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第28話 闘技大会③

「楽勝だったわね!」



 ネリーが1回戦を終えて観客席に戻ってきた。


 ネリーの山はトーナメント表の一番右上。


 相手はシードにこそなっていないが、位置としては第3シードに当たる最も右上に配置された、実力的には1軍のナンバー2の男子だった。



「おめでとう! ネリー!」



 オレの言葉に続いて、アレクの時と同じように皆が口々に戻ってきたネリーを祝福する。



「わ、私も強くなったわよね!?」



 ネリーはちょっとモジモジしながら、めて欲しそうにしている。


 その様子が何となく可笑おかしくて、自然と笑ってしまう。



「ふふ。ああ、強くなった! もちろん、お前もまだまだ強くなるぞ!」


「そう! やっぱり、そうよね! 分かってたわ!」



 そんなことを言いつつも、ネリーはとても嬉しそうだ。



「それにしても、バカなヤツらなの! ミニドラを禁止したくらいでネリーに勝てると思ってたみたいなの」



 ネリーの側に飛んでいったベイラが、少し怒った様子で腕を組ながらしゃべった。


 今年の闘技大会のルールには、使役しえきした生物をもちいて戦うことを禁ずると追加された。


 これでベイラやミニドラは闘技大会には出られなくなった。


 完全にオレとネリーを狙い打ちしたルールである。


 まぁ、オレ達はベイラやミニドラに協力してもらってるだけで、使役してるわけではないんだけどな。

 とはいえ、教頭がそれを認めるはずもない。


 教頭はミニドラさえ封じれば、1軍の2番手でネリーを倒せると考えていたようだ。


 しかし、結果はネリーの圧勝だった。


 アレクの時と同じで、相手は対人戦闘がヘタクソすぎた。


 基礎中の基礎である"限定"と"宣誓"をあえて使わない戦いというのは、きっちり訓練した者でないと意外と難しい。


 動き回るネリーをとらえきれず、いつどうやって飛んで来るか分からないネリーの魔法に混乱していた。


 自分も動き回るしかないと判断したところは、さすが優秀と思ったが、動きながらの魔法の精度が低すぎて勝負にならなかった。


 レベル差など以前の、完全な錬度不足だ。


 9歳で対人戦闘の訓練を十分に積んでいないのは当然と言えなくもないけどな。



「これでミカエルを除けば、正攻法でオレ達を止めるのは無理だと理解しただろ。さらに卑怯ひきょうな手を使ってくるかもな」



 そう言いつつ、オレはそれが()()ではなく確実であることを知っていた。



『セイよ。本当にいいのか? ヤツらを放置しておいて』



 スルティアが、オレだけに念話してきた。

 学園内の音を拾えるスルティアも、オレと同じくそれを把握している。



『ああ。これはネリーに解決して欲しいんだ。因縁の相手なんだよ』



 オレもスルティアだけに念話をする。



『いざとなれば、ワシは自分に課したルールを破ってでも助けるぞ』



 スルティアは学園内のことに直接干渉しないと決めている。


 学園が意思を持っていることを悟られないための自衛の手段であり、単純に自分は見守るだけに留めるべきであるという理念でもある。


 それを破ろうとは、スルティアはネリーに甘いなぁ。


 気持ちはすごく分かるけど。



『分かってるって。ベイラにも見守ってくれって言ってある。いざというときは、どうにでもなるさ』



 ネリーを心配するスルティアに安心するよう伝える。



「ひきょうな手…。許せないわ…」



 ネリーがつぶやく。

 人一倍、卑怯な手に思うところがあるだろうからな。


 ネリーには詳細は伝えてない。

 たぶん、そうした方がいいだろうと思っている。



「ネリー。お前はもっともっと、じいちゃんのことを誇っていい。あの人こそが、『貴族の中の貴族』だ」



 何も知らないヤツらの言葉に惑わされるな。


 自信を持て。


 トンプソン家は、バカにされていい家じゃない。


 直接言いたいことをぐっとこらえて、ぼかした言い方をする。



「あんたは、お祖父じい様を知ってるの?」



 ネリーが少し驚いたように聞いてくる。



「ああ。会ったことはないけどな」






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 オレの1回戦の相手は、不自然に棄権した。


 そして、繰り上げでオレとシードであるノバク王子の2回戦がすぐに行われることになった。


 ノバク王子が武舞台に上がってくる。


 次の試合はアレク対ミカエルなので、2人は武舞台の側で待機している。

 本来2回戦第1試合となる彼らの試合は、2回戦第2試合として行われることとなった。


 観客席に1人になったネリーは、うちのクラスのアンドレ・ガビッチに耳打ちをされて闘技場の外に出ていった。


 ちなみに、アンドレくんは悪くない。あいつも脅されている。


 この辺りは全てノバク王子達の計画通りだ。



「セイ・ワトスン。平民の分際ぶんざいで調子に乗っているようだが、それもこれで終わりだ。私が、貴様に敗北を味わわせてやろう」



 武舞台でオレと対峙たいじしたノバク王子が、居丈高いたけだかに語る。


 やや長めの黒髪に、つり上がった緑の目をしたイケメンだが、笑いかたが悪党っぽくて醜悪しゅうあくだと思った。



「そうですか。殿下の実力でオレに敗北を味わわせるのは、難しいと思いますけどね」



 オレはノバク王子をあおるような発言をした。

 さすがに、少し腹が立っているからだ。


 ここまで卑怯な手を使わずに、ただ面と向かって負けろと言われれば負けたのに。

『大賢者』とは戦いたくないから。

 王子に負けるなら言い訳もできるし。


 でも、ここまでされると王子の思惑おもわくに乗るのは腹立たしい。

 負けてやる気はない。



「貴様! そう言っていられるのも今のうちだ。私の力を見せてやる」



 ノバク王子はオレの煽りに反応しつつも、握手を求めてきた。


 オレはそれに応じる。



「この試合、上手く負けて見せろ。貴様の家族と、トンプソンを人質にしている」



 握手の際、ノバク王子はオレにだけ聞こえる小さな声で、人質をとったことを伝えてきた。


 オレは驚いたふりをして、観客席を見る。


 当然、ネリーはいない。



「どうしたのじゃ…? まさか、殿下! あなたは…!」



 オレの視線の先を見た審判の学園長も、ネリーがいないことで何となく悟ったらしい。


 闘技場全体には、実況のオリバー・クーン先輩の声が響いている。




「何でもないです。学園長、気にせず始めてください」



 オレは学園長に試合を始めるよう伝えた。

 学園長は勘が良すぎる。

 ここで止められると、こちらとしても計画が崩れる。



「そうだ。ワトスンもこう言っている。学園長、早く始めるが良い」



 ノバクはニヤニヤと笑いながら学園長をうながす。



「ぐっ。いや、しかし…」



 学園長が抵抗を示す。



「学園長っ! いいから、早く!」



 オレは学園長に強く呼び掛けた。



「ふははははは!!」



 ノバクが笑い出す。

 オレが切羽詰せっぱつまっていると勘違いしたのだろうか。



「くっ。1学年2回戦、第1試合、開始!」



 学園長がけわしい顔で手を振り上げ、振り下ろした。



「始まりました! ノバク殿下とセイ・ワトスンの注目の試合! お、おおっとー!?」



 試合が開始され、クーン先輩の実況がすぐに驚きの声に変わる。


 学園長も先ほどの険しい顔を忘れてしまったかのように、目の前の光景に呆然としている。



 ノバクは試合の開始直後に、無様ぶざまに武舞台の床にうつ伏せに倒れた。


 一瞬で後ろに回り込んだオレが、そうなるように丁寧ていねいに足を払ったからだ。


 カエルが潰れたような見た目になっている。

 ここまで残念な感じになるとは、オレも思わなかった。



「きっ、きっ、貴様ぁぁぁ!!! どうなるか分かっているのだろうなぁぁ!!」



 高い鼻を打ち付けたイケメンが、怒りに震えながら鼻を抑えて立ち上がる。



「もちろん。おしおきの時間です。ネリーが無事に戻ってくるまで続きますよ」



 オレはあっけらかんとして宣言した。


 試合中なら、王子を多少ボコっても言い訳できる。

 人質をとられて勝てないんじゃ、少し長引いても仕方ない。


 実際には、人質なんていないけどな。


 教頭がワトスンさんに放ったセヨン家の暗部は、こちらに取り込んだ。

 王子や教頭が裏切られたことに気付いてないだけだ。


 ネリーは自力で返り討ちにしてくれるって信じてる。


 一応、ネリーの状況はリアルタイムでアカシャに見せてもらってるし、万が一にも本当に人質にとられることはない。



『おしおきの方法はお任せください。『祝福の守り』を発動させず痛めつける方法など、わたくしにかかれば無数にあります』



 アカシャがいつも以上に平坦な、抑揚よくようのない冷たい声で念話をしてきた。


 アカシャさんが怒っていらっしゃる。


 アカシャが本気出したら、拷問ごうもんみたいになっちゃうんじゃなかろうか。


 やりすぎもマズいだろうから、ほどほどにしとこう…。




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― 新着の感想 ―
クズでゴミですがほどほどにネ⁉️
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