第7話 立派な兄ちゃんになるために 中編
2020/8/22
話のテンポが悪いと感じたので、中編の内容の一部を後編に入れ、中編を削除する修正をしようと考えました。
ですが、実際削除しようとしたところ、
----------------------------------------------
以下に該当しない場合の削除はご遠慮いただきますようお願い致します。
・出版社主催のコンテストに小説を投稿する場合
・自費出版あるいは各出版社などで有料で小説を販売する場合(同人誌含)
・法律上問題のある場合(著作権侵害/名誉棄損など)
掲載中小説の場合は、リンク切れ・システム負荷削減の為、連載継続が困難な場合でも小説は残して頂きますようご協力をお願い致します。
----------------------------------------------
との注意書きが出てきて、残念ながら現状では削除を遠慮すべきことが分かりました。
ですので、この中編は修正前のまま残します。
申し訳ありませんが、この中編はないものとして読み飛ばして、次の後編へ進んで頂けると幸いです。
恐ろしいことを言った小さな女の子は、自分を妖精だと言った。
アカシャという名前らしい。
ケイトとサムは森の中で帰る方向が分からず、じっと隠れている。
だけど、森の奥にいるゴブリンがケイト達の匂いを嗅ぎ付けて向かって来ている。
今はまだかなり離れているけれど、このままだとカールが大人を呼んで助けが来ても間に合わない。
アカシャは俺達にそう説明した。
「それが本当ならまずいけど、それをオレ達に言ってどうするんだ?」
兄ちゃんは真剣な顔をして、静かな声でアカシャに聞いた。
「あなた達をケイトとサムのいるところへ案内します。急いで連れ戻せば、ゴブリンに捕まる前に森から戻ることができるでしょう」
答えるアカシャの表情は、さっきからずっと変化がない。声のトーンもだ。
対して、兄ちゃんの表情は一気に険しくなった。
たぶん、オレの表情もだ。
アカシャが俺達を森に連れ込もうとしてるって分かったからだ。
「…怪しすぎる。オレ達を森におびき寄せようとしてるようにしか聞こえない。大体なぜオレ達に声をかけた? 妖精っていうのは聞いたことがあるけど、人間には近寄らないって聞いたぞ」
兄ちゃんは自称妖精のアカシャをとても怪しんでる。
当たり前だ。オレ達に声をかけて、あの子に何の得があるっていうんだ。
森におびき寄せて、襲って食べようとしてるに違いない。
絶対そうだ。
それに、あいつはどうやらオレと兄ちゃんにしか見えてないみたいだ。
みんなが、さっきから何と話してるんだって兄ちゃんに聞いてるし。
ますます怪しい。
アカシャは表情だけじゃなく声にも感情が全く感じられない。抑揚の少ない涼やかな声は、綺麗だけど冷たく感じる。
なんというか、ケイトとサムのことなんてどうだっていいように聞こえるんだ。
「兄ちゃん兄ちゃん、オレもコイツ怪しいと思う。きっとオレ達を森に連れ出して食うつもりなんだ」
オレがそう言うと、兄ちゃんはオレの方を見てこくりと頷いた。
妖精もどきを警戒して、強ばった表情のままだ。
兄ちゃんもオレと同じ事を考えてたらしい!
「ふふん、そういうわけだ! オレ達はお前に付いていったりしないぞ!」
きっぱり拒否してやると、妖精もどきは盛大なため息をついた。
ため息なのに、ガッカリのため息じゃなく、オレ達をバカにしたため息だ!
オレには分かるぞ!
無表情の半眼をほとんど変えもしなかった。
イラッとした。
「なんだよ。ジルの言うとおり、オレ達はお前に付いていったりしない。さっさと去れよ!」
兄ちゃんもイラッとしたのか、大きな声でアカシャを追い払おうとした。
「極端な話、ケイトとサムがどうなろうが、私にはどうだっていいのです」
アカシャが言った言葉に、頭が沸騰した。
本性現しやがったな、ってオレも兄ちゃんも妖精もどきを罵倒する。
あいつ、さっきと何も変わらない綺麗だけど冷たい声で言い切りやがった。
許せないぞ。
でも、妖精もどきがその後に続けた言葉に、オレと兄ちゃんは驚愕した。
「ケイトとサムが死んで悲しむ貴方達を見て、セイ様が悲しむということさえなければ」
「「は?」」
なんでここでセイが出てくるんだ?
意味が分からない。
兄ちゃんも同じなんだろう、訳が分からないって顔をしてる。
「意味が解りませんか? 言葉通りの意味なのですが」
要するにセイを悲しませたくないから、ケイトとサムを助けるのだとアカシャは言う。
「セイを悲しませたくないって、どうしてお前がそんなことを言うんだよ!」
「そうだ、兄ちゃんの言うとおり! お前、セイの何なんだ!」
兄ちゃんもオレも、セイとアカシャの関係なんて知らない!
セイは毎日見てるけど、アカシャを見たことなんて1度もない。
「セイ様の周りがいつの間にか綺麗になっている理由。それが私だと言えば、貴方達には解るでしょう」
驚いた。俺達が不思議に思っていたことだ。
兄ちゃんも物凄く驚いた顔をしている。
「あ、あれをお前がやってるっていうのか? 何のために?」
信じられないといった様子で、兄ちゃんが聞く。
「セイ様が過ごしやすい環境を作ること。それが私の存在理由です」
アカシャの声は冷たいけど、セイのことを語るときだけ、ほんの少しの熱を感じた。
「兄ちゃん…。こいつの言ってること、もしかして本当なんじゃ…」
セイの周りが綺麗になるのって、俺達家族しか知らないはずなんだよな。
でも、もし綺麗にしてる誰かがいるとすれば、その誰かも当然知ってる。
その誰かが、こいつなのか?
「ま、待て。うまく騙そうとしてるのかもしれない。証拠はあるのか?」
兄ちゃんがアカシャに証拠を出せという。
アカシャは時間がないからと言いつつ、手短にオレと兄ちゃんがセイに対してこっそりやってる恥ずかしいことを暴露した。
兄ちゃんがこっそりセイに色々プレゼントをしてるとか、オレが誰も見てない時に赤ちゃん言葉でセイに話しかけてることとかだ。
将来オレの畑で一緒に働こうと、セイにいい聞かせてることまでバラされた。
「ば、ばかな。それはオレとセイ以外は知らないはずのこと…。いや、それよりジル、お前、抜け駆けはズルいだろ」
実はオレと兄ちゃんは、将来父ちゃんの畑を半分ずつ継ぐことになっている。
セイと3つに分けるほど家の畑は広くないから、セイはどちらかの畑で働くことになるだろうって父ちゃんが言ってた。
だから、オレも兄ちゃんも絶対将来セイと一緒に働きたいって思ってるんだ。
もちろん、それとは関係なくセイはめちゃくちゃ可愛い。
「兄ちゃんだって、こっそりセイに気に入られようとしてたんだろ。一緒じゃないか」
オレがそう言うと、直接誘うことと一緒なわけないだろと兄ちゃんが反論を始めた。
でもその言葉は、今までで一番冷たい目でオレ達を見つめてきた妖精にかき消された。
「私は時間がないと言ったはずです。ケイト達が死んでも良いのですか? 今あなた方がすべきことは、私を信じて付いてくるか、付いてこないかを決断することです。さぁ、早く決めなさい」
急げと言っているのにその声は強いわけでもなく、でも、だからこそ有無を言わさない力がアカシャの言葉にはあって、オレは息を飲んだ。
「兄ちゃん…」
確認するように兄ちゃんの方を見てみると、兄ちゃんもすごく悩んでいるようだった。
しかめっ面をして、腕を組んで唸っている。
「うううん…。分からん! オレは頭が悪いからな! でも、お前が言ってることは本当な気がする。なら、オレ達が行かなきゃケイト達が死ぬってことだ。だから、行く!」
兄ちゃんは悩んだけど決めた。
それならオレも。
「兄ちゃんが行くって言うなら、オレも行くぞ!」
兄ちゃんが行くって言ってるのに、オレだけ行かないなんて言ったりはしない。
それに、兄ちゃんが言うように、なんとなくアカシャは嘘をついてない気がする。
あと、アカシャってオレ達と同じくらいセイのことが大好きな気がするんだ。
だから、信じてみようと思う。
「よろしい。では、急いで向かいます。ついて来なさい」
アカシャがオレ達の言葉に頷いて、すぐに森の方に向かって飛び始める。
銀色の小さな光の粒みたいなものを散らしながら滑るように飛ぶアカシャを、オレと兄ちゃんは走って追う。
すると、オレ達を心配しつつも成り行きを見守っていたみんなが口々に、全力でオレ達が森に入ろうとするのを止めてきた。
「アル、ジル! お前らまさか森に入るつもりか! 大人が来るのを待つって言ってたじゃねぇか」
何人かが、森に入ろうとする俺達をとおせんぼする。
「状況が変わった。大人が来るのを待っていられなくなった。このままだとケイトとサムが危ないらしい」
兄ちゃんは早口で理由を言った。
「オレ達には聞こえない、ワケの分からないヤツの言うことを信じて森に入るってか! やめろ、絶対に騙されてる!」
詰め寄るみんなに兄ちゃんが冷静に対応してるけど、ダメだ。通してもらえそうにない。今にも喧嘩になりそうだ。
オレは、アカシャにどうするんだと目を向ける。
「時間はありませんが、想定の範囲内です。信じてもらえるかは分かりませんが、迷いは生まれるでしょう。こう言いなさい」
オレはアカシャに言われたことを、特に兄ちゃんに詰め寄ってる年長の2人にそのまま話した。
すると、2人は目に見えて動揺し始めた。
「分かったか? コイツは誰も知らないはずのことを知ってる。きっとケイトとサムも本当に危ないんだ。邪魔するな! 行こう、兄ちゃん!」
「おう!」
「待て! いや、でも、確かにオレしか知らないはずのことを…」
オレ達は詰め寄る勢いを失った2人の隙をついて森へ走った。
まだオレ達を止める声が後ろから聞こえてくるけど、アカシャの言うことを信じると決めたからには、全員を説得してる時間なんてない。
「アル、ケイトとサムはこの方角にいます。大人が来たらこちらに進むよう言いなさい」
森に入る直前、アカシャが兄ちゃんに伝言を促す。
兄ちゃんが少しだけ立ち止まって後ろを振り返り、教えられた方向を指差して大声を出した。
「オレ達は、この方角で助けを待ってるケイトとサムを連れ帰ってくる! お前らはここで大人が来るのを待って、説明してくれ!」
アカシャに言われた通りに大人への伝言を伝えた兄ちゃんは、すぐに前に向き直った。
兄ちゃんと目が合う。
『行こう』そう言われた気がして、オレは頷いた。
アカシャは兄ちゃんが前に向き直ると同時に先導を始めている。
あの先に、ケイトとサムがいるんだ。
そうしてオレ達は、アカシャを追って森に入った。