第22話 『意思疎通』
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スルティアはオレが差し伸べた手をすぐに取って起き上がった。
そして、やや気の強そうに見える綺麗系の顔をつんと背けて口を開いた。
「断る!」
ふてくされた声だ。
その割には、立ち上がる時に取った手を離す気配は全くない。
オレは知っている。
スルティアは、昨日オレがベイラにした説明を聞いていた。
ダンジョンマスターであるスルティアは、学園内の音を全て拾えるのだ。
スルティアがオレ達の話を聞いて、「そう簡単には仲間になってやらんぞ」とか「早く明日にならんかのぉ」などと独り言を言っていたことはアカシャに教えてもらっている。
今日アレクとネリーに話をしたのも聞いてたようで、やはり似たような反応だったらしい。
それを考えると、この「断る!」はこじらせ系不死者であるスルティアの面倒臭さが遺憾無く発揮された結果とも思える。
さて、どうしたものか…。
オレはちらりとネリーの様子を窺った。
ネリーはスルティアをじっと見つめている。
当てが外れたかな。まずはオレがもうちょっと粘ってみるか。
「まぁ、そう言わずに考え直してくれよ。フィリプが来なくなってから、ずっと独りで寂しかっただろう? 悪いようにはしない。オレにはスルティアが必要なんだ」
できるだけ真摯に思っていることを伝える。
めんどくさいと言いつつも、友達との約束を1000年守り続けたスルティアをオレは尊敬している。
絶対仲間に、友達になりたい。
「ふん、今までさんざん放置しとったくせに! すでに悪いようにしとるわ!」
スルティアは握りっぱなしだったオレの手を、ぺいっと放り投げて言った。
さんざんって、オレが放置してたのは数ヶ月だよ。一応、理由もあるし。
1000年と比べるとそんなに長くはないだろう。
悪かったとは思うけど。
そんなことを考えていると、ずっとスルティアの顔を見つめながら難しい顔をしていたネリーが小さく呟き、優しくスルティアに話しかけた。
「やっぱり。さっきから言葉と全然違うから勘違いかと思ったけど、間違いないわ。スルティア、あなた、本当は嬉しくてしょうがないんでしょう? 私には分かるわ」
良かった。
ネリーの能力『意思疎通』は、人間以外の生物とお互いに気持ちを伝え合うことができるというものだ。
ネリーが能力を十分に使いこなせているならば、スルティアもその範囲内に入るとアカシャから聞いていた。
どうやら、上手くいきそうだ。
何より、スルティアの本音がオレ達に好意的だと思われるのが本当に良かった。
感情だけはアカシャを持ってしても分からないからな。
「な、なんじゃと!? しょ、しょんなことはない!」
スルティアはネリーの言葉に激しく動揺しているようだ。
噛みまくりながら否定している。
ネリーはそんなスルティアにゆっくり歩み寄って、両手をとった。
見た目20歳前後でモデルみたいな体型のスルティアと、9歳のネリーではかなり身長に差がある。
年齢だって、ずっとずっとスルティアの方が上だ。
でも不思議と、今だけはネリーの方が大人に見えた。
「独りぼっちは、寂しいわ。1000年、気付いてあげられなくてごめんなさい」
独りぼっちは寂しいか。
ネリーが言うと、言葉の重みが違うな。
親にすら遠ざけられ、物心ついた頃から最近までずっと独りぼっちだったネリーが、寂しくなかったはずがない。
ネリーの言葉に、スルティアは膝から崩れ落ちて号泣し始めた。
オレの頭の上からも、すすり泣く声が聞こえる。
ベイラにも『意思疎通』の力が働いたか。
たぶん、スルティアとベイラにはネリーがどんなに寂しい思いをしてきたかが伝わっているのだろう。
「わ、わしも寂しかった…。ぐすっ。ずっとずっと、いつかこんな日が来ることを夢見ておったのじゃ」
スルティアが泣きながら語り出す。
きっとこれが本心なのだろう。
ネリーは、膝立ちになったことで目線が近くなったスルティアの手を離し、背中に手を回してぎゅっと優しく抱きしめた。
「うん。伝わるわ。あなたがどんなに寂しかったか」
ネリーは目を瞑って、噛み締めるように言葉を紡ぐ。
ネリーの目からも涙が溢れていた。
ネリーにもスルティアがどんなに寂しかったか伝わっているのだろう。
「1000年じゃぞ! 仲間にと請われて素直になるには、あまりにも永すぎた…」
スルティアの声は疲れきっていた。
無理もない。
ネリーには直接伝わっているんだろうが、想像を絶する辛さだったのだろう。
「うん、分かるわ。大丈夫。こいつらは、それくらい分かってくれるから」
うんうん。ネリーの言うとおりだ。
スルティアの寂しさを想像すれば、ちょっと激しくこじらせたくらいで受け入れないなんてメンバーはここにはいないよ。
「アレクサンダー・ズベレフです。よろしく。スルティアさん」
アレクが天使の笑顔で自己紹介をした。
もう完全に受け入れ体勢である。
いいね。乗っかるぜ。
「セイ・ワトスンだ。よろしく。スルティア」
オレもアレクを真似て、天使の笑顔になるように笑って言った。
まぁでも、たぶん父ちゃん譲りの、やんちゃな感じの笑顔になっていることだろう。
「ベイラなの! 安心するの! ネリーも似たようなものだったの!」
おいベイラ、お前余計なこと言うなよ…。
確かにネリーは素直じゃなかったけどさ。
「…ネリー・トンプソンよ。ムカツクけど、私が素直じゃなかったのは認めるわ。だから大丈夫。よろしく、スルティア」
ネリーがちょっとムスっとしながら言う。
ほっ。良かった。
ベイラに悪気は無いことは伝わってるんだろう。
「ぐすっ。仕方なかろう、仲間になってやる。スルティアじゃ。このスルティア学園の支配者である。…よろしく」
偉そうな態度の後に、おずおずとよろしくと言うスルティア。
こじらせすぎかよ。本心は分かってるから、気にしないけどね。
「こじらせすぎなの」
「うっさいわ! 分かっておる!」
気にしてないくせに、ハッキリといじるのがベイラってヤツだった。
スルティアもすでにベイラのキャラは把握したようで、突っ込みつつも怒った様子はない。
それを見てオレ達は笑った。
『アカシャ、お前も挨拶するか?』
スルティアが味方になることが確定した以上、このメンバーにならアカシャのことを話してもいい。
そう思って、アカシャに聞いてみた。
『不要です。私は、ご主人様さえいればそれで良いのです』
一瞬の迷いすらなくアカシャは言い切る。
『ぶれないねぇ。そんなアカシャも好きだけど』
アカシャは家族の前でも、必要がなければ姿を現さないからな。
オレも必要がなければアカシャの好きにさせている。
アカシャの説明は、今後聞かれたときにでも言葉ですればいいだろう。
こうして、『学園の支配者』スルティアはオレ達の仲間になった。
それはこれから学園内でできることの幅が劇的に増えることを意味している。
「さぁ、みんなで学園生活を楽しもうぜ!」
みんなに声をかける。
誰にも邪魔はさせない。
いや、誰かの邪魔すらも、楽しもうじゃないか。
誤字報告大変助かっております。感想までいただいて、非常に勉強になりました。
Knight2K様、ありがとうございました。