第51話 周囲の反応
今回初めての人名が同時にいくつも出てきますが、現状で無理に覚えなくて大丈夫です。
重要キャラは今後も何度も出てきますので。
スルト国の王城。
その会議室の円卓には、スルト国王ファビオ・ティエム・スルトによって、国の重鎮が集められていた。
「我々が一堂に会するというのは、何かよほどのことが起こったのですかな」
王都スルティアの最高学府であるスルティア学園。
その学園長である、『賢者』ロジャー・フェイラーが円卓に着いたメンバーを見て話す。
このメンバーが集まるということは、国を揺るがすほどの情報を共有したいということだろう。
「まさか、新しいダンジョンの位置が掴めたのですか? それならば、ぜひ我が第一騎士団にお命じ下さい」
「いや。新ダンジョン探索の際には、ぜひ我が第一魔法士団に!」
軍の要である第一騎士団と第一魔法士団の長が、それぞれ王にアピールする。
一週間ほど前、攻略不可能とまで言われた未踏破ダンジョン、『罠のダンジョン』が解放された。
世界は蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
未踏破ダンジョン制覇も大きすぎるニュースではある。
しかし、ダンジョン解放はそのはるか上を行くビッグニュースだった。
ダンジョンは資源になる可能性があり、発見された場所は繁栄が約束された土地となる可能性がある。
もし、新たなダンジョンがどこの国も領有していない場所に現れた時のため、世界の国々は入念な準備を行っている。
どんなに飛び地になっても領有する価値があるからだ。
多くの国が血眼になって探し、最初に辿り着いて領有権を主張することを夢見ている。
しかし、張り切る家臣に対し、王は未だ沈黙を守っている。
「それとも、ついにヘニル国が動いたのかのぉ?」
腕を組んで目を瞑り、まるで居眠りしているかのように見えた『大賢者』ラファエル・ナドルが、片目を空けてゆっくりと喋る。
全員の胡乱げな視線が大賢者に集まる。
今までちゃんと聞いてたのかよ妖怪爺という言葉が聞こえてくるようだ。
とはいえ、大賢者が言うことは大いに有り得そうな事態だ。
数年前からスルト国は、隣国ヘニルが攻め込んでくると予測して秘密裏に戦争の準備を始めていた。
再び王に視線が集まる。
しかし、王が発した言葉は、この場の誰もが予想していなかったものだった。
「ボズが消えた…」
王は、ほとほと困ったといった様子で用件を述べた。
「「「…は!?」」」
「ボズとは、あのボズですか? あの、盗賊の?」
数人が言葉を失い、第一魔法士団長が信じられないといった面持ちで確認をとる。
「うむ。あのボズで間違いない。宰相、詳しく説明せよ」
王が肯定する。
ざわつく会議室。
「約2週間ほど前を最後に、監視がボズ盗賊団を見失いました。すぐに増員を派遣し、今も調査しておりますが、全く痕跡が見つかっていない状況です」
「く、国の一大事ではないですか!!」
第一魔法士団長が立ち上がって叫ぶ。
「監視は何をしてやがった! 見失いましたで済まされる相手じゃねぇぞ!」
スルト国のギルド長である、筋骨隆々のスキンヘッドの男、シュウが円卓に拳を叩きつけた。
頑丈な木材を使っているはずの円卓が、ミシリと音を立ててヘコみを作る。
「監視といっても、四六時中見ているわけではないのです。移動中の監視は不可能でした。移動の形跡を追って、襲われた村の被害を確認し救済しつつ、立ち寄った町でのみ監視をしていたのです」
宰相がさらなる説明を行う。
「移動の形跡を追って、どの村に着いたんだい?」
これまで沈黙を保っていた第一王子ミロシュ・ティエム・スルトが宰相に尋ねる。
彼はある理由で政治から一線を退いていたが、現在成人している唯一の王子ということで一応この円卓に参加していた。
「それが、移動の形跡自体がないのです…」
宰相は困惑気味に、監視が見失った最大の理由を述べる。
「わざわざ痕跡を消しながら移動してると? まさか、王都に乗り込んで来るつもりでしょうか?」
第一騎士団長が思い付いた想像を口にする。
「あれでボズは臆病な男だ。大賢者がいる限り、王都には絶対に近付かん」
王は断言する。
「だからこそ、ある程度の被害は目を瞑り、監視に留める形をとっておったのじゃ」
学園長もそれを知っていた。大賢者は王都から動かせない。動かして万が一があったときには国が滅ぶ可能性がある。
ボズ盗賊団に襲われる村を見てみぬふりをするのは苦肉の策だった。
「近隣の村で被害が出始めれば、また所在が掴めるのでは? もしくは、他国に渡った可能性もあるのではないかな?」
第一王子が自分の考えを述べる。
「それならば良いのだ。それならば…。だが、余は別の可能性があると思っておる」
王が恐る恐る言葉を紡いでいく。
「別の可能性?」
第一王子が聞き返す。
思い当たるところがなかったのだろう。
「ボズが何者かに始末された可能性だ」
王は全員に向かってはっきりと言った。
「バカな!? ボズは場合によっては大賢者様でさえ遅れをとりかねない化け物ですぞ!」
もうずっと立ちっぱなしになっている第一魔法士団長が叫ぶ。
彼は昔ボズに部隊を壊滅させられたことがあり、ほうほうのていで逃げ帰ったという過去がある。
彼にとってボズはトラウマだった。
「あ…。し、失礼いたしました!!」
自分の叫びに視線を感じた第一魔法士団長が、視線の主である大賢者に謝った。
「よい。気にせんよ。事実じゃしな。限定的な状況において、わしはボズにやられる可能性がある」
大賢者は基本的にボズよりも強い。
が、自分が負けるパターンもあることを正確に把握していた。
「して、なぜそう思った? 何か根拠があるんじゃろう?」
誰も考えていなかった可能性を、王と宰相のみが考えていたようだ。
大賢者は王と宰相に目を向ける。
「元ボズ盗賊団と思われる男を1人捕らえました。思われるというのは、確定ができないからです」
王が目配せをして、宰相が話を始める。
「確定ができない? どういうことじゃ? 真偽判定のスキル持ちはおったじゃろ?」
学園長が疑問を投げかける。
国は神に愛されし者を何人か囲っている。
話したことが本当か嘘か見極めることができる、真偽判定のスキルを持ったものも中にはいる。
にも関わらず、捕らえた男が盗賊団員かさえ確定できないとはどういうことか?
「その男は、一切何も話しませんでした。"はい"か"いいえ"すら話さなかったのです。ただ、常に何かに怯えていた様子だったと聞いています」
宰相が部下から聞いた報告を話す。
話がなければ真偽判定も使いようがない。
監視員の、ボズ盗賊団にその男がいた気がするという情報以外はほぼ何も得られなかった。
ただ、もし仮にその男が盗賊団にいたとするならば、誰かに『何も話すな』と言われた可能性が高い。
ボズがそのような行動をするとは考えづらい。
それに、何も話さないということは、つまり高い確率で盗賊団なのだ。
盗賊団でないならそう言えば、真偽判定で盗賊団でないことが確定できるのだから。
記憶を操れるスキル持ちなどが存在すれば話が変わってくるが、そのようなことができるなら盗賊団でないと言わせれば良いのだから、それもないだろう。
そんなことを宰相はつらつらと話していった。
「つまり結論としては、ボズではない誰かがその男に『何も話すな』と命令したと推測できるというわけじゃな」
大賢者の言葉に、王と宰相が肯定を示す。
「そして、ボズは『何も話すな』と命令した者に始末されたか、その者と組んだかということになりますな」
学園長が少し考えて、話をまとめる。
「そのどちらにせよ、国としては大きな問題となる。コントロールできない巨大な力がどこかに潜んでいるということだからだ」
王がため息をついた。
「それで、どうするのですか? 親父殿」
第一王子が王に対応を聞く。
ただ報告するだけで終わるとは考えていないようだ。
「王と呼べ。現状どうもできん。ただ、お前達も独自に探れ。だが決して刺激するな。ヘタをすれば国が滅ぶと思え」
「「「「はっ!」」」」
王の命令に、その場の全員が返事をした。
大賢者だけが、少し楽しそうだった。
『現状、このような形になっております』
アカシャの念話だ。
いつも瞑想をしている、家の畑の近くの木陰に座っていたオレは目を開けた。
数分前に終わったという、この国の円卓会議の映像をアカシャに見せてもらっていた。
うん、問題ない。
生き残った盗賊団員を殺さなかったときに、この程度まで情報を掴まれることは覚悟してた。
いや、分かってたというべきか。
『ありがとうアカシャ。予測通りだよ』
やっぱりアカシャは最高だ。
いつもお読みいただきありがとうございます。
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たくさんの方に読んでいただいて、とても嬉しいです。
これからも頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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