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第23話 全部が上手くはいかないものだ

「仲間にはなる。しかし、わしはここを離れるつもりはない」


「え?」



 スルティアを連れて帰ろうとしたオレ達に、スルティアは腕を組み複雑そうな顔をして言った。


 ネリーが驚きの声を上げ、顔をくもらせている。


 オレも意外だった。

 スルティアはこれからも、この洞窟で1人で暮らすと言うのか。



「フィリプとの約束を守り続けるためか? もういいじゃないか。お前はよく頑張った。間違いなく、約束は果たされた。フィリプも絶対にそう言うだろう」



 オレはスルティアに聞いた。


 生前のフィリプとスルティアの約束は2つ。


 誰にも見つかるな。

 この宮殿の者達を守ってやってくれ。


 前者は、建国の前からの約束だ。

 当時フィリプが、人間ではないスルティアの身を案じて言ったことである。

 スルティアは不死者で寿命はないが、正確には不死ではないからな。

 まさか律儀に自分の死後もこの約束を守り続けるとは、フィリプも夢にも思わなかっただろう。


 後者は、晩年に弱気になったフィリプがスルティアにたくした願いである。

 スルティアはフィリプを元気づけるためこころようなずき、宮殿がやがて学園になり、そして1000年経っても変わらずに守り続けた。


 今日オレ達に見付かったとは言え、スルティアは間違いなく、十分に約束を果たした。


 これからは約束に縛られず、自由に生きればいい。

 きっとフィリプがここにいたとしても、そう言うだろう。


 スルティアはよく頑張った。

 もう自己犠牲を続ける必要はない。


 だが、オレの言葉に目をうるませて答えたスルティアの言葉は、想像していたものとは少し違った。



「うむ。そうじゃな。きっとフィリプはそう言うじゃろう。じゃがな、わしはこれからもこの学園を守りたいのじゃよ。この学園の者達はみな、我が子のようなものじゃ。自由になったからといって、放り出す気にはならん」



 なるほど。

 約束はもう関係ないと。


 1000年の愛着か。想像も付かないほどの愛着があるんだろうな。



「そうか。スルティアがそうしたいなら、それがいいだろうな」



 自己犠牲でないのなら、それがやりたいことなら、それでいい。

 オレは頷いた。



「僕も、スルティアさんのしたいようにすればいいと思うよ」



 アレクも頷く。


 ちらりとネリーを見ると、寂しそうな顔をしながらも、もう先程のように顔を曇らせてはいなかった。



「うん。伝わったわ。スルティアの気持ち。会いに来るから。あなたが寂しくないように」



 いつもより小さな声で、優しくネリーは言った。



「3日に1回は会いに来るのじゃ」



 スルティアは、歯をむき出しにしてニヤッといたずらっぽく笑った。


 寂しがり屋め。しょうがない。そうしようじゃないか。


 あと、全員に"念話"の魔法も教えよう。

 アカシャとの念話と違って、使うと魔力を食う上に、離れるほど消費が増える不便なものだが、状況によっては便利だしな。



「たまには外に連れ出してやるの!」


「ああ。スルティアが学園内にいなくても、能力スキルでできることの半分くらいは有効だ。1日やそこら離れるくらいなら影響ないだろ」



 ベイラがいいことを言ったので、続いて補足しておく。



「そうなのか! …うむ。たまには連れ出されてやっても良い」



 何やらとっても嬉しそうに、でもえらそうにスルティアがしゃべる。


 その様子にふと、スルティアに尻尾しっぽがあれば凄い勢いで振られていただろうと思った。



「じゃあ、また来るよ。()()だ」



 スルティアと約束を交わし、一時的な別れを惜しみつつオレ達は洞窟を後にした。







 ちょうどオレ達がスルティアに会っている頃、王城に学園長である『賢者』ロジャー・フェイラーが訪れていた。



「緊急の用件ということだったが、何事だ?」



 玉座に座る王、ファビオ・ティエム・スルトが頬杖ほおづえをつきながら学園長に声をかけた。


 人払いはされておらず、玉座の間には多くの者がいた。


『大賢者』ラファエル・ナドル。

 第一王子ミロシュ・ティエム・スルト。

 宰相、第一騎士団長、第一王妃、他にも大臣や護衛の騎士などがいる。


 学園長の来訪を知ってこの場に来た者から、たまたま居合わせた者まで様々(さまざま)だ。


 おそらく、学園長はわざと人払いを頼まなかったのだろう。



「先日、神に愛された者をお借りして調査した件の結果をお伝えに参りました」



 玉座の正面でひざまずき、頭を下げたまま学園長が話す。


 以前の円卓会議の時と違い、公的な話し方だ。



「本人達から聞いておる。セイ・ワトスンは想像をはるかに越える力を持っていたが、国や学園には従順であったとな。それがなぜ緊急となる?」



 王が学園長に問う。

 王は学園長に貸した能力者達から、すでに報告を受けている。

 裁判の証拠としてまで使われる者達の言葉だ。間違いはない。


 にもかかわらず緊急での用件と言うならば、『賢者』には別の考えがあるということだろう。



「お聞きになられているとは思いますが、正確には、セイ・ワトスンに敵対しない限り従順であるということです。あれは危険です。絶対に味方に引き入れなければなりません」



 学園長は深刻な声で話した。

 ここにいる全員に、セイ・ワトスンは危険であると言ったのだ。

 ひどいな。

 従順にしているのに、断定されるとはね。



「ふむ。続けよ」



 王が学園長に続きをうながす。

 では、どうすれば良いと思うのだ、ということだろう。



「はっ。すでに敵対に近い状態にある者に、これ以上刺激をしないようお伝えいただきたく。また、セイ・ワトスンが何かしらの功績を上げた際に取り込みをはかるべきとぞんじます」



 学園長の進言は完璧だった。

 玉座の間にいる者は、あまりにも過分な対応に驚愕しているようだが。


 確かに、それが上手くいけばオレが敵対することはない。

 取り込みはどうでもいいけれど。


 だが、それは上手くいくだろうか?

 感情というのは難しいものだ。

 教頭やノバク王子が、オレを刺激するなと言われて納得するかは疑問が残る。

 はるか目下の者に対して譲歩じょうほできる人物というのは、あまり多くはない。


 上手くいくなら、オレとしても嬉しいけれど。



「そこまでするほどの価値が、セイ・ワトスンにあると言うのか?」



 王が学園長に確認する。

 できればやりたくないということだろうな。

 それはそうだろう。



「間違いなく」



 学園長は一瞬のためらいもなく、短く答えた。

 たったあれだけの問答で、よくここまで信じきれるなぁ。


 そんなに危険人物に思われるようなことは言ってないと思ってたんだけど…。



「分かった。『賢者』ロジャー・フェイラーがそこまで言うのなら、そうしよう」



 王の言葉に、玉座の間がざわめいた。


 たった1人の平民に、ここまでするのか。

 オレも意外だった。


 学園長が王にお礼を言って玉座の間を辞するとき、ある人物が学園長に声をかけた。



「ロジャー。面白そうな小僧じゃの。ワシにも紹介してくれ」



『大賢者』ラファエル・ナドルがオレに興味を持ってしまった。




 最悪に近い出来事を見て、オレは腰かけていたベッドから思わず立ち上がる。

 スルティアの元から自室へと戻り、最新の重要な情報をアカシャから見せてもらっていたのだ。



『こんなことが起きてたのか…。全部が上手くはいかないものだなぁ。アカシャ』


『はい。大賢者とは関わらないというご主人様の理想は、早くも崩れてしまいました』



『大賢者』はオレより強い。できれば関わりたくなかった。残念だ。


 それに、学園長の王への進言も、ほぼ確実に失敗する。


 失敗する原因があの場にはあった。いや、いたと言うべきか。

 学園長が気付いていなかったのが致命的だ。


 上手くいけば嬉しかったが、おそらく無理だろう。


 まぁ、仕方ない。

 それならそれで、楽しもう。


 オレはさっそくスルティアに念話をすることにした。



『やあ、スルティア。聞こえるか? さっきぶりだな。ちょっと頼みたいことがあるんだけど…』



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