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第50話 戦いの後

 空を見上げて一息ついたものの、空は霞んで見えた。


 切り札の副作用が酷いことになっているなぁ。


 痛覚遮断を解除したら、耐え難い頭痛に苦しむだろう。


 でも、死ななきゃ何とかなる。


 ボズを倒すためにはどうしても必要なことだった。


 幸い、みんなが助けてくれたおかげで、残ればラッキーと思っていたものも残った。



「セイ…。終わったんだな?」



 後ろからやってきた父ちゃんが、オレの肩に優しく手を置いた。


 盗賊団員は父ちゃん達が鎮圧し、盗賊団の頭であるボズはたった今跡形もなく焼け死んだ。


 父ちゃんも分かってるだろうけど、念のための確認だろう。


 もしかしたら、オレの元気があまりないのを気遣ってくれてる面もあるかもしれない。



『終わりです。伏兵もおりません』



 アカシャが念押ししてくれる。



「うん。終わったよ。盗賊団は壊滅だ」



 父ちゃんの方へ振り返り、笑った顔を作る。



「…っ!」



 父ちゃんが息を飲む音が聞こえて、直後オレは抱き締められた。



「すまねえ…。お前ばかりに負担をかけちまった…」



 父ちゃんの声は後悔がにじんだ感じで、悲しげだった。



「そんなことないよ。みんながいたから、勝てたんだ」



 オレも父ちゃんを抱き締め返した。


 予想外のことがたくさんあった。


 そもそも、みんなを遠ざけたのはオレだ。


 でも、結果的にはみんなが手伝ってくれて本当に助かった。


 みんながいなかったら、きっと勝てなかった。


 むしろオレの方が勝手な思い込みでみんなを遠ざけて申し訳ないくらいだ。


 本当に感謝してる。



「父ちゃん、来てくれてありがとう。本当に、あれで助かったんだよ」



 今度は、ちゃんと笑った。


 さっきうまく笑えなかったのは、命乞いするボズを殺したことにモヤモヤしていたからだ。


 でも、父ちゃん達が来てくれたことに対しては笑える。



「ぐすっ。本当に、本当にあのクソゴリラを倒せるなんて…」



 ベイラは、今でも信じられないといった様子で泣きじゃくっている。


 オレ達の中で1番ボズに辛酸をなめさせられたのはベイラだ。


 1番ボズの理不尽な強さを体感したのもベイラだろう。


 一時は心を折られていたくらいだからな。


 気持ちはよく分かる。


 父ちゃんに抱き締められたまま、オレはベイラに声をかけた。



「ベイラさんもありがとう。協力してくれて。約束、必ず守るから」



 ベイラが世話になった村の人達を助ける約束。


 できるだけ早く守ってあげないとな。



「"さん"はいらないって言ったの。セイ、あたちこそ、本当にありがとう。アンタがいなければ、あたちは、何もかも諦めてたの」



 ベイラのエメラルドグリーンの瞳が涙で光っているようだ。



「オレもベイラがいなかったら勝てなかったから、お互い様だね。ところで、渡しておいたアレ、まだ持ってるよね?」



 ベイラ用に作ったポシェットに入れて渡しておいたものを返してもらうために、確認をとる。


 少なくとも切り札を使っていたさっきまでは、間違いなくまだ使わずに持っていたはずだ。



「もちろんなの。セイに言われていたような状況にはならなかったから…」



 ベイラは袈裟懸けにしていた15センチほどのポシェットに手をかける。


 身長40センチほどのベイラからすると大きなものだ。



「おーい! 父ちゃーん、セーイ!」



 ベイラからポシェットを受け取っていると、ジル兄ちゃんの声が聞こえてきた。


 ジル兄ちゃん、アル兄ちゃん、そしてサムが一緒にこちらに向かって走って来る。



「終わったんだな?」



 アル兄ちゃんが確認をしてきた。



「ああ、終わった。セイがやってくれた」



 父ちゃんが兄ちゃん達に教えてくれる。



「ごめんな、セイ。結局、オレはほとんど役に立てなかった…」



 ジル兄ちゃんがしょんぼりした感じでオレに言う。



「いや。最後兄ちゃん達が、ベイラにオレ達の場所を教えてくれてなかったらヤバかった。すっごく助かったよ」



 オレの未完成の合気道もどきが何とか上手くいったのは、ベイラと兄ちゃん達のおかげだ。



「サムもありがとう。サムが助けに来てくれなかったら、たぶん殺されてたと思う」



 オレとベイラだけでやろうとしていたのは無謀だった。


 そう考えずにはいられないほど、サムのサポートによる貢献は大きかった。



「ふふ。役に立てて良かったよ」



 サムは嬉しそうに柔らかく笑う。



「なぁ、セイ…。お前もしかして、目が見えないのか?」



 アル兄ちゃんがたずねてきた。


 微妙に視点とかが合ってなかったのかな。


 よく気が付いたなぁ。



「完全に見えないわけじゃないけどね。霞んでよく見えないんだ」



 素直に打ち明ける。



「そんな…。セイ…」



 父ちゃんがこの世の終わりみたいな顔をしてショックを受けている。


 しまった。


 言う順番を間違えたな…。



「ごめんごめん。心配させちゃったけど、実は大丈夫なんだ。みんなのおかげだよ」



 ベイラから受け取ったポシェットの中身を取り出して、みんなに見せる。



「それは?」



 10センチほどの細長い小瓶を見て、アル兄ちゃんが聞いてくる。


 ジル兄ちゃんと父ちゃんも怪訝けげんな顔をしているが、サムだけは「あっ…」と声を漏らした。


 サムが知ってるものとは少しだけ違うけど、その想像はおそらく合っている。



『アカシャ、これで治るよな?』


『はい。これならば、切り札の後遺症といえども完璧に治ります』



 アカシャの答えに満足したオレは、みんなに告げる。



「これはね、神級回復薬。みんなが助けてくれたおかげで、今まで使わずに残せた、とっておきの薬さ」



 試験管っぽい見た目の小瓶の蓋を開け、ぐいっと飲み干す。


 ダンジョン攻略後の3日間のあいだに、色々と準備をした。


 その1つがアイテム集めだったが、世界広しといえども短時間で手に入る神級回復薬はたった1本しかなかった。


 神級回復薬は死んでさえいなければ、どんな怪我でも即座に回復してくれる。


 いざというときはオレに振りかけてくれと頼んで、戦いの前にベイラに渡しておいた。


 もし戦いの中で使ってしまえば切り札の後遺症はしばらく放置するしかなかったけど、残すことができたのは間違いなくみんなのおかげだ。


 神級回復薬を飲み干すと、オレの体は白く強い光に包まれた。


 おお。超級回復薬では光ったりはしなかったのに。


 すぐに光は消える。


 父ちゃん、兄ちゃん達、サム、ベイラの心配そうな顔が()()()()見える。



『アカシャ、痛覚遮断って…』



 念のためアカシャに聞いておく。


 あの副作用の頭痛は、もはやまともに耐えられる痛みではなかったみたいだからな。



『はい。解除して問題ありません』



 いつもの抑揚のなさが戻ったアカシャの声も、どこか嬉しそうに聞こえる。


 唯一まだ使っていた痛覚遮断の魔法を解除して、みんなに報告した。



「うん。大丈夫! 全部完璧に治った!」



 みんなが歓喜の声を上げて、オレを揉みくちゃにしてくる。


 みんなが喜ぶと、オレも嬉しくなる。


 まだモヤモヤは残っているけれど、達成感っていうのは後から少しずつ感じていくものなのかもしれない。



「さあ、村に帰ろう! 避難してるみんなにも報告してやらねぇと!」



 父ちゃんが元気な声で、全員に向かって言った。


 全員がうなずいて、笑う。



『アカシャ、ボズから逃げて散り散りになってる人達の場所を教えてくれ。回収してあげないと』


『かしこまりました』





 その後、オレ達は逃げた人達を回収し、落とし穴のところで捕らえた盗賊達を見張っていてくれている人達と合流し、村に帰った。


 途中、体力の限界で行き倒れていたカールを発見したときは、ボズに殺されかかった時と同じかそれ以上に焦った。


 カールも無事で、村人の被害はゼロだ。


 それだけは、心の底から良かったと思える。




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