第5話 魔力を育てるのは大変だ
2020/8/10 改稿しました
真っ暗な中に、淡い緑色の光の玉が見える。
それをひたすら見つめ続ける。
ずっとそうしていると、その緑色の玉が、ほんの少し大きくなったような気がしてくる。
いや、正確にはちゃんと大きくなっているらしいし、実際初めて見たときより明らかに大きいのだ。
ただ、今日1日くらいだと気のせいかなと思えるくらいの変化しかない。
この緑色の玉、すなわちオレの魔力を育てる作業は、どれだけ頑張ってハサミを入れてもミリ以下の単位でしか変化が起こらない盆栽を育てているような気分である。
盆栽育てたことないから知らんけど。
気分の話ね。そういうイメージ。
しかもこの盆栽、見ている間しか育たない上に、見ている間の集中力が足りなくても育たない。
かなりの苦行だったが、最近やっと一定の集中力を保ったまま他のことを考えるような余裕が出てきた。
もしかすると、悟り開いちゃったかもしれない。
『1時間経過しました。ご主人様』
『よし、終わりだーっ!』
アカシャの平坦ではあるが愛くるしい声が聞こえたので、目を開ける。
今日の最低限のノルマは終了だ。
赤ちゃん用ベッドの上で座った状態でやっていた瞑想の体勢を解き、んーっと伸びをする。
別に寝た状態でやってもいいんだけど、寝ちゃうといけないし集中しづらいんだよね。
ちなみに、これをやってる時、家族からは座ったまま寝てると思われてる。
今日も座ったまま寝ちゃうセイちゃん可愛い。というようになっているのは不本意ではあるが、毎日瞑想している悟り0歳児と思われるより遥かにマシだろう。
『なぁ、アカシャ。今のオレの魔力ってどれくらい育ったんだ? もうこの国でも有数の魔力量だったりする?』
オレの頭の上に座っているらしいアカシャに、気になっていたことを、ちょっと自信をのぞかせつつ聞いてみる。
生まれて10ヶ月。アカシャの教育が始まってから毎日欠かさずやってきたのだ。
すでにかなりのものになっているだろう。
魔力を鍛える訓練は、驚くほど増えている実感が湧かない。答えを知っていたオレですら最初は不安に思ったくらいだ。
増える確信を持てない中コツコツ毎日やれる人は相当限られるに違いない。
『現在のご主人様の魔力量は、一般的な成人より少し多いくらいといったところです』
『え? 嘘だろ?』
アカシャの、感情を感じられない平坦で冷徹な声を聞いてオレは驚愕した。
想像よりずっと少なかったからだ。
思わず上を向いてしまったが、頭の上のアカシャがずり落ちたりする様子はない。
重さがないからかな? 聞いてみれば教えてもらえるだろうけど。
『嘘ではありません。私がご主人様に嘘を言えないのは、ご主人様が一番よく知っているでしょう』
アカシャが平坦な声で諭すように言う。
情報を知るためのスキルが嘘を言えたら意味がない。
アカシャの言うことは、予測を除けば全て確実に正しい。他ならぬ神様がそう創ってくれた。
もちろんオレはそれをよく知っている。
それでも…
『それはそうだけどさぁ。アカシャが最高の効率で鍛えてくれてるんだ。さすがにもうちょっと凄いことになってると思ってたんだよ。だから、ちょっと驚いちゃってさ…』
アカシャに言い訳とも愚痴ともつかないことを言う。
想像よりもずっと現実は厳しかった。
アカシャがいれば人生ヌルゲーと思っていたオレの努力は大したことなく、気づかぬうちに舐めきっていたこの世界の住人は上を見ればキリが無さそうだ。
考えてみると、10ヶ月以上毎日コツコツ努力してる人なんていくらでもいるよな。
努力を怠らず、調子に乗らないようにしようって思っていたのに、赤ん坊のうちからやっちまった。
反省して、もっと頑張ろう…。
頭の中で反省をしていると、目の前に銀色の鱗粉のようなものが舞った。
綺麗だ…。
幻想的な光景に目を奪われているうちに、その鱗粉を撒いた主は、胡座をかいたオレの足の上に降り立った。
『いずれ凄いことになれば良いではないですか。現状ではこんなものというだけのことです』
オレと向き合ったアカシャは、何となく優しい気がする平坦な声でそう言ってくれた。
まぁ、表情は全く変わってない気がするけど。
『そうか。そうだよな…』
アカシャからの励ましで、力が湧いてくる。
『ところでご主人様、もう魔力の色は完全に覚えましたか?』
突然話が変わったな。
まぁ、当然覚えている。淡い緑色だ。
『アカシャに絶対に覚えろって言われてたからな。そうでなくとも10ヶ月毎日集中して見つめてきたんだ。たまに夢にも出てくるよ』
初めて夢に出てきたときは、精神的にヤバいんじゃないかと思ったものだ。
言葉にはしづらいが、何ならどんな淡い緑色かも言えると思う。
『よろしい。そろそろ頃合いですね』
『頃合い?』
何の? そういう意味を込めて聞いてみた。
『レベルを上げ始めてもよい時期です』
アカシャの言葉に、なるほどと思う。
そういえば、ゲームのRPGみたいな世界なだけあって、レベルがあったんだったな。
忘れてたわけではないけれど、アカシャから時期を見てって言われてたから気にしてなかった。
ついにレベル上げか。モンスターを倒すという危険を冒すとはいえ、ワクワクするな。
でもまぁ、その前に。
オレは目を瞑って、集中を始める。
やぁ、さっきぶり。淡い緑の玉。
『おや、今日はもう一度瞑想ですか?』
何となく面白がっているような、アカシャの平坦な声が聞こえる。
『ああ。今日からもっと頑張ることにしたんだ』
オレは目を瞑ったまま、口角を上げてそう答えた。
やれることは全部やる。
この世界で面白おかしく過ごしたいからな。