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第17話 学園長からの呼び出し

「セイ・ワトスン、今日の授業が終わったら学園長室に行け。学園長がお呼びだ」



 討伐演習が終わって数日がった授業の終わり、担任のロベルト・ルブリョフはオレにそう言った。

 アカシャに聞いて知ってる。そういう予定になってたよね。


 討伐演習が終わって以来、色々なものが変わった。

 オレに対する周囲の反応の変化がほぼ全てではあるけど。


 ルブリョフの態度も変わった。

 前以上にオレを敵視しつつも、警戒と怯えの色も見えるようになった。

 今まで以上に目付きは悪く、より老けて見える。


 討伐演習は担任のルブリョフももちろん見ていたこと。

 オレ達のパーティーに付いていた心が折れてしまった教師はルブリョフの先輩で、そこそこ仲が良かったことなどが原因だろう。


 自分より実力のある先輩がつぶされたからか、今までのような露骨な平民いびりは今のところりをひそめている。



「学園長の呼び出しってなんだろうね? 討伐演習がかかわってそうではあるけど」



 ルブリョフが教室から出ていったのを確認して、一緒に座っていたアレクが疑問を口に出す。



「コイツの無茶苦茶ぶりなら仕方ないでしょ。私達なんて、魔力枯渇まで狩らされたんだし」



 同じく一緒に座って授業を受けていたネリーが、呆れたように言う。

 いやいや、ちょっと待て。



「失礼な。魔力枯渇の一歩前で止めて、身体強化と剣での物理狩りに変えただろ」



 オレはネリーに抗議した。

 魔力が足りなくて魔物を狩れないとレベルも上がらないからな。

 練習も兼ねて、2人には交互にGランクとFランクの魔物を剣で狩ってもらったのだ。



「アレにはドン引きだったの…」



 頭の上のベイラがため息をつくように言った。


 ええ? 2人とも嫌がってはいなかったし、そこに十分に余裕を持って倒せる魔物がいればレベル上げするだろう。普通。



『そこに十分に余裕を持って倒せる魔物がいれば、レベル上げをすべきなのです』



 ほらぁ。アカシャさんもおっしゃってるんだから、間違いない。



「でも、おかげでまた随分ずいぶんレベルが上がったよ」



 アレクが笑って言う。

 やはりアレクは天使!


 討伐演習でアレクも10レベルになった。

 ようこそ地獄へ。

 ここからは狩っても狩っても中々レベル上がらないぜ。



「アンタのレベル9って申請、絶対嘘でしょ。全然魔力切れる気配なかったし、私よりレベル低いわけないじゃない。どうやって真偽判定抜けたんだか」



 ネリーは不満げな顔だ。

 ああ、やっぱりそう思うよね。

 今日学園長に呼ばれたのも、その辺り突っ込まれる手筈てはずになっております。


 行くのやだなぁ。

 アカシャと散々考えたけど、今回ごまかすことに関しては詰んでるんだよね。


 とはいえ、行くのが最善という結論になったんだけど。


 アレクも、あっという声をあげた。

 君も気付いたかね。

 そういうことだ。



「まぁ、嘘だよね。学園長に呼ばれたのも、たぶんそれだ」



 オレは嘘を認めた。

 たぶんじゃないし、それだけじゃないけど。


 いずれバレる嘘を付いたんだ。仕方ない。

 こういう可能性も想定済みではある。





 中央棟の4階の1番奥に学園長室はある。


 放課後、オレは中央棟3階にある1年2軍の教室から正規ルートで学園長室に向かった。


『気まぐれな隠し通路』は最近オレが入るとあまりに目まぐるしく構造が変わるので、これぐらい距離が近いと正規ルートで行った方が早い。

 アカシャがいるから迷うことはないけどね。


 だが、今日は正規ルートを使ったせいで、3階から4階へと上がる階段の踊り場ですれ違った人物に絡まれてしまった。



「ん? お前は…。確か1年唯一の平民。セイ・ワトスンといったかしら。ずいぶん調子に乗っているようね」



 高圧的な口調。

 腰まで届く長く艶のある黒髪。第2王子のノバクとそっくりな、つり上がった緑の目。

 後ろにはお供が何人か。



「第1王女、ペトラ殿下でございますね。お初にお目にかかります」



 調子に乗っているとかの部分は無視して、とりあえず端に避けて道を譲り、深く頭を下げておく。

 ペトラ・ティエム・スルト。6年生で、次期生徒会長だ。


 ノバク王子と同じ、第1王妃の子供である。

 やはり選民意識の塊だ。



「どうやら、ずいぶん力を持っているようだけど。所詮しょせん()()()と同じいやしい平民。分をわきまえ、大人しくしていなさい」



 尊大な態度だ。

 でも、怒るほどのことでもないな。


 オレは反論も返事もせず、頭を下げたまま沈黙を選んだ。



「ふん。来年私が生徒会長になったら、もっと貴族が貴族らしく生きられる学園にしてあげるわ。楽しみにしていなさい」



 そう言って、ペトラ殿下はお供を引き連れて高笑いをしながら下に降りていった。



「いつも思うけど、何でぶっ飛ばさないの?」



 頭の上に座っていたベイラが腹を立てた様子で聞いてくる。


 いつも思うけど、妖精って戦闘民族なの?



「いやいや、あの程度なら実害ないから。ぶっ飛ばして面倒くさいことになる方が実害あるから」



 ベイラに突っ込みを入れるようにして説明する。


 実害があるなら、話は別だけどね。



『証拠が残らないように消せば、面倒くさいことにはなりません。いつでもサポートいたします』



 怖っ。

 アカシャが言うと確実にできるってことだろうから、余計に怖いよ。



『やらないやらない。どうしてもそれ以外に方法がなさそうな時は相談するよ』





 第1王女との初遭遇(そうぐう)の後は、特にトラブルもなく学園長室にたどり着いた。


 重厚な雰囲気のある茶色のドアをノックする。


 ややあって、ドアが独りでに開き中から声がした。



「セイ・ワトスンじゃな。ようこそ学園長室へ。中へ入りなさい」


『ドアは学園長の魔法です。罠などはございません。安心してお入りください』



 安心のアカシャのお墨付きも出たので、中に入る。


 初めて入る学園長室は、宮殿のように華やかなスルティア学園の中では質素と言えるくらい落ち着いた雰囲気だった。


 しかしよく見ると、それが質素なのではなく落ち着いた高級感なのだと分かる。

 黒と茶色を基調とした、シンプルながらも上品さと威厳を持つ部屋だった。



「1年2軍のセイ・ワトスンです。学園長がお呼びとお聞きして参上しました」



 執務机に座る学園長が目視できる位置まで入り、挨拶をする。



「うむ。そちらに座りなさい」



 学園長は執務机の前に並ぶ、応接用の高級感(あふ)れるふかふかな黒いソファーを手のひらで指し示した。


 オレがそちらに移動するのと同時に、学園長も立ち上がりオレの向かい側のソファーへと移動した。


 学園長の後ろに立っていた2人の男も移動し、学園長が座るソファーの後ろに立った。


 3人くらいは余裕で座れるソファーなんだから、座ればいいのにと思わなくもないが、雰囲気作りやら立場やら色々あるのだろう。

 何も言わないで2人の男の顔を見る。


 アカシャに聞いて事前に知っていたが、2人共見たことのある顔だ。


 神に愛された能力スキル『真偽判定』持ちと『魔力可視化』持ち。



「さて、セイ・ワトスン。いくつか聞きたいことがある。質問に答えてもらえるかね?」



 さすが、『賢者』ロジャー・フェイラー。

 この状況、魔法による偽証ぎしょうは不可能だ。




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