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第37話 闘技大会の決着

「試合開始から、1時間! この高速戦闘での1時間です! 凄まじすぎる!! 両者あの手この手で攻めていますが、これまでなんとお互い無傷! セイ・ワトスン、あの『大賢者』様相手に互角の戦いをしています!」



 実況のオリバー・クーンの声が武舞台にも響いてくる。


 最初こそ凄かった観客席の歓声は、もはや静まり返っていた。

 今やほとんど誰もが、息をんで食い入るように観戦しておる。 



 それにしても、()()1時間しか経っておらんのか。

 思考強化を使っているせいもあるが、1日くらい戦っておる気分じゃ。


 じゃが、互角ではない。

 セイ・ワトスンは想像以上の化物ばけものじゃったが、ここまでで分かった。


 間違いなく、まだまだワシの方が強い。



 …じゃが、何かがおかしい。

 これぐらいの強さならばとうに倒せているはずが、何をやっても紙一重で倒せぬ。


 しかも、紙一重でありながら余裕すらあるように見える。


 ルールの縛りのせいというのはもちろんある。

 が、どう考えても、それだけでは説明がつかんじゃろ。



「クーン、互角ではない。『大賢者』殿の方が常に押しておる。ルールがワトスンの味方をしているのが大きい。ただ、ワトスンには()()があるのだろうな。攻撃が当たらなすぎる」



 ダビド・ズベレフがオリバー・クーンの実況を補足した。


 さすがは『常勝将軍』。よく見ておる。


 ワシは、今も相変わらず襲い続ける"無塵むじん"を、跳ね回るように避け続けている化物小僧に語りかけてみることにした。



「不思議じゃのぉ。どうなっておる? これまでの試合でもそうじゃったが、まるで未来予知でもしているかのごとき動き。これだけの時間、これだけの数に囲まれながらもノーミス。絶対におかしいじゃろ」



 もはや万にも届きそうな、武舞台にひしめく"無塵"。

 それをどんなに死角から当てに行こうとも、1度もかすりもせん。


 間違いなくギリギリのはずなのだ。

 威力に上限のあることを上手く利用して、攻撃用の火球を消してそこに移動する。

 その繰り返し。


 ただの1度でもミスをすれば物量に押し潰されて終わり。

 時間的な余裕もなさそうじゃ。


 ミスを起こさせるために、攻撃用にはできないがセイ・ワトスンには消せない"収束無塵"の火球もいくつか奴のまわりに浮かべている。

 間違ってそれを消そうとしても、終わりじゃ。


 ほんの少しでもミスがあれば即座に詰みという状況で有ることは間違いない。

 間違いないのじゃが…。


 そのミスが起こる気がせん。


 それどころか、ほんの一瞬のすきを見つけて反撃すらしてくる。

 手を替え品を替え、多彩な攻撃を。


 おかげで、ワシもずいぶん手札をさらけ出した。

 手札をさらしたところで、ワシが不利になることはないがな。


 そう考えていると、ワシの言葉を半ば無視していたセイ・ワトスンがこちらをにらみつけて叫んだ。



「話しかけるなら、ちょっとは攻撃を緩めろ!」



 ふむ。

 やはりギリギリだったらしい。

 すぐに言葉を返せないほど集中していたのか。


 あまりに当然のように避けるから、見た目以上に余裕があるのではと思ったが、そうではないのじゃな。

 意外な収穫じゃった。


 ワシはセイ・ワトスンに殺到する火球を止め、奴が今いる空中の真下の武舞台に降りられるよう、火球を移動し隙間を空けた。


 セイ・ワトスンはすぐにそこに降りてくる。



「ミスをしてないのは、お互い様ですよ。1度でも被弾したら終わり。だから必死になって避けてるだけです」



 堂々とごまかしおった。

 そんなわけあるか。



「ワシが知らん魔法か、能力スキル。確実に持っておるはずじゃ。でなければ説明がつかん」



 ワシは確信を持って言った。


 セイ・ワトスンが笑う。



「仮にそうだとして、オレが教えると思います?」



 そりゃそうじゃ。

 教えてもらえるわけはないじゃろうな。


 反応を見れただけで十分。

 ワシは、証拠で判断するロジャーとは違う。


 勘にすぎんが、やはりどちらか持っておるな。

 別の何かではなさそうじゃ。



「いや、すまんな。あまりにお主が想像を超えて強いのでな、どうしても気になってしまったんじゃ」



 本当の目的は隠す。

 それに、これも半分以上は本気の言葉じゃ。



「『大賢者』様は、想像どおり強すぎでした。闘技大会でなければ、すぐに負けていたでしょう」



 セイ・ワトスンは困ったように笑って言う。


 確かに闘技大会のルールが無ければ、いかようにもやり方はある。


 が、この1時間色々試したが、今のワシではこれ以上やりようがないのも事実。


 それでも勝つのはワシじゃが。



「ふむ。して、どうする? お主の工夫は素晴らしかったが、このままならワシの勝ちじゃぞ。凄まじい魔力量じゃが、さすがにお主の魔力が先に尽きるはずじゃ」



 能力スキルの恩恵は大きい。

 いかにセイ・ワトスンの魔力が多くても、ワシよりレベルが低い上にあれだけ魔力を使っていては、ほぼ確実にワシより先に尽きる。



「そうかもしれませんね。でも、オレは最後まで勝ちを諦めませんよ」



 このままでは終わらない。

 セイ・ワトスンの言葉を、ワシはそうとらえた。



「くく。面白い。やってみろ。叩き潰してやろう」



 この歳になってワクワクさせられるとはな。


 何をしてくるかは読めん。

 何でもできるような奴じゃからな。


 だからこそ、倒しがいがあるではないか。






 ---------------------------------------------------------






『どうだ、アカシャ。色々試してはみたけど、何か思いつくか? 今のところ、オレはやっぱり最初の案が1番可能性があると思ってる』



『大賢者』と話す間、せっかくの十分な思考ができる余裕を使ってオレはアカシャと作戦を練っていた。


 切り札で分かるが、あの爺さんマジで隙が無すぎる。


 戦い方がシンプルで、小細工がない。


 知ってれば防ぐのは容易みたいな初見殺しの攻撃とかがあれば、オレにとっては隙でしかないんだけど。

 そういうのがないから、逆転の余地がほぼない。


 『大賢者』の得意攻撃や防御を、どうにかするしかないんだ。



『そうですね。新情報はありましたが、戦闘の勝敗に影響するような使い方は考えつきません。ご主人様のおっしゃる通りと考えます』



 やっぱり、アカシャでもダメか。


 仕方ない。

 いちばちかになるけど、1番勝てる可能性の高いやり方でいく。



『よし、やるぞ。そう長くは持たない。サポートは頼む。最強を倒しに行くぞ』


『お任せください』



 アカシャの頼もしい返事を聞いて、オレは「叩き潰す」と言ってきた『大賢者』に宣言する。



「行きます!!」



 全力で『大賢者』に向かって走る。


 大賢者の周りには相変わらず防御用の"収束無塵"の火球が浮いているが、関係ない。


 邪魔な威力上限の火球を"水纏"の水球で消して道を作りながら、最短距離を突き進む。


 このままだと、1秒もしないうちに"収束無塵"の火球に突っ込む。


 それが分かったのか、『大賢者』の顔色が変わる。



「そりゃズルいじゃろ!!」



 刹那の間に、文句を言いながら『大賢者』が"収束無塵"の火球の火力を下げた。


 "契約魔法"があるからな。

『大賢者』は縛られている。


 威力上限を超える魔法を、オレに当ててはならない。


 確かにズルいが、オレにも言い訳がある。



 たとえ『大賢者』が火球の火力を下げずとも、オレは問題ない。


『大賢者』が"契約"を破ることにもならない。



 火球に突っ込む寸前、オレは左手を右肩の辺りに引くように構えた。


 膨大ぼうだいな魔力が左手に集まり、淡い緑色の光があふれる。


 オレの魔力の色の光だ。



『大賢者』の顔が驚愕にゆがむ。


 まさか、という顔だな。


 少なくとも驚かせることはできた。


 さぁ、手をあやまれば、オレの勝ちだぞ。



『ご主人様! あの位置に、水球を!』


『なるほど! やっぱりお前は最高だよ! アカシャ!!』



 アカシャがここしかないというタイミングで教えてくれた。


 確かに、切り札の情報でもそうだ。

 集中しすぎて見落としていた。


 すぐに1つの水球を"透明化"して送り込む。


 そして同時に、溜めていた淡い緑の光に包まれた左手を前方に突き出した。



「"打消うちけし!!"」



 オレの"宣誓"と共に、前方に淡い緑色の光が放射された。


 突き出した左の手のひらから出された()()は、『大賢者』ごとオレの進路を包み込む。


 強制"限定"、強制"宣誓"となる魔法行使法"打消"。


 厳密には魔法の行使法ではないが、魔力で作られた魔法をそれよりずっと大きな魔力で押し流し、消し去る。世界のことわりの改変法だ。


 相手の魔法に使われている魔力より遥かに大きな魔力が必要な上、消せないタイプの魔法があったり、"纏"は消せなかったりと使い勝手が悪すぎるのだが。



 それでも、限定的な場面では、極めて有効な手段となり得る。



『大賢者』までの進路にあった火球が、"無塵"、"収束無塵"にかかわらず全て消え去った。


 オレの魔力光が残るこのわずかな間、『大賢者』の体から切り離された魔法はここでは存在できない。



「そんなものまで使えるとは!」



『大賢者』が驚きの声を上げながらも、一瞬で"身体強化"の魔法をかけ、"炎纏"の炎を両手両足に厚めに移動した。


 ここまでは正解だが、切り札が教えてくれる。

 冷や汗がほおをつたってるぞ、『大賢者』。


 左手は前に出したまま、右手を後ろに引きしぼる。


 オレも"水纏"の水を両手両足に厚めに移動し、特に右手に強く集中させ圧縮した。


 初手とは違うぞ。


 "打消"で"炎纏"は消せないが、それは体から絶えず新しく供給されているからだ。


 減衰している"炎纏"なら、貫ける。


 あと2歩。



 初手のオレの攻撃で気が付くべきだったな!


 オレとあんたの決着は、基本的には魔力切れか、物理でしかつかないんだよ!



 あと1歩。


 オレは渾身こんしんの右ストレートを放つ。




 だが、無情にもオレの渾身の攻撃は空振った。


『大賢者』、『不動』のラファエル・ナドルが、後ろに跳んだからだ。




 くそっ! 正解だよ! 冷静だな!


 だけど、まだ終わっちゃいない!


『大賢者』が着地して、ほっと一息ついた瞬間、透明化して配置しておいた水球からレーザーのように水を放った。



 避けるとしたら、そこに行くと予想してたんだよ!


 ほんの数センチの背後から、不可視の水が『大賢者』を襲う。



「お!? おおおおおお!」



『大賢者』がえた。


 切り札で身体的データの全ても把握していることから、分かった。


 空気の流れで索敵されていたせいで、ギリギリで気付かれた。


『大賢者』の"炎纏"の熱量が一気に上がる。


 オレに接触していないから、"契約"の影響もない。


 威力上限を遥かに超えた炎が、あと数ミリのところまで迫っていた水を押し返し蒸発させた。


 これでもダメだったか!



 だが、まだだ。まだ諦めない!


 水球が止められたとき、オレは再び『大賢者』に向けて走り出していた。


 緊急回避で後ろに跳んだだけで、すぐ側だ。


 態勢が間に合わず水球と同時に攻撃出来なかったのは無念だが、間髪入れずに攻撃することは出来る。



 再び"打消"の光を浴びせた瞬間、今度は一切の迷いなく即座に『大賢者』は下がり、オレとの間合いをとった。


 もしかしたら、周りからは『大賢者』が逃げ惑っているように見えるかもしれないが…。



 正解だ。大正解だよ。ちくしょう…。



「まいりました。今のが最後のチャンスでした。魔力切れです」



 わずかに残っていた魔力で維持していた"水纏"が消え、オレは降参を宣言した。


 下がったものの、臨戦態勢で"炎纏"を維持していた『大賢者』は、それを聞いて呆然ぼうぜんとした顔をしている。



 負けてしまった。


 悔しい。


 悔しいが…。


 勝っても虚しさだけが残ったボズとの戦いとは違い、負けてはしまったものの、闘技大会は楽しかった。



「エキシビション最終戦! 勝者! 『大賢者』、ラファエル・ナドル!」



 勝者を宣言する学園長の声と、まるで『大賢者』の炎のように燃え上がる歓声を聞きながら、オレは思った。



 命がかからない試合は、勝っても負けても楽しいことは分かった。


 でも、やっぱり勝ってこそ、より楽しいんだ。



 悔しい。


 だから、次は勝つ。





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