第21話 スルティア
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ありがとうございます!!
「建国物語か。もちろん知ってるよ」
アレクが答える。
「建国物語? どんなのだったかしら?」
ネリーが首を捻る。
「ネリー、建国物語は入学試験に出てきたよ…」
アレクはなぜ知らないんだと言わんばかりの驚愕の表情と声でネリーに言った。
オレはアカシャから聞いて、ネリーが入学試験で歴史はほぼ全滅だったことを知っているので、驚かない。
「あたちは、当然知ってるの!」
オレの頭に座るベイラ言う。
絶対ドヤ顔だ。間違いない。
お前は昨日、オレが話すまで知らなかったけどな。
「1073年前、建国王フィリプ・ティエム・スルトは冒険の果てに強大な魔王を倒し、神からの啓示を受けてこの地に国を興しスルト国と名付けた。簡単に言うとこんな感じだよね?」
優等生のアレクはすらすらと答えを言う。
テストなら満点だ。
今は建国歴1073年。
この国は1000年以上もの間、1つの王家が君臨し続ける稀有な国である。
「さすがアレク。正解だ。それがこの国の正しい歴史とされている」
洞窟を歩きながら、オレはアレクにニヤリと笑いかけて言う。
「されている?」
アレクがオレの言葉に反応して、訝しげな顔をした。
「そう、真実はちょっと違うんだ。建国物語は、建国王フィリプの死後に作られた話だからね」
オレがアレクの疑問に答えていると、アカシャから念話が入った。
『ご主人様、魔物が接近してきます。この2人でも十分に倒せるでしょう』
ああ、いよいよ核心ってとこだったのに。
「2人とも、魔物が来る。止まってくれ。大したことないヤツだから、倒すのは任せた」
「それで? 建国物語と真実はどう違うんだい?」
アレクが好奇心に満ちた顔で聞いてくる。
魔物は楽勝で倒した。2人とも強くなったものだ。
2人が強くなるまで、ここに来るのを待っていたとも言えるけれど。
オレ達は先へと進みながら話を再開した。
「これは歴史の研究家達は誰でも気付いている公然の秘密だ。建国物語はあくまで伝説だからね。建国王フィリプは、元はただの冒険者フィリプだった」
「最初から王なわけないものね。伝説なんてそんなものよ」
オレの話に、ネリーが分かったような顔で頷く。
「そして、ここからが誰も知らない真実だ。この地に魔王はいなかった。いたのは、地下洞窟の主だ。ソロの冒険者フィリプは主と戦い倒したが、変わり者のフィリプは主と友達になった。1075年前だ」
これは歴史の研究家達も、誰も知らないことだ。
「洞窟の主が、後から魔王って言われることになったのかな?」
アレクが感想を言う。
いつものことだし、いずれ話すと言っているからか、何でそんなこと知ってるのかとは聞かれなかった。
「フィリプは洞窟の主と協力して、この地に町を作ったんだ。町は瞬く間に大きくなり、やがて国になった。建国宣言の時、姓を名乗るようになっていたフィリプ・ティエムは、国の名前を洞窟の主の名前スルティアから、スルト国と名付けた。これが1073年前だ」
これが真実の建国物語である。
今の建国物語は何代か後の王家が権威付けのために作った話だ。
「へー、そうなの。スルティアって、学園の名前と一緒なのね」
ネリーがどうでもよさそうな口調で言う。
ネリー、お前が勉強得意じゃないのは、たぶんそういうとこだぞ。
「スルティア…、地下洞窟の主……。まさか…!」
天使アレクはいい反応をしてくれる。
うんうん。話しがいがあって楽しいね。
「フィリプは生涯誰にも洞窟の主のことを言わなかった。だからフィリプの住まいであるスルティア宮殿の地下に洞窟があることは誰も知らず、フィリプの死後に洞窟を訪れた者はいなかった。それでも、洞窟の主は今もずっとフィリプとの約束を守り続けているんだ」
オレの話にアレクは、やはりとか『学園の支配者』というのはつまりとか、ぶつぶつと考察を呟いている。
「今も? 洞窟の主は1000年以上生きてるの?」
そんなアレクを横目で見ながら、ネリーが質問をしてきた。
「長生きな種族なんだよ。そして現在、当時のスルティア宮殿はスルティア学園と呼ばれている」
ネリーの質問に答え、さらに情報を付け加える。
「えっ!? じゃあ、ここってもしかして…」
ここまで話してやっとネリーも分かったようだ。
オレは口角を上げた。
『ご主人様、待ちきれなかったようです。念のため切り札をお使いください』
『了解』
右肩の上に座るアカシャが、焦る様子はないものの早口で情報を伝えてくる。
オレは短く返事をして切り札を使い、アカシャが肩の上から体内に沈んで行くのを確認した。
これで相手の動きは全て把握できる。オレは安心してネリーの言葉に返した。
「うん。つまり地下洞窟ってのはここのことで、オレ達はフィリプ以来1000年ぶりの来訪者だ。そうだよな? スルティア」
前方に向かって確認するように声を投げかけると、そちらの方から洞窟の中であっても不自然に響く女性の声が返ってきた。
「そうじゃ! 貴様ぁ、知ってて今まで放置しとったな! 一発、殴らせろーー!!」
叫びながら、前方から凄まじい速さで『学園の支配者』スルティアが走り込んで来る。
軽く1000年以上生きながら、見た目は若い女性だ。肌は不健康そうな色をしつつも瑞々しく、20歳前後に見えるだろうか。
灰色に近い銀髪を腰まで伸ばし、黒を基調としたビジュアル系っぽい服を着た美女だ。
オレに向かって、右こぶしを引き絞っている。
良かった。何かの間違いでネリーかアレク狙いだったらちょっと面倒だったからな。
2人がオレを挟んで左右にいるのも好都合だ。
「くーらーえーぃ!!」
1000年放置された美女の怒りが詰まった渾身の右ストレートを完全に見切り、受け止めず、後ろに受け流した。
スルティアは凄まじい速さで突っ込んできただけあって、凄まじい速さで後ろに通りすぎていき、全力で右こぶしを振り切ったせいで崩れたバランスを支えきれずに盛大にこけた。
「う、受け止めてくれたっていいじゃろう?」
こけた体勢のまま、首だけこちらに向けたスルティアが恨みがましい目でオレを見る。
不死者であるスルティアは1000年放置されていたせいで、完全にめんどくさいヤツになっていた。
同情できる境遇だけに、オレはその様子にため息を付きながらも気にしないことにした。
「悪かったよ。でも、1000年放置したのはオレじゃない。仲間と一緒に迎えに来たんだ、スルティア。オレ達の仲間になってくれ」
こけたスルティアの元に歩いていき、助け起こすために手を差し伸べつつ、オレは本題を切り出した。