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第2話 入学試験 1

 いよいよこの日が来た。


 今日はスルティア学園の入学試験だ。


 準備は完璧だし、アカシャから事前に聞いた情報もバッチリ頭に入ってる。

 ま、アカシャからの情報はリアルタイムで手に入れてもいいんだけど、念のためね。


 そんな感じで張り切ってやってきたオレだったが、どうしてこうなった…。


 いや、原因は明らかすぎるのだが。




 王都の東に位置するスルティア学園。

 その入り口である銀色に輝く格子門の前で、オレはさっそく貴族の男の子に絡まれていた。



「申し訳ありません。彼女もこう言っておりますので。彼女は私の持ち物ではなく、友人なのです。おゆずりすることはできかねます」



 オレは貴族用の丁寧な言葉で断り、頭を下げた。



 今日、オレはワトスンさんとベイラと、徒歩でスルティア学園に向かっていた。

 門まで来たところ、たまたま一緒になった貴族に、頭に人形を乗せているとバカにされた。


 そうしたら、頭に乗っていたベイラが人形ではなく妖精だと反論した。


 すると、人間の前にはめったに姿を現さない妖精を連れていることに驚いた貴族の子が、ベイラを寄越せと言い始めた。


 そして今に至る…。



『だから、この妖精を連れてくるのはお止めくださいと申し上げたのです』



 アカシャの抑揚のない冷たい念話が聞こえる。

 ため息もついた。

 いつになく感情たっぷりじゃんよ、アカシャさん…。



「だから、ベイラちゃんを連れてくるのは止めた方がいいって言ったのに…」



 右手で額を抑え、項垂うなだれた様子のワトスンさんが、ほら見たことかと言わんばかりの感情のたっぷりこもった恨み節を言った。


 いや、オレも目立つから付いてくるのは止めてって言ったよ?

 無理やり付いてきたのはベイラだから。


 まぁ、力ずくでも絶対に連れてこないってことをしなかったのはオレだけども…。



「その服、貴族ではないだろう。貴族である僕の命令が聞けないと言うのか?」



 暗い金髪のキツネ顔の男の子が無茶を言ってくる。


 この国の、いやこの世界の貴族ははっきりとそれと分かる服を着ている。

 地球ではどうだったかはよく知らないけど、貴族が貴族っぽい服を着ていることもあったのは知ってる。


 オレが写真で見たことのある地球の貴族の服と、この世界の貴族の服はかなり違った。


 この世界の貴族の服は、地球で言うと軍服に近いのではと思われる。

 曖昧なのは、オレが地球の軍服をあまりよく知らないからだ。


 語彙は終わってるが、学ランをすげー格好良くした感じのヤツ。それがオレの軍服のイメージなわけだが、この世界の貴族はそんなのを着ている。


 ちなみに、商人のオレはこういう公式の場ではスーツっぽい服を着る。

 今日のオレのスーツは、ワトスンさんとお揃いの茶色のスーツだ。


 どうでもいいけど、目の前の男の子が着てる軍服っぽい貴族服は黒だ。



「セイ、なんなのコイツ。やっちゃえば?」



 ベイラが余計なことを言う。



「やっちゃわないよ。お前あんまり余計なこと言うなら強制的に帰らすからな」



 ひそひそ声でベイラに釘を指しておく。



「申し訳ありません。先ほど息子も申し上げた通り、この妖精は私共(わたくしども)の所有物ではないのです。お詫びの品を御用意いたしますので、お許しいただけませんか?」



 ワトスンさんが男の子の父親と思われる貴族に謝罪と提案をした。

 大人同士の話し合いで何とかするつもりか。

 気を使わせてしまったな。



「ふむ。良かろう。アンドレ、ここは抑えなさい。商人と見受けるが、名前を聞いておこうか」



 恰幅かっぷくのいい、息子と同じ暗い金髪でキツネ顔に口髭を生やした貴族がワトスンさんに名前を聞いた。

 隣でアンドレくんがごちゃごちゃ言ってるけど、誰も気にしない。



「ワトスングループ会長を務めております、ジョージ・ワトスンと申します。こちらは息子のセイ。以後お見知りおきを。カンドレ・ガビッチきょう



 ワトスンさんはこの貴族のことを知っていたらしい。

 オレはアカシャに聞かなかったから知らなかった。



「ワ、ワトスングループ…。そうか。よく覚えておこう。行くぞアンドレ」



 カンドレさんはワトスングループのことを知っていたのだろう。名前を聞いてたじろいだ感じがする。


 馬車で来なかった貴族だからな。男爵家か子爵家だろう。

 ワトスングループはもはや王都でトップと言っても過言ではない。

 貴族でも敵対すればタダでは済まないからね。


 アンドレくんはまだ何か言っていたけれど、カンドレさんに連れられて銀の格子門をくぐって行った。



「ありがとう、ワトスンさん。気を使わせちゃってごめん」



 言ったからには、後でワトスンさんはガビッチ家にお詫びの品を届けることだろう。

 申し訳ないことをした。



「いいさ。こちらの財力を見せつけるいい機会だし、これを機にウチと取引してくれるかもしれないしね」



 ワトスンさんは優男スマイルでウインクをした。

 はぁ、さすが商人。転んでもタダでは起きないってか。



「なんでアンタ達が頭を下げたのか、あたちには理解できなかったの! でも、結構刺激的で面白かったの!」



 ベイラは全く反省していないようだ。



「貴族ってのは、あんな感じのヤツも多いんだよ。覚えておいてくれ。オレの力をバラすようなことと、お前が手を出すのは絶対にダメだからな」



 "絶対"と念押ししたときは、破ればお仕置きというのはベイラとの間での約束だ。

 頭の上でブンブン首を縦に振ってるっぽいベイラを感じる。



『やはり、この駄妖精だようせいは置いていくべきでは…』



 左肩に座っているアカシャが、辛辣しんらつな言葉を放つ。


 アカシャは自分と似ている妖精だからか、ベイラへの当たりが厳しい。

 少しずつ感情を理解してきてるようで、まぁ今までのアカシャのことを考えると、いい傾向と言えなくもない。



『いいさ。アカシャと違っていなくても困らないヤツだけどな。トラブルを楽しむのも、また一興いっきょうってことだ』



 ベイラを連れてくれば遅かれ早かれこういう事態になるとは思ってた。

 それでも絶対に付いてくるなと言わなかったのは、つまりそういうことだ。



「さ、僕らも行こう。ベイラちゃんは、できるだけ貴族と話さないように頼むよ」



 ワトスンさんに促されて、オレ達も銀の門をくぐった。


 後にもどんどん、人や馬車が銀の門を通過していく。

 次の楽しみはどんなことかな。





「鑑定、不可です…。まさか本当に…」



 オレを鑑定した受付のお姉さんが、ためらい気味にそう言った。

 現在オレ達はまるで宮殿のような学園の中央棟の入り口で受付をしていた。

 このお姉さんは鑑定スキル持ちで、受験生の鑑定をしてその内容を記載する役目をになっている。


 受験生の詳細な名簿を作る係ってことだな。

 替え玉受験などの不正もこれで防がれる仕組みだ。


 が、まれにオレのように鑑定できない人物がいる。



「セイ・ワトスン。書類選考の際、()()()()()()()()()と書いてあったな。君は神に愛された者か?」



 もう1人の受付のおじさんがオレに対して質問をしてくる。

 この人は真偽判定スキル持ちだ。受験生には知らされてないけどね。



「はい。生まれた時から、そういうスキルを持っています」



 嘘じゃない。鑑定妨害しかできないわけじゃないけど。

 鑑定はアカシャの完全下位互換のスキルだ。

 というか、情報系のスキルほぼ全てがアカシャの完全下位互換だな。



「うむ。であれば、この書類を信じるしかあるまい。レベルは9ということで、この歳にしてはずいぶん高いが、間違いはないかな?」



 真偽判定のおじさんがさりげなく書類の項目の確認をしてくる。


 信じるしかあるまいとか言いながら、よくやるわ。


 一拍いっぱくおいて、オレは答えた。



「はい。間違いありません」



 完全な嘘だ。


 でも、消音魔法で嘘を聞こえないようにして、口の動きに合わせて同じ音声を音魔法で流した。

 これで真偽判定には引っかからない。


 当然、眼球の魔法陣も透明化の魔法で消してある。


 オレの今のレベルは39。


 10レベル以降は圧倒的にレベルが上がりづらくなるのに、よくここまで上げたと思う。

 転移を覚えてからはほぼ毎日、MMORPGのレベル上げのごとくモンスターを倒しまくってるからな。


 これでもまだ大賢者はおろかボズのレベルにも到達してないんだから、年季を入れるってのは大事だなと思う。


 ちなみに、お姉さんの鑑定スキルでは、自分よりレベルが上の者は鑑定できない。

 お姉さんのレベルは26なので、結局オレの鑑定は不可能だ。



「よろしい。受付はこれで終わりだ。入りなさい。この後、魔法の実技試験もあるが、頭の上の妖精の力を借りてはいけないよ」



 真偽判定のおじさんは逐一ちくいち罠を仕掛けてくるね。



「はい。もちろんです」



 オレはいい笑顔で答えた。


 大丈夫。心配しなくてもベイラの力は借りないし、なんなら手も抜くよ。



 オレ達は受付を離れ、中央棟の入り口である豪華な扉へと向かった。


 レベルのこと以外は、特に気になるようなことは聞かれなかったな。



 それより気になったのは、オレ達のすぐ後ろに並んでいた、燃えるような真っ赤な髪のベリーショートの女の子。


 ちらりと見たとき、オレと似たようなちょっと薄めの茶色の目に浮かんでいたのは、憎悪か、嫉妬しっと? そんな感情でこちらを見ていた気がする。


 貴族なのに、家族も供も付けずに一人で来ていた。


 あれは確か、ネリー・トンプソン。

 オレが事前に目を付けていた面白そうな受験生の1人。


 アカシャにもう少し詳しく聞いてみるか。



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― 新着の感想 ―
[一言]  「言ったからには、後でワトスンさんはガビッチ家にお詫びの品を届けることだろう。」 貴族って言っても、ゆすり、たかりが屯しているんだ。
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