表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界のヤツらに情報を制するものが世界を制するって教えてやんよ!  作者: 新開コウ
最終章 魔王と勇者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

359/366

第3話 死よりも残酷なこと

今回のお話には残酷なシーンがあります。

飛ばしても一応話はつながるはずですので、耐性がない方は読まないことをお勧めします。

 スルト王国歴1084年5月7日。


 はるか北に位置する魔大陸の魔王城に、セントル大陸との貿易から帰ってきた商人達が上納金を持ってやって来ていた。


 魔大陸における魔王は、絶対的な支配者。

 完全なる独裁者であり、セントル大陸との貿易も当然魔王の許可あってのものだ。


 そして、理不尽なまでの上納金が要求されていた。

 そのがく、なんと利益の9割。


 吐き気をもよおす税率である。

 現魔王国は税制ではないので、正確には税金ではないのだが。



「よく戻った。近年のセントル大陸との貿易は莫大なかねを生む。われも笑いが止まらぬぞ」



 褐色の肌を持ち、艶のある黒髪から大きな黒い角を生やした美丈夫びじょうぶ

 豪華な椅子に優雅に足を組んで座っていた魔王アルカラスは、不敵に笑っていた。


 顔、髪、肌、筋肉、どれをとっても、とても30後半の男とは思えない。

 それが能力で維持されたものであることを、オレはアカシャを通して知っている。


 アルカラスは”()()”と言ったが、この魔王城において彼の他に笑っている者はいない。


 貿易商は金を奪われすぎてイラッと来ているだろうが、そう思えるだけまだ()()な方だ。


 魔王城で働いている者達は、その全員が死んだ目をしている。


 地球やスルトの感覚でいうと、魔王城に勤めている役人はエリートであると錯覚さっかくしそうになるけれど、事実はあまりに残酷だ。


 魔王城の役人は、()()された者達で構成されているのだから。


 自ら進んで戦いたい者など滅多にいない。だから徴兵制があるように。

 魔王城の役人になりたいものなど誰もいない。だから徴集制なのである。


 魔王城で働く者はよく知っていた。


 魔王アルカラスを怒らせれば、死よりも残酷なめに合うことを。

 魔王アルカラスを怒らせなくても、気まぐれに殺されたりもてあそばれることがよくあることを。


 だから彼らは常に、アルカラスを不快にさせないように仕事を完璧にこなしつつ、限りなく目立たないように気配を殺して存在していた。


 そして貿易商の1人は彼らほど魔王アルカラスを知らなかったので、アルカラスに必要最低限以外の言葉を発した。


 魔王城で働く者達と、ほぼ全スルト国民の気持ちは、きっと一致していただろう。


 なんという、バカなことを。



「魔王様。近年セントル大陸はスルトという国が統一し、非常に豊かになっております。いかがでしょう? この機に魔王様のお力で、セントル大陸を支配してみては…」



 モヒカンみたいな頭をした、小太りの若造だった。

 出し抜いてやったというような、得意げな顔をしていた。


 周りの貿易商達はギョッとした表情でコイツを見て、魔王城の役人達は死んだ目を少しだけコイツに向けた。


 コイツの独断だった。

 一言でも事前に誰かに相談していようものなら、オレとアカシャが絶対に止めていた。


 こんなこと、コイツを含め、誰のためにもならないのに。



「貴様、我がどうしてセントル大陸を支配していないか分かるか?」


きょうが乗らなかったのでは?」



 魔王が不敵な笑みを浮かべたまました質問に、モヒカンが答える。



「半分正解だ。なぜ興が乗らんか、分かるか?」


「支配しても旨味うまみがないと考えていたのでは?」


「違うな。凡夫ぼんぷの発想だ。答えは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ」


「…は?」



 魔王アルカラスとモヒカンの声だけが、響き続ける。


 モヒカン以外は皆分かってる。

 アルカラスに余計なことを吹き込むのは、バカの所業だ。

 かといって、今更話の腰を折ってもアルカラスに殺される。


 まともな思考を持った者達は、過去の経験から危機回避ができる。


 だけど残念ながら、まともな思考を持っていない者も存在するのが世のつねだ。



「分からぬか。満ちていない者にはない発想であろうからな。

 いいか? この世界を我が支配していないのは、全て我の気まぐれである。

 我は最強だが、他の大陸に行くのに1日はかかるであろう。

 そのような面倒なことはせん。

 なぜ最高のベットと最高の食事、最高の女から離れてまで他の大陸を支配する必要がある?

 領土の拡大? 世界の統一? そんなものは人生に満足していない小物が考えることだ。

 全てに満足している我が、無駄に求めることなどない。

 貴様はバカなのか?」



 魔王アルカラスは、モヒカンを小バカにするようにネチネチと言い続ける。


 ここでモヒカンが、なんて嫌なヤツなんだと心の中で思いつつもこらえられる人物なら良かった。


 でもこのモヒカンは、相手の話など聞かずひたすらに自分の思い込みで話すタイプのバケモンだった。



「つまり、セントル大陸を支配する自信がないという理解でよろしいですか?」



 よろしいわけねえだろ。


 終わった…。

 ここからの展開はおおむね想像通りだったけれど、実際に起こったことはひどいものだった。



「貴様、我を挑発するか。いい度胸だ。良かろう、セントル大陸を支配してやろうではないか」


「さすがは魔王様。そうおっしゃっていただけると思っておりました」



 不敵な笑みを浮かべ続ける魔王アルカラス。

 でも、見えはしない額の青筋を幻視できるかのようだった。

 アカシャも言っていた。この時のアルカラスの感情は怒りであったと。


 モヒカンは自分の思い通りになったとでも思っていたのだろうか。ご機嫌だ。


 貿易商や魔王城の役人達は青ざめていた。オレもそうだけど。



「貴様に褒美をやろう。近くに寄れ」


「はっ!」



 モヒカンがアルカラスの近くに寄っていく。

 どこまで頭お花畑なんだ。


 魔王アルカラスの能力を聞いたことはあるはずなのに。



「もっとだ」


「はっ」


「もっと」



 アルカラスが玉座から立ち上がり、腰に差していた剣を抜く。



「はっ…?」


「貴様にこの剣をくれてやる」



 アルカラスは剣を横に向けて差し出した。



「はっ!!」



 モヒカンは喜色満面きしょくまんめんで、剣を受け取ろうと魔王アルカラスに近寄っていく。


 オレはここでモヒカンが斬られるものだと思っていた。

 魔王城の役人達が死んだ目をそっとそむけたことに気付いた時に、それは起こった。



「おご? おご、おごごごごご…!?」



 モヒカンの苦しそうな声と、ぐじゅり、ぐじゅり、という音が広がる。


 モヒカンが、周りから強い圧力をかけられたように、血を吹き出しながら縮んで、肉の塊になっていく…。


『自在空間』。半径2メートルを思いのままにできる魔王アルカラスの神に愛された能力。


 肉の塊は雑巾を絞ったようにねじられ、細くなっていき、形が整えられ、最後に中から表面に目玉と口が浮き出て来た。



「剣はくれてやる。残りの人生はさやとして過ごすがよい。特等席で見せてやるぞ。我がセントル大陸を支配するところをな」


「ひ、ひいっ。ひぃっ。ひぃぃぃぃぃ…」



 アルカラスはそう言うと、鞘にされて気が狂った様子の元モヒカンだったものを手に取り、剣を差し込んだ。


 どうやらあえて剣よりも穴を少し小さく作ったらしく、ブシュッという嫌な音がした。



「ぎゃああああああぁっっっ!」



 鞘に浮かんだ口から、モヒカンの叫ぶ声がする。



「ふははは。痛覚は残してやったぞ。しかし、聞くにえんな。口を残したのは失敗だったか」



 アルカラスの言葉に合わせて、鞘に浮かんでいた口が肉の塊に沈んでいった。


 気色悪い肉の塊の鞘からは口が消え、目だけが残った。

 ボロボロと涙を流す目には、まぶたがない。



「目をそむけることも、死ぬことも許さぬ。おのれの浅はかさを呪いながら生き続けると良かろう」



 魔王アルカラスの声を聞きながら、オレはずっと恐れていた最悪の事態が起こってしまったことに頭を抱えていた。


 ただ、ずっと恐れていただけに、準備はかなり行っている。

 それだけが救いだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ