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異世界のヤツらに情報を制するものが世界を制するって教えてやんよ!  作者: 新開コウ
第2章 学園の支配者

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第35話 闘技大会⑩

「まったく、ズルいぞ。ワシも混ぜてくれんかのぉ」



 いよいよ、闘技大会の最終試合。

 オレと『大賢者』が握手している横から、審判を務める学園長が無茶な願望をぶっ込んできた。



「ロジャー。お前、学園長じゃろ? 分かっとるくせに無理を言うでない…」



『大賢者』が、やれやれという感じで学園長をなだめる。


 そう、学園長はそんなことは分かっていて、それでもおそらく本気でそう思っているから言葉にしたのだろう。


 ()()()()()()()()()()()()


 できる限り、()()()()()からオレの目をそらさせるつもりのようだ。


 本当に戦闘狂ではあるけれど、戦闘狂であることを見せることも作戦。

『賢者』と言われるだけあって、食えない爺さんだよ。


 この試合の目的は、オレに対する正確な戦力分析。


 例年はない、特例の『大賢者』とのエキシビション。

 1度は辞退したオレ達の強制参加。


 さすがに露骨すぎるので、オレに気づかれていると思ってはいるみたいだけど。


 でも、どれだけ本気で探ってるかは誤魔化すつもりらしい。


 アカシャのおかげで知ってるけどな。全力でデータを取りに来てること。



「はぁ、分かっとるよ。ラファ。我慢しなければならんことはな。この試合だけは、場外で審判をする。じゃが、どちらかに生命の危険ありと見なせば、割り込んでいくからな。絶対に『守り』は抜くなよ」



 学園長は若干、『守り』を抜くことを期待してるような言い方をした。


 演技なのか本気なのか分からないな。



「契約魔法でも縛られているので、そうなることはまずないと思いますよ」



 オレはにこやかな顔を作って、学園長にそう言った。


 危険があるとすれば、試合が終わった後だ。

 契約は、あくまで試合のことで交わされてるからな。


 でも、そこまでされることはないだろう。

 やってくるとしても、ノバクや教頭だと考えている。



「そういえば、そうじゃったな。混ざれんのは残念じゃが、君がラファ相手にどこまでやれるのか、とても楽しみにしておる。最高の試合を期待しとるよ」



 学園長もオレに笑いかけて、そして場外へと歩いていった。

 武舞台には、オレと『大賢者』2人だけになる。


 クーン先輩の実況が聞こえてきた。



「ついに始まります。最後のエキシビションマッチ! 『大賢者』様対セイ・ワトスン! この試合は、他のエキシビションとは全てが違います! 何より、()()なのです! ()()ではありません!」



 クーン先輩は興奮気味だ。


 7学年から2学年までの『大賢者』とのエキシビションマッチはとどこおりなく終わった。


 ちょっと『大賢者』がスパルタすぎて、各学年の優勝者達はしんどい思いをしたようだけれど。


 それでも、この国の頂点からの指導を受けられて皆満足そうだった。


 この試合に審判は不要と、学園長がクーン先輩の実況の補助に回ってくれたのも良かったと思う。


 学園長によって観客にも『大賢者』の指導がわかりやすく解説され、そしてクーン先輩のトークで盛り上がった。


 だが、最後のオレの試合だけは、学園長が審判となり通常の試合形式で行われる。



「『大賢者』様は言いました! この国の頂点の戦いを見せてやると! 刮目かつもくしましょう、これからどんな戦いが起こるのかを!」



 クーン先輩の実況が続く。



「くく。期待されとるのぉ。だいぶあおってしまったからの。期待外れにだけはならんでくれよ」



『大賢者』が笑う。



「ええ…。勝手に最後の試合にして、勝手に煽っておいて、それ言います? できる限り頑張りますけども」 



 オレは酷い言い草に苦笑いで返した。



「大丈夫じゃろ。誰よりワシが期待しておる。期待以上であることをな」



『大賢者』の爺さんは学園長を戦闘狂と言うくせに、自分はオレの力を測るって目的忘れてないだろうか。


 次期王であるノバクとオレの対立が決定的になった今は、あんたの立場ならオレの力が弱ければ弱いほどいいだろうに。


『大賢者』も『賢者』も他人との力比べが大好きだから、ここまで強くなったんだろうし、仕方ないか。



「そこまで言われれば仕方ない。全力で挑ませてもらいますよ。僕としても、自分より強い相手に全力で挑戦できる機会は滅多にない。楽しみです」 



 今度は苦笑いではなく、挑戦的に笑った。



『アカシャ、切り札だ。範囲はオレと『大賢者』、空中を含む武舞台全てだ』



 少しフライングな気もするが、ルール上問題ない手段ならば全て使う。



『かしこまりました。計算などのサポートはお任せください』



 アカシャの抑揚のない声が響き、アカシャが肩の上からオレの中へと沈んでいく。


 切り札が発動したことで、範囲内の全ての情報がアカシャに聞かずとも直接入ってくる。


 大賢者の調子は、普通ってとこだな。


 ボスのときみたいに、無理やり調子を落とさせるようなことはしてない。

 絶好調でないだけでも、運はいいだろう。



 突然、会場中がスッと静まった。


 場外にいる学園長先生が右手を上げたのだ。


 オレと『大賢者』がサングラスをかける。



『アカシャ、最初から全力全開でいくぞ』


『はい。ラファエル・ナドルが油断していれば、それで終わりです』



 アカシャと立てた最初の作戦は、先手必勝。

 最速で威力上限の攻撃を当てる。


 格上の『大賢者』に勝つための最も確率が高い方法は、やられる前にやることだ。



「最終試合。1学年エキシビション。始め!」



 学園長先生が右手を振り下ろした。


『大賢者』に向けて走り出すと同時に、まず"思考強化"を発動。


 次に"身体強化"を発動。


 そして"限定"も"宣誓"も使()()()()"水纏みずまとい"を発動。


 オレの今の詠唱速度、身体能力ならば、この順番で使うのが最速。


 1秒もちぢまらないが、戦いのレベルが上がれば上がるほど、100分の1秒であっても縮めることが重要になってくる。


 ミカエルのときとは違うぞ。


 ただ、勝つためだけに最善を尽くす。


『大賢者』が失策をすれば、一瞬で終わりだ。



 開始から一瞬で『大賢者』の元まで駆け寄ったオレは、一切の無駄な動きなく右ストレートを繰り出す。


 "水纏"はすでに展開されており、右拳には圧縮された水が集まっている。


 さらに、周りに浮かんだ水球も作ったそばから即座に『大賢者』に攻撃を仕掛けている。


 正面からオレのパンチ、そして四方八方からは水のレーザーが『大賢者』に襲いかかる。



 切り札が、そしてアカシャがオレに教えてくれる。



『間に合いませんでしたね』



 アカシャの念話と同時に、『大賢者』の体から威力上限ピッタリの炎が噴き出した。


 "炎纏"だ。


 威力上限同士でぶつかれば、本来は水が有利なのだが、オレの水は『大賢者』の炎をつらぬくことができずに蒸発していく。


 新たに生みだす速度が違いすぎるのだ。


 オレの拳の水も蒸発していく。

 蒸発と同時に新たに供給してはいるが、間に合っていない。


 このまま強引に殴りに行くこともできるが、それでは拳が届く前にオレの『祝福の守り』が発動されてしまうようだ。


 仕方なくオレは途中まで振った右手を途中で止め、後ろに飛び退いた。



「もし、わずかでも油断しておればワシの負けじゃったな。恐ろしいヤツじゃ」



『大賢者』が笑う。


 ボボボと炎の音がする。


 大賢者の周りに火球がどんどん増えていく。


 マズい。いきなりこれか。


 オレも負けじと水球を増やし火球を消していくが、ダメだ。


 だが、それでもできる限り消していくのが最善…。


 先程と同じ。


 新たに生み出す速度が違いすぎる。


並列詠唱へいれつえいしょう』と『高速詠唱こうそくえいしょう』という神に愛されし能力スキルが織り成す、圧倒的物量魔法。



「"無塵むじん"」



『大賢者』による"宣誓"が行われた時、武舞台の空中は1000を超える火球で埋め尽くされていた。


 そしてその全てが四方八方から時間差で、オレに襲いかかってくる。


 逃げ場すら、限りなく少ない。



『大賢者』は開始の位置から動いていない。


 魔法使いの1対1での戦いの基本は、狙いを付けにくいよう動きながら戦うことだ。


 しかし、『不動』のラファエル・ナドルは動かない。


 動く必要がないから、動かない方が集中できて効率がいいのだ。





お読みいただきありがとうございます。



嘆きの亡霊が面白すぎます。

まだの方は、ぜひ読んでみていただきたい。


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