第36話 どうしてものとき
ダンジョン攻略から3日後。
盗賊団が来るまで、ついに残り1日になった。
明日には盗賊達がここへやって来る。
できる限りの準備はしているつもりだが、全てが上手くいっているわけではない。
今の大きな懸念事項は2つ。
纏の成功率が未だに100%ではないこと。
盗賊団の到着予定が若干早まってしまったことだ。
『やっぱり昨日の忠告は失敗だったかな?』
兄ちゃん達と父ちゃんに混じって朝の特訓をしつつ、アカシャに尋ねる。
兄ちゃん達と父ちゃんは身体強化を使った状態での模擬戦をしている。
もはやほぼ完全に身体強化を使いこなしてるようだ。
これなら、ボズ以外に遅れをとることはないだろう。
オレはひたすら纏を練習している。
成功率は8割弱。
これまでに比べ短期間で飛躍的に上達しているものの、どうしても時間が足りない。
『盗賊団の元へ空間魔法で飛ばした木の板のことでしょうか? あれでもし盗賊団が止まれば、戦わずして勝てたのと同じですから仕方がなかったでしょう』
確かにそうだ。
でも結果だけ見れば、あれで到着予定がずれた。
ボズがこの村に襲撃の元凶がいると当たりをつけたからだ。
どうせ襲撃されるならば、少しでも早く元凶を叩くために夜も移動すると言い始めた。
オレの嫌がらせと、そもそも団員の体力が持たずに数時間ほどしか早まっていないとはいえ、作戦を考えると嫌なずれだ。
今日さらにずれると困るので、手を打ちたい。
『盗賊団の到着予定を極力予定通りに近付けたい。一緒に手段を考えてくれ』
『かしこまりました』
「今日は夕飯が終わったら、女子供は避難だ。いよいよ明日だからな」
朝食の席で家族と、今日の予定について話をしている。
父ちゃんに続き、オレが補足する。
「村の広場から、盗賊団と戦わない全員を集団転移の魔法で移動させるよ。準備は全部終わってるから」
「ああ、オレと村長も昨日下見に行ってきたが、すげーぞ。ありゃあもう、集落って言っていい」
この村から歩いて1日くらいの場所に、避難所として家を10軒ほど作っておいた。
造りは、この我が家と全く一緒だ。アカシャに教えてもらいながら魔法で造ったので、大して時間はかからなかった。
食料などもすでに移動しているので、ある程度の期間はもつだろう。
最悪の事態が起きても、食料が尽きる頃には盗賊団は村を去っているはずだ。
「魔法ってのはすげーよな。何でもできちまう」
気持ちは分かるけど、何でもはできないよジル兄ちゃん。
「アンタ、必要なことだからとか言って、しょっちゅう転移でどっか行ってたのはそれかい。心配させんじゃないよ全く」
「ごめん、婆ちゃん」
苦笑いしかできない。
ほとんどは盗賊に嫌がらせしたり、ダンジョン攻略したり、アイテム探ししてたんだ。
100%危険ではないと分かってたけど、危険と思われそうなことだから、あえて言わなかった。
オレとしては危険なことではないから、言わなくてもセーフと思ってる。
明日のことだけは、本当に危険だし、言うしかないけど。
「あなた達も、避難の準備をちゃんとしておくのよ」
言わずにはいられなかったといった感じで、母ちゃんが切り出した。
いつも穏やかで少しのんびりとした母ちゃんたが、その表情は悲壮感が漂っていた。
一縷の希望にかけたんだろうけど、どうなるか予想が付いてるんだろうな。
婆ちゃんは、やれやれといった感じでため息を付いている。
父ちゃんは、身構えるように真剣な顔になった。
「オレは避難しない。戦う。そのために特訓してきたんだ。頼む父ちゃん、許してくれ」
アル兄ちゃんがいの一番に返事をした。
必死な顔だ。
ずっと言う機会を窺ってた感じだったからな。
「オレも同じだ。頼むよ父ちゃん。オレも村とみんなを守りたいんだ」
ジル兄ちゃんがそれに続く。
いつも無邪気にアル兄ちゃんの後を追っていた印象のジル兄ちゃんだけど、今は落ち着いた真剣な表情をしていて大人びて見える。
ただアル兄ちゃんの意見に流されて言ったわけではないことは、オレにもみんなにも明白だった。
「どうしてものときが来たから、先に言っておくよ。危険なことだと分かってるけど、オレも戦う。たとえ父ちゃんが反対したとしてもね」
そしてオレも、しっかり家族を見据えて、そう宣言した。