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第6話 その時、とある農民は

 おらの名前はソウ。

 スルト国中央・王家直轄領の農民だ。


 中央というのは、大陸統一前から元々スルトだった地域を指すらしい。

 村長が言っとった。



「おお~!! こ、これが、おらの魔導車かぁ!」



 今日は待ちに待った魔導車の納車日。

 妻と一緒に王都にあるワトスン魔導車のお店に行くと、店員さんがおらの車へと案内してくれた。


 ピカピカに光る黒の車体に、おらは目を輝かせた。

 夢の自家用車。


 一昨年発表されたこの魔導車は、特に農家と商家には憧れの魔道具だった。

 単に移動に優れるだけでなく、特別な追加注文をすれば自動耕作や自動刈り取り、さらにはマジックバッグ機能なども付いてくるという夢を具現化したような魔道具。

 雨をものともしないというのも最高だ。


 前身となる個人用飛空艇ってのは目ん玉飛び出るほど高かったらしいけれど、今ではおらみたいな庶民でもちょっと背伸びすれば買える値段にまでなった。



「かなり無理して買ったんだから、浮かれてすぐ壊したりしないでね」



 魔導車を前にして目を輝かせていたおらに、妻が呆れたように言った。


 ()()()()背伸びは言い過ぎたかな。うん。

 かなり背伸びして買っちまった。

 大切にしよう。



「奥様のご心配はもっともでございます。大切なお車に何かがあった時のために、”保険”というものがございます。よろしければご説明いたしましょうか?」


「よろしく頼むよ」



 そういえば、村長も魔導車の保険には入っておけって言ってたな。

 説明はあんまりよく分からなかったけど、入っておいた方が良さそうだから入っておこう。



 大陸統一からたった数年で、何もかも変わった。


 おら達は一昔前までは、食うのにこそ困っていなかったものの、たくわえなぞ何もなく、飢饉ききんでも起これば途端に困窮こんきゅうするような状況だった。


 今では当時に比べたら毎年が大豊作で、蓄えもできて、不作があろうとも飢饉など起こりようもないことが誰の目からも明らかだ。

 病気も激減したし、もし大病や大怪我を負っても、庶民でも支払える額で治療してくれる病院がいくつもできた。


 農家に限らず誰もが豊かになって、安心して生活できるようになり、仕事以外のことを楽しむ余裕もできた。

 おら達も魔導車の納車後は、新品の自家用車で王都観光を楽しんでから帰る予定だ。


 本当に素晴らしい世の中になった。

 国王様や王妃様には足を向けて眠れねぇ。


 そう、王妃様といえば、王妃様の『祝福』のおかげで妻が偶然の事故から助かったこともある。

 王妃にして、聖女。さらには国母でもあらせられるという。

 おら達が今こうして幸せなのはスルティア王妃様のおかげだ。

 本当に感謝していて、いつか何かの形で恩返しがしてぇと思ってる。


 そんなことを思いながら、店員さんから魔導車の鍵を受け取った時だった。


 ニュースで知ってはいたけれど、本物としては初めて聞く警報が鳴り始めた。


 聞こえているのは、おら達だけじゃない。

 見渡せる範囲にいる人全員が、不安そうに周りを見ている。



「こ、この警報が鳴ったってことは…」


「もうすぐ緊急放送が始まるということです…。店に放送端末がございます。ソウ様、奥様、こちらへどうぞ」



 おらが戸惑っていると、店員さんが近くの放送端末へと案内してくれた。

 おらはうなずいて、妻の手を取った。



「あ、あんた…」


「魔王が、攻めてくる。でもきっと大丈夫だ。放送を観よう」



 いつかこんな時が来た場合のためにっていうのは、通常放送の時に何回も観てきた。

 ちゃんと観て、愚直に実践してきた。


 魔王がどんなに酷い奴で、魔王国の人達がどれだけ酷い仕打ちを受けているかは知ってる。


 絶対に、おら達のスルトを魔王に支配させちゃダメなんだ。


 妻も、スルトも、王妃様も、畑も新車も、おらが守る…!









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