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第34話 闘技大会⑨

「ミカエル! 何じゃったのだ、()()は!? 魔法ではない! 断じて魔法ではなかったはずじゃ!」



 ワシは観客席に帰ってきたミカエルをねぎらうことすら後回しにして詰め寄り、聞きたかったことを聞いた。


 長い長い修練と経験で、ワシには分かる。

 ロジャーのヤツにも分かったはずじゃ。


 魔法には気配がある。


『魔力可視化』や『魔力感知』などの専用スキルを持っていないワシらには正確なことは分からん。


 だが、訓練次第で魔法を使ったということくらいは分かるのだ。


 世界のことわりが動いたという気配が。



 しかし、セイ・ワトスンが最後に使った()()は、詠唱から発動後まで一切、その気配を感じなかった。


 まるで…、あたかも…。



「セイは水蒸気爆発というものだと言っていました。物理現象を利用したのだと」



 ミカエルの答えに、ワシは鳥肌が立つのを感じた。



「物理現象…。バカな、ヤツは魔法を使わずに自然を操れるというのか…」



 そういうスキルなのか? いや、ロジャーはセイ・ワトスンのスキルは『鑑定妨害』1つのみと言っておった。


『真偽判定』と『魔力可視化』を同時に使ったらしいので、まず間違いない。



「私もそう思い聞いたのですが、半分魔法なのだそうです。あの現象が起こるように魔法で仕掛けを作ったと言っておりました」



 ワシのつぶやきにミカエルが答えてくれた。


 なるほど。


 いや、じゃが、そんなことができるものなのか?


 確かに、所構ところかまわず燃やしまくっていたら、なぜか爆発を起こしたことは何度かある。

 それで死にかけたこともな。


 きっとセイ・ワトスンがやったことは、それを魔法で上手く再現したのじゃろう。


 少なくとも、ワシにはできんことじゃ。


 爆発が起きるときと爆発が起きないときの違いすらよく分からんのに、どうして再現ができようか。


 60年以上生きたワシが知らんことを、どうしてヤツは知っている?

 そもそも、どこで魔法を学んだんじゃ。

 平民が魔法を学べる機会はそうそうないはず。



「ふむ。セイ・ワトスン…。奇妙きみょうなヤツじゃのぉ」



 末恐ろしいほどに強い平民。


 分かっていることはそれなりにあるのじゃが、分からんことはそれをはるかに凌駕りょうがしておるな。



「お曾祖父様じいさま、楽しそうですね」



 ミカエルがそう指摘をしてきた。


 気づけば、ワシは笑っていたらしい。



「くく。そうじゃな。ミカエルよ、先程の試合は素晴らしかったぞ。1つ高みに登ったな。そして喜べ。最高の魔法使い同士の戦いというものを見せてやろう」



 全力で戦えそうな相手と戦う(やる)のは、いつぶりじゃったかのぉ。


 ミカエルが生まれてからは1度もなかったはずじゃ。


 ロジャー以来か…。

 あいつ、1回相手してやると永遠に再戦を申し込んでくるから、面倒くさいんじゃよな…。

『賢者』じゃなくて、『戦闘狂』とか『修験者しゅげんじゃ』って呼ぶべきじゃろ。




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 7学年までの全ての試合が終わり、各学年の優勝者が決まった。


 今は武舞台で表彰式が行われている。


 例年とは違う飾りつけと演出に、会場の中には唖然(あぜん)としている人もいるようだ。


 開会式とおなじように武舞台の10メートルほど上空が輝き、光のシャワーを出しながら各学年の優勝者の名前が浮かび上がっている。


 上空では開会式以上の規模で色とりどりの花火が咲いていた。


 四方から見えるように、ゆっくりと回転する光る優勝者の名前は、オレの名前だけ少し大きい。



『おい、スルティア! お前、「学園の生徒に贔屓ひいきはせん(キリッ」とか言ってただろう!』



『学園の支配者』とオレの関係を疑われてしまうような演出になってしまっていることに狼狽ろうばいし、念話で文句を言う。



『あはは。いいじゃないか。セイが一番すごかったことは、たぶんてた全員が分かってるよ』



 アレクが呑気のんきなことを言う。

 そういう問題か!?



『セイはいつも細かいこと気にしすぎなの』



 いや、ベイラ。そのおかげで助かってきたことだってあったはずだろ?

 ってか、もうそれただの悪口じゃない?



『私は、珍しくアンタが焦ってることが一番面白いわ』



 ネリー、それはヒドいだろ!



『ほらー、みんな良いって言ってるじゃろ』



 ドヤ声かよ、スルティア!



『アカシャ! お前なら分かってくれるはずだ!』



 オレはアカシャに救いを求めた。



『愚かな行為ですが、ご主人様を称えるのは当然のことです。いっそ、もっと目立たせても良いくらいです』



 アカシャ! お前もかぁ!


 武舞台には不似合いのレッドカーペットの上で、オレは心の叫びを上げた。



 その後も念話でワチャワチャ盛り上がっている間に終わった表彰式だったが、続けて『大賢者』が会場全体にアナウンスをし始めた。


 優勝者が『大賢者』と戦うエキシビションのことだろう。



「この後、エキシビションを行う。優勝者にはたっぷり指導してやるから、楽しみにしておれ」



『大賢者』の言葉に、会場中から歓声が上がる。


 この国最強のあの人が戦うところを見られるどころか、教えてもらえる機会なんて、まずない。


 みんな楽しみにしているようだ。



「順番は、()()()()()()じゃ。本来逆にすべきじゃろうが、許せ。その代わりに見せてやろう、この国の頂点の戦いというものを」



 歓声が大歓声に変わる。


『大賢者』の爺さんは、オレとの試合を最後に持ってくることにしたらしい。


 上の学年の優勝者の中には、悔しそうな顔をしている人もいる。

 いいね。オレやミカエルを見て悔しがれるのは、得難い才能だと思う。

 確実に頭1つ抜けて強くなるだろうな。



 壇上だんじょうに上がった『大賢者』と目が合う。


『大賢者』が好戦的な笑みを浮かべた。


 やれやれ。大人気おとなげないなぁ。

 まだまだ、あんたの方が強いんだぞ。


 まぁ、契約魔法のおかげで、間違って殺されることもまずないと言っていい。


 あんたがその気なら、決めた条件の中で、とことんまでやってやろうじゃないか。



 オレも『大賢者』に笑い返した。


 おかしなものだ。


 あんなに恐れていたのに、結局、あんたとの戦いが一番楽しみだよ。


『大賢者』、『不動』のラファエル・ナドル。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 一部以外のキャラクターがお爺さんたち含めてみんな可愛くて、読んでてつい顔がニヤニヤしてしまいます。
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