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第45話 短剣

 雷動らいどうで一瞬にしてカールの元にたどり着いたオレは、前置きも何もなく急いでカールに話しかけた。



「カール! どうしてこんなところに!?」


「うおっ!! はぁ。はぁっ。セイ!? はぁっ。ぜぇっ。はぁ。え? 今…。ぜぇ。ぜぇっ。あそこにいたのに…」



 雷動を初めて見たカールは、突然現れたオレにとても驚いて立ち止まった。


 そしてそのまま崩れ落ちそうになったのを、何とか膝に手をやって抑える。


 中腰の体勢になって地面に汗を滝のように落としつつ、カールは何とか声を絞り出した。



「これ…。ぜぃっ。はぁ。届けに。はぁっ。使ってくれ」



 カールが背負い袋から取り出したものをオレに差し出す。


 オレは雷纏の電撃がカールを傷付けないように注意して近付き、それを受け取った。


 受け取ったものは短剣で、その握りは吸い付くようにオレの手になじむ。


 抜いてみて驚いた。



「これは…。ミスリルの短剣…。まさか父ちゃんの剣を打った後に、これを打ったのか…」



 衝撃だった。


 アカシャが事前に何も言ってなかったということは、本来こうなる可能性はないに等しかったということ。


 カールは、おそらくこれを打ったカールの父ちゃんも、完全に限界を越えたのだ。


 カールのこの疲れ方。どれだけ無理したらこんなになるんだ。走れメロスかよ…。


 オレも全力でボズと戦っていたけれど、アカシャの予測の範囲内だ。


 オレがもし、今のカールほど限界を越えて戦えていれば…。


 カールが来たと聞いたとき、足手まといになると思ってしまった自分を殴りたい。


 たとえそれが事実だとしてもだ。



「はは。ぜー。ぜぇー。親父に無理言った。はぁ。はー。はっ。今頃、鍛冶場でぐっすりだ」



 カールの言葉に、ミスリルの短剣を握る力が強まる。



『ご主人様。残念ながら、この剣ではボズにダメージは負わせられ…』


『分かってる!!』



 アカシャからの念話をさえぎるように、声を荒げた念話を被せる。


 短剣を握る力はいっそう強まった。


 そう、分かっている。


 ミスリルの短剣がこの戦いで有用ならば、どんな手を使ってでも最優先でカールの父ちゃんに打ってもらっていた。


 それをしなかったのは、ミスリルではボズにダメージを与えられないことが分かっていたからだ。


 だから自分の剣を打ってくれとは頼まなかった。


 でも、だからといって、ここまでして届けてくれたものを、使えないなんて言えるだろうか…。


 カールやカールの父ちゃんには、この短剣がボズにダメージを与えられないなんて、知りようがないんだから。


 ん? 今、何かが引っかかった。


 知りようがない…。そうか! もしかすると。



「ありがとう。カール。この短剣、使わせてもらうよ」



 オレはカールにお礼を言って、そう宣言した。


 リップサービスではない。本気だ。



『セイ様!?』



 オレの本気を感じ取ったのか、アカシャが驚愕の声をあげる。



「はぁっ。はっ。へへ。良かった。ふぅ。はぁ。敵は…?」



 疲れに顔を歪ませながらも、達成感(あふ)れる笑みをカールは浮かべた。


 敵がいないことには今気付いたらしい。



「ちょうど遠くに吹っ飛ばしたところだったんだ。もう戻ってくる。ゆっくりでもいい。カールは村に戻ってくれ」



 この場で倒れてもおかしくないほど疲れている様子のカールだけど、ここにいるままだとボズに狙われる可能性もある。



「はぁ。はー。そうさせて貰うぜ…。オレじゃ、足手まといになっちまう…」



 ほんの少し息が整ってきても、限界を越えていることを自分でも分かっているのだろう。


 カールは力なく笑って、そう言った。



「そんなことない…。ありがとうカール。本当にありがとう。来てくれて嬉しかった」



 そう。嬉しかった。


 短剣それ自体より、カールが来てくれたことこそが力になったと感じる。



「へへ。頑張れよセイ。ふぅ。はぁ。お前とサムなら絶対にやれる」



 カールは照れ臭そうに笑い、激励してくれた。



「セーイ!! アイツが戻って来た!!」



 先程の場所に留まっていたサムが大声でボズが戻って来たことを伝えて来た。


 まだかなり離れているが、目視できる距離はボズの速さならすぐに縮まる。



「げっ。ありゃ人間じゃねぇだろ…」



 怒り狂って突進してくるボズを見て、カールが感想を漏らす。


 うん。まぁ。完全に同意だ。



「カール! また村で!! 絶対に勝ってくるから!」



 オレは急いでそう言って、サムの隣に戻るべく雷動を発動した。


 返事は聞かなかったけど、カールの行ってこいという言葉が聞こえた気がした。



「サム、ごめん! ギリギリになった!」


「間に合ったんだから問題ないさ。それが戦果かい?」



 サムはオレの持つ短剣をちらりと見て聞いてきた。


 まだボズには見えないように持っているが、サムの位置からなら見える。



「ああ。これからオレの攻撃の後に隙ができるはずだ。状況を見てさっきみたいに蹴りで吹っ飛ばして欲しい」


「分かった」



 そう言ったサムは、オレとある程度距離をとった。


 やはりすごい速さだ。


 ボズは距離をとったオレ達を見て、オレに狙いを定めたらしい。


 さっきの不意打ちで、サムの攻撃では何があってもダメージを受けないと確信したのだろうか。


 このまま突進の勢いに任せてタックルしてくるのか?


 オレに雷動で避けられることは分かってるだろうに。


 ボズのタックルを避けた後の攻防の手順を予想し、想定しておく。


 他のパターンも切り札の情報から想定しつつ、ボズに対して迎撃の構えをとる。



『ご主人様、本当にその短剣を使うつもりですか?』



 アカシャが心配したのか、念話してきた。


 本格的に高速戦闘に入ると、オレの集中力維持のために極力話しかけないようアカシャは気を使ってくれている。



『まぁね。アカシャ。オレ達の勝利条件は?』



 アカシャなら、こう言えばオレのやろうとしていることが分かるはずだ。



『…。なるほど。しかし、上手くいくでしょうか? ボズの感情次第になるのでは?』


『たぶんいける。それに、初撃には細心の注意を払う。サムとベイラもいるし、失敗しても何とかなるだろ?』



 切り札でボズとオレの情報は見えている。


 間に合うはずだ。



『確かに。ご主人様の身体能力の低下を考慮しても、致命的なことになる可能性は低いですね』



 アカシャも納得してくれたようだ。


 ボズが予想通りに動くかは賭けになるが、この作戦でいく。



お読みいただきありがとうございます。



ちょっと45話がスピード感に欠けてあまり気に入らないので、いずれ修正予定です。


大きな流れは変えない予定ですけれども。

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