表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/359

第3話 ハイハイができるようになった!

2020/8/5 改稿しました



 あれから4ヶ月ほど経った。


 スクスクと成長したオレは、ついに今日ハイハイをマスターしたのだ!



「すごいすごい! セイったら、もうハイハイができるようになったのね!」



 他のみんなが畑に出てるなか、オレの面倒を見てくれている母ちゃんがオレを誉めてくれる。


 ふふ、母ちゃん、オレはもう魔法も使えるし、伝説の剣が眠るダンジョンの位置だって把握してるんだぜ。

 ハイハイぐらいで驚いてもらっては困るな!


 アカシャのスパルタ教育を乗り越えたのだ、自分で自分を誉めてやりたい。

 先日、ついにオレはアカシャから現段階で覚えるべきことについて合格をもらったのだ。



『ご主人様、おめでとうございます。これでお伝えできる情報が増えますね』



 オレがハイハイをマスターしたことを確認したアカシャが、可愛らしくも抑揚のない冷徹な声でそう言った。



『え? お、おう、そうだな…』



 解放感と達成感がしぼんでいくのを感じつつ、オレは何とか平静を装って返事をする。


 アカシャも母ちゃんに続いてハイハイのマスターを誉めてくれたが、スパルタ教育はまだ続くようです。

 そういえば、ハイハイができるようになったらどうこうって言ってたよね…





 台所の端っこの方に座って、アカシャの授業を聞く。


 母ちゃんの位置から目が届くギリギリの場所だ。

 目の届かないところに行くと連れ戻されてしまうからな。



『身体強化の魔法? どうしてハイハイを覚える前に教えてくれなかったんだ?』



 アカシャの新たなスパルタ教育の内容は、何と身体強化の魔法を覚えることだった。


 なんだよアカシャさん、そういうことなら言ってくれよー。


 学問的な勉強と違って、魔法の勉強は大好きだ。

 しかも身体強化なんて、すごく楽しそうじゃないか。


 オラわくわくすっぞ。



『万が一、魔法のみで体を動かすクセがついてしまったら、魔力無しには動けない体になってしまうからです』



 え、何それヤバくね? こんな赤ちゃんのうちから人生詰んじゃうのは嫌なんだけど…。



『なるほど…。それは怖いな。今なら大丈夫なのか?』



 アカシャがわざわざ今のタイミングで言ってきたということは大丈夫なんだろうけど、怖くなったので一応確認しておく。



『はい。筋力で体を動かすことには慣れてきておりますので、筋力のサポートとするイメージで身体強化を行っていただければ大丈夫です』



 大丈夫とのことなので、身体強化の魔法を教えてもらうことになった。


 いつものように、頭の中に(えが)くべき魔法陣の映像を出してもらう。

 これを正確に覚えて、同じように頭の中で思い浮かべられるようになれば習得だ。


 アカシャさんマジ有能。

 正直、魔法や地理は口頭じゃ覚えるのが厳しい。

 アカシャは実体がないし、書いてもらって覚えることもできない。

 頭に映像を流してもらえるのは本当に助かっている。






『いいでしょう。合格です。覚えるのが早くなりましたね』


『そりゃあ、あれだけたくさん覚えればな。少しはコツも掴むよ』



 何度かの修正をされながら、身体強化の魔法を習得した。

 早速使ってみたいと思う。


 今は母ちゃんは夕飯の支度中だ。目立たないようにすれば、見られることもあるまい。


 一応、台所から目のつかない位置にハイハイで移動しておく。

 少しの間なら大丈夫だろう。


 移動した玄関前にちょこんと座って、身体強化の魔法陣を頭の中に思い浮かべる。


 アカシャの話によると、どんな魔法を使うときでも、このとき眼球に魔法陣が浮かび上がってくるらしい。

 当然、自分では見たことがないんだけどね。


 魔法陣が全く違うと眼球には現れず、多少間違っていると眼球には現れるが効果が弱くなるらしい。


 アカシャは厳しいので、最大の効果が出る完璧な魔法陣を眼球に発現できて初めて合格が出る。

 初めて魔法を覚えたときは、苦労したものだ。


 頭の中に浮かび上がった身体強化の魔法陣に魔力を込めていく。

 込める魔力の量で効果の大小が変わるので、初めての今は少しに留めておこう。


 魔力を込め終わると、頭の中に浮かび上がった魔法陣がピカッと光る。発動だ。


 少し体が軽くなる。ハイハイで確かめてみた。これはすごい。明らかにハイハイが速くなっている。


 しかも、単純に筋力が強化されているだけではなく、感覚も鋭敏えいびんになっている気がする。


 もしかしてこれなら、そう思って、立ち上がってみることにした。



『立てる! 立てるぞアカシャ! すごいなこれは! いや、立てるどころか、見ろ! ラジオ体操もできるぞ』



 すごい!

 生まれ変わって初めて、自分の体が思い通りに動くのだ。

 もうオレのテンションは天元突破である。



『おめでとうございます。ご主人様。しかし、良いのですか?』



 え、なにが?

 そう思ったのと同時に、ガチャっと部屋のドアが開いた。



「たっだいまー。母ちゃん、セイ……は?」



 畑から帰って来た次男のジル兄ちゃんと、ラジオ体操中のオレが固まった。


 オレは内心冷や汗をダラダラたらしながら、何事もなかったかのように流れるような動きでハイハイの体勢へ移行。


 あーとか、うーとか言いながら台所へハイハイして去ることにした。



 オレが台所に去って少しの間が空いた後、硬直がとけたのであろうジル兄ちゃんがバタバタと台所へやってきた。



「母ちゃん、母ちゃん! セイがすげぇことしてた!」



 ジル兄ちゃんがさっそく母ちゃんに報告をする。



「おかえり、ジル。びっくりしたでしょう? セイったらもうハイハイができるようになったのよ」



 母ちゃんは、ジル兄ちゃんがハイハイをしているオレを見て驚いたと思ったようだ。

 うふふと嬉しそうに笑っている。

 その調子で上手くうやむやにしてほしい。



「確かにハイハイはしてたけど、そうじゃねぇんだって! セイのヤツ、立って踊ってたんだ!」



 ジル兄ちゃんが核心に触れる。

 さぁ、母ちゃんはどんな反応をするか…。


 オレは台所の端っこの辺りで興味が無さそうなふりをしつつ、ゴクリと唾を飲み込んだ。



「うふふ。まぁ、ジルったら。そんなわけないでしょう。セイは今日ハイハイができるようになったばかりなのよ」



 母ちゃんはジル兄ちゃんの言葉を信じなかった。

 オレは心の中でガッツポーズをする。



「いや、オレは確かに見たんだって! こんな感じの変な踊りしてたんだよ」



 ジル兄ちゃんが、オレがやっていたラジオ体操を真似る。

 言葉の通り、ラジオ体操とは少し違う、絶妙に変な躍りになっていた。



「きっと、寝転んで遊んでいたのよ。たまたま立って踊っているように見えただけだと思うわ」



 母ちゃんがジル兄ちゃんに言い聞かせるように優しく言う。



「うーん。本当に立ってたと思うんだけどなぁ…」



 母ちゃん、ファインプレーだ。 ジル兄ちゃんは自分が見たものに自信がなくなってきたようである。

 何とか誤魔化せそうで良かったが、確認しておかなければならないことがある。



『アカシャ。ジル兄ちゃんが入ってくること、気づいてたんだろう? なんで教えてくれなかったんだよ』



 アカシャの能力を考えると、知らなかったはずはない。

 事前に教えてくれていれば、こうはならなかったはずである。



『家族が近付いてきたら知らせるという設定も命令もございませんでしたので。それに、ご主人様があの場で立つとは私も想定しておりませんでした』



 アカシャの答えは、さもありなんという内容だった。


 オレがいたらなかったのだ。

 事前にこういう事態もあると考えておくべきだったと反省する。



『あー、そうか。そりゃオレが悪いな…。アカシャ、まだ家族には魔法を使ってるところは見られたくない。見られる危険性がありそうなときは、事前に色々教えてくれ』



 アカシャはあらゆる情報を持っているが、人の思考までは読めない。

 オレの思考を読んで、立つ前に止めることはできないのだ。


 間に合わなかったが、ラジオ体操を始めたとき、本当にいいのかと確認はしてくれていた。

 要望をはっきり伝えたので、今後は上手くやってくれるだろう。




 少し経つと他のみんなも帰って来て、夕食となった。

 オレはみんなと一緒に夕食をとるわけではないので、目の届く範囲に放置されている。なので、ここぞとばかりにマスターしたハイハイで食卓の周りをグルグル回って、みんなに成長を見せつける。



「おお、すごいじゃねえかセイ! もうハイハイをマスターしたか! さっすがオレの息子だぜ!」


「えらいぞ、セイ。あとで兄ちゃんが高い高いしてやるからなー」


「セイは本当に成長が早いねぇ。さすが私の孫だよ」



 父ちゃん、アル兄ちゃん、婆ちゃんがオレを誉めてくれる。


 チートがあるとはいえ、努力の結果を誉められるととても嬉しい。

 高い高いはいらないけどね。この年で愛想笑いをするのは少し悲しいのだ。


 ジル兄ちゃんがオレの奇行についても話したが、母ちゃんのときと同じように見間違いだろうという話になった。


 その後すぐに、まだ6才のジル兄ちゃんがかなり畑の手伝いを出来るようになってきたという話に移った。

 ジル兄ちゃんはその話の方に食い付き、誉められて嬉しそうにしている。


 これでラジオ体操を見られたことがうやむやになってくれればラッキーだなぁ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 単なる聞きかじりだけど、流石に生後4か月でハイハイ出来るのは、早過ぎない? って思って軽く調べたら、4か月って寝返りがやっと出来る頃で、不完全なずり這いでも早くて生後5か月頃から(個人…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ