第4話 歩けるようになったぜ! だから…
2020/8/14 改稿しました
生後半年と少し、オレはついに歩けるようになった。
家族の熱狂はハイハイのとき以上で、すでに一生分誉められた気分である。
とても可愛がられていて、ありがたい限りだ。神様に感謝だな。
そうそう、目がだいぶよくなってきた。みんなの見た目が分かるようになって嬉しい。
黒髪ロングでおっとりした感じのアン母ちゃん。
身長165センチのモデルのような体型の美人だ。
父ちゃん、上手くやりやがったな。
ちなみに、身長はアカシャ調べだから正確である。
体重は聞いてない。何となく悪い気がしたからな。
茶色の短髪で、どこかひょうきんさというか、やんちゃな感じを内包した顔のジード父ちゃん。
身長は182センチで、鍛え上げられた細マッチョである。
イケメンとまでは言わなくても、鍛え上げられた体つきも影響してか格好いい雰囲気を出している。
どちらも想像以上に若かった。
母ちゃんが23歳、父ちゃんが25歳だから若くて当然なのだが、日本での常識で、3児の子持ちかつ上の子が8歳と聞いたらどう想像するだろうか…。
年齢を元々知っていてなお、初めて父ちゃんと母ちゃんの顔を見たときは若さに驚いた。
まぁ、その驚きも婆ちゃんに比べれば大したことなかったけど。
父ちゃんの母親のセナ婆ちゃんは、かなり赤い茶髪である。身長は159センチ。
アカシャから年齢を聞いたときにも驚いたが、見た目でさらに驚いた。
気の強そうな、40歳の元気なオバチャンである。日本であれば、なんならオバチャンと呼んでも怒られるかもしれない。
赤い茶髪をショートボブにした、気の強そうなお姉さん。
そう言ってもあまり違和感がないだろう。
婆ちゃんと呼ぶことに抵抗があるくらい見た目も年齢も若い。まぁ、まだ喋れないんだけどね。
アル兄ちゃんとジル兄ちゃんは、ジード父ちゃんを小さくした感じで、背の高さの違いを除けば双子に見える。
それぞれ、背の高さは130センチと118センチ。
見た目はいかにもやんちゃなイタズラ小僧なんだけど、2人ともよく畑の手伝いをするしっかりした子だ。
家族全員、服装は"布の服"としか言えない簡素な作りの服を着ている。
農民はこれが一般的らしい。
最後に、アカシャの見た目だ。
目がよく見えないときの勝手な想像では、アカシャは眼鏡をかけてビシッとスーツを着こなした有能秘書だった。
しかし実際の見た目は、可愛いフリフリの服を纏った有能なミニスカメイド妖精だった。
腰より下まである長い銀髪は、所々を紫色のリボンで束ねられている。
冷めた目をしているところが、その人形みたいな顔立ちを余計に際立たせていた。
妖精らしく背中から羽が生えているのだが、なぜかメイド服である。身長は10センチらしい。
メイド服は黒を基調として、白地がフリル部分ぐらいにしかない。
そのせいで格好良さも併せ持っていることが、アカシャの性格によく合っている気がする。
オレは妖精っぽい見た目としか神様に注文を出していないので、これは神様のセンスであるに違いない。
アカシャが飛んでいるときには、髪の色に合わせた銀色の燐粉みたいなものが軌跡に散ってとても綺麗だ。芸が細かい。
神様のセンスに違いないが、さすが神様である。ありがとう。
オレのアカシャは世界一有能で可愛い。
『というわけで、よし。アカシャ、伝説の剣をとりにいこう』
オレは左肩の上にちょこんと座っているアカシャに、そう切り出した。
『は? ……一瞬聞き間違いかと思いましたが、世界の記録を参照しても間違いではないようですね。ご主人様はバカなのですか?』
家の中をグルグル歩き回る運動をしながら提案をしてみると、淡々とした口調で自然にディスられた。
なにが、というわけなのですか。ともツッコまれてしまった…。
『だってあんまりゆっくりしてると、他のヤツにとられちゃうかもしれないだろ?』
ちょっと口を尖らせて、スネたように言う。
ま、念話だから実際には喋ってないんだけどけね。
『今取りに行っても死ぬだけです。最後の所有者が数百年前に勇者と呼ばれた実力者であることはお話したでしょう? 現在かの剣がダンジョンに眠るのは、最後の所有者がそこで死んだからです。その後、そこに辿り着いた者はおりません。それだけ危険な場所なのです』
おっと。アカシャのマシンガントークとは、やや珍しい。
そんなにダメだったか…。
『でもさ、勇者が死んだ理由はダンジョンの罠で、そのダンジョンの難易度は大半が罠のせいなんだろ? アカシャなら罠は無効にできるだろう』
一応食い下がってみる。
アカシャがあそこまでハッキリ言うなら、現時点で無理なのは確定と言ってもいいけどな。
『無効とまではいきません。私が教えても、回避するか解除するのはご主人様ですので。私はご主人様以外には触れることができませんから』
それに、伝説の剣を取るなら戦闘も絶対に避けられないらしい。
強行して死ぬのは嫌だし、今は諦めるしかないな。
『そっかぁ…。じゃあ、危険なく最短で取りに行くにはどうしたらいい? 努力は惜しまないからさ!』
アカシャに、どうすればいいのかを尋ねる。
伝説の剣、その単語を聞いてじっとしているのは辛いのだ。
RPGをやったことがある人なら、誰しも憧れ、目標とし、最速で手に入れられるよう工夫するものだと思う。たぶんだけど。
諦めるつもりは全くないといったオレの様子に気づいたのだろうアカシャは、スキルなのにすごく感情がこもったため息をついた。
『はぁ。諦める気はないのですね…。最短となると、家族にご主人様の特殊性を存分に見せ付けることになります。それを避けた上で、危険なく取りに行ける準備が出来次第ということでよろしいでしょうか?』
アカシャが確認をしてくる。
オレの意を汲んで計画を立ててくれる気になったらしい。
『あー、確かに、家族に不審に思われるのは嫌だな。それでも、遅くても9歳になるまでには取りに行きたい。出来そうか?』
早く手に入れたいのは、単純に欲しいからだけではない。
9歳までに手に入れたい理由があったので、確認しておく。
『はい。それなら間違いなく可能でしょう。では、今後チャンスがございましたら、私から準備の指示を出させていただきます』
アカシャのお墨付きを得られた。これでいいことにしよう。
よろしくと頼んでアカシャとの会話を終える。
オレは9歳になったら学校にいく予定だ。普通は農民が王都にしかない学校に行くなんてあり得ないが、何とかして行きたいと思っているし、アカシャも大丈夫だろうと言っていた。
家を出ることになって生活の全てが変わるであろうそれまでに、現在最も欲しいものである伝説の剣は手に入れておきたい。
何かあったときの切り札にもなるしな。
オレはいずれ来る大冒険に思いを馳せながら、ウッキウキでスキップもどきのよちよち歩きで家中を駆け回った。
「セイのヤツ、えらいご機嫌だなぁ。何かあったのか?」
「さぁ。歩けるのが嬉しいんじゃないのかい? …それにしても、あの子は驚くほど成長が早いねぇ。まるで神様に愛されてるみたいだよ」
「うふふ。そうねぇ。全く手がかからないし、健康そのものだし、私もセイは神様に愛されてると思うわ」
遠目にオレを眺めながら談笑していた両親と婆ちゃんが、そんな会話をしているとアカシャから報告を受けた。
浮かれすぎてたな。やっちまった。
不審がられてるって程でもないから、セーフかな?
それにしても、婆ちゃん核心つきすぎだろ。
このときのオレはまだ知らなかった。
『神様に愛されてる』というのがそのままの意味ではなく、『生まれつき何らかのスキルを持っている』という意味で使われていることを。