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一幕 プロローグ

 背の高い草木が欝蒼と茂る、暗い夜の森を三人は少しでも遠くまで進めるように疾走していた。

 正確には一人と二匹だ。


 更に言うならば一人は肩に矢傷を負い、矢は刺さったままだ。

 傷が熱を帯び、朦朧としながらも気力を振り絞り走っていた。

 …恐怖に駆り立てられて、という方が正しいかもしれない。


「追手の声が聞こえなくなった、明かりももう見えない…」


 走る速度を落とし、息を切らしながら前の一匹に向けてそう言った。

 大きな耳をした【猫人(ねこひと)】の女の子が振り返る。


「少し休み?」


 ぎこちない言葉遣いだが、優しく問いかけてくる。

 流石、猫本来の能力を持っているだけあって、日暮れから走り通しだというのに息も切れていない。

「ええ、しかし歩いて進みましょう」


 そう言いながら矢傷の状態を確認する。


(出血は少ないけど、傷口が化膿してるし、少し痺れている…)


「痛いの、平気…?」


 すぐ横でその様子を見ていたもう一匹の猫人の男の子が目に涙を浮かべながら心配そうに見上げている。


「平気よ…ありがとね」


 微かに残った力を振り絞り笑顔を作り、頭を撫でた。

 男の子はそれを見て安心して笑顔で姉を見た。

 女の子も口元を緩めたが、その目は強がりを見抜いていた。


「さあ、行きましょう」


 言いながら辺りを見渡す。…何も見えない。


「あっち! 水の音」


 女の子が指を差し、歩き始める。

 男の子はまた手を引いてくれている。

 この月明かりすらさして届かない夜の森で、街へ運ばれる途中だった奴隷の私達が主人の奴隷商や移送警護の冒険者達を襲った盗賊達から逃げてこられたのはこの子達、猫人の能力があったればこそだ。


 暗闇でも正確に先まで見通せるのだろう、木の根につまづかないように注意を促しながら手を引いて昼間のように進んでいく。

 姉のソマリが道を先導し、弟のベリアが私を案内してくれたおかげで盗賊達を撒く事ができた。


 明るかったなら逃げられなかっただろう。

 捕まっていたらどんな目にあわされていただろうか。

 考えられる未来は多くなく、そこにはまったく希望がなかった。


 移送の間の仮の主人だったが、無事ではいない事はわかった。

 自分のステータスが【奴隷(主人無し)】になっている。

 盗賊達に襲われた時、咄嗟にベリアを庇って矢を受けたが、彼らのおかげで生き延びられたのもまた事実だ。


 しかし、その矢傷が確実に体力を奪いつつあった。

 川のせせらぎが微かに聞こえてきたと思ったら、突如足に力が入らなくなり、その場にくずおれた。

 手を繋いでいたベリアが引っ張られ一緒に座り込んでしまう。

 すぐに異変に気づいたソマリが振り返り、駆け寄る。


「マギー!」


 ソマリが大量の汗に濡れた額を触る。


「ねつが熱いよ、マギー、もう歩かないよ」


 心配そうに覗き込みながら言う。ベリアは今にも泣き出しそうだ。

 朦朧としながら彼らを見返す。まだ幼いのだ、【猫人】の身体能力があっても生まれて幾年もたたない子供だ、誰かの庇護なしでは生きていけない。


 しかしそれでもここで別れなければならない。

 このまま足手まといの私を連れていてはいずれ見つかる。

 夜が明ければ血痕や足跡を追われ、すぐに追いつかれるだろう。

 この夜の内にできるだけ距離を稼がなければ。


 最後の仕事をしよう。


「ソマリ、ベリア、良く聞いて。このままではあいつらに追いつかれる。ここからはあなた達だけで行くのよ、川を越えてマテールの街を目指して。太陽が出てくる方へ進めばいい。月を背に、まっすぐ進みなさい」


 できるだけ穏やかに話したつもりだ。


「そんな…大丈夫だよ、少し休みで歩ける」

「お水! 汲んでくる!」


 ソマリはなんとなく察して覚悟していたのだろう。目を伏せながら言った。

 立ち上がろうとするベリアの腕を掴む。

 その衝撃で気を失いそうになるが、顔をしかめながら声を絞り出した。


「私は大丈夫、ここで少し休んだらあいつらを足止めする罠を作るの。これでも元冒険者なのよ、罠をしかけたらマテールの街に向かうわ」


 矛盾だらけである事はわかっていながらも、安心させる為にはこう言うしかない。


「さあ! 急いで!」


 ソマリは俯いたまま微動だにしない。

 ベリアは泣き出しそうな顔で固まっている。


「…ソマリ」


 鋭い声に顔をあげるとマギーがまっすぐに自分の目を見ていた。

 ソマリはその視線から全てを察した。そしてベリアの手をつかみ、立ち上がった。


「マギー、信じてる、マテルの街で、待ってる!」


 まっすぐ目を見てそう言った。

 この子は本当に頭がいい。

 もう微笑むだけで限界だった。


「ベリア、行こう」


 返事を待たずに手を引いて森の闇の奥へ進んでいく。

 ベリアは見えなくなるまで振り返っていた。

 出合って数日だけど、いい子達だった。


 自暴自棄になっていたと言えなくもなかったかもしれない。

 たとえそうでも最後に誰かを助ける事ができてよかった。


 できれば無事を確認する事ができるところまで行けたらよかったけど。

 そんな事を思いながら深い森の闇に沈んでいった。


普段ライトノベルや小説はそれほど読まないので拙い部分があるかと思いますが

よければお付き合いください。。


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