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第26話 闘技大会①

 たかだか1ヶ月というのはあっという間で、いよいよ今日は学園闘技大会の当日となっていた。


 できる限りのことはやった。


 アカシャと色々検討したけれど、大賢者の目的がオレの力を試すために過ぎないらしいことから、逃げたりわざと負けたりという選択肢はとらないことにした。


 殺されることはまずない状況下で正面から大賢者と戦っておくのは、こちらとしてもメリットが大きい。


 ただし、『祝福の守り』を抜く威力の攻撃は禁止という闘技大会ルールだけは厳守してもらう。

 それだけは絶対だ。


 だから、オレは学園長に交渉をした。

『大賢者』に対し『契約のモンフィス家』が契約魔法をかけてくれるならば、闘技大会に参加すると。


 モンフィス家は3つの臣民公爵家の1つで、この国で唯一契約魔法を使えることで絶対の権力を築き上げた家だ。


 叩き上げの他2つと違い、代々臣民公爵を継いできた家であり、国の司法のトップはこの家の当主が世襲していると言っても過言ではない。


 ダメ元での交渉だったが、大賢者は大笑いして了承したらしい。

 元々ルールは守るつもりだったようだ。


 ついでにオレも同様の契約魔法をかけられることになったが、同じくルールは守るつもりだったので問題ない。


 おかげで、不安はありつつも楽しみもある闘技大会となった。


 せっかくだから、優勝して『大賢者』に挑戦してみたいと思う。



「すっごい人の多さなの!」



 頭の上に座るベイラが、いつも以上にテンション高めの声で言う。



「全学年が集まるのは初めてだからね。でも、国際大会になると一般の観客も入るからな。こんなもんじゃないぞ」



 学園の闘技場の観客席には250人ほどの生徒と学園職員が座っていた。

 今、オレ達もその中に含まれている。


 学園の闘技場は正方形で、中心に正方形の武舞台があり、周り四方を階段状になった観客席が囲む形になっている。


 最大収容人数は2000人くらいなので席は大して埋まっていないのだが、ベイラが同時に見た人間の人数としては人生最大のようだ。



「ふあー。これより多くなるの…。国際大会すごいの…」



 ベイラがほうけた声を出す。



「ああ、緊張してきた…。でも、こんなに楽しみなのは生まれて初めてだよ」



 アレクが緊張で顔を強ばらせながらも笑みを浮かべる。


 緊張している割には、サファイアのようなブルーの瞳がギラギラと輝いている。


 人形のように整った顔立ちで、いつもは女の子と間違われてもおかしくないようなアレクだが、今のアレクを女の子に間違える者はいないだろう。


 オリエンテーリングの時に泣いていた少年はもういない。



「アレクー! なんと凛々(りり)しい!」



 観客席の上の方から黄色ではなく、銀色の歓声が聞こえてくる。

 アレクの爺さん、ダビド・ズベレフである。

 権力を使って無理やり観戦に来た迷惑なヤツだ。


 オレはそれを聞かなかったことにしてスルーした。

 アレクも少しだけほおを赤くしてスルーした。



「いいね。でも、アレクの2回戦はミカエルだぜ。トーナメントの山としては最悪の場所だ」



 オレは楽しみにしているアレクに笑いかけ、そして大変な山に()()()()()しまった事実を確認した。


 トーナメント表は左上の第1シードと右下の第2シードだけにシードが与えられている。左右15人ずつに別れるからだ。


 第1シードがミカエル。第2シードがノバク王子だ。


 アレクの山はミカエルのすぐ下となっていた。



「いいんだ。今の僕の力を試せれば、それで。全部君のおかげだよ、セイ」



 アレクは右手で握りこぶしを作って言った。


 震えている。

 武者震いだな。



「いや。全部アレクが頑張ったからだよ。病気で寝たきりの時に腐らず瞑想をし続けていたから、今がある」



 アレクはレベルの割に圧倒的に魔力量が多い。

 核魔力の大きさが段違いだからだ。


 アレクの特殊な環境が、結果的にアレクが強くなる土台を作った。



「そうそう。あんまりセイをおだてると、特訓がキツくなっちゃうわよ」



 ネリーが冗談っぽく笑って言った。



「相変わらず素直じゃないの…」



 ボソッとベイラがつぶやいて、ネリーにキッとにらまれた。

 頭の上でやられるとオレが睨まれた気分になるから止めて欲しい。



『や、やっぱり、わしも行けば良かったかのぉ…』



 スルティアが念話を飛ばしてきた。



『『『『だから、言っただろ!』』』』



 微妙に言葉は違えども、アカシャとスルティアを除くオレ達全員の言葉が揃った。


 お祭り騒ぎになるから、こっそりスルティアも来ればいいと誘っていたのだ。

 地下でも観れるからと言って来なかったが。

 引きこもりめ。



 オレ達がワイワイと騒いでいると、観客席の至るところから歓声が上がった。


『大賢者』ラファエル・ナドルと『賢者』ロジャー・フェイラーが連れ立って武舞台に上がってきたからだ。


 スルト国最強とナンバー2と言われる2人だからな。

 人気も高い。



「皆の者、いよいよ闘技大会じゃ。今年は国際大会の年。各学年の代表もこれをもって選考終了となる。持てる力を全て出し切り、戦うがよい」



 まずは学園長である『賢者』ロジャー・フェイラーが喋る。

 声は魔法で拡声されていた。



「ルールは単純。武舞台で戦い、『祝福の守り』を発動させられた方が負けとなる」



 続けて『大賢者』ラファエル・ナドルが笑みを浮かべながら喋った。

 やはり声は魔法で拡声されている。



「おい、ラファ。間違ってはおらんが、正確でもないぞ。武舞台から10秒以上離れても負けとなる。また、『祝福の守り』を抜くような威力の魔法を相手に放っても負けじゃ」



 学園長が『大賢者』の簡単過ぎる説明に補足をする。


 空に飛び上がったりして有利をとるのは禁止ではないが、10秒以内に武舞台に戻らなければならないというリスクを背負うことになるということだな。


 それから、『祝福の守り』を抜く威力の魔法自体は禁止ではないが、それを相手に向けて放つのは禁止ということだ。



「どれくらいの威力だと『祝福の守り』を抜いてしまうかじゃが、これくらいじゃ」



『大賢者』が喋っている途中で、武舞台に大きな火柱が上がった。


 速い。

 魔法陣を思い浮かべて、魔力を込めて、魔法を放つ工程を詠唱えいしょうと言うが、それが速すぎる。


『大賢者』の3つもある能力スキルのうちの1つ、『高速詠唱』の影響ではあるが、能力なしでもオレより速いであろう凄まじい練度の詠唱だった。



「今の火柱より威力が低い魔法のみ、相手に向けることを許す。『守り』を抜けるほどの者ならば、見ればどれくらいの威力か理解できたじゃろう」



 学園長が『大賢者』の足りない説明の続きを喋る。



「では、第894回闘技大会をここに開催する。各学年の優勝者との戦い、楽しみにしておるぞ」


『よし、スルティア! ここで例の演出だ!』


『任されたのじゃ!』



 開催を宣言した『大賢者』が意味ありげにこちらを見た。

 目が合っちゃったよ。


 怖いけど、笑っておこう。


 武舞台の10メートルほど上空が輝きだし、光のシャワーを出しながら『第894回闘技大会開催!』の文字が浮かび上がってくる。

 四方から見えるように、ゆっくりと回転する仕組みだ。


 文字が完全に浮かび上がると同時に、さらに上空で色とりどりの花火が咲いた。

 日が昇っていても綺麗に見える仕様だ。


 オレが頼んで、スルティアの『支配者権限』で作って貰った演出だ。

 開催と同時にサプライズで出すいたずらをしたいと言ったら、メチャクチャ乗り気で作ってくれた。


 元々そういうの好きなヤツだから、学園7不思議なんてものができたのだ。


『大賢者』や学園長を始めとした運営サイドが目を見開く中、何も知らない生徒達は今日最大の歓声を上げた。


 オレ達も立ち上がって、満面の笑みを浮かべて拍手する。


 いたずら成功! という拍手だ。


 念話ではスルティアを中心にみんなですごく盛り上がっている。



『アカシャ。お前も入ればいいのに』


わたくしは、ご主人様が楽しんでいれば楽しいのです』


『そっか。今のところ問題はなさそうだな?』


『はい。全て計画どおりとなっております』



 暗躍してるつもりになってる情報が足りてないヤツらに、目に物見せてやるぜ。



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