第187話 覚悟を決める時が来たらしい
「ミロシュ様とスルティアの結婚式を、史上最大の結婚式にしようぜ!」
その日、いつの間にか会議室の代わりに使われることが多くなった自分の屋敷の談話室で、オレはそう提案した。
「いいわね!」
「うん。そうしよう」
オレの提案に対して、ネリーとアレクは笑顔で賛成してくれた。
フッフッフ。やはり君たちは、この企画に面白さを感じてくれたか。
「スルトの盤石さを知らしめる、またとない機会となりますな」
「ま、まぁ、そういう側面もあるよね…」
ジョアンさんの言葉に、オレは若干顔を引きつらせつつ返事をした。
ミロシュ様と宰相は、納得顔で頷いている。すまん、それは勘違いなんだ。
ジョアンさん…。そういうことじゃないんだよなー。
いや、分かるよ。確かにその通りだ。
政治的には、そういうことになるだろう。
でも、オレがミロシュ様とスルティアの結婚式を派手にしたいのは、単純にお祝いの気持ちと、その方が面白そうって理由だ。
せっかく平和な世界への足がかりができたんだ。
平和を楽しんだっていいじゃないか。
「セイ。そのことなのだけどね、私とスルティアとの結婚式だけでなく、君とネリーの結婚式も同時に行うのはどうだろうか? 私としてはぜひ、そうしたいと思っている」
「えっ?」
突然のミロシュ様の提案に驚いたオレは、間抜けな声を上げた。
その情報は知らないんだが!?
「いいじゃない! ねっ、セイ?」
ネリーが胸の前で手のひらを合わせ、立ち上がって言った。
さっき以上の満面の笑みで、とても嬉しそうだ。
「おぅ、おう…。そうだな。ミロシュ様とスルティアがそれでいいんなら…」
慌てて相槌を打つ。
ぶっちゃけオレは、故郷のゴードン村で家族と仲のいい人達だけでやればいいかなと思ってたけれど、嬉しそうなネリーの顔を見てそれが不正解だったことを悟った。
でも、史上最大の結婚式って言っちまったぞ…。
さすがに自分たちが祝われる側なのは、ちょっと分不相応すぎて恥ずかしい…。
スルティアさん、嫌がってくれてもいいんだぜ?
『アカシャ、知ってたか?』
『いえ、今初めて言葉にされた提案ですので。しかし、ご主人様の結婚式が史上最大になるのは当然のことです。ミロシュも中々良い提案をするではないですか』
あかん。アカシャさんまで乗り気だ。
さも当然というドヤ顔で頷いていらっしゃる。
「無論、良いに決まっておる! くっくっく。セイとネリーと一緒に結婚式か。楽しみじゃのう、楽しみじゃのう。生まれてきて1番楽しみかもしれんぞっ」
スルティア。あいつ、ワクワクしてっぞ。
完全に外堀は埋まった…。
1000年生きて1番楽しみって、そんなん止められねぇよ。
ふぅ。オレのチキンハートよ、覚悟を決める時が来たらしい。
「じゃあ、そういうことで…。ミロシュ様、よろしくお願いいたします。ミロシュ様とスルティア、オレとネリーで、史上最大の合同結婚式を行いましょう!」
「ああ。よろしく頼むよ」
オレがやけくそ気味に言うと、ミロシュ様は穏やかに微笑んで握手を求めてきた。
開き直った笑顔で、オレもそれに応じる。
ネリーとスルティアは、どちらも嬉しそうに手を取り合って、キャッキャとはしゃいでいる。
こんなのどうかしら、あんなのどうかしらと妄想を広げているらしい。
もうやけくそだからよぉ、可能な限り全部叶えてやるぜ。
『フフフ。腕が鳴ります…』
アカシャさんが本気みたいだからよぉ、想像を絶することになっちまうぞ。
あれ? やけくそとはいえ心配になってきた…。
「スルトの力だけでなく、ミロシュ様と主殿の強固な結びつきを見せつける、素晴らしき案ですな」
「然り」
ジョアンさんと宰相は、政治的な側面の話で頷き合っていた。
だからさー、そういうことじゃないんだよー。
分かるよ、分かるけどね。
まぁ、もう、なるようになるか…。
せっかくだから、思いっきり楽しんだもの勝ちだな。




