第4話 打倒魔王アルカラス
城の会議室に映し出していた映像を消す。
「以上です。不幸中の幸いとしては、どうやら魔王アルカラスはこの戦争で遊ぶつもりのようで、現在は軍の編成を行っているということです」
「それのどこがどう不幸中の幸いなのだ?」
アカシャの言葉に対して、ミロシュ様が落ち着いた様子で質問をした。
「最悪の事態は、魔王が即座に単身でこちらに乗り込んで来ることでした。そうなった場合、これまでの準備の約70%が無駄になっていた計算です」
アカシャは抑揚の少ない、でも以前とは見違えるほど人間味のある喋り方で淀みなく答える。
この5年でアカシャもずいぶん成長した。
ほぼ感情面での成長だけどね。
それを望んでいたオレにとっては嬉しいものだ。
「なるほど。それは僥倖だね」
ミロシュ様が納得を見せる。
「用意していた作戦はどうしても時間がかかる。対して魔王がこちらにやってくるまでは1日足らず。どう時間を稼ぐかは大きな課題だった」
アレクが言う事に、オレを含め皆が大きく頷く。
予め、オレ達は情報を共有しつつ準備を進めてきた。
「魔王軍として攻めてくるなら、全軍を魔王の能力で運ぶのは無理だ。それに、移動の問題だけじゃなくて兵糧の問題もある。かなりの時間が稼げるはずだ」
オレの言葉にも皆が頷く。
「さらに時間を稼ぐとすれば、開戦後少しの間わざと負け続けるのが良いでしょう。もちろん、人命は最優先です。舟を沈めれば偽装も可能かと」
ジョアンさんがさらなる策を提案してくる。
時間が足りないとなったら、やるしかないだろうな。
魔王アルカラスに支配された魔王国の現状は悲惨の一言だ。
魔王が栄華を極める一方で、国民からは餓死者も出ている。
魔王に支配されればスルトもあのようになるとすると、絶対に今回の戦争で負けるわけにはいかない。
勝つためなら何だってやってやる。
「ふむ。奴の能力は聞いてはいたがのぉ、奴の半径2メートル以内は、あれほどまで何でもありなのか」
『大賢者』の爺さんは、映像で観たアルカラスの能力について考えていたようだ。
「時間を巻き戻すとか、死者の蘇生とか、ゼロから生物を生み出すとか、できないこともある。細かくは改めて共有するけど、何でもアリだと思って間違いはない」
爺さんに説明する。
さすがに完全に何でもできるわけじゃないけど、そう思っておかないと致命的な隙を晒しかねない。
「ワシのダンジョン内での支配者権限に似ているが、できることの幅や強度が段違いなんじゃろう?」
「スルティアの能力も大概なんだけどな。そういうことになる。例えば、魔王の『自在空間』では”ダメージ無効””毒無効”が常時発動してるし、やろうと思えば"魔法無効"にもできる」
スルティアの支配者権限はそこまではできない。
完全にダメージを無効にはできないから、"祝福の守り"はあの形になっている。
「もし"魔法無効"を使われたらどうしようもないのよね?」
ネリーが不安げな表情で聞いてくる。
「まぁ、完全に手がないわけではないんだけど、その手を使ったところで時間稼ぎにしかならないだろうから、詰みだな」
オレは魔王が戦闘中常に"魔法無効"を使った場合の予想を話す。
つまり、何とか"魔法無効"を使わせないように立ち回る必要がある。
「でもなんで、アイツは常に"魔法無効"使ってないのかちら?」
そう。ベイラと同じことをオレやアカシャも思った。
ジョアンさんに聞いてみたこともある。
「たぶん、便利だからなんだろう。過去を見る限りそんな感じだ。魔王の魔法は大したことないんだけど、『自在空間』内でほとんど際限なく増幅できるんだ。遠距離はそれで攻撃してる」
魔王は気が短い。
空間内に絶対に入らないように戦っていれば、必ず焦れて魔法を使ってくる。
「どうせワシらは『自在空間』内に入らないように戦うしかない。つまり魔王の攻撃は、空間内に入れようとしてくる突撃か魔法しかないはずじゃ」
「うん。オレもそう思う。そもそもアルカラスは魔法攻撃を受けたところでダメージがないんだ。魔法を警戒するよりは、遠距離攻撃の手段として使ってくるだろう」
学園長の言葉に頷いて、予想を話す。
もし"魔法無効"を使われていたとしても、アルカラスに魔法を撃ちたいと思わせればいい。
「それから、今回ネリーは戦うの禁止な。タイミングが悪かった」
オレは重要なことを話す。
腹が大きくなる前だろうが、妊婦に戦わせるのは有り得ん。
「なんでよ、と言いたいところだけど。しょうがないわね。分かってるわよ」
ネリーはちょっと拗ねたように言う。
「ネリーにも仕事はある。直接戦うことより重要な戦いとも言える。ミロシュ様とジョアンさんと一緒に、国民を動かす仕事だ」
オレはミロシュそう言って、ミロシュ様を見る。
「うむ。まずは全国民に向けて緊急放送だ。余が直接話す。セイ、準備は頼んだよ」
「はい。ミロシュ様、よろしくお願いします」
放送網を作った目的の半分以上はここにある。
国家総動員で、打倒魔王アルカラスを実現するためだ。




