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第5話 緊急放送

 城のバルコニーに、ミロシュ様とスルティアが正装で立つ。


 以前、スルティアのお披露目をしたこの場所だが、当時と違い城下の広場にいる国民は多くはない。


 今日は緊急放送を行うためにこの場所を選んだからだ。


 緊急用の警報が鳴り始める。



『大陸全土の城、町、村などの集落で同時に鳴っていること、確認いたしました。映像の準備も魔道具の故障など問題ありません』


『オッケー。ありがとう、アカシャ』



 オレが手を上げて合図をすると、ミロシュ様とスルティアいるバルコニー前を飛んでいるドローンのような魔道具が撮影を開始する。

 ちなみに今のスルトは、一部に関しては地球文明を超えている。この撮影用魔道具も、見た目はドローンというよりUFOのようだ。


 まだ映像は流れ始めていないが、撮影スタッフが手元のタブレットのような魔道具を確認して合図してきたので、問題なくいつでも放送できる状況にはなったようだ。


 この辺りもアカシャに聞けば分かることだけど、いつもは人に任せているからアカシャがいなくても成り立つ仕組みになっている。

 とはいえ、生放送はいくらでもあるけれど、緊急放送は初めてだから全員緊張しているようだ。



「ただ今より、国王陛下による緊急放送を行います。国民の皆様は、お近くの放送端末もしくは放送局上空の映像でご覧ください。繰り返します…」



 緊急用の警報が鳴りやみ、今度は放送局のアナウンサーの告知が繰り返し流れ始める。


 いざという時にこういうことが起こることは、スルトの全国民が知っている。


 なぜなら、地球で言うテレビ放送を行う放送局が出来てから、定期的にニュースで魔王国のことを伝え、国民はそれを観ることを義務付けてきたからだ。

 もちろん毎回全て観ろとは言わないが、年1回は必ず観ることを義務としてきた。


 義務とはいえ全員に観させるのは無理だと思っていたけれど、それも解決した。

 アカシャが作れるのだ。観てない者のリストを、一瞬で。


 やはりオレのアカシャ、最高。


 かくして、5歳以上で観ていない者のリストが役所やギルド、首長の屋敷などに張り出されるようになり、結果国民全員がちゃんと知っている。


 監視社会と言うなら言え。スルトが滅びるよりマシだ。


 できる限りの対策をしてきたおかげで、今このバルコニー横から見える範囲の人達だけなら、全員の視線が城の上空に向かっているのが見える。


 魔王アルカラスよ。これはお前の身から出たさびだ。

 お前がもし善政を敷いていたら、こうはできなかった。


 スルトの国民は全員が知っているぞ。魔王国の7割の国民が、餓死者も出るほどやせ細っていることを。

 お前が気分や遊びで国民を殺すことがあることを。


 全員がそう思っているかは分からないけれど、きっとほとんどのスルト国民が、魔王アルカラスに支配されたくないと心から思っているぞ。


 スルトが大陸を統一したことで圧倒的に豊かになった、セントル大陸の住人達。

 どの地域からもスラムが消え、衣食住に困ることがなくなり、インフラが整い、娯楽も増え、人生を楽しむ余裕ができた今のスルト国民からすると。


 魔王国の国民は悲惨の一言だ。

 以前の自分達よりもずっと劣悪な環境なのだから当然だろう。


 そんなスルト国民に、ミロシュ様が緊急放送で語りかける。



「親愛なる臣民の諸君。スルト国王、ミロシュである。本日はみなに急ぎ伝えなければならないことがあり、この緊急放送となった。皆も予想していると思うが、魔王アルカラスがこのセントル大陸の支配を目論もくろみ、攻めてくるのだ」



 放送にも関わらず、ここで国民達が息を飲んだのが分かる。

 魔王アルカラスというのがどれほど恐ろしい存在か、誰もが理解しているのが伝わってきた。



「大陸統一から数年、皆の頑張りによってスルトは本当に豊かな国となった。見よ、自分の周囲を。数年前とは見違えているだろう」



 ミロシュ様の言葉に釣られて、オレも周りを見る。


 タブレット、ドローン、映像投影機、城のすぐ近くには列車の駅がある。

 充魔石と魔法陣機密保持機構の発明における魔導具のブレイクスルー的な進化によるものだ。


 周囲の人達の表情を見ても、誇らしそうに見える。

 皆で頑張った結果だからな。

 国民のスルトへの愛国心を確かに感じた。



「この豊かなスルトを、決して魔王国のようにしてははならない。だが、知っての通り魔王アルカラスは強大だ。普通に戦っては決して勝てん」


「だから、皆の力を貸してくれ。スルトの全国民が一致団結すれば、魔王に勝てる。方法もある。スルトを共に守るのだ!!」



 ミロシュ様の演説にスルト国民が同調し、「ミロシュ」コールが繰り返される。

 拡声魔法を使っているわけでもないのに、ずっと遠くからも声が聞こえる。



一月ひとつきじゃ。最低一月、何としてでも時間を稼ぐ。皆にはその間に修行をしてもらい、魔王を倒す準備をしてもらう。皆が勝利の鍵じゃ、よろしく頼む。詳細は追って連絡がゆく」



 最後にスルティアが今後の予定を簡単に話し、緊急放送を終えた。


 国民をどれだけ鍛えられるか、つまり時間との戦いになる。


 オレ、ミロシュ様、スルティア以外の仲間達はすでに別に動き出している。


 オレ達も緊急放送後、すぐに次の動きに入った。






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