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十三幕 二日酔いは自業自得

 扉の向こうでけたたましい物音がして、目が覚めた。外はすっかり明るくなっている。


 物音の正体を探るべく、そっと扉を開けると昨日の受付の女性が鍋の底をオタマで叩いて歩いている。廊下の向こうから戻って来るところで、目が合った。


「おはよ! 朝食だよ。」


「あ、ああ。ありがとう。すぐ降りるよ。」


 びっくりしたが助かったかも。『ここで起きてなかったら絶対遅刻してた。』ってヤツだ。


 そう思ったところで、目覚ましの存在を思い出した。


 森でのキャンプで必要なかったから、むしろ敢えて探さないでいたが、やっぱり必要かな。

 俺は特に朝が弱い夜型人間だし。


 着替えて顔を洗い下へ降りると、朝食の匂いがして、俺よりも早く起きた人々で賑わっていた。

 一角にアリシアが座って朝食を待っていた。

「おはよう、アリシア。気持ちの良い朝だね。」


「レンジさん! おはようございます。お天気で良かったですね。」


「皆はまだ部屋かい? ルーゼは大丈夫だったかな?だいぶ酔ってたみたいだから。」


「ホントに昨日はご迷惑をおかけして…。皆飲み過ぎて起きれないみたいです。せっかく奮発して食事を付けてもらったのに…。」


 頬を膨らませて怒っている。

「はは…、二日酔いか。無理もないね。朝食一緒にいいかな?」


「もちろんです!」


 昨日の事なんかを話しているうちに、朝食が持ってこられた。メニューはフランスパンのような固さのパンと、緑だけど食感はトマトのような野菜を煮込んだスープ。あとは、カボチャの煮ころがしに近い何か…?それにジャスミン茶のような香りのするお茶だ。


 作ってくれた人には申し訳ないけど、正直美味くない。現代の洗練された食事に慣れ過ぎてしまい、口に合わない。現地の人にはそれなりにいい食事なのだろうか…。アリシアなんかは美味しそうに食べている。

 ハッキリ言ってどれも味気ないし、おそらく素材に対して下ごしらえをするという考えがあまりないのかもしれない。


 しかし、マギー達三人とも俺の作るシチューとかは美味そうにしてたから、この世界の住人と味覚にそれほど差はないと思う。


 料理全般に関して、進歩していないんだろう。

 と、勝手に決めつけてしまう。


 他にもなるべく色々食していこうとは考えているけど、この宿ではもういいかな。

 残りの食事は失礼のないように時間をおいてキャンセルするとしよう。


 固いパンと格闘しながら話題は今日の予定の話へ。

「レンジさんは今日は何かご予定は?」


「うん、ジスタールさんの紹介でギルドに商品を売りに行くんだ。そのあとは商人ギルドでカードの再発行だね。あとは少し街を見て回ろうかな。」


「わあ、それなら私でよければ案内しますよ! マテールは何度も来てるし、場所によっては危ない所もありますから。」


「あ、ああ、ありがとう。でもアリシアだって予定があるでしょう?」


「本当は皆で武器や防具の修繕を依頼しに市場へ行く予定だったんです。でも皆あんなだし…。金庫番のウィルソンがいないと依頼には出せないし。」


 酔いつぶれちゃう奴が金庫番てどうなの、と思いつつ。

 本当は昨日生成したアイテムを試しに街の外に出る予定だったけど、説明が面倒だ。せっかくだから異世界人の舌の調査に切り替えてアリシアとグルメツアーといこうか。

「そっか、じゃあ一緒に行こうか。」


「はい! じゃあ準備してきます!」


「ああ、部屋にいるから準備できたら声かけてもらえるかな?」


「わかりました!」可愛らしくウィンクして部屋へ戻っていく。

 一回りも年下だけど、さすがに多少ながら心が浮つく。

 ルーゼに似た美人だし、しとやかな雰囲気で少し真面目な性格もタイプだ。


 食べきれない黒パンをそっとアイテムボックスにしまっておく。鳩にでも食べてもらおう。


 受付の女性、名をパリィというらしい。パリィに呼びかけ今日の夕食は外で食べてくるかもしれないから用意しなくていいと伝えておく。


 律儀にもその分のお金を返してくれた。



 部屋に戻ってベッドに腰掛けて、アイテム生成画面を開く。

「まあ、二日酔いは自業自得だけどルーゼには悪い事しちゃったからな。ウィルソン達はついでだ。」



≪二日酔い 薬≫で検索



[状態異常回復薬]

 消費:1

 サイズ:80ml

 対象:使用者

 取引:可

 効果:飲むとあらゆる状態異常が回復する



 これだと効きすぎて、また昨日みたいな事になるのでちょっとグレードダウンさせよう。

 効果を書き換える。



 効果:飲むとあらゆる状態異常が少し回復する



 うん、こんなもんでしょう。元は毒とか治す感じだろうからこれぐらいでも二日酔いくらいならある程度スッキリするだろう。


 人数分作っておく、あとでパリィに渡してもらおう。


 そんな事をしているとノックがした。ドアを開けると髪を巻き上げて着替えたアリシアがいた。

「おまたせ! 準備はどう?」


「ああ、いいよ。行こうか。」


 階下で受付によりパリィに薬を渡す。

「すまないけど、この薬を皆に渡してくれる?二日酔いに効く薬だよ。」


「うん! わかった。ウィルソン達だね。」


「そんな、悪いですよ。助けてもらったうえに薬まで…。」


「はは、いいんだ。余ってたから。それに二日酔いの苦しみはわかるからね。」


「それこそ良い薬なんです! あの三人は特に! 毎回こうなんだから。」

 

「はは、それは大変だね。」


「レンジさんは甘いです!」


「いやー仰る通り!」おどけて頭に手を乗せ謝るフリをする。


「ふふふ、もう! レンジさん優しいから。」


 笑い合っていると、パリィに冷やかされた。

「ご馳走さまだね! 仲良くて羨ましい!」


「ごめんごめん、仕事の邪魔して。じゃあ行ってきます。」



 外に出るとほどよく暖かくていい天気だった。

 まずは東街のジスタール宝石店へ。店の場所のマーキングを頼りに向かう。


(改めて思うけど、このマップスキルがあってよかった。なかったら迷ってたろうな…。)


 昨日通った道とは別の道を進んでいく。この街独特の造りなのか、この世界はどの街もこんな感じなのかわからないけど、とても道が入り組んでいて複雑だ。


 車が無いだろうからなのかもしれないけど、これじゃあ馬車も通りづらいんじゃないかな?


 ジスタールが店にいる事は確認していた。

 他に息子さんのエンディミオではない人がいる。

『ターニャ・ジスタール』年齢的に言って奥さんだろう。


 だとすると「ひと土産」欲しいところだ。なんか買っていくか。

「アリシア、ちょっと寄り道したいんだけど、早速案内してもらっていいかな?」


「もちろん! どこにいくの?」


「お花屋さん」


 やはりここは定番でしょう。確か店に飾ってあったから、邪魔になるってことはない。

「東の方だと一つだけ知ってます。こっちかな」


 しばらく歩いていくと、東街エリアに入った事がありありとわかるほど、景観が変わってくる。

 高級店が立ち並ぶなか、一際華やかな外観のお店があった。店先に綺麗な花が植えられた鉢が並んでいる。


「すみませーん、お花を頂きたいのですがー」


 開かれた入り口から奥へ声をかけると、しっかりとした服装にエプロンをした女性が出てきた。

「はい、いらっしゃいませ。」


「花を何本か見繕って頂きたいのですが…。」


 どれにしたらいいだろう?聞いてみるか。

「かしこまりました、お贈りする方はどの様なお方ですか? それに合わせてお作り致します。」


「一つ向こうの通りにある、ジスタールさんの宝石店はご存知ですか? そちらの奥様への手土産なのです。ご主人に懇意にさせて頂いているので」


「ターニャ様ですか?」


 ずばり、当たりだ。

 俺がうなずくと

「ターニャ様でしたらこちらのガルベラがお好きですよ。色とりどりでお作りしましょうか?」


「お願いします! いやあ、助かったなあ、よくご存知でしたね。花の好みまで。」


「ジスタール様はお得意様ですから、お宿にも卸してますし。」


 形の崩れないスマイルで、さも当然という風ではあったが、嫌な感じではなかった。

「はい、お待たせしました。銅貨8枚になります。」


 渡された花は現代のように紙には包まれておらず、ツタのような紐で縛られているだけだった。ただ、カスミソウのような小さな花なども束ねられており、このまま花瓶にさせそうなほど綺麗にまとまっていた。


 代金を支払って店を出ると改めて宝石店へ向かう。

 少し上り坂になっている道を進むと昨日の夜の雰囲気とはまた違った明るく、所謂ハイソサエティな通りだ。アリシアと並ぶ高級店を見ながら、いつかはあんな素敵な服が着てみたいだの、シャンデリアのある家に住みたいだの、夢を語りながら歩いていると目的地が見えてきた。


 カランカランと昨日と同じ心地よい音を立てて呼び鈴が鳴る。


 受付で手紙を読んでいたジスタールが顔を上げ、レンジを見るなり笑いかける。


「おお、レンジ殿。おはようございます。そちらは昨日の『スティーラー』の。」


「おはようございます、ジスタールさん。今日はよろしくお願いします。アリシアには今日このあとの案内をお願いしたんです。同行しても構いませんか?」


 アリシアが軽く会釈する。

「もちろんですとも。そうだ、今日は家内がいるので是非ご挨拶を。おーい、ターニャ。」


 奥から美しい婦人が静かな笑みを纏い、出てきた。ゆったりとした服を着ていて床につきそうなスカートで音もなく近づいてきた。


 年齢は四十過ぎのはずだがとても相応には見えない若々しい婦人だった。


「初めまして。ジスタールの家内でターニャと申します。この度は主人をお助け頂き誠にありがとうございました。」


「ど、どうも初めましてレンジ・シンジョーと申します。いやあ、本当に偶然の成り行きで、あはは…。そうだ、これどうぞよかったら。」


「まあ、綺麗なガルベラですこと。私このお花大好きなんですの。このようなお気遣いを頂きましてありがとうございます。」


「ありがとうございますレンジ殿。さすが、如才ないですな。我が子にも見習わせたいものです。」


 ジスタールが感心した様子で言った。

「では、早速参りましょうか。ターニャ、すまないがしばらく頼むよ。」


「わかりました、気をつけて行ってらっしゃいませ。主人をよろしくお願い致します。」艶やかに微笑む、両の手で抱えた色彩豊かな花がよくはえる。


「いえ! こちらこそ!」


 焦って変な返事をしてしまった。

 アリシアもおじぎをして笑顔を返すと、全員で外へ出て行く。


「ギルドは南街の中心部です。」


 三人は歩き始めた。


少しペース落ちますが引き続きよろしくお願いします。

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