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第4話 入学試験 3

みなさまのおかげで、祝5万アクセス達成です!

ありがとうございます。



 中央棟の裏手には広大な学園の敷地がある。


 筆記試験を終えたオレは、その中にある施設の1つである魔法演習場の観覧席でワトスンさんとベイラと合流していた。



「控え室では参ったよ。懇意こんいにしてる貴族の方々と一緒だったにも関わらず、質問攻めだった」



 ワトスンさんは、オレを待っている間の控え室での様子を困ったように話してくれた。



「あたちは、余計なことは言ってないの!」



 ベイラはオレの頭の上で、自分は悪いことをしていないアピールをする。

 うん。そうかもしれないけど、ベイラがいる時点で目立つのはしょうがない。



「妖精が人間と一緒にいるのは珍しいからね。どうしても目立っちゃうな。ごめんね、ワトスンさん」



 連れてきておいてワトスンさんに押し付ける形になってしまったことを謝る。



「いいさ。セイくんには返しきれない恩があるからね」



 ワトスンさんが笑う。

 そういえば、元々は学園入学のためにワトスンさんと組んだんだったな。

 もうあれから6年くらいになるのか。



「あ! セイ! あの子面白そうなの!」



 オレの頭の上から身を乗り出すようにして、ベイラが声を上げた。


 円形闘技場のような構造をした魔法演習場の中央のアリーナには、魔法試験の次の受験生が登場したところだった。


 ベイラに限らず、観覧席にいる者がざわついている。


 あれは確か…。



「ミカエル・ナドル。炎のナドル家の神童って言われてる男の子だな。まだ魔法も使ってないのに、よくあの子が面白そうって分かったな」



 元々知ってるオレや他の観客と違って、ベイラはあの子がすごいって前情報はないのにと、オレは感心した。



「何となく、すごく自信がありそうに見えたの!」



 ベイラは無邪気な感じに言って、胸を張る。



「彼が噂の大賢者の曾孫ひまごか。神に愛されているという…」



 ワトスンさんがごくりと唾を飲む。


 圧倒的魔法チートである大賢者ほどではないけど、ミカエル・ナドルも魔法チートと言える能力スキルを持っている。


 とはいえ、両者とも能力に胡座あぐらをかくことのない努力の人であることが最もすごいところだとオレは思う。



「あちらの打ち込み台に魔法を放ってください。やり直しは3回まで認めますが、当然やり直しがない方が評価は高くなります」



 試験官のお兄さんの声が聞こえる。


 打ち込み台という、人っぽい形に見えなくもない金属の塊に魔法を当てる試験だ。


 距離は30メートルくらい。


 魔法の正確性や威力などを評価される試験になる。



「分かった。全力で構わないのだな?」



 9歳とは思えないような凛々(りり)しい声。

 この世界の子供はみんな凄く早熟だと思うけど、その中でも群を抜いているように感じる。


 白っぽい金髪。黒の目。ほおに火傷のあとのあるミカエルは、試験官に対して堂々とした態度だ。


 3つの臣民公爵家の1つだからってのもあるか。


 試験官はミカエルの言葉にうなずいた。


 全力ってことは、さっそく見られるんだろうか?


 ミカエルは目を閉じ、ズボンのポケットからサングラスを出して掛けた。


 このサングラスは貴族なら誰もが常備している。

 目の魔法陣を見られないためだ。


 どれだけの魔法陣を知っているか、また知っている物がどれだけ真理に近い正確な魔法陣かというのは貴族のステータスであり、門外不出らしい。


 初めてサングラスを掛ける貴族を見たときに少し笑ってしまったのは内緒だ。

 ベイラは腹を抱えて笑っていたので、結局(にら)まれてしまったが。


 まぁ、サングラスの話はどうでもいいか。

 今はミカエルが期待に応えてくれるかが楽しみだ。



「"炎纏ほのおまとい"」



 ミカエルの"宣誓"が聞こえ、彼の全身を炎が包んでいく。

 まるで炎の服を纏っているようだ。

 あざやかなオレンジ色の炎がミカエルを包み、揺らめいている。



「すげえ」



 オレは思わずつぶやいた。


 観覧席の他の人達も、思わず立ち上がった人が何人もいる。



「なに言ってるの。セイだって"まとい"はできるじゃない」



 オレの呟きを聞き取ったベイラが、小声で突っ込んでくる。



「アイツのすごいところはな、練習も含め"炎纏"しかやったことがないってとこなんだよ」



 オレも小声で返す。

 もし、オレ達の会話を聞き取ってるヤツがいれば、アカシャが注意をしてくれるだろう。


 炎のナドル家と言われるだけあり、ナドル家は炎魔法に並々ならぬこだわりがあるらしい。

 常に炎魔法の研究をしている上に、水と氷の魔法を覚えないのが一族の慣習になっているのだとか。


 そういうわけで、ナドル家では纏の練習も炎魔法で行われるのだが…。



「えっ、なにそれ? 頭おかしいの?」



 ベイラが辛辣しんらつな言葉で感想を言った。

 まぁ、気持ちは分かる。


 纏の練習を炎でやるのは危険すぎる。失敗すれば全身やけどだ。

 死ぬ可能性すらある。

 実際、ナドル家では纏の練習で亡くなった人が歴史上何人もいる。


 最近纏の練習をしているベイラだから、その危険性はよく分かっているだろう。


 纏の練習は致死率ちしりつの低い魔法でやるべきなのだ。

 オレも纏の練習は水でやった。



「それがナドル家の覚悟だ。炎纏に特化するなら、確かに最も効率はいいかもしれない。格好いいと思わないか?」



 例え危険だとしても、炎魔法を極めるために妥協はしない。

 オレにはできない。だからこそ憧れる。


 うーん。友達になりたい。



「思わないの。あたちは、命をかけるのは何かを守るときが格好いいと思うの」



 そうか。ベイラは女の子だからな。

 男のロマン的なヤツは分からないか。


 とはいえ、オレもどっちかと言えばベイラ寄りだけどね。



「僕は格好いいと思うよ!」



 ワトスンさんもひそひそ話に加わってきた。

 青の目をミカエル・ナドルに向けてキラキラ輝かせている。

 男のロマンに魅せられたようだな。



「ミカエルの頬に火傷があるのが見えるかい? あれ、最初は全身あんな感じだったんだ」



 オレの言葉にワトスンさんが神妙な面持ちでうなずく。

 ベイラは頭の上で、うへぇといった声をあげた。



「ミカエルは7歳の時にある程度の火傷を負いながらも纏を形にした。今も完全ではないけど、あの頬の火傷を一切負わなくなったときが彼の纏の完成のときだよ」


『そうだよな? アカシャ』


『はい。ですが、今日も完成にはいたらなかったようですね』



 アカシャのおかげで、オレは解説者気分である。


 ミカエルは、たぶん自分でも無意識に炎魔法の出力を少し低くして纏を使っている。

 完全に無傷で纏を使えるようになれば、意識して炎纏の出力をさらに上げることもできるはずだ。



「すごいねぇ。あっ! 見て! 撃つよ!」



 ワトスンさん、まるでお祭りの花火を見ているかのようにはしゃいでるなぁ。

 よく考えると、ワトスンさんは纏とか攻撃魔法を見るのって今日が初めてか?


 ミカエルは腰を落として、両手で荷物を小脇に抱えるようにして火の球を凝縮していた。

 ミカエルの全身に揺らめく炎が次から次へと火の球に吸い込まれていく。

 "限定"だな。


 ちょっと構えが違うけど、炎版かめ○め波かと思っちゃっうな。


 オレはあつそうと思っていつも頭の上に火球かきゅうを浮かべてるけど、冷静に考えてみるとコントロールできてる自分の魔法ならどこに溜めても熱くないのだ。


 あんな溜め方も格好よくていいね。



「"インフェルノウェイブ"!!」



 ミカエルが高らかに"宣誓"をして、手を前に突き出して魔法を放つ。


 "限定"と"宣誓"と"纏"、そしてさらに彼の能力スキルである『魔法強化』によって超強化された魔法だ。


 濃いオレンジの凝縮されたような炎が、突き出した手を起点にレーザーのように射出された。


 打ち込み台は一瞬で蒸発し、それでも炎の勢いは全く衰える様子なく射線を蹂躙していく。


 観覧席にすら多少の熱風が届くほどだ。



『ボズにすら多少のダメージが入るほどの威力ですね。全魔力を使用してしまっていますが』



 アカシャがいつもの抑揚のない声で淡々と解説してくれる。


 おお。あの頃のオレと比べてもかなり魔力量は少ないのに、この威力。


 やっぱり、神に愛された者の能力スキルは上手く組み合わせるとスゲーことになるな。



「し、神童って言われるだけのことはあるの…」



 ベイラが恐れおののくようにつぶやいた。


 打ち込み台どころか、ミカエルの正面が数百メートルにわたってえぐれ、消失している。


 円形の魔法演習場が扇形おうぎがたになっちまったな。


 試験官のお兄さんも全力でいいとは言ったものの、結果を見て慌てふためいている。


 観覧席もざわめきが収まらない。


 パチ、パチ、パチ。


 ざわめきの中で、一際大きな拍手がなり響いた。



「素晴らしい! ふはははは! さすがは神童ミカエル・ナドルだ」



 第2王子、ノバク・ティエム・スルト。

 やや長めの艶々(つやつや)した黒髪に、つり上がった緑の目をした顔の整った男の子で、同年代にしては背が高い。


 観覧席の一番上で拍手をしながら、ミカエルを誉め称えている。


 さっきまではいなかったと思うけど、いつの間にか来てたのか。



「力のある貴族が我が臣下にいること、非常に喜ばしく思う」



 ノバクはよく通る声で話しながら、階段を降りてくる。

 後ろにはノバクの腰巾着っぽい、受験生と思われる男の子が2人付いてきた。


 ノバクの通るところの近くにる者達がひざまずいていく。


 こちらの方に降りてきたので、オレとワトスンさんもひざまずいた。



「願わくば、この学園の生徒が君のような貴族であふれて欲しいものだ」



 ノバクはオレ達のいる一番前の席まで来て、手すりに触れながらミカエルに声をかけた。



『ご主人様、お避けください。おそらく飲み物をかけられると予測します』



 アカシャが淡々と告げてきた。


 ほう。そういえば、鼠顔ねずみがおをした腰巾着の片方が、手にコップを持ってたな。


 ひざまずくオレの前に、鼠顔の男の子と思われる足がやって来て、止まった。


 ベイラが頭から飛び立つのを感じる。



「分かったか? 殿下は、貴族でないものはこの学園にいらないって言ったんだ」



 鼠顔のキンキン声が聞こえると同時に、オレの頭に液体がかけられた。



「セイ!?」


『ご主人様!?』



 当然オレが避けるだろうと予測していたのだろう。

 ベイラとアカシャの驚愕の声が聞こえた。


 まぁまぁ、いいじゃないか。飲み物かけられるくらい。

 魔法で一瞬で綺麗にできるんだし。



「アンタいきなり何すんのよ!」



 ベイラが鼠顔に食って掛かる。



「ベイラ。いいから! めろ」



 ベイラに強めに言って止める。



『殺しますか?』



 アカシャさんが怒ってらっしゃる。


 殺さないよ!


 まったく、2人ともこれぐらいのことでおこりすぎだよ。

 オレのために怒ってくれるのは嬉しいけどさ。



 何のためにオレがボズと戦ってから4年間、必死になって鍛え続けてきたと思ってるんだ。


 オレは笑った。




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― 新着の感想 ―
[一言] 何のためにオレがボズと戦ってから4年間、必死になって鍛え続けてきたと思ってるんだ。 オレは笑った 顔にかけられて、笑うということは、かけてきたものをあざ笑っていることになるよね。痛烈にかけ…
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