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第12話 ギルド訪問

「あんなものは! ただの、運です!!」



 教頭のシャイアン・セヨンが会議室の机を叩いて立ち上がった。

 大声を上げて急に立ち上がったせいか若干眼鏡がずれ、軽く息が上がっている。



「ふむ。じゃが、国際大会の代表を1軍からのみとするのは、オリエンテーリングで1軍の圧倒的優位性が示されたときのみという約束ではなかったかな?」



 学園長のロジャー・フェイラーは余裕のある表情と声で、面白い口髭をでながら話す。



「くっ…。全体としては1軍が優位でした。1軍の方が2軍より優れているのは明らかです」



 教頭は眼鏡の位置を調節しつつ、焦りを含んだ声を出した。



「そりゃそうじゃろ。入学試験でそうなるように選んだのじゃから。しかし、国際大会で勝つための資質が学力込みの入学試験で測った資質と同じとは限らん。だから、毎年2軍も含めた学年全体から選考しておるのじゃ」



 当然分かっとるはずじゃがと、含みを持たせた言い方をする学園長。



「ですが、あれは運です。資質ではありません。そうですわね。皆さん」



 教員の7割ほどは権力主義の人材で固められていることを盾に取り、教頭は多数派の意見としてゴリ押そうと試みる。



「そもそも、あれは本当に運じゃろうか? 索敵や罠の検知などに恐ろしくひいでた者がいたとすれば、あの結果は有り得る」



 学園長は職員室にいる教員全体に問いかけた。



「バカバカしい。私達教員にすら不可能なことが生徒に、ましてや身分の低い者ばかりのチームにできるわけがありません」



 教頭はピシャリと言った。



「まぁ、運だったかどうか判断するのは、次の選考を兼ねた演習のときでも遅くはない。大会の代表を1軍からのみ選考する話は保留とする。これは決定じゃ。よいな」



 学園長の決定に、教頭は全くよくないと言わんばかりの、今にも歯ぎしりをしそうな顔をしながらも、沈黙をもって了解の意を示した。





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『はは。荒れたなぁ、職員会議。学園長は教頭の不正に気付いてるだろうに、今回もスルーか』



 今日の放課後、オレはアカシャに職員会議の様子を見せてもらっていた。


 大方予想どおりの反応だ。

 ひとまず1位を取れば、大会の代表を1軍からのみとするのは一旦流れるだろうと思っていた。



『もっと分かりやすく力を見せつければ、運と言われることもなかったでしょう。これで良かったのですか?』



 確かにアカシャが言うように、運なんて言い訳の余地のない勝ち方をすることもできた。



『うん。一番やりたかったのはアレクの成長をうながすことだったからな。次回も教頭の不正はありそうだけど、それはそれで面白そうだし』



 昨日のオリエンテーリングで教頭は、権力主義の教員を使って上位になりそうだったオレ達を邪魔しようとしていた。


 教員が試練として立ちはだかるのは普通なのだが、特定のチームを狙って妨害するのは不正だ。


 オレはアカシャに聞いてそれを事前に知っていたので、教頭から見ればオレ達がミカエル達のチームに、ミカエル達のチームがオレ達のチームに見えるようにしておいた。


 視覚情報にまんまとだまされた教員はミカエル達を襲い、オレ達は悠々(ゆうゆう)と1位をとることができた。


 次回の演習でも似たような邪魔はしてくるだろうけど、それも含めて楽しみたいと思う。



「セイ、ここってアレクの部屋でしょ? 何しに来たの? 帽子被ってるから、外に出かけると思ってたの」



 肩の上のベイラがたずねてくる。

 職員会議の様子を見終わったオレは、アレクの部屋に来ていた。



「ベイラの予想どおり、外に出かけるよ。アレクも誘ってな」



 そうベイラに答え、アレクの部屋のドアをノックすると、中から使用人のお姉さんの声が聞こえた。


 名前を名乗ると少しだけ間が空いたあとにドアが開き、使用人さんが中に通してくれる。


 アレクの部屋は、オレと同じ部屋のはずなのに、さすが公爵家といった豪華さになっていた。

 使用人さんが日々頑張って手入れしているのだろう。



「やあ、セイ。放課後にどうしたんだい?」



 アレクは部屋の肘掛け椅子に座り本を読んでいたようだ。


 サファイアのような青い目がオレに向けられた。



「ギルド登録まだだろ? 一緒に行こうぜ。あと、レベル2になったアレクに教えたいことがあってね」



 学院生は必ず全員がギルド登録をすることになっている。

 いくつかの演習に必要だからだ。

 期日まではまだあるが、今日取りに行ってしまおうと思う。


 そして昨日レベル2になったアレクには、瞑想の話をしなければならないと思っていた。






「ネリー! 聞いてるかい? セイは凄いんだ! これは革命だよ! まさか、瞑想にこんな方法があったなんて!」



 アレクはさっきからずっとこの調子である。


 ギルドにはネリーも誘った。

 実はネリーは入学前からギルド登録をしているが、知らないふりをして誘いにいった。


 予想通りネリーは、すごい張り切って「私がギルドを案内してあげるわ!」ってドヤ顔で言ってくれたのだが、ネリーの自慢話はテンションが上がりに上がったアレクの話にかき消された。



「聞いてるわよ! でも、それ私にはできない! 瞑想で見える光の玉って、ほとんど全部同じ色じゃない。レベル1の時の光の玉の色なんて覚えてるわけないわ」



 ネリーはキレ気味にアレクにそう返す。


 アレクはレベル1が非常に長かったことと、能力スキルの恩恵もあって簡単に光の玉の色を見分けることができた。


 この方法で瞑想をすることが、教科書に載っている通常の瞑想方法に比べ、どれだけ効果が大きいかをアレクはすぐに理解し、以来オレを絶賛している。



「すげー大変だけど、ネリーが核魔力…レベル1の時の光の玉の色を覚える方法はある。今度教えるよ」



 魔力の玉が残り1個になるまで魔力を使ってから瞑想すればいい。

 瞑想で魔力が増えるのは魔力が満タンの時だけだから、覚える作業中は全く魔力は増えないけど。

 あと、途中で魔力が回復したら光の玉が増えたりするのも面倒だ。



「今度!? 今教えなさいよ!」


「無理なの! あの方法は町中まちなかでホイホイできるようなものじゃないの! あれは最悪に面倒くさいの!」




 3人+ベイラでワイワイ騒ぎながらギルドに向かっていると、街の向こうの方から学園の制服を着た集団がやってきた。


 とんがり帽子の星が4つ。4年生だ。



『第2王女、エレーナ・ティエム・スルトとその学友ですね』



 アカシャが教えてくれた。


 これは…。()()()偶然だな。



「あら? ウチの制服…。しかも1年生じゃない。ごきげんよう」



 集団の先頭にいた、黒髪をツインテールにした女の子が挨拶をしてくれた。



「こんにちは。お初にお目にかかります。エレーナ殿下。セイ・ワトスンと申します」



 2人が知らなかったときのために、最初に挨拶をする。


 やはり2人は知らなかったようで、少し慌ててオレに続いて挨拶をした。



「私のことを知ってたのね。私もあなた達のこと、少し知ってるわ。()()ミカエル・ナドルにオリエンテーリングで勝ったのでしょう?」



 試すような言い方をするエレーナ殿下。



「運が良かったのです。それに、ミカエルと直接対決したわけではありませんから」



 にっこりと笑って、実力で勝ったわけではないことをアピールしておく。



「ふーん。まぁ、いいわ。学園生なんだから、次から私のことはエレーナ先輩って呼んでいいわよ。行きましょう、みんな」



 そう言って、エレーナ先輩は学友を引き連れて去っていった。


 別れ際に、その学友の1人の、よく日焼けした少年がオレに少しだけ話しかけてきた。



「これ、渡しておく! 『商人会』ってのがあるんだ。良かったら来てくれ」



 それだけ話して、少年はオレにメモを渡してエレーナ先輩を追いかけていった。



『今のはクーン商会の会頭の息子、オリバー・クーンです。メモには"商人の子が集まる会"の日時が書かれております』



 メモを見るまでもなく、アカシャが全て教えてくれた。

 ウチのメイド秘書妖精は優秀すぎる。





「突然エレーナ殿下に会うなんて、びっくりしたよ。セイが気付いてくれて良かった」



 アレクは王族に対して失礼な態度をとらなくて済んだことでホッとしているようだ。



「あの人は、知らなくて不敬な態度とってしまったくらいなら許してくれそうだけどな。さ、ギルドに着いたぜ」



 ギルドは2階建ての木造の建物で、学園とは比べるべくもないが、周囲の建物よりは一際大きい。



「ふふ。あんた達、私に付いてきなさい! 案内してあげるわ!」



 ネリーは張り切って一番最初に両開きのドアを押して中に入っていった。


 アレクがどうすると言いたげにオレを見たので、お先にどうぞと促す。


 アレクが入っていったのを見届けて、オレは最後にギルドに入った。


 中に入ると、入ってすぐのところでアレクが固まっていて、その向こうでネリーがこちらを向いて腰に両手を当ててドヤ顔をしていた。


 入り口の両脇にはずらっと強面こわもての冒険者が列をなしていて、オレ達をにらみ付けている。


 先頭の、一番ネリーに近いところに並んでいるスキンヘッドの大男が最初に声を上げた。



「ネリーのあねさん、ちぃーっす!」



 他の並んでいる男達も続く。



「「「姐さん、ちぃーっす!!」」」



 そして両脇に並んでいた全員が最敬礼をした。



「なに、これ?」



 アレクが呆然として呟く。


 オレは知っていたが、生でこの光景を見て満足した。


 このためにネリーを連れてきたのだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] その面白いがいつ不快に変わるか楽しみだね…あの時、俺が面白がらないでとかほざきそうだな
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