来るのでは? もしその辺りの希少魔石や希少部位が手に入る事になれば、金額以上の価値があるというもの。」


 ジスタールにガッツリ反論され、汗をぬぐいまくりのゴードン。

「た、たしかに、ジスタール殿の申される通り闇属性の魔物が頻出する地域のギルドからそう言った打診を受けています。で、では3000枚ではいかがでしょう!?」


 俺もゴードンもジスタールを見る。

 首を振るジスタール。

「ぐ、では3500枚では?!?」


 また揃ってジスタールを見つめる。もうそれぐらいでいいんじゃないの?!

 目を閉じたままのジスタール。

 沈黙がつらい…。

 なんで俺がつらいんだ。

「わかりました! 4000枚でいきましょう!」


 ゴードンが意を決したように身を乗り出してジスタールに詰め寄る。

 ジスタールは神妙に息を吐き

「まあ妥当な所でしょうか…。どう思いますか?レンジ殿」


 どうもこうもないわ。さすがだわ。

「は、はい! それでいいです。それでお願いします。」


「ふう…。ありがとうございます。ではこれで通達を出します。買い取りの打診があればご連絡しますが、お泊りはどちらです?」


「森の泉亭という宿です。」


「わかりました。ではそちらに使いを出す事に致しましょう。」


 パンッ! っと、ふいに音がして驚くとジスタールが手を叩いた音だった。

「いやはや、お話しがまとまってよかったですな! お互いに良い商売でしたな。はっはっは!」


「は、はは…。」


「はっはっは…。」


 先ほどまでの厳しい雰囲気と打って変わって明るい口調で笑い出したジスタールを見て俺とゴードンも息を吐いて合わせるように笑い出す。


「ではレンジ殿、あと商人ギルドにも行かれるのでしたな。そろそろお暇しましょう。」


「はい。ゴードンさん、お手数お掛けしますがよろしくお願いします。」


「いえいえ、こちらも商売ですから。今日はありがとうございました。」


 ふう、この世界で初めての商売、何もしてないけどひとまずはおさまって?よかった。

 あとは買い手が現れれば、だけど。

 さっきの二人の会話からして、需要はあるみたいだし、いけるかな。


 ギルドの受付辺りに戻ると、先程裏手に出た時は気付かなかったが、他の冒険者達でごった返している一画で誰かと話しているアリシアが目に入った。

「アリシア! 待たせたね。」


「レンジさん! うまくいった?」


「ああ、まあね。」


 苦笑気味に答えて、話していた相手を見た。

 女性二人だ。

「彼女たちは知り合いの冒険者で、ちょっと世間話をしていたの。」


「どうも初めまして。レンジ・シンジョーと申します。」


「あなたが今話題の〝太っ腹商人″ね! アタシはリズっていうんだ。」


 背が高く、ショートカットの女性が明るい調子で言った。

 そんな話題が…。太っ腹て。

「初めましてレンジさん、私はミイナと申しますわ。思っていたよりお若い方でしたのね。」


 ふわっとしたロングヘアでアリシアより背が低い。150cmくらいか?

「じゃあアリシア行こうか? それとももう少し話すなら商人ギルドに行ってから迎えに来ようか?」


「ちょうどその話をしていたの。そういうわけなの、リズ、ミイナごめんね。このあとレンジさんを案内する約束をしているの。」


「そっか、じゃあ二人で食べに行くか、ミイナ」

「そうですわね。」


 二人が顔を見合わせて、仕方ない、という風に肩をすくめている。


「どうかしたの?アリシア」


「いや、二人も依頼明けで休みだから西街の出店でも食べないかって誘われていたの。」


「へえ、そうなんだ? よかったら一緒にまわらない?俺も見てみたいよ。」


「え?! いいの?」


「お! ノリいいねー!」


 リズがズイと近づいて肘で腕をつついてくる。

「ご馳走しますよ。よかったらだけど。」


 ちょっとキザっぽいけど、人数が多い方が情報収集になるし、昨日のルーゼみたく変な展開になりにくそうだ。

「さっすが! 太っ腹だね!」


「そんな申し訳ないわ。見ず知らずの方に。」


「いやあ、まだこちらの文化に慣れていない所があるので、商売の為にも色々な意見や感想を聞きたいんだ。食べ物も扱うかもしれないから。」


「いいじゃないさ、ミイナ。奢ってくれるっていうんだから。」


 そういって腕を組んでくる。ルーゼに似ているな、こっちの女性は積極的なのかな。

「じゃあ少し待っててもらえるかな? 商人ギルドに行かないと。」


「私達はここでもう少し話しているね。終わったら戻ってきてね。」


 ジスタールとギルドを出て、商人ギルドへ向かう。

「この近くですよ、私も少し用があったのを思い出しました。ところでレンジ殿、西街へ行かれるのですか?」


「ええ、お時間があればジスタールさんもどうです?」


「はは…、いえ、あいにく約束がありまして。申し訳ない。それよりも、西街はあまり商人に馴染みのない所でしてな。良い身なりをした者はあまり好まれないですよ。」


「そ、そうなんですか。」


「まあ、出店が出ているような南門寄りの方はそれ程でもないですが。あの冒険者の者もレンジ殿が気さくなので失念していたのでしょう。ありていに申せば治安の悪い地域なのです。気を付けてください。」


 東街が綺麗だったから考えもしなかった。そういえばワモンの奴隷商館の辺りはいかがわしい雰囲気だったな。


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