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第44話 助っ人

 サムが来る可能性があるというのは、数日前に作戦を立てたときにアカシャから聞いていた。


 しかし、間に合う可能性、間に合ったとして戦力となるほど成長している可能性は決して高くないとも聞いていた。


 ボズのスキル頑強がんきょうは、身体強化の魔法と非常に相性が良く、異常なほど強化される。


 サムのスキル駿足しゅんそくも同様に、身体強化で異常なほど強化されるタイプのスキルだ。


 だから、村の住人の中でサムだけはボズと戦える潜在能力があることは分かっていた。


 とはいえ、身体強化の魔法を覚えてたった数日でここまで使いこなせるなんて予想できなかった。


 異常なほど強化されるということは、異常なほど体の感覚が変わるということだからだ。


 身体強化を覚えてから死ぬほど努力したのはもちろん、もっとずっと前から、たゆまぬ努力を続けてきたに違いない。


 アカシャの予測を越える。それがどれだけ凄いかは誰よりオレが一番よく知っている。


 サムはそれを成し遂げた。尊敬する。



「ありがとう。助かったよサム。色々と話したいことはあるけど、アイツはすぐに戻ってくる。すぐにここを離れてくれ」



 ボズはサムによる不意打ちの蹴りを食らって吹っ飛んでいった。


 さっき崩れた岩山の瓦礫がれきの中に突っ込んだようだ。


 凄まじいスピードの蹴りだったけれど、やはり蹴りによるダメージはなかったので、すぐに瓦礫の中から出てくるだろう。



「僕も戦う。手伝わせてほしい。きっと役に立ってみせる」



 サムはきっぱりと言った。



「ダメだ。サムに遠距離攻撃はない。アイツに近付くのは危険過ぎるよ」



 一発でも食らったら、それで終わりかもしれないんだ。


 確かにさっきは助かった。


 でも、オレとベイラのみで戦うのが最も全員生き残る確率が高かったから、こういう形をとったんだ。



「くそがぁぁぁ!! どこまでも俺様を虚仮こけにしやがってぇぇぇぇ!」



 ボズが岩山の瓦礫がれきを、まるで綿毛を吹き飛ばすかのようにぶっ飛ばしながら出てきた。


 ちっ。まだサムと話してる最中だってのに。



「ここに向かいながら、君たちの戦いは少しだけ見た! 確かに、僕がまともに戦うのは無理だ! でも!」



 サムは目線をボズに移して臨戦態勢を取りつつ、早口でまくし立てた。



「待って! 時間稼ぐから!!」



 オレはサムの言葉を途中でさえぎった。


 ボズがこちらに向かって突進して来たからだ。


 4枠目の魔法で空間収納を発動。


 虹色の剣を取り出す。


 剣を握ると、美しい銀色の刃が紫電色に染まった。


 剣をボズに向かって付き出すと同時に、雷纏かみなりまといの電撃が剣に伝わっていく。


 再び空間収納を使い、剣の直上ちょくじょうに金属塊を取り出す。


 すぐに空間収納を解除。そしてまた4枠目を使って雷魔法を使う。




「その魔法はさっき見たぞ! クソガキィ!!」



 ダメージを受けないことを知っているからか、ボズは突進を止めずに突っ込んで来た。


 右手を強く握りこむ筋肉の動き。殴り返すつもりか。


 宙に出した金属塊が虹色の剣に接触した瞬間、オレは雷魔法を"宣誓"した。



「"電磁加速砲レールガン"!!」



 金属塊が紫の雷を纏い、超スピードで射出される。


 一瞬でボズとの距離を潰した魔法だったが、ボズは恐ろしいことに、思考強化を使っているわけでもないにもかかわらず、完璧に見切っていた。



「うおらぁぁぁぁ!!!」



 ボズの突進からの右ストレートが電磁加速砲レールガンに突き刺さる。



「あ゛あ゛!?」



 ボズも殴ってみて気付いたようだな。


 ボズのスキルはあくまで頑強。


 防御力主体のスキルである。


 確かに身体強化が異常な倍率でかかるせいで、ボズは凄まじいパワーを持っている。


 でも、ボズの攻撃力とオレの攻撃力なら、オレの攻撃力の方が上だ。


 電磁加速砲レールガンでボズにダメージは与えられない。


 けれど、ボズもまた電磁加速砲レールガンを止めることはできないのだ。


 電磁加速砲レールガンはボズの渾身こんしんの右ストレートをはじき返し、胸に当たってボズを吹き飛ばしていった。


 ガッツリ踏ん張りがきいていたから、そんなに遠くまでは吹っ飛んでいない。


 まぁ多少の時間稼ぎはできただろう。



「ふぅ。お待たせ。残念ながらダメージは与えられてないけど、多少は時間稼げたよ」



 さっき話を遮ってしまったサムに、多少の時間ができたことを伝える。



「こ、これでダメージ無しなのかい? とんでもない怪物だな。あの大男…」



 電磁加速砲レールガンが通ったところは、衝撃波で地面が抉れている。


 長く続く抉られた地面を見て、サムが感想をらした。


 サムの感想に、思わず苦笑いをする。



「そうなんだよ…。やってられないよね。まぁ、それは仕方ないとして。『でも』何だい?」



 さっき、サムは自分がまともに戦うのは無理だとしつつも、『でも』と言った。


 オレはその続きを促した。


 サムは軽くうなずく。



「うん。でも、さっきと同じような形で手伝うことは出来ると思う。僕は、きっと直線距離だけならアイツより速い」



 さっきというのは、たぶんオレのピンチにボズを蹴っ飛ばしてくれた時のことだろう。


 なるほど。ああいう形なら、サムの被弾の可能性は少ないし、オレも助かる。


 オレのピンチへのサポートか。


 ベイラにやってもらっていることと似たような形だな。


 ボズに近付くかどうかという点が大きく違ってはいるけど。



『アカシャ。どうだ?』



 オレが切り札で情報を得ているのは自分とボズとベイラだけなので、アカシャに確認をとる。



『はい。今の彼であれば、隙を見計らってのヒットアンドアウェイにてっすれば被弾する可能性はかなり低いでしょう』



 当たり前だけど、絶対に被弾しないとはならないか。


 サムを危険にさらすことは抵抗があるけど…。



「分かった。頼むよサム。正直オレもかなり苦しいから助かる」



 悩んだけど、お願いすることにした。


 ダメだと言っても結局手伝ってくれるような気がしたし、サムなら大丈夫なのではないかという期待感が、今のサムからは強く感じられたからだ。



「うん。任せて」



 サムは薄く微笑ほほえんで頷いた。


 そこに悲壮な決意などは微塵も感じられなかったことが、とても頼もしく、印象に残った。



「でも、絶対に無理はしないで。急所に一発でも食らったら終わりだ。隙を見てのヒットアンドアウェイに徹してほしい」



 サムに念を押しておく。これは重要なことだ。


 オレも明らかに動きが悪くなっている。自分自身も気を付けなければ、一瞬で終わりということも有り得る。



「分かった。もうしばらくすれば他のみんなも来る。それまで何とか持たせよう」



 ちらりと後ろを見ると、後方に狼煙のろしが上がっていた。


 サムが上げたのだろう。戦闘に集中していて気が付かなかった。


 できれば他のみんなが来るまでに終わらせたいんだけどな…。


 オレとサム以外は、ボズの攻撃を避けるすべがない。



『ご主人様、想定外の事態です。もう一度後ろを振り返ってください』



 突然アカシャが念話を入れてきた。


 アカシャですら想定外の事態?


 すぐに確認しなければと、焦って後ろに大きく振り返る。


 それを目に入れると、冷や汗が出てきた。


 まだ遠いが、カールが息もえ、こちらに走ってくる。



『申し訳ありません。間に合うはずがなかった者が、間に合ってしまいました』



 カールは今回の戦いには参加していなかったのに、どうして!?


 そんな疑問をいだきながら、オレは雷動を発動した。


 ボズが復帰してくるまで、もうそんなに時間がないのに。


 カールは、身体強化すらまだ覚えていないはずなのに。


 どうして来てしまったんだ。カール。



どうでもいいことですが、サムはゴリラを見たことがありません。

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― 新着の感想 ―
[一言] カールは、身体強化すらまだ覚えていないはずなのに。 どうして来てしまったんだ。カール 明らかに邪魔でしかない人には、はっきりと邪魔するなと、言っておかないとね
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