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第39話  夏休み

「今日から夏休みね!」



 燃えるような真っ赤な髪のベリーショートの女の子、ネリー・トンプソンが大きな声でオレに話しかけてきた。


 ああ、そうだなと答える。


 闘技大会が終わって数日が経ち、ネリーが言うように、今日からスルティア学園は約1ヶ月の夏休みに入った。


 夏休みは実家に帰って過ごす者、寮に残る者と分かれる。


 特に決まりなどはないので各自が自由に決められるが、研究室に配属される3年生以上が寮に残ることが多い。

 逆に、1、2年はほとんどが実家に帰る。


 オレ達はというと、全員が寮に残った。



「今日から夏休みよ!」



 ネリーが改めて夏休みアピールをしてくる。


 知ってるよ。


 あと、ネリーが初めてできた友達との初めての夏休みを楽しみにしてたのも知ってる。



『ネリーは昨日の夜、楽しみのあまり興奮してあまり寝付けなかったのです』



 アカシャがさらなる情報を暴露した。


 それは知らなかったな。小学生かよ。


 いや。そういえばオレ達、小学生くらいの年齢だったな。


 無理もないか。



「今日から夏休みなのに、なんで朝からレベル上げなのよ!」



 そう叫びながら放たれたネリーの火魔法で、数体のCランクモンスターが焼け死んでいった。


 今日から夏休みということで、オレ達はいつもは放課後やっているレベル上げを今日は朝からやっていた。


 ちょっと離れた場所では、アレクやベイラやミニドラもそれぞれ1人でスルティア産モンスターを倒している。


 みんな強くなった。

 初めて一緒にレベル上げを始めた頃からは見違えるようだ。



「夏休みだから、だろ? 授業のある日は放課後しかできないからな」



 オレはネリーに、何を今更といった調子で返す。


 今までだって、休日は朝からやっていたじゃないか。



「それはそうだけど! だって、夏休みなのよ?」



 まぁ、ネリーが言いたいことも分かる。


 確かに、せっかくの夏休みだ。

 たっぷり遊んで満喫まんきつしたい。


 それは、この第2の人生を楽しみ尽くすというオレの目的とも一致するところだ。



「分かったよ。じゃあ、この後みんなで買い物に行かないか?」



 元々、そろそろ行こうかと思っていたところだ。


 丁度いいと思って、オレはそう提案する。


 パアッとネリーの顔が明るくなる。



「それは、とっても良いと思うの!」



 ベイラも全力で賛同を始め、アレクもいいねと納得し、スルティアまで念話で参加すると言い出した。


 みんな少し、単調なレベル上げに飽きていたようだ。



「よし。決まりだ。でも、全員の魔力を使い切ってからな」



 みんなの、多少ガッカリした視線を浴びたが、ここは譲れん。

 レベル上げは急務なのだ。


 先日の『大賢者』とスルト王の密談は、当然全て聞いている。

 状況次第では、いつ『大賢者』がオレを殺しに来てもおかしくはない。


 そうなれば、即詰みというわけではないが、非常に嫌な展開だということだけは間違いない。


 "収束"さえ覚えてしまえば、オレは実力的にも『大賢者』の上に立てるだろう。

 ただ、"収束"が可能になるのは、魔力の玉が70個以上になってから。

 つまり、70レベルからなのだ。


 今の非常に効率のいいレベル上げでも、70レベルまで早くて2年というのがアカシャの見立てだ。


 人生楽しみつつと考えると、3年は見ておいた方がいいだろう。


 だから、やれるときはやれるだけやっておくべきである。


 オレは前世で、夏休みの宿題は先に終わらせてから遊ぶべきということを学んでいる。


 遊ばないわけではないが、やるべきことはやってから遊んだ方が、確実に後で得をするのだ。


 これは今世こんせでもアカシャが保証してくれた。


 だからまず、やるべきレベル上げをやる。



「はぁ。仕方ないわね! それで? アンタ何が欲しいのよ?」



 もはや手慣れた作業のようにモンスターをほふりながら、ネリーが雑談を始めた。


 どこに買い物に行くかが気になっているようだ。



「全員の装備を整えようぜ。ダンジョンにまで、制服では行かないだろ?」



 オレはニヤッと笑って答えた。


 スルティア学園では、基本的に何をやるにも制服だ。


 闘技大会まで制服なのは頭おかしいと思ったりもしたが、学園内では『祝福の守り』があるので、装備で差をつけないためにはそれもアリかもしれない。


 でも、さすがにダンジョンに制服で行く必要はない。


 オレはまず被弾することはないだろうからいいとしても、他のみんなは制服で行くのは少し危険だ。

 安全マージンが十分できるまで鍛えるつもりだけど、ノーミスノーダメで攻略できるとは限らないからな。


 だから、装備を作りに行こうと思っていた。


 オレが持ってる装備をみんなに分けてもいいけど、防具だけはオレ達の体に合うサイズの物がない。


 それに、自分だけのオーダーメイド装備って、ワクワクするじゃないか。




 この後の、みんなの張り切りようは凄かった。


 スルティアまで張り切り出して、過去1番カオスなレベル上げになったが、それはそれで楽しかったから良しとしよう。






 無事、魔力の限界までレベル上げをしたオレ達は、スルティア学園の外へとり出していた。



「くっくっく。さぁ、皆の者、わしについて参れ!」



 灰色に近い銀髪を腰まで伸ばし、黒を基調としたビジュアル系っぽい服を着た、見た目20歳前後の美女がオレ達にドヤ顔で言った。


 スルティアである。


 見た目だけは子供の引率をする大人のお姉さんだ。


 服はちょっと普通ではないが、まぁ冒険者ならばこんな服でもおかしくは無い。


 スルティア学園の生徒なら、冒険者と共に行動していても不自然ではないので、そんなに変な集団には見えないと思う。


 たぶん。


 スルティアは当初、念話で参加の予定だったが、学園外となるとスルティアが視覚的に把握できないことから、こうなった。


 たまには出てきてもいいだろうと、オレ達が誘ったのだ。


 透明化でこっそり連れ出して、たった今、アカシャに誰にも見られない場所とタイミングを教えてもらって透明化を解いたところだ。



「ついて参れって…。お前は王都の地理知らないし、これからどこに行く予定なのかも知らないだろ」



 オレはスルティアに突っ込んだ。


 もはやどこから突っ込めばいいやらというほど、スルティアについていく理由がなさすぎた。



「な、なんじゃ…。良いではないか! わしが1番年上なんじゃぞ。皆を引き連れて歩いてみたいのじゃ!」



 おお、そうか…。


 想像の斜め上をいくような台詞せりふが出てきたなぁ。



『ご主人様。スルティアは1000年以上生きて、これが初めての友人との買い物となります。察するに余りある状況かと…』



 いつもは感情が分からないというアカシャに、ここまで言わせるとは。


 フィリプ、お前本当にスルティアと友達だったのかよ!

 いいヤツだったのは知ってるけどさぁ!


 あまりにもスルティアが不憫ふびんだったので、好きなようにさせてあげることにした。


 他のみんなも、なんとなく察してくれたようだ。



「じゃあ、引率はスルティアにお願いするとして。どこに行くんだい? 装備を買うって言っても、王都は広い。お店はたくさんあるけど」



 アレクがさわやかに、上手いこと話を進めてくれた。


 サラッサラの茶髪と、人形のように整った顔に宝石のような青い目という見た目もあいまって、やはりアレクは天使であると再確認した。



「もちろん、1番腕がいい職人のところに行くさ。場所は、スラム街だ」



 王都で1番腕がいい防具職人は、なんとスラム街にいる。


 本当はカールに作って欲しいところだけど、カールの鍛冶の腕はまだまだだし、どちらかというと武器職人だからな。

 今回は見送ることにした。


 皆が意外な情報に驚いていることを楽しんだオレは、さっそくスルティアに道案内をしてもらうために道を教えるという、少し不毛とも思える念話を飛ばした。



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