第1話 魔王
ネリーと結婚して5年が経った。
その間まぁ色々あったけど、結婚前と比べればとても平和で充実した日々を送れたと思う。
長男も生まれ、もう2歳だ。
少し前に、次男も授かったとアカシャから報告を受けた。
アレクも結婚して、1歳になる女の子の父親だ。
スルティア学園を卒業したオレは、スルド国王付特別相談役兼イザヴェル領主なんて肩書きをもらって侯爵に陞爵され、社会人生活をスタートさせた。
大層な肩書きだけど、実態は職業『遊び人』である。
平和な世の中で、やりたいことを好き放題やっている。
もちろん、平和って言っても完璧じゃない。
そういう時は仲間達と仲裁とかに繰り出すこともある。
大陸は今では完全にスルト1国にまとまって、統一された。
最終的に、中々スルトに恭順しなかった国の1つが、周りだけが豊かになっていくことに耐えかねた自国民の怒りによって内部崩壊した。
あの時は焦った。オレ達が仲裁してなかったら、かなりの被害が出ていたかもしれない。
そして、スルトが内部崩壊した国の所領は安堵しないと決めたことで、あっという間に残っていた全ての国が恭順した。
国のトップってヤツはプライドと自己保身の塊みたいのが多すぎる。
ミロシュ様を筆頭としたオレ達も、腐らないようにしなきゃいけないと事あるごとに話すようになった。
ネリーを見習えば大丈夫。
それがオレ達で一致している見解だ。
完璧とは言えなくても、おおむね平和で充実した日々だった。
毎日が楽しくて、ずっとこんな日が続けばいいと思ってた。
でも、今日。アカシャからの報告で、それはぶっ壊れた。
オレは急ぎ仲間達に連絡を取り、スルト王城の会議室に皆を集めた。
ずっと前に前王ファビオがボズについての会議を行った円卓で、オレとアカシャは皆に緊急事態を伝える。
「呼び出し時に伝えた通り、第3次人魔大戦が起きる。バカが、その場の思いつきで魔王を挑発しちまった」
いつかこうなることは予想できた。
セントル大陸と魔国との交易が以前からあったからだ。
豊かになっていくセントル大陸に目を付け、魔王に進言して支配を促す欲深い輩は必ず出てくると考えていた。
それは全員に予め伝えていたし、計画的な欲深い輩を事前に排除したことは何度かある。
でも今回のように、誰にも相談せず突然魔王に意見を言う者までは防ぎきれないことも分かっていた。
「以前からの繰り返しになりますが、魔王の名はアンディ・シナー・アルカラス。歴代最強の魔王にして、現世界最強の男です」
アカシャがオレの言葉に続ける。
全員が真剣な目でオレとアカシャを見つめていた。
「オレだけじゃ勝負にもならねぇ。ここからは時間との戦いだ。できる限りの準備をして迎え討ち、嵌め倒す。皆の力を貸してくれ」
「まずは、この映像をご覧ください。今回の顛末です」
アカシャと阿吽の連携で映像を壁に映し出す。
映像に現れたのは、褐色の肌で艶のある黒髪をした美丈夫。
特徴は、黒髪の中から左右に2本突き出ている大きな黒い角。
豪華な椅子に優雅に足を組んで座っていた魔王アルカラスは、不敵に笑っていた。
彼の、低くハリのある声が室内に響く。
「この世界を我が支配していないのは、全て我の気まぐれである。
我は最強だが、他の大陸に行くのに1日はかかるであろう。
そのような面倒なことはせん。
なぜ最高のベットと最高の食事、最高の女から離れてまで他の大陸を支配する必要がある?
領土の拡大? 世界の統一? そんなものは人生に満足していない小物が考えることだ。
全てに満足している我が、無駄に求めることなどない。
貴様はバカなのか?」
この言葉の通りになれば良かったのに。
そう思わずにはいられなかった。




