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第18話 レベル41

「さて、セイ・ワトスン。いくつか聞きたいことがある。質問に答えてもらえるかね?」



 目の前に座る学園長からの言葉を受けて、改めて学園長の後ろに立つ2人の男に軽く視線を向ける。


『真偽判定』持ちと『魔力可視化』持ち。


 全く、してやられたとしか言いようがない。


 どちらかならどうにでもなるが、そろうと誤魔化しきれない。


 両方を王家から借りるのも大変だったろうに。



「はい。学園長先生。僕に答えられることでしたら」



 学園長に笑顔を見せて答える。


 この状況でオレに取れる答え方の選択肢は大きく3つ。


 1つ目は、魔法を使った上で真実と嘘を交えながら自由に答える。


 2つ目は、魔法を使わずに真実と嘘を交えながら自由に答える。


 3つ目は、魔法を使わずに真実のみを答える。


 それぞれにメリットとデメリットがあるが、アカシャと相談して基本的には今回は3つ目でいく予定だ。


 オレに関する情報を取られてしまうのは少し痛いが、学園長の懸念けねんしていることは杞憂きゆうだ。


 オレに学園や国をどうこうする意思はない。


 こうなった以上この状況を利用して、上手いこと信用を得てしまおうというのが目標である。


 そう上手くいくかは分からないが。



「君は故意に力を隠していたね? 先日の討伐演習で君が見せた力は、とてもレベル9とは思えない力じゃった。入学試験でのレベルの申告はいつわりかね?」



 学園長はゆっくりとした穏やかな声で質問をしてきた。

 声とは裏腹に、その黒い目はギラギラと光っている。



「はい。レベルは偽りです。申し訳ありません」



 予定通り、真実を答える。



「ふむ。では、本当のレベルは?」



 学園長は真っ白な面白い口髭くちひげをいじりながら聞いてきた。


 これはできれば言いたくないことだったけど、無理に隠すほどでもないから仕方がないと思おう。



「レベル41です」



 入学試験のときからは2レベルだけ上がった。

 討伐演習やギルドでの狩りとは別に、日課としても魔物狩りでのレベル上げはしているのだが、それでも増えたレベルは2だけだ。


 アカシャに効率のいい狩場教えてもらってこれだからな。

 レベル上げは修羅の道である。


 大人しく真実を言ったオレだったが、前の3人は大きく目を見開き、学園長と『魔力可視化』のおじさんは『真偽判定』のおじさんに勢いよく振り返った。


 2人に穴があくほど見つめられた『真偽判定』のおじさんは、のどを絞り出すようにして声を出した。



「真実、のはずです」



 まるで疑うような声だった。


 ええ? 誤魔化すのをあきらめて真実を話したのに、それはそれで疑うのか?


 まぁ、別にいいけど。


 よほど想定外だったのだろうか、学園長は次に『魔力可視化』のおじさんへと振り返った。


『魔力可視化』のおじさんは学園長の視線を受けて、首を横に振る。


 学園長は少しの間そのまま固まっていたが、やがてオレの方に向き直った。



「すまぬ。少し取り乱した。実は後ろの2人は、君の発言が真実か嘘か見抜く能力を持っておるんじゃ。信じがたいが、レベル41というのは真実のようじゃな」


「呼び出しがかかったからには、そういう人達がいるだろうと思っていました。この期に及んで嘘は付かないつもりです」


「そうか…。レベル41というのは、ワシが知る限りこの国で3番目に高い。どうやって、その歳でそこまで…」



 学園長は言い淀んだ。さすがにそこまで聞いてもいいものかと思ったのだろうか。



「努力しました。果てしない量の魔物を狩っただけです。レベルは一朝一夕いっちょういっせきには上がりませんので」



 どんなにアカシャと魔法を駆使して効率的に行っても、不断の努力なしには絶対に到達できないレベルだ。

 学園長ならそれが分かるだろう。



「そうじゃな。そうじゃろうとも。レベル上げに近道はない。誰よりワシが分かっていたはずなのにな。先ほどの言葉は、君に対する侮辱ぶじょくじゃった。すまぬ」


「気にしませんよ。僕の歳でこのレベルが普通ではないのは分かりますし。本当のことを言って、騒ぎになるのが嫌だったんです」



 いや、努力なしには無理だけど、近道はあるんじゃないかな…。

 経験値効率のいい魔物を転移で狩りまくるのは近道だと思う。

 言わないけど。


 なぜか突然学園長が謝り始めたので、さりげなく嘘を付いた言い訳もしておく。

 言い訳ではあるが、もちろん嘘ではない。



「確かに、入学試験でレベル41と申告されていれば大騒ぎだったね」



『真偽判定』のおじさんが引きつった顔で、実感のこもった言葉を発した。



「うむ。ところで、『鑑定妨害』の能力スキルまで嘘ということはあるまいな?」



 来た。学園長の質問は、確実に来るだろうと予想された中で最も嫌な質問だ。

 レベルはバレても構わなかったが、アカシャの能力を正確に把握されるのは絶対にダメだ。



「はい。嘘ではありません」



 ここはアカシャと十分に答え方を考えた。

 余計なことは言わない。

『鑑定妨害』を使えるのは嘘ではないのだ。


 この後に質問が続かなければ大丈夫。



「他にも能力スキルを持っている、ということもないかの?」



 学園長は質問を続けた。

 ちっ。面倒だな。


『大賢者』は能力3つ持ちだからな。

 そういう可能性を考えたか。



『ご主人様の能力スキルわたくし1つだけです』


『なるほど。サンキュー、アカシャ!』



 アカシャからの念話で得られた答えを学園長に返す。



「僕の能力スキルは1つだけです」



 嘘ではない。アカシャという能力スキル1つで色々できるだけだ。


 学園長は後ろの2人の反応がないことを確認して、別の質問に移った。



「最後に、最も重要なことじゃが、君はこの国や学園に敵意や害意を持っているかね?」


「いいえ。敵意も害意もありませんし、むしろ繁栄してほしいと思っていますよ」



 これも本当にそう思っている。

 これを偽証ができないこの場で言うことが、今日の主旨しゅしでもある。

 敵意のないことの証明というのは、オレにもメリットだからな。


 国や学園の方がオレに敵意や害意を向けてくれば、話は別だけど。



「ではもし、()()()()()()()敵意や害意を持ったとすれば、どうする?」



 オレは学園長の言葉に目を丸くした。


 そこまで踏み込んでくるのか。

 それはさすがに厚顔無恥こうがんむちというヤツではないだろうか。



「大した害がないと思えば我慢するでしょう。でも、もし我慢出来ないほどの害がありそうなら、全力で抵抗します。誰だって似たようなものだと思いますが」



 答えた声が少し不機嫌になっているのを自分で感じた。


 学園長はどんな答えを求めてあの質問をしたのだろうか?


 敵意を持たれても抵抗するなとでも言いたいのか?



「それはそうじゃろうな。いや、すまんかった。質問は以上じゃ。帰ってよいぞ」



 学園長は丸まった面白い口髭を引っ張って、ほがらかに言った。


 最後の質問の意図はよく解らなかったな。

 後でアカシャを使って調べれば分かるだろうけど。


 いや、それよりも。



「学園長先生。僕が言うのもなんですが、嘘の申告をした罰則などはないのですか?」



 アカシャを使って事前に調べた情報でも、そのような打ち合わせなどは一切なかった。

 でも、いいのか? さすがにおとがめ無しで済まされることじゃないように思うけど。



「うむ。なしじゃ。本来何らかの罰則は与えるべきじゃろうが、君には学園の方でも迷惑かけとるからのぉ。我慢してもらっとる分、多少の贔屓ひいきは許されてもいいじゃろう」



 ああ、教頭のことか。やっぱり学園長は気付いてたんだな。

 こうなると、教頭の妨害はむしろありがたかったくらいだ。


 そう思っていると、学園長室のドアがコンコンとノックされた。



「来客のようじゃな。アポはなかったが…。"入ってよろしい"」



 学園長が独り言のように言う。

 最後の部分は魔法か。


 話も終わったし、来客なら入れ替わりに出ていこう。

 そう思ったところで、アカシャから突然念話が入った。



『ご主人様。新しい情報が入りました。空位だったダンジョンの出現場所と日程が決まりました』


『おお、ついにか!』



 最優先で伝えてくれと言っておいた情報だからな。

 今来るとは思わなかったが。



『ただ、日程がご主人様の楽しみにしておられた国際大会と被っております』


『ええ…? それは運が悪いな。ダンジョンは初日に発見されるとは限らないから、国際大会が終わってから攻略するかな…』



 思わぬ情報に夢中でアカシャと念話をしていたオレだったが、入ってきた来客者の言葉で現実に引き戻された。



「セイ・ワトスン…」



 来客者は教頭のシャイアン・セヨンだった。



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