絶望の四畳半
服、チューハイの空き缶、飲みかけのコーラが何本か。
あとはゴミ袋とゴミ箱で部屋の3分の1が埋まっていた。
デスクの上にはモニターと空き缶と煙草にいつ何で使ったか使うのか分からなくなった書類でいっぱいだった。
時刻は夕方。陽当りだけは良いこの部屋で俺は害虫以下の暮らしを続けるのではないだろうかと思っている。外からは近所の子供たちと母親の楽しそうな声が響く。
春になったせいか最近は虫も元気だ。
ため息とともに煙を吐き出すと狭い部屋は煙で埋まりそうになる。
下は腐海で上は不快。正解は俺の部屋でした。
京都の大学生活を描いた小説に憧れて、東京の大学に入学した。
地元を離れて一人暮らしだ。
四年間、ただ耐え忍んでいた。
大学生活を表すのはその一言で十分だ。
小説の主人公の様な輝いた青春もドラマも転機も訪れなかった。
就職は一応した。
就活サイトに登録していたらメールでスカウトされた新聞会社。
偏差値が特別高いわけでもない、資格もない、サークルにもゼミにも入っていない。そんな俺に声をかけるような会社なんてろくでもないに決まっている。
その通り。事実そうだった。
しかし大学四年間で培われた怠惰はそんなことは意にも介さなかった。
怠惰の癖に就職はするのかって?
レールから外れる勇気もないような人間なんだよ俺は。
なんとか二年は続けたが限界だった。
自慢じゃないが売り上げはかなり良いほうだった。
新人だったが営業成績は上から二番目だった。一番目の人は俺の倍だったが。
調子に乗っても良いと思うかもしれないがそんな底辺な環境、会社で二番目になったところで誰にも誇れるものじゃない。
新聞の新規開拓なんてはっきり言ってろくな仕事じゃなかった。
毎日毎日家のドアを叩いて訪問販売まがいのことをする。
まあこの世の中にろくな仕事があるのかどうかは疑問だが。
それはさておき、まぁ、とにかく、疲れたんだ。
それで辞めた。
ブラック企業ではあったが結果を出した人間にはそれなりに金はもらえた。
一年か二年、貧乏暮らしをするには十分な額だろう。
それで、今に至る。
働かない、遊ばない、動かない
煙を栄養に四畳半に根を張る植物みたいなものだ。
ただ、一日を耐え忍ぶ。
大学生活となんら変わらない。俺はこのまま人生を耐えるだけなのだろうか。
鬱々とした気持ちを抱えながら間接照明をつける。
橙色の優しい光に包まれながら再び煙草に火をつけた。
どうにか現状を変えたいと思いながら生きてきた。
生きてきただけだった。